みなし登録の落とし穴

電気工事業のみなし登録 ── 主任電気工事士が、前の登録に残っている

建設業許可を取ると、電気工事業は「登録」ではなく「届出」になります。手数料もかかりません。ところが、この届出が窓口で止まることがあります。新しく雇った技術者が、前の個人事業の登録に主任電気工事士として残ったままになっているときです。同じ日に片づける段取りを整理します。

01許可を取ると、登録はできなくなる

電気工事業を営むには、電気工事業法にもとづく手続きが要ります。ここで分かれ道があります。建設業許可を持っている会社は、電気工事業の「登録」を受けることができません。法第34条により、代わりに「電気工事業開始届」を出す扱いになります。これが通称、みなし登録です。

図1 許可の有無で、手続きが分かれる 電気工事業を営む 建設業許可を持っていない 登録電気工事業者 知事の登録を受ける 手数料 22,000円/5年ごとに更新 建設業許可を持っている みなし登録(開始届) 登録はできず、届出になる 手数料なし/更新は許可に連動

登録のほうは熊本県収入証紙で22,000円の手数料がかかり、5年ごとに更新の申請も要ります。みなし登録は届出なので、この手数料はかかりません。更新という手続きもありません。ただし「更新がない」ことと「そのまま放っておいてよい」ことは別です。ここは07で触れます。

もともと個人や別会社で登録を受けていた事業者が建設業許可を取った場合は、その登録を続けることができません。許可を取った時点で、登録から届出へ移し替える必要があります。

02建設業法とは別の制度です

いちばん多い誤解がここです。「500万円未満の電気工事しかしないから、手続きは要らない」というのは違います。建設業許可は請負金額500万円以上の工事に必要になる制度で、電気工事業法は金額と関係なく、電気工事業を営むこと自体に手続きを求めています。二つは別の法律です。

逆に、「建設業許可(電気工事業)を取ったから、これで電気工事の手続きは全部済んだ」というのも違います。許可を取ったからこそ、みなし登録の届出が必要になります。片方だけでは足りません。

なお、扱う設備によっても変わります。一般家庭や小規模店舗の設備(一般用電気工作物)に触る場合は、次章の主任電気工事士を置く必要があります。自家用電気工作物だけを扱う場合は「通知」という別の手続きになり、主任電気工事士は求められません。

03主任電気工事士は、営業所ごとに一人

一般用電気工作物の電気工事をする営業所には、営業所ごとに主任電気工事士を置かなければなりません(法第19条・第20条)。この人が現場の作業を管理する立場になります。

項目 内容
置く場所 一般用電気工事の業務を行う営業所ごとに一人
資格 第一種電気工事士。または第二種電気工事士の免状を取得した後、電気工事に関し3年以上の実務経験がある者
所属 自社の従業員から選任します
兼任 一人が複数の営業所を兼ねることはできません
欠けたとき 知った日から2週間以内に、新しい主任電気工事士を選任します

この表の下の二行が、実務でいちばん効きます。「自社の従業員から」と「複数の営業所を兼ねられない」。この二つが重なると、次章の事態が起きます。

04前の登録が残っていると、二重になる

よくある形はこうです。電気工事の職人を一人採用した。その人は第一種電気工事士を持っている。これで主任電気工事士に立てられる、と思って届出の準備を進める。ところが窓口で止まる。

その人が、自分の個人事業で登録電気工事業者になっていて、自ら主任電気工事士に就いたままだったのです。個人事業をたたんだつもりでも、登録の廃止届を出していなければ、書類の上では営業所がまだ生きています。

図2 同じ人が、二つの営業所の主任電気工事士になってしまう 本人の個人事業 営業所A 登録電気工事業者 主任電気工事士 … 本人 入社した会社 営業所B みなし登録をこれから届出 主任電気工事士 … 本人 一人で二つの営業所は兼ねられない 先にAの登録を廃止すれば、Bで選任できる 廃止届と開始届の窓口は同じ。同じ日に、本人と一緒に出せば一度で済む

この状態で会社側の届出を出すと、同じ人が二つの営業所の主任電気工事士として並ぶことになります。前章のとおり、これは認められません。会社の届出を通すには、先に本人の登録を廃止する必要があります。

採用の前に確かめておくのは、免状の種類と実務経験だけでは足りません。「以前どこかで登録や届出をしていないか」を、本人に一度たずねてください。本人にも忘れている自覚がないことがあります。

05同じ窓口で、同じ日に

ここが実務の勘どころです。熊本県では、電気工事業の登録も届出も、受付窓口が熊本県電気工事業工業組合(熊本市中央区上水前寺)で共通です。所管は県の消防保安課になります。

つまり、会社の「開始届」と、本人の「廃止届」を、同じ窓口に同じ日に出せます。別々の日に動くと、廃止が済むまで会社の届出が宙に浮きます。本人に平日の時間を二度つくってもらうことにもなります。

誰が 何を 持っていくもの
会社 電気工事業開始届(みなし登録) 建設業許可通知書の写し/誓約書/主任電気工事士の免状の写し(第一種は法定講習の履歴面も)/雇用証明書/営業所の位置図/備付器具調書/法人は登記簿謄本
本人 電気工事業廃止届出書 登録証の原本(みなし登録だった場合は届出受理通知書の原本)
共通 会社のゴム印と代表者印、本人の印。訂正がその場で出ます

第二種電気工事士で立てる場合は、3年以上の実務経験を示す証明書も要ります。この証明は前の勤務先に書いてもらうことになるので、窓口へ行く日から逆算して、いちばん先に手をつける書類です。

06登録証が出てこない

廃止届には、登録証の原本を添えます。ところが個人事業をやめて何年も経っていると、これがまず出てきません。引っ越しや事務所の片づけで失われているのが普通です。

その場合は紛失の届出で対応できます。ただし当日に窓口で「ありません」と言い出すと、様式を取りに戻ることになります。本人に探してもらう連絡は、窓口へ行く日程を決めるより前に入れてください。見つからないと分かった時点で、紛失届も一緒に用意しておけば、その日のうちに終わります。

期限にも差があります。登録電気工事業者の廃止届は廃止の日から30日以内。みなし登録の廃止届と開始届は遅滞なくとされています。「遅滞なく」に日数は書かれていませんが、放置してよいという意味ではありません。

07許可を更新したら、こちらも変更届

みなし登録には更新の手続きがありません。そのため、届出を出したきり忘れられがちです。しかし建設業許可を更新すると、みなし登録の変更届が必要になります。許可の年月日や番号が変わるからです。熊本県も、許可の期限更新を行った場合は変更届が要ると明記しています。

変更届が要るのは、ほかに次の場合です。会社名や住所、代表者の氏名、営業所の名称や所在地、主任電気工事士の氏名、免状の種類、電気工事の種類。主任電気工事士が入れ替わったときも届出です。

5年に一度の許可更新のたびに、電気工事業のほうも触る。この対応関係を、更新の段取りの中に組み込んでおくのが確実です。

08つまずきの記録

つまずき 実際
建設業許可を取ったから、電気工事の手続きは済んだと思っていた 別の法律です。許可を取ったからこそ、みなし登録の届出が要ります
500万円未満の工事しかしないので不要だと思っていた 電気工事業法は金額と関係ありません。500万円の線は建設業許可の話です
主任電気工事士は他社と掛け持ちできると思っていた できません。自社の従業員から選任し、一人が複数の営業所を兼ねることもできません
前の個人登録を廃止していなかった 会社の届出が通りません。先に廃止届を出します
本人を窓口に連れて行かなかった 本人の廃止届が出せず、日を改めることになります
登録証を紛失していた 紛失の届出で対応できます。ただし様式は当日までに用意しておきます
建設業許可を更新したが、電気工事業のほうは触らなかった みなし登録の変更届が必要です。更新のたびに発生します
個人で登録したまま建設業許可を取った 許可があると登録は続けられません。届出に移し替えます

確認動き出す前に確かめること

  • 主任電気工事士に立てる人は、第一種か、第二種+実務経験3年以上か
  • その人は以前、個人や別会社で電気工事業の登録・届出をしていないか
  • していた場合、登録証(または届出受理通知書)の原本は手元にあるか
  • 第二種で立てるなら、実務経験証明書を書いてもらう先の目処は立っているか
  • 扱うのは一般用電気工作物か、自家用のみか
  • 窓口に行く日、本人は同行できるか
  • 会社のゴム印・代表者印、本人の印を持ったか

09確認先

内容 確認先
電気工事業開始届(みなし登録)の様式・必要書類 熊本県「電気工事業開始届(みなし登録)」
廃止届・紛失届などの様式 熊本県「電気工事業に係るその他の手続」
みなし登録の変更届 熊本県「登録電気工事業者変更届(みなし変更)」
制度全般の所管 熊本県 消防保安課 保安班
届出の受付窓口 熊本県電気工事業工業組合(熊本市中央区上水前寺)
執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

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