建設業の新ビジョン検討会 ── 企業評価・入札発注・月給制の論点
01次の十年の議論が、どこから始まったか
令和8年7月9日、国土交通省は「持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会」の第1回会合を開きました。2017年の「建設産業政策2017+10」から約10年が経過し、次の10年のビジョンを議論する場です。土台になっているのは、令和7年6月に設置され7回の議論を重ねた勉強会が、2026年4月に公表したとりまとめです。
出典:国土交通省「今後の建設業政策のあり方に関する勉強会 とりまとめ」(2026年4月)、および令和8年7月1日報道発表。
建設業界は現在、生産年齢人口の急速な減少、災害の激甚化・頻発化、そして建築費高騰に伴うプロジェクトの停滞など、これまでにない「重大な岐路」に立たされています。本記事では、この検討会で公開された資料をもとに、今後の「企業評価」や「入札・発注制度」がどのように変わっていく可能性があるのか、地場の中小建設業が今から備えるべきポイントを解説します。
02いま新しいビジョンが要る理由
国土交通省が新たな検討会を立ち上げた背景には、業界を取り巻く環境の急激な変化があります。特に懸念されているのが、日本全体の人口減少を上回るペースで進む建設業の「担い手不足」です。これに加えて、資機材価格の高騰や、AI・デジタル技術の急速な発展といった外部要因への対応も急務となっています。
国交省は、次の10年こそが建設業の明暗を分けるとしており、単なる現状維持ではなく、「人を大事にする産業」「真に経営力のある産業」「未来に続く産業」という3つの柱を軸に、具体的な取組内容や制度改正の方向性を議論していく方針を示しています。
03検討の的は、企業評価と入札・発注の二つ
勉強会のとりまとめは、「必要な政策の方向性」として具体的な検討事項を並べています。このうち、地場の建設会社の経営に直接効いてくるのが、企業評価と入札・発注制度の二つです。
出典:国土交通省「今後の建設業政策のあり方に関する勉強会 とりまとめ」(2026年4月)。
1. 企業評価 ── 何を見るかが増える
現行の経営事項審査(経審)と建設業許可制度を検証したうえで、「新たに評価すべき項目」として、企業の成長性、処遇改善の取組(賃金水準や制度)、労務管理・従業員教育などの企業経営能力、DX推進等の生産性向上の取組、所属技術者の能力・実績が挙げられています。財務の健全性だけを見る評価から、人と体制を見る評価へ、という方向です。
あわせて、評価制度そのものの活用促進も挙がっています。公共工事だけでなく民間工事でも評価結果の活用を広げる、評価の対象企業を広げる、評価を受けた企業を公表する、といった内容です。
2. 入札・発注 ── 価格と工期、そして契約の形
入札・発注では、実勢価格を踏まえた適正な予定価格と工期の設定、そして受発注者間の対等なパートナーシップの構築が柱に置かれています。契約の形としては「コストプラスフィー契約」の導入検討が挙げられました。資機材価格が動く局面や、前提条件が定まらない災害復旧のような工事で、費用の透明性を保ちながら対応する手法です。
このほか、地方公共団体の発注体制の強化(発注事務の共同化・広域化)、地域の事業者が参画できる小規模なPPP・PFIの推進、民間工事における受発注者間のコミュニケーションの場づくりも挙げられています。
04とりまとめが名指しした「月給制」
処遇改善の中でも、とりまとめが特に踏み込んで書いているのが月給制です。日給制について「処遇改善、採用や猛暑日対策のための柔軟な働き方の阻害の一因となっている可能性がある」としたうえで、現場に入るインセンティブを損なわないよう留意しつつも、これを業界の新たな「当たり前」とする覚悟で取組を進めるべきである、と述べています。政策の検討ポイントにも、事例の紹介や導入のサポート、インセンティブの検討、発注の平準化などが並びました。
企業評価の項に「処遇改善の取組(賃金水準・制度等)」が入っていることと合わせて読むと、月給制かどうかが将来の評価に効いてくる可能性は否定できません。移行そのものは、一日で決められる話ではありません。
年間所定労働時間を先に固めないと、基本給の水準が決まりません。順番を入れ替えると、あとで割増賃金の計算が合わなくなります。
標準労務費と労務費のダンピング規制については、労務費の基準と「不当な買い叩き」規制で詳しく整理しています。見積内訳の作り方は、そちらを参照してください。
05並行して進む「技術者制度」の見直し
新たなビジョンの検討と並行して、技術者制度の見直しも動いています。「適正な施工確保のための技術者制度検討会(第2期)」は、令和6年2月の第6回から間が空いていましたが、令和8年7月13日に第7回が開かれ、約2年5か月ぶりに議論が再開しました。限られた技術者をどう配置するかという話は、専任要件の運用と直結します。新ビジョンが目指す方向と表裏一体の論点です。
06地場の中小建設業が今から備えるべき「3つのアクション」
これらの国の動きを踏まえ、地場の中小建設業が今後10年を生き抜くために、今から着手すべき3つのアクションを提案します。
1. 処遇改善と人材育成の可視化
将来の企業評価において、「人を大事にする企業」がより高く評価される時代が到来しつつあります。建設キャリアアップシステム(CCUS)の積極的な活用や、賃金体系の見直し、従業員教育の実績を客観的に示せる体制を整えることが重要です。
2. 経営状況と施工実績のデータ化
新たな評価項目や柔軟な発注制度に適合するためには、自社の強みや実績を正確に把握し、外部にアピールする力が求められます。過去の施工データや財務情報を整理し、いつでも提示できる状態にしておくことが、今後の受注競争において有利に働きます。
3. DX・生産性向上への投資
労働力減少を補うだけでなく、企業評価の加点対象ともなり得るデジタル技術の導入は不可欠です。BIM/CIMの活用や、省力化ツールの導入など、自社の規模に合ったDX投資を戦略的に進めることが、中長期的な競争力の源泉となります。
07まとめ:制度改正を先読みした経営戦略を
国土交通省の新たな検討会は、今後の法改正や制度設計の「羅針盤」となります。直近の経審改正などの個別対応にとどまらず、国が目指す「持続可能な成長産業」の姿を先読みし、人材投資やDXを戦略的に進めることが、次の10年を勝ち抜く鍵となります。制度が変わってから慌てるのではなく、今から備えを進める「攻めと守りの経営戦略」を実践していきましょう。
【参照資料】
・国土交通省:第1回「持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会」開催について
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00351.html
・国土交通省:第1回持続的な成長産業としての建設業のあり方に関する検討会 配付資料
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00069.html
・建設通信新聞Digital:専任合理化などで方向性/技術者制度改正へ議論/国交省
https://www.kensetsunews.com/archives/1260290
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