専任特例1号の要件と配置技術者の兼任

同じ技術者を、二つの現場に置けるか ── 専任特例1号の六つの要件

「2時間以内なら、同じ技術者を二つの現場に置ける」。そう聞いたことのある方は多いと思います。半分は当たっています。ただ、2時間は六つある要件のうちの一つにすぎません。令和6年12月13日に施行された建設業法の改正で入った、専任特例1号という制度です。要件を一つでも落とすと、兼任そのものが成り立ちません。条文で確かめながら、置ける場合と置けない場合を分けます。あわせて、重複が生まれる場所も並べます。

01そもそも、専任が要るのは4,500万円以上です

専任の配置が求められるのは、公共性のある施設または多数の者が利用する施設に関する重要な建設工事です。建設業法施行令第27条第1項が、これを請負代金4,500万円以上(建築一式工事は9,000万円以上)と定めています。

「公共性のある施設」は、国や地方公共団体が注文者のものだけではありません。学校、図書館、病院、診療所、社会福祉施設、事務所、ホテル、共同住宅、寄宿舎、市場、百貨店、工場、倉庫、廃棄物処理施設まで、条文に細かく並んでいます。民間工事だから関係ない、とはなりません。

この4,500万円は、消費税込みです建設業法でいう請負代金の額には、消費税および地方消費税が含まれます。軽微な建設工事の500万円も、特定建設業の下請代金も同じです。税抜きで数えるのは、工事経歴書と経営事項審査の完成工事高のほうです。逆に覚えると、専任を置くべき現場に置かないという事故になります。

02兼任には、三つの型があります

専任が要る現場でも、同じ技術者が二つ持てる場合があります。ただし、根拠も対象も違う三つの型があり、混ぜて考えると要件を落とします。

根拠 対象になる技術者 現場の数
密接関連工事 施行令第27条第2項 主任技術者のみ 2件まで
専任特例1号 法第26条第3項第1号 主任技術者・監理技術者 2件まで(法第26条第4項、令第30条)
専任特例2号 法第26条第3項第2号 監理技術者(補佐を各現場に専任配置) 2件まで

密接関連工事は、同一の建設業者が、同一の場所または近接した場所で、密接な関係のある2以上の工事を施工する場合です。工事の対象に一体性や連続性があるか、施工に相互の調整が要ることが前提で、現場間の距離はおおむね直線10キロメートル程度とされています。監理技術者は対象になりません。

専任特例1号は、その制約がありません。離れた現場でも、監理技術者でも使えます。そのかわり、要件が多いのです。

図1 兼任の三つの型
根拠が違えば、対象になる技術者も要件も違います 密接関連工事 令第27条第2項 主任技術者のみ 2件まで 同一または近接した場所で、密接な関係のある工事。距離はおおむね直線10キロメートル程度 専任特例1号 法第26条第3項第1号 主任技術者・監理技術者 2件まで 離れていても使えます。そのかわり要件が六つ。落とすと兼任そのものが成り立ちません 専任特例2号 法第26条第3項第2号 監理技術者 2件まで 各現場に監理技術者補佐を専任で置くのが条件。若手の一次検定合格が効いてきます いずれも令和6年12月13日施行の改正を含みます。2件までという数は令第30条によります。

03専任特例1号の要件は、六つです

ここが本題です。条文の根拠とあわせて並べます。すべて満たして、はじめて兼任できます。

要件 根拠
1 各工事の請負代金が1億円未満(建築一式工事は2億円未満) 法第26条第3項第1号イ、令第28条
2 兼任する工事現場は2を超えない 法第26条第4項、令第30条
3 現場間の距離が1日の勤務時間内に巡回可能で、災害や事故が起きたときの移動時間がおおむね2時間以内 規則第17条の2第1項第1号
4 自社が注文者となった下請契約から数えて、下請次数が3を超えない 規則第17条の2第1項第2号
5 各工事現場に連絡員を配置する 規則第17条の2第1項第3号
6 情報通信技術で施工体制を確認する措置を講じる 法第26条第3項第1号ハ、規則第17条の2第1項第4号

「2時間」は三つめの要件の、しかも後半だけです。前半の「1日の勤務時間内に巡回可能」という条件を落としている説明をよく見かけます。2時間で行ける距離でも、往復して両方を回り、通常の勤務時間に収まらなければ足りません。

五つめの連絡員は、見落とされがちです。各工事に置く必要があり、複数の工事で兼ねることも、複数人を置くこともできます。土木一式工事と建築一式工事については、同業種の工事で1年以上の実務経験がある者という条件が付きます。ただし、直接的かつ恒常的な雇用関係までは求められていません。

六つめの情報通信技術は、遠隔から作業員の入退場などの施工体制を確認できることを指します。運用マニュアルでは、建設キャリアアップシステム、またはこれと連携したシステムの利用が望ましいとされています。

04そして、人員配置計画を作って置いておきます

要件とは別に、人員配置計画の作成と保管が義務づけられています(規則第17条の2第1項第5号および第2項)。書く内容はこうです。

会社のこと 建設業者の名称、所在地
技術者のこと 兼任する技術者の氏名、労働時間の実績
各工事のこと 工事の名称、所在地、内容、請負代金の額
兼任の条件 現場間の移動時間、下請次数
体制のこと 連絡員の情報、使う情報通信技術

これは工事現場ごとに備え置くものです。あとから作るものではありません。裏を返せば、この計画書を先に書いてみると、要件を満たしているかどうかが自分で確かめられます。兼任を考えたら、まず計画書の様式を埋めてみる。そこで詰まるなら、その兼任は成り立ちません。

05営業所の技術者が現場を持つときは、1現場までです

令和6年12月の改正では、もう一つ道が開きました。営業所技術者等が、主任技術者または監理技術者の職務を兼ねるという特例です(法第26条の5)。従来の専任技術者は営業所に常勤するのが原則で、現場に出ることが認められませんでした。

ただし、こちらは数が違います。兼ねられる工事現場は1以下です(令第34条)。しかも、その営業所で締結した契約に係る工事に限られ、専任特例1号と同じ要件を満たす必要があります。営業所と現場の距離で移動時間を測ります。

人手が足りない会社ほど、この道を使いたくなります。ただ営業所技術者は営業所の仕事を果たすことが前提ですから、現場に張り付いて営業所が空になるなら、話が逆になります。

06重複は、たいてい同じところで起きます

制度を正しく理解していても、書類の上で技術者が重なることがあります。原因は、だいたい四つです。

図2 重複が生まれる四つの場所
制度の理解ではなく、情報の集め方で起きます 1 記憶で名前が挙がる 現場を見ていない担当者が、書類を作るとき に「たぶんこの人」で埋めてしまいます。 出面や日報で裏を取ってから書きます 2 工期の変更が伝わらない 延びた工期が現場でだけ共有され、書類は 当初のまま。次の現場と重なります。 変更の連絡先を一本にします 3 竣工日をまたいで数える 検査や引渡しが残っているのに、次の現場 に配置してしまいます。 終わりは引渡しまでと決めておきます 4 登録した内容を直さない 工事実績のデータベースに登録したあと、 変更を登録し直していません。 変更登録まで含めて一つの仕事です

四つのうち三つは、制度の話ですらありません。誰が、いつ、どの情報をもとに書類を作るかという段取りの話です。技術者の配置は、社内で一人が通しで見るのが結局いちばん早くなります。

07登録した実績は、あとから照らし合わされます

工事実績情報のデータベース(コリンズ)に登録した内容は、登録して終わりではありません。工期や請負金額、配置技術者に変更があれば、そのつど変更登録が必要です。登録内容は発注機関が参照しますから、同じ人が同じ期間に別の現場に登録されていれば、そこで突き合わされます。

技術者を工事の途中で交代させることは、原則として認められません。認められるのは、死亡、退職、傷病、出産や育児、介護といったやむを得ない事情があるときや、工事内容の大幅な変更で工事が中止・中断したときなどに限られます。「忙しくなったから代えた」は通りません。

令和8年熊本地震のあとは、災害によって職務を続けられなくなった場合や、工期・工事内容に大幅な変更が生じた場合の途中交代について、国から取扱いが示されています。詳しくは建設業許可・経審・指名願は、地震でどう動いたかの第06章にまとめました。

施工体制台帳、建設キャリアアップシステム、そして配置技術者の情報は突き合わされます。名前だけ載せる配置は、経審の虚偽申請と同じ重さで扱われます。

08つまずきの記録と、確認先

実際に手が止まるのは、条文より手前のところです。

  • 4,500万円を税抜きで数えていた。建設業法の金額は消費税込みです。専任を置くべき現場を、置かずに通してしまいます
  • 逆に、工事経歴書や経審の完成工事高を税込みで書いていた。こちらは税抜きです
  • 「2時間以内だから兼任できる」と考え、連絡員も人員配置計画も用意していなかった
  • 密接関連工事のつもりで監理技術者を兼任させていた。令第27条第2項は主任技術者だけの規定です
  • 営業所技術者に2現場を持たせていた。こちらは1現場までです
  • 工期が延びたことが書類に反映されず、次の現場と重なった
  • 竣工したつもりで次に配置したが、検査と引渡しが残っていた

制度は動きます。ここに書いたことも、令和8年9月時点で条文にあたって確かめたものです。実際の判断は、工事の中身と体制によります。迷ったら、配置する前に相談してください。置いてしまってから直すのは、いちばん高くつきます。

根拠となる条文 建設業法第26条第3項・第4項、第26条の5/建設業法施行令第27条・第28条・第29条・第30条・第34条/建設業法施行規則第17条の2
運用の考え方 国土交通省「監理技術者制度運用マニュアル」(令和6年12月13日改正)
熊本県内の相談 熊本県 土木部 監理課 建設業班 096-333-2485
公共工事の発注者 発注機関ごとに、兼任の取扱いを別に定めている場合があります。入札公告と仕様書で確かめてください
発注者が独自に絞っていることがあります専任特例は法令上の制度ですが、個々の公共工事で兼任を認めるかどうかは、発注者が決めます。対象を自らの発注工事に限る、対象工種を限る、といった扱いを設けている発注機関があります。法令で足りていても、その現場で使えるとは限りません。入札公告と仕様書を先に読んでください。

技術者の数は、一朝一夕には増えません。だからこそ、いま社内にいる人を、法令の範囲でどう配置し直せるかが効いてきます。熊本県内の案件について、配置の設計からご相談を承ります。

令和6年12月13日のこの改正をふくめ、この一年で変わったことは熊本の建設業 制度改正カレンダーに日付順でまとめています。

執筆体制

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