入っているのに加点されない、を防ぐ

法定外労災(上乗せ労災)実務ノート ── 「入っているのに加点されない」を防ぐ

法定外労働災害補償制度、いわゆる上乗せ労災は、経審のW点で素点15点。P点にしておよそ+19.7点です。保険に入るだけで完結するので、加点の中では最も短い期間で整います。ただし「上乗せ保険に入っている」だけでは点になりません。誰を、どの災害まで、どこまで補償するかに要件があり、いま入っている保険が外れているケースが実務では珍しくありません。要件を通知の原文どおりに読み直します。

構成一 どこの何点か/二 令和8年7月の改正で重みが変わった/三 加点の要件を原文で読む/四 熊本県で最も多い不加点/五 いまの保険を確かめる手順/六 つまずきの記録/経審前チェック

第一章どこの何点か

まず場所を押さえます。経審のW点(その他の審査項目・社会性等)の中で、法定外労災は建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組の状況という区分に置かれています。手引きなどで「労働福祉の状況」と呼ばれることがありますが、建設業法施行規則第18条の3第1項第1号の現在の見出しはこちらです。

点の入り方はこうなります。

段階 計算 結果
素点 加入していれば 15点
W評点 15 × 10 × 175 ÷ 200 131.25点
総合評定値P 131.25 × 0.15 約19.7点

総合評定値の算式はP=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W。W評点の係数175/200は令和5年8月14日を審査基準日とする申請からで、それ以前は190/200でした。「素点1点=P点で約1.4点」としている資料は旧係数のままの数字です。現在は素点1点=P点で約1.31点です。

建退共(15点)、退職一時金または企業年金(15点)と合わせると素点45点。三つそろえるとP点で約59点です。いずれも制度を整えるだけで積める部分なので、経審の設計では最初に当たるところになります。

第二章令和8年7月の改正で、重みが変わった

令和8年2月6日公布の国土交通省告示第262号により、令和8年7月1日以降を審査基準日とする申請から経審が変わりました。法定外労災の要件と15点そのものに変更はありません。変わったのは周りです。

項目 改正前 改正後
雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入状況 各 0/▲40点 削除
建退共 15点 15点
退職一時金・企業年金 15点 15点
法定外労災 15点 15点
就業履歴を蓄積するための措置 全工事15点/全公共工事10点 全工事10点/全公共工事5点
建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度 5点(新設)
この区分の小計 最高77点/最低▲120点 最高77点/最低0点

出典:国土交通省「経営事項審査の主な改正事項」(令和8年2月6日公布、令和8年7月1日施行)。建設機械の保有状況では対象機械に不整地運搬車とアスファルトフィニッシャが追加されています。

社会保険の未加入による▲40点×3が消えました。令和2年10月以降、社会保険への加入が建設業許可の要件になっているためです。これまでは「マイナスを避ける」ことに意味がありましたが、その部分がなくなりました。区分の最低点が▲120点から0点に上がったぶん、プラスを積む15点の相対的な重みが上がっています。

第三章加点の要件を原文で読む

要件は「経営事項審査の事務取扱いについて」(平成20年1月31日 国総建第269号)に書かれています。ここは噛み砕くより、原文のまま置くほうが正確です。

通知 Ⅰの3(1)ハ法定外労働災害補償制度は、(公財)建設業福祉共済団、(一社)全国建設業労災互助会、(一社)全国労働保険事務組合連合会、中小企業等協同組合法第27条の2第1項の規定により設立の認可を受けた者であって…共済規程に基づき共済事業を行うもの又は保険会社との間で労働者災害補償保険法に基づく保険給付の基因となった業務災害及び通勤災害(下請負人に係るものを含む。)に関する給付についての契約であって①及び②に該当するものを締結している場合に、加点して審査するものとする。
① 申請者の直接の使用関係にある職員だけでなく、申請者が請け負った建設工事を施工する下請負人の直接の使用関係にある職員をも対象とする給付であること。
② 原則として、労働者災害補償保険の障害等級第1級から第7級までに係る障害補償給付及び障害給付並びに遺族補償給付及び遺族給付の基因となった災害のすべてを対象とするものであること。

読み取れることを並べます。

論点 通知が求めていること
契約の相手方 通知が挙げる共済団体、または保険会社
災害の範囲 業務災害と通勤災害の両方
対象者 自社の直接の使用関係にある職員に加えて、下請負人の直接の使用関係にある職員
補償の内容 障害等級第1級から第7級の障害補償給付・障害給付、および遺族補償給付・遺族給付の基因となった災害のすべて
時点 告示の項目名が「審査基準日における…加入の有無」。決算日時点で契約が有効であること

出典:国土交通省「経営事項審査の事務取扱いについて」(令和8年7月1日施行版)。

「全工事を対象に」は通知の文言ではありません手引き類でよく見る4要件のうち「すべての工事を対象とすること」は、通知の原文には書かれていません。通知が定めているのは上の①②の二つです。ただし実際の運用では、補償対象の工事が限定された共済だけでは加点されません。次章の熊本県の扱いがその例です。要件そのものと、運用での判断を分けて理解しておくと、保険会社との話が早くなります。
図 「入っている」だけでは点になりません加点の判定業務災害と通勤災害両方が対象下請負人の労働者も自社だけでは足りない1〜7級と遺族給付入院日額だけでは不可審査基準日に有効決算日時点で判定四つすべてを満たして 素点15点 → W評点131.25点 → P点 約19.7点※一つでも欠けると、加入していないものとして扱われます

対象工事の範囲は通知の①②には書かれていませんが、運用上は加入の有無の判断に影響します。第四章をご覧ください。

政府の労災保険に入っているだけでは加点されません。項目名が「法定外労働災害補償制度」であり、通知も政府労災の給付の原因となった災害について別に上乗せの契約を結んでいることを求めているためです。政府労災は前提であって、加点事由ではありません。

第四章熊本県で最も多い不加点

熊本県の経営事項審査申請の手引きに、名指しの注意書きがあります。

熊本県 手引き 項番43より(一社)熊本県建設業協会建築部会の建築労災共済のみの契約の場合は、建築一式工事及びそれに附帯する工事が対象であるため、それ以外の工事も施工する場合は、加入無しとなります。

建築一式で入っているつもりが、土木も舗装も施工している。この形だと加入していないものとして扱われます。県内で最も引っかかりやすい類型がこれです。加入証明書を持っていても、対象工事の範囲が自社の施工実態に届いていなければ点になりません。

同じ手引きにもう一つ書かれています。準記名式の普通傷害保険の場合は、原則として政府の労災保険に加入していなければ加入有りとはなりません。従業員個人にかけた傷害保険を上乗せ労災の代わりに考えている会社は、ここで外れます。

出すのは証明書だけではありません熊本県の提出書類一覧では、保険会社の場合に保険証券・保険約款・保険加入証明書が挙げられています。約款まで求められます。補償の範囲が要件を満たしているかを、県が約款で確かめるためです。「加入証明書があるから大丈夫」と考えていると、審査の段階で止まります。

第五章いまの保険を確かめる手順

すでに何らかの上乗せ保険に入っている会社は、決算日が来る前に一度突き合わせてください。順番はこうです。

  • 保険証券と約款を手元に出す。証券だけでは判断できません
  • 通勤災害が担保されているかを見る。業務災害のみの設計になっていないか
  • 下請負人の労働者が対象に入っているか。自社従業員限定になっていないか
  • 補償が障害等級第1級から第7級と死亡(遺族給付)をカバーしているか。入院日額だけの設計になっていないか
  • 対象工事の範囲が、自社が実際に施工している工事の種類をすべて含んでいるか
  • 契約期間が審査基準日(決算日)を含んでいるか

足りない項目が見つかったら、保険会社や代理店に「経営事項審査の加点要件を満たす内容にしたい」と伝えるのが最も早い進め方です。要件は公表されているものですから、扱いのある会社であれば設計を合わせられます。特約の追加で済むことも多く、契約を取り替える必要があるとは限りません。

加入や特約の追加が間に合うのは決算日までです。決算が終わってから手を打っても、その年の経審には入りません。1年待つことになります。逆算の考え方は経審カレンダーにまとめています。

第六章つまずきの記録

つまずき どうなるか/防ぎ方
建築部会の建築労災共済にだけ入っている 土木等も施工していれば加入無しの扱い。対象工事の範囲を実態に合わせる
通勤災害が対象外だった 要件を欠きます。約款で担保範囲を確認し、特約を追加する
下請の労働者が対象外だった 要件を欠きます。元請として現場を持つ会社では必須の部分です
従業員個人の傷害保険で足りると考えていた 準記名式の普通傷害保険は、政府労災への加入が前提。設計次第では加入無しの扱い
約款を出せなかった 熊本県は保険証券・約款・加入証明書を求めます。契約時に一式そろえておく
審査基準日の後に加入した その年は加点なし。判定は決算日時点の状態です
「素点1点=P点で約1.4点」で計算していた 令和5年8月14日から係数は175÷200です。1点は約1.31点。15点は約19.7点です

経審前チェックリスト

  • 契約の相手方は、通知が挙げる共済団体または保険会社か
  • 業務災害と通勤災害の両方が対象か
  • 下請負人の労働者まで対象か
  • 障害等級第1級から第7級と、死亡(遺族給付)が対象か
  • 対象工事の範囲は、自社の施工する工事の種類をすべて含むか
  • 契約期間は審査基準日を含んでいるか
  • 保険証券・約款・加入証明書がそろっているか
  • 建退共、退職一時金または企業年金も整えているか(三つで約59点)
確認先(一次情報)加点の要件は国土交通省の告示と「経営事項審査の事務取扱いについて」、確認書類と県独自の取扱いは熊本県の経営事項審査申請の手引き・提出書類一覧で公表されています。本記事の要件と点数は令和8年7月1日施行の改正を反映したものです。要件は改定されることがありますので、判断の前に最新版をご確認ください。いま入っている保険が要件を満たしているかの確認も、当事務所で承っています。
執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。

顧問技術士・一級建築士

技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。

chiou.jp株式会社地央/姉妹サイト

不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。

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