資材の高騰と納期の遅れ ── 契約で取り返す順番と、熊本県の特別融資
第一章何がどれだけ上がっているか
全国建設業協会が令和8年4月に実施した緊急アンケートの結果です。対象18社のうち15社からの回答で、石油化学製品の基礎原料であるナフサを使う資材が、まとまって上がっています。
全国建設業協会が令和8年4月に実施した緊急アンケート(回答15社)の結果です。同協会は令和8年4月30日、金子国土交通大臣に「中東情勢に伴う建設資材の需給に関する緊急要望」を提出しています。数字はこの時点のもので、その後の動きは反映していません。
価格より先に効いてくるのが納期です。入荷未定、出荷制限、受注停止、予約制。金額が決まっても入らなければ工期が動きます。工期が動けば、現場経費と人の手配が全部ずれます。同協会は令和8年4月30日、金子国土交通大臣に「中東情勢に伴う建設資材の需給に関する緊急要望」を提出しました。
輸送費も同じ動きをしています。10tダンプの輸送単価が57,000円から70,000円、8tダンプが53,000円から65,000円。AS合材はトンあたり2,000〜3,000円の上乗せです。運搬を外注に出している場合、この分は見積の「運搬費」に現れます。
第二章公的な指数でも裏が取れる
業界団体のアンケートは15社の回答です。交渉の場でこれだけを出すと「一部の会社の話でしょう」で終わります。同じことは、公的な指数でも確かめられます。
石油化学系と非鉄が突出し、鉄鋼は+1.7%と落ち着いている。全建のアンケートで塗料・シンナー・断熱材・EPSが大きく上がっているのと、方向が一致する。値上げ交渉では「資材が上がった」ではなく、この系統ごとの差を持ち出すほうが通りやすい。
建設物価調査会の建設資材物価指数(2026年7月分、2015年平均=100)は、建設総合で151.4、前年同月比+6.2%。部門別では建築150.1、建築補修146.6、土木156.5で最高値を更新しています。上昇要因はコンクリートブロック、異形棒鋼、アルミ製品、鋼管類。一方、原油の下落で軽油・重油は押し下げに働いています。
この二つを添えれば、値上げの話は「うちの都合」ではなく「市場の動き」になります。交渉の材料は、自社の仕入伝票と公的指数の二枚重ねで用意してください。
第三章まず契約で取り返す
資金繰りの話に行く前に、確かめることがあります。上がったぶんを請負代金に反映する仕組みは、契約書のなかにあります。
- 公共工事ならスライド条項。特定の資材が上がったなら単品スライド、賃金・物価が全体に上がったなら全体スライド、急激な変動ならインフレスライド。いずれも受注者から請求しなければ動きません
- 民間工事なら、建設業法第20条の2と、契約している約款の変更条項。ここは第五章で分けて書きます
- これから出す見積は見積内訳明示。品目別に積んだ見積は、そのまま値上げ交渉の根拠になります
- 納期の遅れについては、工期の変更協議を書面で残す。口頭で「待ってくれ」と言われたまま進めると、遅延の責任が自社に残ります
融資は、契約で取り返せなかったぶんを埋めるものです。順番を逆にすると、借りたお金で赤字を先送りすることになります。
第四章公共工事 ── 三つのスライドは別のもの
公共工事標準請負契約約款の第26条に、性格の違う三つの仕組みが並んでいます。「スライド条項」とひとくくりにされがちですが、要件も、負担する割合の計算のもとになる金額も違います。
| 全体スライド (第26条第1項〜第4項) |
単品スライド (第26条第5項) |
インフレスライド (第26条第6項) |
|
|---|---|---|---|
| 使う場面 | 賃金水準または物価水準が全体に動いたとき | 特別な要因で主要な工事材料の価格が著しく動いたとき | 予期できない特別の事情による急激な変動 |
| 約款上の要件 | 工期内で、契約締結の日から12か月を経過した後 | 工期内の著しい変動 | 予期できない特別の事情 |
| 受注者の負担 | 変動前残工事代金額の1000分の15(1.5%)を超える額が対象 | 請負代金額の1% | 残工事費の1.0% |
| 残工期 | 約款上の定めはない(運用マニュアルで扱う) | 請求時に2か月以上 | 請求時に2か月以上 |
| 繰り返し | 第4項により、直前の変更の基準日からさらに12か月後に再請求できる | ― | ― |
実務でつまずくのは二か所です。ひとつは1.5%の分母。請負代金額ではなく「変動前残工事代金額」です。工事が進んでいるほど分母は小さくなり、超えやすくなります。もうひとつは残工期2か月。単品・インフレは、残工期が2か月を切ると請求できません。完成間際に気づいても遅い、という設計です。
単品スライドの対象品目は、運用マニュアル上、鋼材類(H形鋼、異形棒鋼、厚板、鋼矢板、鋼管杭、鉄鋼二次製品など)と燃料油(ガソリン、軽油、混合油、重油、灯油)が中心です。今回上がっている塗料・シンナー・断熱材・EPSは、そのままでは単品スライドに乗りません。これらは全体スライドかインフレスライド、あるいは設計変更で扱うことになります。発注者との協議は早いほうがよく、ここが今回の局面での分かれ目です。
運用マニュアルは、単品スライドが令和4年7月版(令和4年12月一部訂正)、全体スライドが平成25年9月の暫定版、インフレスライドが平成26年1月の暫定版です。全体・インフレのマニュアルは表題が旧条番号(第25条)のままなので、約款の条番号と読み替えて使ってください。
第五章民間工事 ── 動かす条文は三つある
民間工事には発注者側の運用マニュアルがありません。そのぶん、条文と約款を自分で押さえておく必要があります。組み立ては三段です。
| 段 | 根拠 | できること |
|---|---|---|
| ① 言う | 建設業法第20条の2第2項 | 主要な資材の供給が著しく減る、または価格が高騰するおそれがあると認めたとき、建設業者は注文者に事前に通知する。契約前でも契約後でも、まずここです |
| ② 協議を求める | 同条第3項・第4項 | 契約後にその事象が実際に生じたとき、受注者は請負代金や工期の変更について協議を申し出ることができ、注文者はこれに誠実に対応する努力義務を負う |
| ③ 約款で額を動かす | 民間標準約款(甲)第31条 同(乙)第22条 |
甲の第31条第1項第五号は「法第20条の2第2項に規定する資材の価格の高騰」を明示。第七号は「契約から1年を経過した後の工事部分」の物価変動を扱う、民間版の全体スライドにあたる条項です |
ここで注意が要るのは(乙)約款のA案・B案です。乙の第21条(工期の変更)と第22条(請負代金額の変更)は選択式になっていて、A案には物価変動の条項がありません。A案で契約していると、資材が上がっても約款上の請求根拠がない、ということが起こります。工期の延長は甲の第30条第5項、資材供給の減少を理由に受注者から請求できます。
そして、変更が決まったら書面です。建設業法第19条第2項は、契約の記載事項を変更するときは変更の内容を書面にして相互に交付しなければならないと定めています。第1項第八号が「価格等の変動に基づく請負代金の額の変更及びその算定方法に関する定め」を必須記載事項としているため、資材高騰にともなう増額は、書面にしなければ契約になりません。電子的方法(第3項)でも構いません。
甲・乙とも、直近の改正は令和7年12月2日です。手元の約款が古い版のままになっていないか、この機会に確かめておいてください。
第六章熊本県の特別融資
熊本県は、既存の「金融円滑化特別資金」に経済情勢変動対策枠を設けています。もともとは令和7年6月に米国の関税措置を受けて創設された枠で、令和8年6月15日から中東情勢の変化が対象事象に加わりました。
米国の関税措置や中東情勢の変化の影響を受けた県内の中小企業者が対象です。条件は変わることがあるため、申込みの前に熊本県の案内でご確認ください。
利率は一般枠より抑えられています。保証料率は県の補助後で年0.45%〜1.30%。経営支援プログラムを実施している企業には、さらに年0.2%の利率優遇があります。
使いどころは、材料費と外注費の支払いが先に来て、工事代金の入金が後になる期間です。立替えの期間が延びているぶんを、金利の低い資金で埋める。この使い方なら筋が通ります。
逆に、赤字の現場を回すために借りるのは危ない使い方です。その現場が赤字なのは資金の問題ではなく、契約の問題です。第三章に戻ってください。
対象要件は「申込日から1年以内の連続する3か月間の平均売上高等が前年同期に比して減少している」または「今後3か月間の平均売上高等が前年同期に比して減少する見込み」です。受付の期限、市町村の認定が要るかどうかは県の案内に明記がないため、申込みの前に熊本県商工労働部(商工振興金融課)にご確認ください。県には別枠で「セーフティネット保証対応枠」もあり、そちらは市町村の認定が前提になります。
第七章つまずきの記録
見積の有効期限を切っていなかった
資材が動く時期に、有効期限のない見積を出すと、受注時点で赤字が確定します。有効期限と、期限を過ぎた場合の取扱いを見積書に書いてください。
品目別の購入実績を残していなかった
単品スライドの請求では、品目ごとの変動額を示す必要があります。工事ごと・品目ごとに納品書と請求書を分けて残しているかどうかが、そのまま請求できる額になります。
残工期2か月を切ってから気づいた
単品スライドとインフレスライドは、請求の時点で残工期が2か月以上あることが要件です。工期の後半に入ってから資材の高騰に気づいても、請求の窓が閉じています。着工時と工期の折り返しに一度ずつ、価格を点検する習慣にしてください。
納期の遅れを口頭で処理した
発注者の都合による遅れなのか、自社の手配の問題なのか。書面が残っていないと、後から区別できません。協議の記録は、工期の延長と増額の両方の根拠になります。
民間工事で、約款の版と案を確かめていなかった
(乙)約款のA案には物価変動の条項がありません。契約書を交わした時点で、増額を求める根拠を持たない契約になっていることがあります。次の契約からはB案を求めることです。
確認いま確かめる七つ
- 手持ち工事の契約書に、スライド条項や変更協議の定めがあるか
- 公共工事なら、残工期は2か月以上あるか。全体スライドなら、契約締結から12か月を過ぎているか
- 上がっている資材が単品スライドの対象品目かどうか。対象外なら、全体スライドか設計変更で協議に入れているか
- 値上がりした品目の購入実績を、工事ごとに出せるか
- 民間工事の約款が、物価変動の条項を持つ版・案になっているか
- 出している見積書に有効期限を書いているか
- 納期の遅れについて、協議の記録が書面で残っているか
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技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。
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この記事の先にあるもの
資材の高騰を請負代金に反映させる道は、契約書の条項と見積の書き方で決まります。
→ 見積と契約 ── 見積期間と、内訳の明示(許可講座 第23講)
→ スライド条項 ── 資材や労務単価が上がったとき
