完成工事高の業種区分 ── 決算が終わってからでは動かせない
01一件の契約は、一つの業種
工事経歴書は、請負契約の一件ごとに、その主たる工事の業種で計上します。一件の中に複数の業種の工事が含まれていても、内訳で分けて別々の業種に振り分けることはできません。
国土交通省の建設業許可事務ガイドラインは、はっきり書いています。建築一式工事として請け負った工事を、管工事や電気工事とその他の工事に分割してそれぞれ計上することはできず、建築一式工事として計上すると。
造成工事も同じです。一本の契約で受けていれば、中に舗装が入っていても、のり面が入っていても、土木一式が1件。決算が終わってから帳簿を見ながら分けるという作業は、そもそも制度上存在しません。
02積上げという制度はある。ただし方向が逆
完成工事高を業種間で動かす仕組みが、まったくないわけではありません。完成工事高の積上げ(振替)といいます。ただ、多くの方が期待する向きとは逆に動きます。
積み上げられるのは専門工事から一式工事へです。土木一式の完成工事高を舗装に持ってくることはできません。関連のある専門工事どうし(とび・土工と電気、管と水道施設など)の積上げもありますが、これも組み合わせが決まっています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 許可 | 積み上げ元の業種の許可を持っていることが前提です |
| 金額 | 全額を積み上げます。一部だけを動かすことはできません |
| 年数 | 審査対象年だけでなく、直前2年または3年分について行います |
| 代償 | 積み上げ元の業種は総合評定値が出ません。その業種で入札参加資格を取ることもできなくなります |
最後の一行が重いところです。一式の点を上げるために専門工事を差し出すのが積上げです。専門工種の等級を育てたい会社にとっては、むしろ逆向きの手になります。
03だから、契約の段階で決まる
専門工種の完成工事高を積み上げる方法は、ひとつしかありません。その工種を、独立した請負契約として受けることです。
造成一式で受ければ土木一式が1件。造成・舗装・のり面を別々の契約にすれば、それぞれの業種で1件ずつ計上できます。やっている工事は同じでも、経歴書に残るものが変わります。
ただしこれは自社だけで決められません。発注者との合意が要ります。分割を嫌う発注者もいますし、公共工事なら発注の単位そのものが決まっています。民間工事や、元請として自社が発注の形を作れる場面から始めるのが現実的です。
契約を分けたら、書類もそれに合わせます。見積の段階から工種別に内訳を作り、注文書と請書を分け、工事名称も業種が分かる名前にする。後から「あれは実は舗装だった」と説明する場面をつくらないことが要点です。
04積み上がるまでに、年数がかかる
経審で使う完成工事高は、単年ではありません。審査対象事業年度の直前2年または3年の年間平均です。どちらを使うかは選べます。
つまり、今期から契約を分け始めても、平均に効いてくるまでには数年かかります。「来年の入札に間に合わせたい」という動機で始めるものではありません。三年先に欲しい等級から逆算して、いま契約の形を変える。そういう時間感覚の作業です。
裏を返せば、いま何もしていない会社は、三年後も同じ場所にいます。着手が早いほど効きます。
05やってはいけないこと
ここははっきり書きます。点数のために、実態と違う業種で完成工事高を計上することは虚偽申請です。
国土交通省の「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」は、完成工事高の水増し等の虚偽の申請によって得た経審結果を公共工事の発注者に提出し、発注者がそれを資格審査に用いたときは、30日以上の営業停止処分と定めています。監査を受けて加点され、かつ財務諸表等の内容に虚偽があった場合は45日以上です。
営業停止は、その期間まったく仕事が受けられないという処分です。加えて、公表され、指名停止も付いてきます。一つの等級のために背負う リスク ではありません。
境目は単純です。契約がそうなっているか。契約書と注文書がその業種の工事として存在していれば、その業種で計上します。存在しないものを後から作るのは、書類の偽造です。
06段取り
| やること | |
|---|---|
| 一 | 三年先に欲しい業種と等級を決める。いまの完成工事高と、その業種の等級の境目を並べる |
| 二 | 実際にやっている工事のうち、独立した契約にできるものを洗い出す |
| 三 | 発注者と、契約を分けられるか相談する。民間工事から始める |
| 四 | 見積の内訳、注文書・請書、工事名称を、その業種で通す |
| 五 | 決算のたびに、工事経歴書が意図どおりに積み上がっているか確かめる |
五番目を毎年やっていないと、三年経ってから「思ったほど増えていない」ということになります。決算変更届は、その年の答え合わせでもあります。
07つまずきの記録
| つまずき | 実際 |
|---|---|
| 決算後に業種を振り分ければいいと思っていた | できません。一件の契約は主たる工事の業種で1件です |
| 内訳書があるから分けられると思っていた | 内訳で分割して各業種に計上することはできません |
| 積上げで一式から専門へ移せると思っていた | 向きが逆です。専門から一式へしか動きません |
| 積上げを使ったら、元の業種でも入札できると思っていた | 積み上げ元は総合評定値が出ません。その業種では入札参加資格を取れません |
| 今期分ければ来年の等級に効くと思っていた | 完成工事高は2年または3年の平均です。効いてくるまでに年数がかかります |
| 許可のない業種で計上していた | 許可のない業種の軽微な工事は「その他の工事」です。積上げにも許可が要ります |
| 工事名称が実態と合っていない | 審査で問われます。見積・注文書・請書・経歴書が同じ業種で通っているか確かめます |
確認契約を結ぶ前に確かめること
- 三年先に、どの業種でどの等級が欲しいか決まっているか
- その業種の等級の境目と、いまの年間平均完成工事高の差は何円か
- いま受けようとしている工事に、独立させられる専門工事が含まれていないか
- 発注者は契約を分けることに応じてくれそうか
- その業種の許可を持っているか。持っていなければ「その他の工事」になる
- 見積の内訳、注文書、請書、工事名称が、同じ業種で通っているか
08確認先
| 内容 | 確認先 |
|---|---|
| 業種の区分・工事経歴書の記載 | 国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」 |
| 完成工事高の積上げの取扱い | 熊本県土木部監理課建設業班「経営事項審査の手引き」 |
| 虚偽申請に対する処分 | 国土交通省「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」 |
※ 積上げの取扱いは許可行政庁によって運用が異なることがあります。実際の申請にあたっては、審査基準日時点の手引きでご確認ください。
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