経審の評点はどこで決まるか

経営事項審査(経審)実務ノート ── 評点はどこで決まり、どこから動かせるか

この記事は、公共工事をめざす熊本の建設業者向けに、経営事項審査(経審)の評点がどの式で決まり、どこから動かせるのかを一枚にまとめた実務ノートです。制度解説は最小限にして、実際の申請準備で使う順に書いています。決算前に一度通して読めば、経審を「受けるもの」から「設計するもの」に変えられます。

構成:一 経審は何を測っているか/二 P点の式を分解する/三 評点はどこから動かすか/四 モデル会社で試算する/五 熊本での手続きと年間日程/六 つまずきの記録/決算前チェックリスト

第一章経審は何を測っているか

経営事項審査は、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受ける審査です(建設業法27条の23)。位置づけを一行で言えば、許可(資格)と入札(営業)のあいだに立つ「共通の物差し」です。国・自治体は経審の結果である総合評定値(P点)に、発注者ごとの主観点を加えて、業者を等級(格付け)に振り分けます。

だから経審の点数は、それ自体が目的ではありません。「狙う発注者の、狙う等級に、あと何点足りないか」から逆算して初めて意味を持ちます。熊本県の土木一式でA等級を狙うのか、熊本市の建築でBを維持したいのか。目標が違えば、打つ手も順番も変わります。

「有効期間1年7か月」の本当の意味

経審の結果通知は、審査基準日(=決算日)から1年7か月有効です。1年ではなく1年7か月なのは、決算→申告→決算変更届→経営状況分析→経審申請→結果通知までに約4〜7か月かかることを制度が織り込んでいるからです。裏を返せば、実務上の余裕は7か月しかありません。決算後の動き出しが遅れると、前回の通知が切れて入札に参加できない「空白期間」が生じます。空白は、名簿に載っているのに入札できないという最も痛い形で現れます。

実務の要点経審は毎年「受ける」ものではなく、毎年「切れ目なく更新する」もの。年間日程は第五章の表のとおり、決算日から逆算して固定してしまうのが確実です。

第二章P点の式を分解する

総合評定値P点は、次の加重合計で決まります。

P = 0.25 X1 + 0.15 X2 + 0.20 Y + 0.25 Z + 0.15 W
図 P点は五つの要素の配分で決まるX125%完成工事高X215%自己資本・利益Y20%経営状況Z25%技術力W15%社会性等総合評定値 P点の構成比

動かしにくいのはX1とZ、合わせて50%。決算日までの数か月で確実に積めるのはW(15%)です。順番を間違えると、労力の割に点が動きません。

要素 中身 ウエイト 動かせる速さ
X1 完成工事高 業種別の完成工事高(2年平均か3年平均かを選択) 25% 売上そのものは翌期以降。ただし「振り分け」と「平均年数の選択」は次回申請で効く
X2 自己資本額・平均利益額 自己資本額(基準決算または2期平均を選択)+利払前税引前償却前利益(EBITDA)の2期平均 15% 決算の設計で翌期から
Y 経営状況 登録経営状況分析機関が8指標で算定(下記) 20% 決算の設計で翌期から
Z 技術力 技術職員の数と資格+業種別元請完成工事高 25% 資格取得は数年計画。雇用は基準日の6か月超前まで
W 社会性等 保険・退職金制度・認定・協定などの加点の集合(下記) 15% 最速。次の決算日までに整えれば次回から効く

Yの8指標 ── 決算書のどこを見られているか

経営状況分析の指標は、純支払利息比率/負債回転期間/売上高経常利益率/総資本売上総利益率/自己資本対固定資産比率/自己資本比率/営業キャッシュフロー(絶対額)/利益剰余金(絶対額)の8つです。前半2つが「負債の重さ」、中2つが「稼ぐ力」、後半が「体力」を測ります。絶対額で評価される指標が2つあるため、同じ利益率でも規模が小さい会社ほどYは伸びにくい構造です。だからこそ、役員借入金の資本化(DES)や資本性借入金のような「自己資本の見せ方の設計」が効きます。

Zの技術職員 ── 一人あたりの点数

区分 1人あたり
一級資格+監理技術者講習受講 6点
一級資格 5点
監理技術者補佐(一級一次合格等) 4点
基幹技能者等 3点
二級資格 2点
その他技術職員 1点

注意点は二つあります。審査基準日以前に6か月を超える恒常的雇用が必要なこと(決算直前に採用しても、その年は数えられません)。そして一人の技術職員が加点対象にできるのは2業種までであること。二級の社員が一級を取れば1人で3点、監理講習まで受ければ4点動きます。Zのウエイトは25%と最大級なので、社員の資格取得計画は、数年がかりで最も確実にP点を押し上げる投資です。

第三章評点はどこから動かすか ── W点の換算表

最初に手を付けるべきはWです。理由は単純で、Wは「審査基準日(決算日)時点の状態」で判定される加点の集合だからです。決算日までに制度を整えれば、次回の経審から確実に点になります。財務も売上も変えずに、です。

W点の素点合計は10倍したうえで175/200倍でW評点に換算され、その15%がP点に入ります。つまり素点1点はP点でおよそ1.31点(この係数は令和5年8月14日を審査基準日とする申請から。それ以前は190/200で、1点=約1.4点でした)。この換算を頭に入れると、各制度の「効き目」が見えます。

図 W点の加点メニューと、P点への効き目加点メニューP点への効き目(概算)防災協定の締結+28監査の受審(会計監査人)+3〜28建設機械の保有(上限15点)+21建退共への加入・履行+21退職一時金・企業年金+21法定外労災(上乗せ労災)+21CCUSの現場利用+7〜14建設技能者を大切にする自主宣言+7ISO9001 登録+7ISO14001 登録+7女性活躍・子育て系認定+3〜7

濃い部分が最低ライン、薄い部分まで伸ばせるのが上限です。建退共・退職金制度・上乗せ労災の三つは費用が小さく、手続きも1〜2か月で済みます。まずここから拾うのが定石です。自主宣言は宣言するだけで5点(P点で約+6.6点)が付きますが、審査基準日より前に宣言していることが条件です。素点・換算は令和8年7月1日改正後の概算で、最新は国土交通省の告示と熊本県の手引きでご確認ください。

加点項目 素点 P点への効き目(概算) 整えるのにかかる時間
建退共(建設業退職金共済)への加入・履行 15 約+19.7点 加入手続き1〜2か月
退職一時金制度または企業年金制度 15 約+19.7点 中退共加入等で1〜2か月
法定外労働災害補償制度(上乗せ労災) 15 約+19.7点 保険加入で数週間
防災協定の締結(国・県・市町村等と) 20 約+26.3点 建設業協会経由か単独締結。数か月
ISO9001登録 5 約+6.6点 半年〜1年
ISO14001登録(エコアクション21は3点) 5 約+6.6点 半年〜1年
CCUSの現場利用(全工事10/公共のみ5) 5〜10 約+6.6〜13.1点 登録+現場運用の実績。別稿参照
建設技能者を大切にする企業の自主宣言 5 約+6.6点 ポータルで宣言。審査基準日より前に
監査の受審状況(会計監査人20/会計参与10/経理責任者の自認2) 2〜20 約+3〜28点 体制による
建設機械の保有(1台目5点・以後逓増、上限15) 〜15 最大約+19.7点 リースも要件次第で可。別稿参照
女性活躍・子育て系認定(えるぼし・くるみん等)、ユースエール 2〜5 約+3〜7点 数か月〜。くるみんの例

※素点・換算は令和8年7月1日改正後の基準による概算です。申請日が令和8年7月1日以降の経審に適用されます。最新の点数は国土交通省の告示と熊本県の手引きで必ず確認してください。改正の詳細は経審W点改正の解説に書きました。

順番の考え方①建退共・上乗せ労災・退職金制度の「三点セット」(合計でP約+59点、費用も小さい)→②防災協定→③CCUS・認定系→④ISO、の順で拾うのが費用対効果の定石です。逆に、社会保険が未加入の会社は、加点以前に許可の要件の問題なので最優先で。令和8年7月1日以降を審査基準日とする申請では、社会保険の未加入によるW点の減点(各▲40点)は廃止されています。

翌決算に効く手 ── YとX1の設計

  • 2年平均か3年平均か:X1は選択制です。完工高が伸びた年は2年平均、落ちた年は3年平均が有利になることが多い。毎回、両方で計算して選びます
  • 業種の振り分け:完工高は工事経歴書の積み上げと一致している必要があります。狙う入札業種に完工高を寄せる場合は、経歴書・請負契約書の裏づけごと設計します(根拠のない付け替えは虚偽申請です)
  • Yの改善:借入の圧縮・役員借入のDES・資本性借入金・営業CFの改善。税理士の「節税の決算」と経審の「評点の決算」は利害が逆になることがあるため、決算前の三者(社長・税理士・行政書士)のすり合わせが効きます

第四章モデル会社で試算する

架空のモデルで、打ち手がどれだけ動くかを見ます。熊本県内・土木一式・完工高2.5億円・自己資本3,000万円・一級2名(講習受講済)+二級3名・W点の加点メニューは未着手という、地場でよくある構成の会社を仮に置きます。仮にP点700とします。

打ち手 時期 P点の動き(概算)
建退共+上乗せ労災+退職一時金の三点セット 次の決算日まで +60前後
防災協定(協会経由) 次の決算日まで +28前後
二級社員1名が一級合格+監理講習 1〜2年 Z素点+4 → 十数点規模
役員借入1,000万円をDESで資本化 翌決算 Y・X2改善で数点〜十数点

合計すると、1〜2年でP点を90〜110点動かす計画が非現実的でないことが分かります。P点はおおむね600〜900のレンジで争われ、熊本県の格付けは客観点(P点)+主観点で決まるため、この規模の上積みは等級の境目を一つ越え得る数字です。もちろん実際の効き目は現状の点数配分に依存します。決算書と直近の経審結果通知があれば、この試算は面談1回分の作業で出せます。

第五章熊本での手続きと年間日程

熊本県知事許可の会社の場合、経審は次のサイクルで回します。いまは電子申請(JCIP:建設業許可・経営事項審査電子申請システム)が基本で、GビズIDプライムの取得が前提です(取得に2〜3週間かかるので、初回は最優先で着手)。手順の詳細は経審の電子申請とJCIPの解説に分けています。

時期(決算日からの月数) やること 備考
決算3か月前〜決算日 W点対策の締切。建退共・労災上乗せ・退職金・協定・CCUS等を基準日までに整える/決算の組み方を三者で協議 ここが勝負。決算日を過ぎた対策は1年後回しになる
+2か月 税務申告(申告期限) 税理士
+2〜3か月 決算変更届を県へ提出 工事経歴書は経審用の記載ルールで。業種振り分けを確定させる工程
+3か月 経営状況分析を登録機関へ申請(手数料1.3万円前後) Y点の結果通知を受け取る
+3〜4か月 経審申請(JCIP)。手数料8,500円+2,500円×業種数(県証紙相当) 申請先は熊本県(土木部監理課)
+4〜6か月 結果通知(P点確定) 入札参加資格の定期・追加受付、指名願

※手数料・窓口・電子申請の運用は改定されることがあります。最新は熊本県の経営事項審査の手引きで確認してください。

第六章つまずきの記録 ── 実務で見てきた失敗

つまずき 何が起きるか 予防
工事経歴書の記載ルール違反 差し戻し。元請/下請の別・配置技術者・完成/未成の区分は経審用の書き方が決まっている 決算変更届の段階から経審を見据えて作る
業種振り分けの根拠不足 完工高を寄せた業種の契約書・請求書と突合されて崩れる 振り分けは証憑とセットで設計
W加点の証明書類が基準日時点で揃っていない 「加入したつもり」でも証明日付が決算日より後だと加点されない 決算3か月前チェック(下記)で前倒し確認
CCUSを「登録しただけ」 加点要件は現場での就業履歴の蓄積。カードを作って終わりでは点にならない 対象現場の登録とカードリーダー運用まで込みで設計
技術職員の常勤性・雇用期間 基準日6か月以内の入社、保険の加入先違いで名簿から落ちる 採用・出向の時期を経審カレンダーに載せる
そもそも空白期間が生じている 入札の機会損失。気づくのは指名が来なくなってから 結果通知の有効期限を全社カレンダーに登録

結び経審は、決算日の前に始まる

ここまでの内容を一行に圧縮すると、こうなります。「Wは決算日までに、YとX1は決算の組み方で、Zは数年計画で。すべては決算日から逆算する」。経審を毎年の事務作業として流すか、経営の設計図として使うかで、3年後のP点はまったく違う数字になります。

決算前チェックリスト(決算3か月前に)

  • 建退共・上乗せ労災・退職一時金(中退共等)の三点セットに未加入のものはないか
  • 防災協定に参加できていないか(協会・自治体)
  • CCUSは現場運用まで回っているか
  • 技術職員名簿:今期から数えられる人・落ちる人の確認
  • 2年平均/3年平均、どちらが有利かの試算
  • 業種振り分けの方針と証憑の整合
  • 役員借入・借入構成の決算前整理(DES・資本性借入金の検討)
  • GビズID・JCIPのアカウント確認
  • 前回結果通知の有効期限の確認(空白は生じないか)
  • 税理士・行政書士との決算前ミーティングの設定

現状のP点と狙う等級の差を知りたい方は、直近の決算書と経審結果通知をお持ちください。上のモデル試算と同じ形で、貴社版の「動かせる点数の一覧」を無料相談の場でお出しします。

執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。

顧問技術士・一級建築士

技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。

chiou.jp株式会社地央/姉妹サイト

不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。

熊本で経審の受審・評点対策をお考えの方へ

行政書士村上事務所は、創業20年・支援実績100社超。許可の要件を満たせるか、経審で狙った評点・等級に届くかを、着手前に診断してお伝えします。初回相談は無料です。

→ サービス内容・費用を見る|096-285-3993|お問い合わせフォーム

経営事項審査 実務講座 第1講 / 全25講 ── 第一部 経審とは何を測る制度か

次の講:第2講 経審の進め方 ── 書類準備から申請まで
→ 講座の目次(全25講)を見る

NOTE

業務ノート

PAGE TOP