村上事務所

2025年の建設業法改正で何が変わる?中小建設会社が今すぐ知るべき実務対応

価格転嫁の交渉は「義務」に。建設業法の改正で何が変わるのか

なぜ価格交渉が問題になっていたのか

背景にある建設現場の現実

建設現場では、資材費や人件費の上昇が続いています。たとえば鉄筋やコンクリートの価格が昨年よりも急激に上がったとします。それでも契約時の金額で工事を進めなければならないとなると、利益は削られ、場合によっては赤字になります。

これまで、一部の元請業者が下請業者に対して「契約金額は変更しない」と一方的に言い切ってしまうケースがありました。このような状況が長く続けば、下請け業者は資金繰りに行き詰まり、経営が立ち行かなくなってしまいます。

2024年12月の建設業法改正で明文化された内容

価格交渉の「拒否」は違法に

2024年12月の改正建設業法(令和5年法律第86号)において、「価格転嫁協議の一方的拒絶」が違法であると明記されました。具体的には、以下のような行為が禁止されます。

禁止される行為詳細
契約書に価格交渉を禁じる条文を記載する資材費が上がっても変更できないようにする文言は無効とされる
価格交渉に応じない話し合いの席にすらつかない場合、法令違反に該当

公共と民間での違い

建設業法の中で、公共工事と民間工事では対応が異なります。以下に違いを整理します。

工事の種類価格交渉の義務
公共工事交渉は義務
民間工事交渉は努力義務

そもそも「努力義務」とは?

「努力義務」とは、必ず守らなければならない「義務」ほどの強制力はありませんが、可能な限り実施すべきとされる法的要請です。とはいえ、努力しないと行政指導の対象になることもあるため、軽視すべきではありません。

実際の現場で何をすべきか

具体的な対応のステップ

  1. 契約時に「価格交渉可能であること」を文面に記載する
  2. 資材価格や労務費の変動があった場合は、その証拠(見積書、価格改定通知など)を残す
  3. 協議の内容や相手の反応を記録する(メールや議事録など)

たとえ話で理解する価格交渉の大切さ

たとえば、お祭りの屋台で「りんご飴」が最初100円だったとします。でも、りんごの価格が上がって、原価が150円になったのに「絶対に100円で売り続けろ」と言われたらどうでしょうか。それでは商売になりませんよね。

建設業も同じです。必要な原価が上がれば、それを契約金額に反映できるようにするのが、公正な取引の基本です。

建設業法の条文と根拠

建設業法第19条の5(令和5年改正)

注文者は、受注者から請負代金の変更について協議の申し出があった場合には、誠実に協議しなければならない。協議に応じる義務を一方的に放棄する契約は無効とする。

経営への影響と今後のポイント

経営事項審査への波及

今後、価格転嫁に誠実に対応している企業は「適正取引をしている業者」として評価される可能性があります。こうした姿勢は、経営事項審査(経審)における評点や公共工事の選定にも影響を与えることが考えられます。

中小企業にとっての現実的な課題

従業員数が少なく、契約や法務に詳しい人材がいない企業では、価格交渉の記録や証拠を整備することが難しいという声もあります。こうした点では、専門家のサポートを受ける体制づくりも重要になってきます。

まとめ

ポイント内容
価格交渉は法的義務に拒否や交渉の排除条項は建設業法違反
公共と民間で違いあり公共工事は義務、民間工事は努力義務
中小企業こそ備えるべき記録の保存、契約書の見直し、専門家との連携がカギ

ICT活用が努力義務に。デジタル化の波に乗り遅れないために

これからの建設業は「デジタルを使えるかどうか」で差が出る

なぜ今、ICTが求められているのか

建設現場では人手不足が深刻化し、効率的な業務運営が必要不可欠となっています。その解決策の一つとして国土交通省が強く後押ししているのが「ICTの活用」です。

ICTとは情報通信技術(Information and Communication Technology)の略称で、現場管理や工程確認、安全対策などをデジタルで効率化する技術全般を指します。

2024年12月の改正によって、このICTの活用が「努力義務」として明文化されました。これまでは先進的な一部の大手企業が取り組んでいた内容が、すべての元請業者に対して求められる時代になったということです。

努力義務って何をどこまでやればいいのか

法律上の位置づけ

今回のICT活用の努力義務は、品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)および入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)に基づいています。具体的には、以下の条文に関係しています。

法令関連条文要点
品確法第4条公共工事の品質確保のため、ICT等を活用した効率化を図るべきと規定
入契法第2条の2発注者および受注者は、合理的な契約履行に努めることが定められている

努力義務とは

「努力義務」とは、法的な強制力はないものの、積極的に取り組む姿勢が求められる内容です。行政からの指導や評価に影響する可能性があるため、実質的には「無視できない義務」と言えます。

ICT活用の具体的な内容とは

建設現場での利用例

  1. ドローンによる空撮で現場の進捗確認を行う
  2. タブレット端末で設計図面や施工図をリアルタイムで共有する
  3. 建機にセンサーを取り付けて稼働状況をモニタリングする
  4. クラウド上で工程表や安全管理資料を更新・共有する

バックオフィス(事務部門)でのICT活用

現場だけでなく、事務所内でもICT活用が求められています。これは「バックオフィスのDX(デジタルトランスフォーメーション)」とも呼ばれ、具体的には次のような取り組みが挙げられます。

部門ICT化の例
総務・経理勤怠管理のクラウド化、会計ソフトの導入
工事管理電子黒板、施工記録の自動保存、工程進捗のデジタル表示
書類業務PDFやExcelでの書類提出、書式の統一

安全大会でのICT事例紹介が必須に

元請け業者には、下請け業者にもICT導入を促すことが求められています。その方法として、安全大会などの機会を活用し、ICTの取り組み事例を紹介することが推奨されています。これは単なる情報提供にとどまらず、業界全体の底上げを図るための取り組みです。

例え話で考えるICTの導入

ICT導入のイメージをよりわかりやすくするために、こんなたとえ話をしてみます。

もし、料理をするたびにレシピを紙に手書きして、冷蔵庫に貼っていたらどうでしょうか。時間がかかるし、誰がどこまでやったかも分かりません。これをスマホのメモアプリや共有カレンダーに変えるだけで、全員が最新情報を確認できますよね。

建設現場でも同じです。紙でやっていた作業をデジタルに切り替えることで、見落としや手戻りが減り、作業がスムーズになります。

導入が進むことで評価が上がる仕組みも

経営事項審査での評価項目に影響

ICTを積極的に取り入れていることは、経営事項審査(経審)においても間接的に評価される可能性があります。たとえば、業務の効率化や安全管理体制の強化が数値化され、企業評価や公共工事の受注に有利に働くことがあります。

技術者の確保と育成にもつながる

若い世代の技術者は、紙よりもデジタルツールに慣れ親しんでいます。ICTを活用する現場は、働きやすい環境として認識され、人材の定着や採用面でもプラスに働くでしょう。

まとめ

取り組むべきこと目的とメリット
ICTの導入を進める業務効率化、ヒューマンエラーの削減、施工管理の精度向上
安全大会で情報共有する下請け企業のレベル向上、元請けとしての評価向上
バックオフィスのDXを進める全社的な業務改善、経審での間接的評価にもつながる

今後の建設業においては、デジタルをどう使いこなすかが企業の競争力を左右する重要な要素となります。取り組みの大小ではなく、一歩を踏み出せるかどうかが問われています。

主任技術者の専任合理化。1人で2現場を担当できる新制度の全体像

専任のルールが変わることで、現場はどう変わるのか

背景にある人手不足と働き方改革

建設業界では、長時間労働の是正と技術者の確保という二つの課題が重なり、国としての対策が急務となっていました。そのなかで注目されたのが、主任技術者の配置要件の見直しです。

これまでは、一定規模以上の工事において現場ごとに専任の主任技術者(または管理技術者)を配置する必要がありました。しかし、それが技術者不足の中小企業にとっては大きな負担となっていたのです。

2024年12月改正のポイント

主任技術者の兼任が可能になった条件

今回の建設業法改正(令和5年法律第86号)により、一定の条件を満たせば、主任技術者が同時に2現場まで兼任できるようになりました。

項目条件の内容
工事の規模請負金額が建築一式で2千万円未満、その他の工事で1千万円未満
巡回の条件1日で2現場を巡回可能であること
移動時間片道おおむね2時間以内であること
ICTの活用情報通信機器を利用して現場管理を行う体制があること

これらの条件をすべて満たせば、同一人が2つの現場の主任技術者を務めることができます。

法的根拠の確認

この制度は、建設業法施行規則第26条および第27条の一部改正に基づいています。また、国土交通省の技術的助言により、ICTを活用した合理的な専任緩和の方向性が明確に示されました。

なぜ「片道2時間以内」なのか

現場を巡回できるかどうかが焦点

この「片道おおむね2時間以内」という基準には、現実的に1日で2現場を管理できるかどうか、という判断基準が含まれています。つまり、移動時間と現場対応の両立が可能であれば、兼任が現実的だと考えられているのです。

例え話で考える現場管理の負担

たとえば、校外学習の引率をしている先生を思い浮かべてください。1つの小学校行事で生徒30人を安全に誘導するのも大変ですが、もう一つのグループも見てほしいと言われたら、時間や移動の余裕がなければ対応できません。建設現場でも、管理する側の負担を超えるような兼任は認められないという考え方に基づいています。

この制度がもたらすメリットとリスク

メリット

  1. 人材不足の中でも現場を回せる柔軟な対応が可能になる
  2. 技術者の稼働効率が向上し、経営的にも有利に働く
  3. 経験の浅い補佐技術者の育成につながる

リスクや注意点

  1. 巡回の実態が不十分な場合、行政処分の対象となる
  2. 無理な兼任が現場の安全や品質に悪影響を与える可能性がある
  3. 現場代理人の役割や責任分担が不明確だと混乱を招く

ICTの活用がカギを握る

遠隔監視やデジタル連絡の活用

兼任の前提となるのが「情報通信機器の活用」です。これは、カメラ付きのスマートフォンやタブレットで現場の映像を共有したり、遠隔で進捗を報告し合ったりすることで、物理的にその場にいなくても現場を管理できる仕組みです。

主なICTツールの例

ツール利用目的
ZoomやTeamsなどのビデオ会議遠隔での打合せや工程確認
ドローン進捗管理や高所の安全確認
電子黒板施工内容のリアルタイム共有

制度の運用で差が出る時代に

使いこなす企業とそうでない企業の違い

この制度の最大の特徴は、「使い方次第で業務効率や信頼性に大きな差が出る」点にあります。ICTを活用し、補佐者をうまく育成しながら業務を分担できる企業は、今後の建設業界において強い存在となるでしょう。

一方で、制度を表面的にしか理解しておらず、実態として兼任に耐えうる体制が整っていない企業では、結果的に行政指導や元請との信頼関係の悪化を招くリスクがあります。

まとめ

ポイント内容
制度の目的技術者不足の緩和と柔軟な人員配置の実現
兼任の条件金額、巡回可能性、移動時間、ICT活用など
活用の鍵補佐体制とICT機器の整備と実践的運用
注意点適切に運用しなければ逆に負担やリスクが増す

この制度は、建設業界における働き方改革の一環であり、管理者と企業が共に成長できる仕組みとも言えます。形だけでなく、実態としての運用力が求められる制度です。

2025年中に予定されている建設業法の追加改正。業界に与える影響とは

なぜ追加改正が必要なのか

過度な価格競争がもたらすリスク

建設業界では、競争の激化により過度な低価格受注が問題視されてきました。安価な見積もりによる受注は、一時的には発注者にとってメリットがあるように見えますが、結果的には以下のようなリスクを生じさせます。

リスクの種類具体的な影響
品質の低下低価格で請け負った工事では、人件費や材料費を削る必要があり、手抜き工事のリスクが高まる
安全管理の不備労務費が十分に確保できず、適切な人員配置ができないことで労働災害が増える
経営の圧迫原価割れ契約を受ける企業が増え、倒産リスクが高まる

こうした状況を改善するために、2025年中の法改正が予定されており、「著しく低い労務費での見積もりの禁止」「受注者の原価割れ契約の禁止」「著しく短い工期での契約の禁止(工期ダンピング対策)」の3つが柱となっています。

改正のポイント

著しく低い労務費での見積もりや見積依頼の禁止

発注者が相場を無視した極端に安い労務費を前提とした見積もりを求めたり、受注者側が過度に低い見積もりを提示することを禁止する改正が行われます。

何が問題だったのか

従来の慣行では、競争力を高めるために企業がコストを削減し、人件費を抑えた見積もりを出すことが一般的でした。しかし、これが以下のような問題を引き起こしていました。

  1. 技能者の適正な賃金が確保できず、若手人材の流出が加速する
  2. 下請け企業へのしわ寄せが発生し、健全な業界構造が維持できない
  3. 法定の最低賃金以下の労務費での契約が横行する

この改正によって、見積もり時点で労務費が適正な水準に保たれるようになり、技能者の処遇改善にもつながると期待されています。

受注者の原価割れ契約の禁止

受注者が自ら原価を下回る金額で契約することを禁止する措置も導入される予定です。これにより、赤字受注による企業の自滅を防ぐことが目的とされています。

なぜ原価割れ契約が問題なのか

建設業では、資金繰りが厳しくなると「とにかく仕事を取る」ために原価割れで契約するケースが少なくありません。特に資金力の乏しい中小企業では、無理な受注が経営破綻を招くことが多いです。

具体的な影響

  1. 企業の利益率が改善し、持続的な経営が可能になる
  2. 適正な価格での契約が主流になり、健全な市場競争が生まれる
  3. 下請け企業にも適正な賃金が支払われるようになる

著しく短い工期での契約の禁止(工期ダンピング対策)

発注者が不適切に短い工期を要求することや、受注者が無理な短工期で契約を結ぶことを禁止する改正も予定されています。

なぜ短工期契約が問題なのか

工期が短すぎると、以下のような問題が発生します。

  1. 過度な残業や休日出勤が発生し、働き方改革に逆行する
  2. 工事の品質が低下し、長期的なメンテナンスコストが増大する
  3. 安全管理が疎かになり、労働災害のリスクが増す

この改正では、業務遂行に適切な期間を確保することで、無理なスケジュールでの工事進行を防ぎます。

実施時期と今後の対応

具体的な施行時期は未定

これらの改正は2025年中に施行される予定ですが、具体的な日時は現時点では明らかになっていません。関係省庁が詳細な基準を決定し、段階的に運用が開始される可能性があります。

企業が今からできる準備

  1. 自社の見積もり基準を見直し、適正な価格設定を行う
  2. 長期的に持続可能な利益率を確保するための価格交渉スキルを磨く
  3. 工期設定の合理性を説明できる資料を準備し、発注者との交渉を有利に進める
  4. 下請け企業との協力体制を強化し、全体として適正な労務費を維持する

まとめ

改正項目目的と影響
著しく低い労務費の見積もり禁止技能者の適正な賃金を確保し、人材確保を促進する
原価割れ契約の禁止企業の持続可能な経営を支援し、赤字受注を防ぐ
短工期契約の禁止働き方改革を促進し、労働災害を防ぐ

2025年の追加法改正は、建設業界全体の健全化を目的とした重要な措置です。企業経営者は、この流れを見越した経営戦略を立てることで、新しいルールの中でも競争力を維持できるでしょう。

建設業界に押し寄せる制度改革の波。知っておくべき法改正と制度変更の流れ

はじめに

2023年以降、建設業界を取り巻く法制度は大きく変化しています。インボイス制度の導入や時間外労働規制、手形制度の見直しなど、これまで当たり前だった慣行が見直され、中小建設会社にも新たな対応が求められています。

本章では、2023年から2026年にかけての重要な制度変更を時系列で整理し、それぞれが建設会社にもたらす実務的な影響についてわかりやすく解説します。

制度改正と法変更の時系列一覧

制度・法改正内容影響を受ける主な業種・対象主なポイント
2023年インボイス制度開始すべての事業者(特に建設下請)適格請求書発行事業者でなければ消費税の仕入控除が不可に
2024年4月時間外労働の上限規制建設会社全体(現場監督・技能者含む)月45時間、年360時間を超えると法令違反に。罰則付き
2024年11月60日以上の約束手形の使用禁止資金繰りを手形に依存していた中小企業手形決済サイトの短縮で現金化が早まる
2025年住宅の4号特例廃止戸建て住宅中心の小規模工務店確認申請が必要になり、設計費・手間が増加
2026年手形の完全廃止建設業界全体、流通業も含む現金決済または電子化の時代へ。手形文化の終焉

各制度の背景と実務への影響

インボイス制度(2023年開始)

消費税制度の適正な運用を目的として導入された制度です。仕入税額控除を受けるためには、「適格請求書発行事業者」として登録された事業者からの請求書が必要になります。

個人事業主や一人親方で未登録のままだと、元請会社は消費税の控除ができなくなり、契約や発注に影響が出る可能性があります。

時間外労働の上限規制(2024年4月)

働き方改革関連法の一環として建設業にも適用が開始されました。これにより、現場監督や技能者の労働時間管理が法的に厳格化されます。

上限を超えると行政指導や罰則の対象となるため、就業規則やシフト管理の見直しが必須となります。

約束手形の使用制限と廃止(2024年11月および2026年)

まず2024年11月からは、支払期日が60日を超える約束手形の使用が禁止されます。さらに2026年には手形そのものの利用が原則廃止され、現金または電子決済への移行が求められます。

特に中小企業にとっては、資金繰りの調整が大きな課題となるため、融資枠の見直しや取引条件の再交渉など早めの対策が必要です。

住宅4号特例の廃止(2025年)

これまで木造戸建住宅に限って簡略化されていた建築確認申請手続き(いわゆる4号特例)が廃止され、すべての住宅で構造計算等の確認が必要となります。

設計者や工務店の事務負担が増すだけでなく、確認申請費用や工期の延長も見込まれます。特に小規模工務店にとっては大きな打撃となりかねません。

制度改正にどう向き合うか

先手の対応が会社の命運を分ける

これらの制度変更は、いずれも「先進的な体制を整えてきた企業にとっては追い風」となり、「従来の慣習に頼ってきた企業にとっては逆風」となります。

たとえば、電子契約システムやクラウド会計に早期から対応していた企業は、インボイス制度や手形廃止にもスムーズに適応できます。逆に、手形中心の取引やアナログな労務管理を続けていた企業は、大きな見直しが必要です。

事前の専門家相談が鍵

特に建設業界では、許認可や労務管理、資金繰りといった多様な分野にまたがるため、信頼できる専門家(行政書士・社労士・税理士)との連携が欠かせません。制度の細かな変化をキャッチアップし、早めに実務へ反映することで、他社との差別化にもつながります。

まとめ

改正・変更内容中小建設会社への主な影響
インボイス制度下請事業者との取引条件の見直しが必要
時間外労働の上限規制就業管理体制の整備と残業抑制の工夫
60日以上の手形禁止・手形廃止資金繰りの見直しとキャッシュフロー管理が必須
4号特例廃止設計・確認申請業務の手間とコスト増加

制度改革の流れは一時的なものではなく、今後も継続して進むことが予測されます。変化に対して柔軟に対応できる会社づくりこそが、これからの建設業界を生き抜くための土台となります。

今後の課題と懸念点

偽装一人親方の増加問題

偽装一人親方とは何か

「一人親方」とは、本来自営業の職人で、請負契約に基づいて個人で現場に入る働き方です。しかし、最近では形式的に一人親方として契約しているにも関わらず、実態は特定の企業に常時従属している「偽装一人親方」が増えています。

なぜ増えているのか

最大の理由は、企業が社会保険料の負担を避けたいからです。一人親方であれば労災や雇用保険の対象外となるため、企業側にとってはコスト削減になります。若手職人の中には、「月給が少し高いから」と安易にこの形態を選ぶケースも多く見られます。

問題点

社会保険未加入将来の年金や医療、雇用保険が不十分になります。
労働者としての権利保護が困難長時間労働、残業代未払い、有給休暇なしなどが横行する温床になります。
企業間の競争環境が不公平に適切な保険負担をしている企業ほど経営的に不利になります。

建設Gメンの増員と限界

建設Gメンとは

不正行為の摘発や監視を目的に、国土交通省が設置している監視チームを「建設Gメン」と呼びます。2024年度には135名体制に拡充されています。

限界と現実

日本全国に数十万社ある建設会社を135人で監督するのは現実的に限界があります。悪質な事例への重点的対応は可能でも、網羅的な取締りは期待できません。そのため、各企業自身がルールを守る自浄能力がますます重要となります。

ICTや制度対応への企業格差

ICT導入の推進

2024年12月からの法改正で、元請企業にはICTの活用努力義務が課されました。これにより、現場管理や書類業務のデジタル化が求められます。

格差の実態

ICTに積極的な企業業務効率化、働き方改革、人材確保に成功しやすい
ICT未導入の企業紙管理や手作業が残り、人手不足やミスの温床に

結果として、ICTに対応できるかどうかで、入札や人材獲得、経営の安定性に大きな差が生じてきています。

新規参入の厳しさと独立リスク

建設業は気軽に独立できる業界ではない

「手に職があるから独立したい」という声は多いですが、建設業で経営を始めるには、建設業許可の取得や経営業務管理責任者の選任、技術者要件など、多くの法的・実務的ハードルがあります。

独立のリスクと対策

資金繰りの困難売掛金の回収遅れや支払いサイトの長さが原因で資金ショートのリスクがあります。
人材確保が難しい信頼できる職人や技術者を確保できなければ、受注にも限界があります。
法令対応が複雑建設業法、労働法、社会保険などの知識も必要です。

したがって、業界としては「簡単に独立すれば良い」という文化から、「実力と準備が整ってから挑戦する」というスタンスへの意識改革が求められています。

まとめ

建設業界では、法改正による労務改善やICT化が進む一方で、偽装一人親方や新規参入のハードルといった課題も深刻化しています。国の取り締まり体制だけに頼るのではなく、現場で働く一人ひとりが正しい知識を持ち、健全な労働環境と経営の在り方を考えていく必要があります。

建設業界は今、分岐点に立たされている

変革の波に乗る企業と、取り残される企業

2025年を前に、建設業界は大きな制度改正に直面しています。法改正や制度変更の多くは、企業の体力と経営判断により「プラス」にも「マイナス」にも働く可能性があるため、まさに今は“分岐点”にあるといえます。

変化に対応できる企業にとっての好機

積極的にICTを導入し、法改正への理解を深めながら現場の運営体制を見直している企業にとっては、これらの制度変更はむしろチャンスです。たとえば以下のような企業は、今後の公共工事や民間取引での競争力が高まると予想されます。

特徴具体的な取り組み
先進的な企業ICT施工管理、電子契約、DX推進
人材育成に力を入れる企業現場技術者の教育投資、研修制度の充実
労務・法令対応に強い企業社会保険完備、労働基準法順守、労務管理の徹底

対応が遅れる企業には厳しい現実

一方で、制度や法改正への対応が遅れている企業、または人材・資金面で対応が難しい企業にとっては、淘汰のリスクも現実味を帯びています。特に「安さ」で仕事を受注していた業者は、ダンピング防止の法整備により契約機会を失う可能性があります。

今後は“会社を選ぶ時代”へ

働く側から見ても、建設会社の選び方が今後の人生に大きな影響を与える時代になります。待遇や労働環境、社会保険の有無、教育体制の整備など、企業ごとに差が広がるため、優良企業には人が集まり、対応が遅れる企業は慢性的な人手不足に陥るという構図が強まっていきます。

制度改革に限界を抱える行政の構造

法改正の中心を担っているのは国土交通省ですが、実際の現場では厚生労働省、文部科学省、金融庁などとの連携が不可欠です。たとえば「偽装一人親方」問題は社会保険制度の構造と関係しており、労働行政と建設行政の間の連携が課題となっています。

また、人材育成においても工業高校や専門職大学など教育制度の改革が重要であり、文部科学省との協調がなければ抜本的な改善には至りません。制度単体の整備では限界があり、「縦割り行政の壁」を越えた総合的な政策が必要とされています。

今後の注目ポイント

最後に、2025年の動向で特に注目されるのが「公共工事設計労務単価」の改定です。例年3月に国土交通省より発表されるこの単価は、各地域の実勢賃金を反映し、公共工事の見積もりや契約金額の基準になります。

地域間格差への注目

2024年までの傾向では、関東や福岡、札幌など都市部での単価上昇が目立つ一方、大阪や愛知など一部の地域では伸び悩みが続いています。特に大阪では、労務単価が周辺の経済状況や最低賃金と乖離しているとの指摘が多く、今回の改定で「是正」があるのかが注目されています。

地域前回(2024年)傾向今回の焦点
東京大幅上昇インフレと需給バランスの反映
大阪上昇幅が小さい単価の見直しと実態との整合性
地方都市ばらつきあり地域格差の是正

まとめ

建設業界は現在、制度改革と人材不足という大きな課題に直面しており、それにどう対応するかで企業の明暗が分かれていきます。今後は、行政の方針や単価改定だけでなく、自社の対応力や柔軟性が成長の鍵を握る時代です。中小建設会社にとっては、時代の流れを見極めつつ、制度に翻弄されるのではなく、制度を活かす姿勢が求められます。

NOTE

業務ノート

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