建設業と予算・政策の読み方

建設業と予算・政策の読み方 ── 四つの暦を、数字と日付で追う

建設業の売上は、好むと好まざるとにかかわらず予算と政策のカレンダーの上にあります。ただしそのカレンダーは一枚ではありません。当初予算の暦、補正予算の暦、複数年の計画の暦、そして災害が起きたときに動きだす暦。四つの動き方を、数字と日付で見ていきます。政治の評論ではなく、経営者が段取りに使う読み方だけをまとめます。

構成一 公的部門はどれだけあるか/二 一年の暦 ── 当初と補正/三 複数年の暦 ── 国土強靱化/四 政策が現場に降りてくる経路/五 災害の暦は、まったく別に動く/六 経営での使い方/確認のチェックリスト

第一章公的部門はどれだけあるか

まず規模を押さえます。国土交通省の建設投資見通し(令和7年度)によれば、建設投資の総額は75兆5,700億円。その内訳は次のとおりです。

区分 金額 構成比 前年度比
政府投資 25兆2,100億円 約33% +0.7%
民間投資 50兆3,600億円 約67% +4.5%
合計 75兆5,700億円 100% +3.2%

出典:国土交通省総合政策局「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」(令和7年8月29日公表)。工種別では建築49兆2,000億円、土木26兆3,700億円。

「建設業の半分は公共」という言い方をよく聞きますが、投資額でみると公的部門は全体の3分の1です。ただしこれは建築を含めた数字で、土木に限れば公的部門の比重はずっと高くなります。自社がどちらの土俵に立っているかで、予算のカレンダーを見る必要の強さが変わります。

第二章一年の暦 ── 当初と補正

国の公共事業関係費は、当初予算と補正予算の二つで動きます。

  • 当初予算:令和8年度の公共事業関係費は6兆1,078億円(前年度比+220億円、+0.4%)。一般会計の総額は122兆3,092億円でした。予算の成立は令和8年4月7日で、それまでは暫定予算(3月30日成立)でつないでいます
  • 補正予算:令和7年度の補正予算は令和7年12月16日に成立し、歳出の追加は18兆3,034億円。このうち国土強靱化関係が国費で2兆5,095億円、その中の公共事業関係費が1兆6,539億円です

金額の桁を見比べると、当初と補正のどちらが動いているかが分かります。当初はほぼ横ばい、補正は積み上がっている。秋から冬にかけて編成される補正が、実務では効いてきます。

図1 予算の一年国の予算が動く時期4月7月10月1月3月当初予算 公共事業関係費 6兆1,078億円(令和8年度)補正予算の編成・成立・執行発注見通しの公表※発注見通しは少なくとも年1回、10月1日を目途に見直して公表されます

令和7年度補正予算の成立は令和7年12月16日、令和8年度当初予算の成立は令和8年4月7日でした。

第三章複数年の暦 ── 国土強靱化

防災・老朽化対策の需要は、単年度の予算ではなく複数年の計画から読めます。ここは令和8年度に切り替わったところです。

5か年加速化対策 第1次国土強靱化実施中期計画
決定 令和2年12月11日 閣議決定 令和7年6月6日 閣議決定
期間 令和3年度〜令和7年度 令和8年度〜令和12年度
規模 おおむね15兆円程度
実績は累計約15.6兆円
おおむね20兆円強程度
位置づけ 閣議決定による対策 国土強靱化基本法第11条の2第1項に基づく法定計画

出典:内閣官房 国土強靱化推進室。5か年加速化対策は123の対策、実施中期計画は全326施策(うち推進が特に必要となる施策114)。

変わったのは規模だけではありません。閣議決定でつくる対策から、法律に根拠を持つ計画になりました。令和5年6月の国土強靱化基本法の改正で、実施中期計画の策定が法定されたためです。単年度ごとの判断で増減する性格のものではなくなった、という読み方ができます。

事業規模20兆円強の内訳は、防災インフラの整備・管理5.8兆円、ライフラインの強靱化10.6兆円、デジタル等の新技術0.3兆円、官民連携の強化1.8兆円、地域防災力の強化1.8兆円です。金額が最も大きいのはライフラインで、上下水道・電力・通信・道路といった、維持修繕系の会社が関わる領域です。

初年度は補正で始まっています実施中期計画の初年度は令和8年度ですが、その初年度分は令和7年度の補正予算で措置する方針が示されています。令和8年度当初の国土強靱化関係予算は5兆3,510億円(うち公共事業関係費4兆1,106億円)で、これに令和7年度補正の2兆5,095億円が乗る形です。当初と補正を合わせて15か月で一本、という組み立てになっているので、当初予算の額だけを見ると動きを読み違えます。

第四章政策が現場に降りてくる経路

方針は、政策 → 予算 → 発注者の運用(入札制度・評価項目) → 現場、という順で降りてきます。1〜3年かかることが多く、途中の段階で気づけば準備が間に合います。

分かりやすい実例が設計労務単価です。担い手の確保という方針が、単価という数字になって現場に届いています。

項目 内容
公表 令和8年2月17日(国土交通省)
適用 令和8年3月から(熊本県発注工事は令和8年3月6日から)
全国全職種の加重平均 25,834円/日(前年比+4.5%)
連続改定 平成25年度から14年連続の引上げ
熊本県の例 普通作業員22,100円/特殊作業員27,100円/とび工29,000円/型わく工29,200円/鉄筋工30,000円

出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日)、農林水産省・国土交通省「公共工事設計労務単価表」。熊本県の運用は県土木技術管理課の公表による。

単価が上がったということは、積算の前提が上がったということです。見積の根拠にも、賃金の実態としても効きます。旧単価で契約した工事についてはインフレスライドなどの特例措置の運用が県から示されますので、該当する工事があるかは契約ごとに確認することになります。

同じ経路をたどるものとして、週休2日や賃上げ、CCUSの活用といった方針は、総合評価の加点項目や経審の改正として現れます。国や県の審議会資料、振興プランといった文書が「予告編」と呼べるのはこのためです。

第五章災害の暦は、まったく別に動く

ここまでは平時の話です。災害が起きると、年度の暦とは無関係に別の時計が回り始めます。速さの感覚をつかむために、令和8年熊本地震(令和8年7月28日)のあと2週間で何が動いたかを日付で並べます。

日付 動き 建設業への効き方
7月28日 地震発生。同日、熊本県内21市町村に災害救助法が適用 この「適用された市町村の区域」が、のちの特例措置の対象範囲になる
7月29日 総務省・国土交通省が入札契約に関する通知 緊急度の極めて高い工事は随意契約が可能(地方自治法施行令第167条の2第1項第5号)
7月30日 熊本県が庁内・市町村へ通知 随意契約を適切に活用し、迅速な発注に努める
7月31日 熊本県が応急復旧工事等の通知 被災した工事の一時中止の指示、前金払をできる限り速やかに
8月4日 予備費の使用を閣議決定 国土交通省分は道路災害復旧50億円・有料道路災害復旧156億円
8月6日 国土交通省が災害査定の効率化を発表 机上査定・現地決定の限度額を引上げ。査定が早く回る
8月7日 激甚災害の指定(本激)特定非常災害の指定 前者は国庫補助率の嵩上げ、後者は手続きの期限に効く。別系統
8月10日 国土交通省が建設業法上の特例措置を通知 許可・経審・監理技術者資格者証の有効期間が令和9年1月27日まで延長

出典:内閣府、国土交通省、熊本県土木部監理課の公表資料。

13日で、発注の方法・お金の出方・手続きの期限の三つが動きました。年度の暦で構えていると、この速さには追いつけません。逆にいえば、平時から入札参加資格と技術者の余力を整えている会社が、ここで動けます。

期限の特例は自社に効くか建設業の許可・経営事項審査・監理技術者資格者証の有効期間や、変更届の期限については、特定非常災害の指定にともなう特例措置が出ています。対象や日付は令和8年熊本地震の特例措置の記事に整理しました。決算変更届を後回しにすると経審が止まり、12月18日締切の入札参加資格の定期申請に響きますので、日程だけは先に引いてください。

第六章経営での使い方

発注見通しは、法律で公表が決まっている

発注者が発注見通しを公表するのは、慣行ではなく義務です。公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の第7条(地方公共団体の長)と、その施行令第5条が根拠です。時期も定められています。

  • 毎年度、4月1日(その日に予算が成立していない場合は成立の日)以後遅滞なく公表
  • 少なくとも毎年度1回、10月1日を目途に見直して公表
  • 予定価格が400万円を超えないものは公表の対象外(令和7年7月1日施行の改正で250万円から引上げ)

熊本県は業種別と発注部署別の両方を公表しており、令和8年度は7月3日に第2回分が公表されています。年に一度読んで終わりにすると、秋の見直し分を見落とします。

補正の時期から逆算する

補正は編成から執行までが短く、短納期の発注が集中します。そこで拾えるかどうかは、発注が出てからでは決まりません。入札参加資格を持っているか、技術者に余力があるか、格付がどこかは、すべて前もって決まっています。補正の秋に間に合う会社になるための作業は、その前の決算期にあります。

方向が変わらないところに投資する

政局そのものを追いかける必要はありません。防災・老朽化・担い手という三つの方向は、5か年加速化対策から実施中期計画へ引き継がれ、法定計画になりました。変わらない方向に投資するのが、中小の合理的な選び方です。

確認チェックリスト

  • 自社の売上のうち、公共と民間の比率はいくらか。土木か建築か
  • 狙う発注者の発注見通しを読んでいるか。秋の見直し分も見ているか
  • 入札参加資格は有効か。次の定期申請の締切はいつか
  • 補正が動く時期に、技術者の余力はあるか
  • 維持修繕系の業種で、経審の完成工事高が積めているか
  • 設計労務単価の改定を、自社の見積の前提に反映しているか
  • 旧単価で契約した工事に、スライドの適用余地はないか
  • 災害時に動ける体制(防災協定、災害時の連絡体制)を持っているか
確認先(一次情報)建設投資見通しと設計労務単価は国土交通省、当初予算・補正予算は財務省、国土強靱化の計画と予算は内閣官房の国土強靱化推進室が公表しています。熊本県の発注見通しは県土木部土木技術管理課のページに掲載されます。本記事の数値は令和8年8月時点で公表されているものです。金額も期日も改定されますので、判断の前に必ず最新の公表資料をご確認ください。自社の段取りへの落とし込みについては、当事務所でもご相談を承っています。
執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。

顧問技術士・一級建築士

技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。

chiou.jp株式会社地央/姉妹サイト

不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。

この記事に関するご相談は

制度の変化を経営にどう落とし込むか。行政書士村上事務所が、貴社の状況に合わせて整理します。創業20年・支援実績100社超。許可の要件を満たせるか、経審で狙った評点・等級に届くかを、着手前に診断してお伝えします。初回相談は無料です。

建設業許可|経審・評点対策|入札参加資格|096-285-3993|お問い合わせ

この記事の先にあるもの

公共事業の予算がどう動くかは、翌年度の発注量と等級ごとの仕事量に返ってきます。受け皿を整えるところから逆算してください。
→ 入札参加資格・公共工事 実務講座(全16講)
→ 経営事項審査 実務講座(全25講)── 等級を決める点数の作り方

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