決算書から建設業財務諸表への組み替えと経営事項審査

決算書のままでは出せません ── 建設業財務諸表への組み替えが、Y点を動かします

税理士の先生からいただく決算書を、そのまま役所に出せると思っておられる方がいます。出せません。建設業許可で使う財務諸表は、様式も勘定科目も別に定められた、別の書類です。決算書からそちらへ移す作業を、私たちは「組み替え」と呼んでいます。そしてこの組み替えの精度が、経営事項審査の評点をそのまま左右します。何をどう移すのか、どこが評点に効くのかを、告示の定義にあたって整理します。

01税理士がつくるのは、決算書です

決算書は、税金を計算し、確定申告書に添えるためのものです。税務の基準で作られています。一方、建設業許可や経営事項審査で提出するのは建設業法施行規則に様式が定められた財務諸表で、こちらは建設業のために設計されています。

決算書 建設業財務諸表
何のために 税金の計算と確定申告 建設業許可と経営事項審査
作るのは 税理士 会社。行政書士が代理することもあります
科目の決まり 税務の基準 国土交通大臣が定める勘定科目の分類
出す先 税務署 許可行政庁(熊本県知事許可なら県)

様式は決まっています。法人の場合はこうです。

様式 書類
様式第十五号 貸借対照表
様式第十六号 損益計算書・完成工事原価報告書
様式第十七号 株主資本等変動計算書
様式第十七号の二 注記表
様式第十七号の三 附属明細表(該当する会社のみ)

個人事業の場合は、様式第十八号(貸借対照表)と様式第十九号(損益計算書)です。勘定科目の中身は、「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」という告示に、一つずつ定義が書かれています。以下は、その定義に沿って整理したものです。

02貸借対照表で、名前が変わるもの

いちばん間違いが多いのがここです。ふだんの帳簿の名前と、建設業財務諸表の名前が違います。

ふだんの名前 建設業財務諸表 告示の定義(要旨)
売掛金 完成工事未収入金 完成工事高に計上した工事に係る請負代金
仕掛品・前渡金 未成工事支出金 引渡しを完了していない工事に要した工事費、および材料購入・外注のための前渡金、手付金等
買掛金 工事未払金 工事費の未払額。工事原価に算入されるべき材料貯蔵品の購入代金等を含みます
前受金 未成工事受入金 引渡しを完了していない工事についての請負代金の受入高
貯蔵品 材料貯蔵品 手持ちの工事用材料など
「未成工事」の二つを、取り違えない名前が似ていますが、座る場所が正反対です。未成工事支出金は資産(まだ引き渡していない工事に、こちらが使ったお金)。未成工事受入金は負債(まだ引き渡していない工事で、先に受け取ったお金)。前受金を資産側に置いてしまうと、貸借が合わないだけでなく、経営状況分析の指標が丸ごと狂います。
図1 未成工事の二つは、貸借の反対側に座ります
名前が似ているだけで、意味は正反対です 資産(左側) 未成工事支出金 まだ引き渡していない工事に、使ったお金 ふだんの帳簿では、仕掛品や前渡金 総資本に入るので、総資本売上総利益率に効きます 負債(右側) 未成工事受入金 まだ引き渡していない工事で、受け取ったお金 ふだんの帳簿では、前受金 負債に入るので、負債回転期間に効きます どちらも「引渡しが済んでいない工事」の話です。引き渡した瞬間に、完成工事高と完成工事原価へ動きます。 科目の定義は「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」によります。

03損益計算書と、完成工事原価報告書

売上と原価も、名前が変わります。そして建設業には、完成工事原価報告書という一枚が付きます。

ふだんの名前 建設業財務諸表
売上高 完成工事高/兼業事業売上高
売上原価 完成工事原価/兼業事業売上原価
売上総利益 完成工事総利益/兼業事業総利益

完成工事原価は、さらに四つに分けて報告します。この四区分も告示に定義があります。

区分 告示の定義(要旨)
材料費 工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定等から振り替えられた材料費。仮設材料の損耗額等を含みます
労務費 工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料、手当等。工種・工程別等の工事の完成を約する契約で、その大部分が労務費であるものは、労務費に含めて記載できます
(うち労務外注費) 労務費のうち、工種・工程別等の工事の完成を約する契約で、その大部分が労務費であるものに基づく支払額
外注費 工種・工程別等の工事について、素材、半製品、製品等を作業とともに提供し、これを完成することを約する契約に基づく支払額
経費 材料費・労務費・外注費以外の費用。動力用水光熱費、機械等経費、設計費、労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信費など

実務でいちばん迷うのが、労務費と外注費の線引きです。ものを持ち込まず、人だけ出してもらう契約なら労務外注費に寄ります。材料を持ち込んで完成まで請けてもらうなら外注費です。「一人親方さんに払ったから労務費」ではありません。契約の中身で決まります。

04兼業がある会社は、ここで分けます

建設業以外の売上がある会社は、完成工事高と兼業事業売上高を分けて書きます。告示は兼業事業売上高を「建設業以外の事業を併せて営む場合における当該事業の売上高」と定義しています。不動産の賃貸、物品の販売、機械のリース。建設業許可を持っていても、工事でない売上はこちらです。

分けかたが雑だと、二方向に響きます。完成工事高が実態より大きくなればX1が過大になり、小さくなれば取れるはずの評点を落とします。そして工事に対応しない原価が完成工事原価に混じれば、完成工事総利益が歪みます。

完成工事高をどの業種に振り分けるかは、工事経歴書で決まります。そちらは完成工事高と業種振り分けの設計にまとめています。

05組み替えが、経審のどこに効くか

「書式を整えるだけの作業」と思われがちですが、そうではありません。組み替えた数字が、そのまま指標の分子と分母になります。

組み替えるもの 効くところ
完成工事高 X1(完成工事高)。業種ごとの評点の土台です
完成工事総利益 総資本売上総利益率の分子(Y点)
未成工事支出金 総資本に入ります。総資本売上総利益率の分母、自己資本比率の分母(Y点)
未成工事受入金・工事未払金 負債に入ります。負債回転期間(Y点)
完成工事高+兼業事業売上高 総売上高。純支払利息比率の分母(Y点)
自己資本(純資産合計) X2の自己資本額と、自己資本比率・自己資本対固定資産比率(Y点)

Y点の八つの指標のうち、六つがこの表に出てきます。組み替えを直すだけで評点が動くのは、そういう理屈です。指標ごとの効き方は経審Y点(経営状況)実務ノートに、評点全体の組み立ては経営事項審査 実務ノートにあります。

ここは「正しく写す」だけの話です念のため申し添えます。組み替えは、数字を作る作業ではありません。実態に合った科目に、正しく移すだけです。前受金を負債から外す、工事に対応しない原価を完成工事原価に入れる。そうした「調整」は粉飾になります。正しく組み替えた結果として評点が上がるなら、それは本来取れていたはずの点です。

06誰が、いつ作るのか

順番はこうです。

時期 やること
決算日 ここまでの実態で数字が固まります。あとから動かせません
決算後 税理士が決算書と確定申告書を作ります
その後 決算書から建設業財務諸表へ組み替えます。会社が作るか、行政書士が代理します
事業年度終了後4か月以内 決算変更届として提出(決算変更届 実務ノート
その後 経営状況分析、経営事項審査へ

税理士の先生が建設業財務諸表まで作ってくださる場合もあります。ただ、科目の分類は建設業法の告示によるもので、税務の基準とは別の体系です。決算書をそのまま出して補正になる例も、毎年見かけます。

ひとつ、費用のかからないコツがあります。初年度に、自社の勘定科目と建設業財務諸表の科目の対応表を一枚作っておくことです。翌年からは、その表に沿って機械的に移すだけになります。工事ごとの引渡し日を管理していれば、未成工事の二つも迷いません。

図2 決算書から、経審までの道すじ
組み替えは、決算書と経審のあいだにある一段です 決算書 税理士が作ります 建設業財務諸表 様式第十五号から第十七号の二 経営状況分析・経審 Y点とX1・X2が決まります この一段が「組み替え」です 組み替えで動く数字 完成工事高/完成工事総利益/未成工事支出金/未成工事受入金/工事未払金/自己資本 Y点の八つの指標のうち六つが、この数字を使って計算されます。

07つまずきの記録

  • 決算書をそのまま提出し、補正になった。様式が違います
  • 前受金を資産側に置いた。未成工事受入金は負債です
  • 兼業の売上を完成工事高に混ぜた。X1が実態と合わなくなります
  • 兼業の原価だけ分けずに残した。完成工事総利益が歪みます
  • 一人親方への支払いを、契約の中身を見ずにすべて労務費にした
  • 引渡しが済んでいない工事の売上を、完成工事高に計上した
  • 科目の対応表を作らず、毎年やりかたが変わっている
  • 決算が終わってから相談に来られた。数字はもう動きません

最後の一つが、いちばん多く、いちばん惜しい形です。組み替えは決算後の作業ですが、組み替えたあとにどう見えるかは、決算日の前に予想できます。審査基準日の前に手を打てるものは9月決算の会社へにまとめました。

08確認先

制度は動きます。ここに書いたことも、令和8年9月時点で告示と規則にあたって確かめたものです。手続きの前に、必ず最新の手引きをご覧ください。

様式 建設業法施行規則(様式第十五号〜第十七号の三、個人は第十八号・第十九号)
勘定科目の定義 建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類
提出と手引き 熊本県 土木部 監理課 建設業班 096-333-2485
経営状況分析 登録経営状況分析機関(求める資料の細部が機関で異なります)

組み替えは、覚えてしまえば毎年同じ作業です。ただ、最初の一年だけは型を作るのに手間がかかります。決算書をお持ちいただければ、組み替えたあとの姿と、そこから出るおおよその評点をお見せできます。熊本県内の案件についてご相談を承ります。

執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。

顧問技術士・一級建築士

技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。

chiou.jp株式会社地央/姉妹サイト

不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。

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