経審Y点(経営状況)実務ノート ── 係数を開いて、効く指標から順に動かす
構成一 Y点の決まり方/二 8つの指標/三 どれを動かすと効くか/四 絶対額という壁/五 決算日までにできること/六 節税との折り合い/七 つまずきの記録/決算前チェック
第一章Y点の決まり方
Y点は総合評定値Pの20%を占めます。P=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W。Y点1点は、P点で0.20点です。Yの取りうる範囲は0点から1,595点なので、P点への寄与は最大319点になります。
算式は二段です。まず8つの指標から経営状況点数Aを出し、それを評点に直します。
A = −0.4650×X1 - 0.0508×X2 + 0.0264×X3 + 0.0277×X4 + 0.0011×X5 + 0.0089×X6 + 0.0818×X7 + 0.0172×X8 + 0.1906
出典:国土交通省「現行の企業評価制度の概要」。この算式に各指標の上限値を入れるとY=1,595点、下限値を入れるとY=▲207点となり、下限0点で頭打ちになります。公表されている上限1,595点と一致します。
X1とX2の係数がマイナスである点に注目してください。この二つは小さいほど点が上がる指標です。残りの六つは大きいほど上がります。
審査するのは県ではありません。国土交通大臣の登録を受けた登録経営状況分析機関に、経審とは別に申請します(建設業法第27条の24第2項)。機関は10あり、一覧は国土交通省が公表しています。熊本市に本社を置く機関もあります。手数料と所要日数は機関ごとに違いますので、申請の前に各機関の公表内容をご確認ください。
第二章8つの指標
定義と、告示が定める上下限です。上下限を超えた数値は、その値とみなされます。
| 指標 | 計算 | 上限 | 下限 | 向き | |
|---|---|---|---|---|---|
| X1 | 純支払利息比率 | (支払利息−受取利息配当金)÷売上高×100 | 5.1% | −0.3% | 小 |
| X2 | 負債回転期間 | (流動負債+固定負債)÷(売上高÷12) | 18.0月 | 0.9月 | 小 |
| X3 | 総資本売上総利益率 | 売上総利益÷総資本(2期平均)×100 | 63.6% | 6.5% | 大 |
| X4 | 売上高経常利益率 | 経常利益÷売上高×100 | 5.1% | −8.5% | 大 |
| X5 | 自己資本対固定資産比率 | 自己資本÷固定資産×100 | 350.0% | −76.5% | 大 |
| X6 | 自己資本比率 | 自己資本÷総資本×100 | 68.5% | −68.6% | 大 |
| X7 | 営業キャッシュフロー | 下記÷1億円(2期平均・絶対額) | 15.0億 | −10.0億 | 大 |
| X8 | 利益剰余金 | 利益剰余金÷1億円(単年・絶対額) | 100.0億 | −3.0億 | 大 |
建設業の読み替え:売上総利益=完成工事総利益+兼業事業総利益、自己資本=純資産合計、総資本=負債合計+純資産合計。X3の分母の2期平均が3,000万円未満のときは3,000万円とみなされます。個人事業主の場合、経常利益は事業主利益、利益剰余金は純資産合計を用います。
営業キャッシュフローの中身も定義されています。経常利益+減価償却実施額−法人税・住民税及び事業税+貸倒引当金増減額−売掛債権増減額+仕入債務増減額−棚卸資産増減額+未成工事受入金増減額。売掛債権は受取手形+完成工事未収入金、仕入債務は支払手形+工事未払金、棚卸資産は未成工事支出金+材料貯蔵品です。
第三章どれを動かすと効くか
係数が分かっているので、指標を1単位動かしたときのY点の増減が計算できます。167.3に係数を掛けるだけです。
| 指標 | 1単位動かすと | P点では | 下限から上限までの幅 |
|---|---|---|---|
| X1 純支払利息比率 | 1ポイント下げて Y+77.8点 | +15.6点 | 420点 |
| X7 営業キャッシュフロー | 1億円で Y+13.7点 | +2.7点 | 342点 |
| X2 負債回転期間 | 1か月短縮して Y+8.5点 | +1.7点 | 145点 |
| X4 売上高経常利益率 | 1ポイントで Y+4.6点 | +0.9点 | 63点 |
| X3 総資本売上総利益率 | 1ポイントで Y+4.4点 | +0.9点 | 252点 |
| X8 利益剰余金 | 1億円で Y+2.9点 | +0.6点 | 296点 |
| X6 自己資本比率 | 1ポイントで Y+1.5点 | +0.3点 | 204点 |
| X5 自己資本対固定資産比率 | 1ポイントで Y+0.2点 | +0.04点 | 79点 |
1単位あたりの効きは 167.3×係数、幅は 167.3×係数×(上限−下限)で計算しています。
この表から三つ読めます。
一つ目。純支払利息比率が突出しています。1ポイント下げるとY点が77.8点、P点で15.6点動きます。他の指標の5倍から400倍です。売上3億円の会社なら1ポイントは純支払利息300万円分。高い金利の借入をまとめ直す、あるいは減らすことが、Y点では最も効く一手ということになります。
二つ目。売上高経常利益率は、途中で頭打ちになります。上限が5.1%なので、幅は63点しかありません。8指標で最小です。「利益を出せばY点が上がる」は正しいのですが、経常利益率5.1%を超えた分はY点には効きません。そこから先の利益は、利益剰余金(X8)と自己資本比率(X6)を通じて、間接的に効いてくる形になります。
三つ目。自己資本対固定資産比率は、ほとんど動きません。1ポイントで0.2点、幅も79点です。この比率を良く見せるために資産構成をいじる労力は、他の指標に回したほうが報われます。
上の三つ(純支払利息比率・営業キャッシュフロー・利益剰余金)だけで1,058点分。Y点の設計は、この三つをどう扱うかでほぼ決まります。
第四章絶対額という壁
8指標のうち、X7の営業キャッシュフローとX8の利益剰余金は比率ではなく絶対額で評価されます。しかも幅は342点と296点、合わせて638点。Y点の幅の4割近くがここにあります。
これが中小建設業にとっての構造的な壁です。利益率が同じでも、規模の大きい会社のほうが点を取ります。営業キャッシュフローが年1億円出る会社と2,000万円の会社では、利益率が同じでもY点で11点の差がつきます。
ただし読み方を変えると、こうも言えます。絶対額の二つは一年では動きません。利益剰余金は過去の蓄積ですし、営業キャッシュフローは2期平均です。だから小さい会社が今期やることは、この二つではなく比率側の指標になります。純支払利息比率、負債回転期間、自己資本比率。この三つは規模を変えずに動かせます。
第五章決算日までにできること
Y点の元データは決算書です。決算日を過ぎてからできることはありません。逆に言えば、決算日までは打てる手があります。効きの大きい順に並べます。
- 高い金利の借入を整理する(X1・X2)── 純支払利息比率は最も効きます。借換えや繰上返済を決算日前に実行できるか、金融機関と詰める
- 役員借入の資本化を検討する(X5・X6・X2)── 資本性借入金の要件に合うかを先に確認する
- 売掛債権と棚卸資産を膨らませない(X7)── 期末の未収入金と未成工事支出金は、営業キャッシュフローを直接押し下げます
- 遊休資産を整理する(X3・X5)── 使っていない固定資産は総資本を膨らませ、総資本売上総利益率を下げます
いずれも金融機関や税理士との調整が要ります。決算月の3か月前には話を始めていないと間に合いません。逆算の考え方は経審カレンダーにまとめています。
第六章「節税の決算」との折り合い
利益を圧縮すれば税金は減ります。しかし経常利益(X4)、利益剰余金(X8)、自己資本比率(X6)、営業キャッシュフロー(X7)はいずれも下がります。節税の決算と評点の決算は、正面からぶつかります。
ここで前章の数字が効いてきます。売上高経常利益率の幅は63点しかありません。経常利益率が5.1%を超えている会社なら、そこから先の利益はX4には効きません。いっぽう利益剰余金と自己資本比率には効きます。つまり「利益を出す」ことの評点上の意味は、単年の利益率ではなく蓄積のほうにあります。
判断の材料としては、税額の減少分と、P点が動くことで取れる工事の規模の差を並べて比べることになります。等級の境目が近い会社ほど、後者が大きくなります。両方の数字を出してから決めるのが、いちばん納得のいく決め方です。
第七章つまずきの記録
| つまずき | 実際 |
|---|---|
| 決算が出てからY点対策を相談した | Y点の元データは決算書です。決算日を過ぎると、その期については打つ手がありません |
| 自己資本対固定資産比率を上げようと資産構成をいじった | 1ポイントでY+0.2点、幅も79点。労力に対して最も効かない指標です |
| 利益を出せばY点が伸びると考えていた | 売上高経常利益率は5.1%で頭打ち。そこから先は利益剰余金と自己資本比率を通じて効きます |
| 期末に売掛金と未成工事支出金が膨らんだ | 営業キャッシュフローを直接押し下げます。幅342点の指標です |
| 経営状況分析を後回しにした | 分析が先、経審が後です。分析結果通知書がないと経審に進めません |
| 経審の有効期間を1年だと思っていた | 公共工事を請け負えるのは審査基準日から1年7か月。切れ目を作らない逆算が要ります |
| 総資本が小さいので総資本売上総利益率が高く出た | 2期平均が3,000万円未満のときは3,000万円とみなされます。極端な数値は出ません |
なお令和8年7月1日施行の経審の改正では、Y点(経営状況分析)に変更はありません。改正されたのはW点の項目です。現在の8指標の体系は平成20年4月1日施行の改正で導入されたもので、係数と指標は以後変わっていません。
決算前チェックリスト
- 直近の分析結果通知書で、8指標のうちどれが低いかを確認したか
- 純支払利息比率は何%か。高い金利の借入は残っていないか
- 借換えや繰上返済を決算日前に実行できるか、金融機関と話したか
- 役員借入がある場合、資本性借入金の要件に当たるかを確認したか
- 期末の完成工事未収入金と未成工事支出金は膨らんでいないか
- 使っていない固定資産を抱えていないか
- 経常利益率は5.1%を超えているか(超えていれば、そこから先はX4に効きません)
- 決算月の3か月前に、税理士と評点の話を始めているか
- 決算後、分析機関への申請から経審までの日程を引いているか
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