工期ダンピング規制 実務ノート ── 令和7年12月から、受注者にも禁止がかかった
構成一 規制は双方向になった/二 違反すると何が起きるか/三 何をもって「著しく短い」とされるか/四 物差しは二つある/五 数字で見る現状/六 工程表を根拠に変える/七 つまずきの記録/確認のチェックリスト
第一章規制は双方向になった
建設業法第19条の5の条文です。第2項は令和6年法律第49号による改正で新設され、令和7年12月12日の完全施行で動き出しました。
2 建設業者は、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。
読み比べると、禁じられている行為は同じです。違うのは主語だけ。注文者が押し付けることも、建設業者が受けることも、どちらも禁止されました。
これが効いてくるのは、元請の立場です。発注者から短い工期を示されて受ける。その工期を前提に下請へ発注する。この一本の流れの中で、自社は第2項の建設業者であり、同時に下請に対する第1項の注文者でもあります。両方から見られる位置に立つことになります。
この改正は工期だけの話ではありません。令和6年6月14日公布の改正建設業法は、労務費、価格転嫁の協議、技術者の専任、処遇の確保まで含む一続きのものです。全体の並びは改正法の全体地図にまとめています。
第二章違反すると何が起きるか
ここは第1項と第2項で扱いが分かれます。同じ条文の違反でも、進む先が違います。
| 誰が | どの規定 | 何が起きるか | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 発注者 | 第19条の5第1項 | 許可行政庁による勧告 勧告に従わないときは公表 報告・資料の提出要求 |
第19条の6第2項・第3項・第4項 |
| 建設業者 | 第19条の5第2項 | 許可行政庁による指示処分 従わないときは1年以内の営業停止 |
第28条第1項・第3項 |
第28条第1項は処分の対象から除外する条文を列挙していますが、第19条の5はそこに含まれていません。
この違いは実務で意味を持ちます。発注者に対する勧告には金額の下限があります。建設業法施行令第5条の8により、勧告の対象となるのは請負代金が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の請負契約です。それ未満の契約では、発注者への勧告というルートは使えません。
いっぽう建設業者側の第2項違反には、この金額の下限がありません。指示処分は許可行政庁の監督処分ですから、契約の規模を問いません。受注者のほうが、形式的には厳しい立て付けになっています。
第三章何をもって「著しく短い」とされるか
条文は「通常必要と認められる期間に比して著しく短い」としか言いません。判断の要素は、建設業法令遵守ガイドライン(令和8年1月・第12版/発注者受注者間は第8版)が示しています。請負契約ごとに総合的に勘案する、という立て付けです。
- 「工期に関する基準」に沿って、発注者・受注者がそれぞれの責務を果たしているか
- その工期を前提として契約を締結した事情
- 受注者が認識する工期の妥当性(受注者の見積工期との比較)
- 過去の同種・類似工事の実績との比較
- 賃金台帳等の資料(違法な長時間労働の有無)
- 「労務費に関する基準」を踏まえた工期となっているか
三番目と五番目に注目してください。「受注者の見積工期」と「賃金台帳」が、判断材料として名指しされています。つまり工期見積書を出していない会社は、自分の側の材料を持たないまま判断されます。
ガイドラインが挙げる違反・違反のおそれのある行為も、そのまま実務の警告として読めます。
| 行為 |
|---|
| 発注者から早期引渡しを求められたことに応じるため、通常より短い工期を一方的に設定する |
| 複数業者の見積工期のうち、最短の期間を一方的に選定する |
| 下請負人の適切な工期見積りを無視して、短い期間を押し付ける |
| 下請負人の責めに帰さない理由による工期変更のときに、短い期間を強制する |
| 前工程の遅れ等で工期が不足しているのに、工期変更を行わない |
| 第20条の2の情報通知の後に事象が発生したのに、協議に応じない |
| 時間外労働の上限規制に抵触する長時間労働を前提とした工期を設定する |
出典:建設業法令遵守ガイドライン(令和8年1月)。
「短い工期で契約したこと」だけでなく、「工期変更に応じないこと」も並んでいる点が実務では大きいところです。契約時点で適正でも、途中で前工程が遅れたときに工期を動かさなければ、そこで違反になりえます。
第四章物差しは二つある
「通常必要と認められる期間」を測るための基準は、中央建設業審議会が作成します(建設業法第34条第2項)。いま二つあります。
| 工期に関する基準 | 労務費に関する基準 | |
|---|---|---|
| 作成 | 令和2年7月20日 令和6年3月27日 最終改定 |
令和7年12月2日(中央建設業審議会決定) |
| 測るもの | 時間 | 賃金 |
| 単位 | 工事全体・工程別・分野別 | 51職種 × 47都道府県 |
工期に関する基準は、令和6年3月の改定で実務に近づきました。技能労働者の移動時間(営業所等と現場の間)が労働時間に含まれることを明示し、猛暑日(夏期のWBGT値が31以上)の不稼働を考慮する旨を入れています。あわせて、変更契約のときも適正な工期設定が必要であること、受注者は時間外労働規制を守った工期で見積りを出すこと、発注者はその見積工期を確認し尊重することが書かれています。
週休2日については、4週8閉所の取組を「意識改革、価値観を転換していくための有効な手段」と位置づけたうえで、日給月給制の技能労働者の処遇水準の確保に留意し、十分な工期の確保や交代勤務制に必要となる経費を請負代金に適正に反映する必要があるとしています。休日を増やすなら、その分の費用は代金側で見る、という建て付けです。
第五章数字で見る現状
国土交通省の令和7年度下請取引等実態調査(令和7年7月〜9月実施、集計対象17,756業者)から、工期に関する数字を並べます。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 工期見積書を作成・交付している下請負人 | 48.5% |
| 元請が設定する工期を「適当」と評価 | 89.7% |
| 工期変更を認められた下請負人 | 87.1% |
| 発注者が設定する工期を「適当」と評価 | 83.0% |
| 発注者設定の工期が「比較的短い」または「かなり短い」 | 9.3% |
現場閉所の状況は、4週8閉所46.3%、4週5〜7閉所33.7%、4週4閉所以下19.5%。月平均残業時間40時間未満は86.1%でした。
元請の設定工期を「適当」とする回答が89.7%ある一方、工期見積書を出している下請は半数を割ります。
取締りの側の数字も見ておきます。建設業法令遵守推進本部の令和7年度活動結果では、駆け込みホットラインの受付が1,946件、法令違反の疑義情報が全体で3,558件、うち612件が疑義として抽出されました。監督処分は許可取消1業者、営業停止14業者、指示4業者。勧告・文書指導は768業者です。このうち「工期の設定に関すること」の指導は60件でした。
第六章工程表を根拠に変える
ここまでの材料から、受注者側でやることは絞れます。
工期見積書を出す
判断要素に「受注者が認識する工期の妥当性」が入っている以上、見積工期を書面で出しておくことが、そのまま自社の防御になります。半数以上の下請が出していない現状は、裏返せば出すだけで差がつくということです。そして第19条の5第2項が施行された今は、短い工期で受けないための根拠を自分で作る作業でもあります。
工程表に休日と条件を書き込む
工期に関する基準が考慮すべきとしている項目を、そのまま工程表の欄にします。自然要因、休日・法定外労働時間、イベント、制約条件、関係者との調整、行政への申請、労働・安全衛生。4週8閉所を織り込んだ日程と、移動時間、猛暑日の不稼働まで見込んだ根拠を添えると、交渉の位置が変わります。
契約書に工期変更の条項を置く
建設業法第19条第1項は、書面に記載すべき事項として工事着手・完成の時期(第3号)、工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときはその内容(第4号)、設計変更や工事中止の申出があった場合の工期の変更・請負代金の変更・損害の負担とそれらの算定方法(第6号)を挙げています。
公共工事標準請負契約約款では、第20条が工事の中止、第22条が受注者の請求による工期の延長、第23条が発注者の請求による工期の短縮等、第24条が工期の変更方法です。民間工事の契約書でも、この構造をなぞっておくと協議の入口ができます。
第七章つまずきの記録
| つまずき | 実際 |
|---|---|
| 短工期の規制は発注者の話だと思っていた | 令和7年12月12日から受注者にも同じ禁止がかかっています(第19条の5第2項) |
| 受けるだけなら罰は当たらないと考えていた | 第2項違反は指示処分、従わなければ営業停止。しかも金額の下限がありません |
| 工期見積書を出していない | 判断要素の一つが「受注者が認識する工期の妥当性」。材料を自分の側に持たないことになります |
| 契約時は適正だったので大丈夫だと思っていた | 工期変更に応じないこともガイドラインが挙げる違反行為です |
| 移動時間や猛暑日を工程に見ていない | 令和6年3月改定の工期に関する基準が、いずれも考慮すべき事項としています |
| 週休2日にしたぶんの費用を見積りに入れていない | 基準は、必要な経費を請負代金に適正に反映すべきとしています |
| 自社が下請に短工期を出している | その契約では自社が第1項の注文者です。元請は両方から見られます |
確認チェックリスト
- 工期見積書を作成し、書面で交付しているか
- その工期で、時間外労働の上限規制に収まる計算になっているか
- 工程表に休日(4週8閉所等)を明示しているか
- 移動時間、猛暑日の不稼働、行政への申請期間を工程に見込んでいるか
- 週休2日や交代勤務に必要な経費を、見積りの代金側に入れているか
- 契約書に工期変更・代金変更とその算定方法の定めがあるか(第19条第1項第6号)
- 工事を施工しない日または時間帯の定めを、契約書に書いているか(同第4号)
- 第20条の2の情報通知を出しているか。通知した事象が起きたときの協議の窓口は決まっているか
- 自社が下請に出す工期は、下請の見積工期を踏まえたものか
- 工期変更の協議の記録を書面で残しているか
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