見積内訳明示|行政書士村上事務所

改正建設業法「見積内訳明示」の実務 ── 国交省調査にみる対応状況と熊本の中小建設業の進め方

令和7年12月12日、第三次・担い手3法による改正建設業法が全面施行されました。見積書に労務費や材料費の内訳を書くこと。通常必要と認められる額を著しく下回る取引をしないこと。この二つが、努力義務と禁止規定という形で条文に入っています。半年が経ち、業界の対応がどこまで進んだかを示す数字が国土交通省から出ました。数字を先に見ると、どこに手を打てばいいかが見えてきます。

01令和7年12月12日に、何が条文に入ったか

まず、押さえるべき条文は四つです。ばらばらの規制に見えますが、いずれも「通常必要と認められる額」という同じものさしの上に立っています。

  • 法第20条(見積書の作成):建設業者が請負契約の見積を作るときは、材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費といった費用の内訳を明らかにするよう努める
  • 法第20条第6項:注文者は、材料費等の額について、通常必要と認められる額を著しく下回る変更を求めてはならない
  • 法第19条の3:取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない額で請負契約を結んではならない。
  • 法第19条の5著しく短い工期による請負契約を結んではならない。

加えて、令和7年12月2日に中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成し、勧告しました。労務単価(円/人日・8時間)に歩掛を掛けて職種ごとの基準値を出すもので、公共・民間を問わず、下請の次数や会社の規模も問わず、すべての取引段階が対象です。この基準の中身は第24講で扱います。

この記事で扱うのは、その手前にある「見積書に何をどう書くか」です。基準を守っているかどうかは、見積書に内訳が書かれていて初めて確かめられます。内訳明示は努力義務ですが、実務では避けて通れません。

02全面施行の直前、対応はここまで進んでいた

国土交通省と中小企業庁が、令和8年3月31日に「令和7年度下請取引等実態調査」の結果を公表しました。建設業許可業者から無作為に抽出した30,000者を対象に、令和7年7月7日から9月3日にかけて実施した調査です。19,964者から回答があり、回収率は66.5%。建設業だけを見た調査で、これだけの規模のものは他にありません。

図1 全面施行の直前、対応はここまで進んでいた労務費の内訳を明示した見積書を交付している下請負人71.3%労務費の全額が支払われる契約になった下請負人75.6%必要な項目をすべて記載していた元請負人17.9%調査対象30,000者/回答19,964者(回収率66.5%) 調査期間 令和7年7月7日〜9月3日

国土交通省・中小企業庁「令和7年度下請取引等実態調査」(令和8年3月31日公表)の建設業分。下請側の見積・契約は7割台まで来ている一方、元請側で必要項目をすべて記載できていたのは17.9%にとどまる。

下請側の数字は7割台に届いています。労務費の内訳を明示した見積書を交付している(おおむね交付しているを含む)下請負人が71.3%、労務費の全額が支払われる契約になった下請負人が75.6%。全面施行の四か月ほど前の時点で、ここまで来ていました。

03問題は下請ではなく、元請の側にある

同じ調査で、必要な項目をすべて記載していた元請負人は17.9%でした。下請の7割台と、元請の2割弱。この差が、いまの実務でいちばん見ておくべき数字です。

下請が労務費を内訳明示した見積書を出しても、元請が受け取った側の契約書や注文書でその内訳を落としてしまえば、記録は残りません。国土交通省と中小企業庁は、この調査の結果を受けて17,207業者に指導票を発送しています。抽出された30,000者のうち半数を超える数です。

熊本の中小建設業は、多くの場合その両方の立場にあります。県や市の工事を元請として受け、その一部を専門工事業者に出す。この記事の実務対応が「下請として出す見積」と「元請として出す注文書」の二本立てになるのは、そのためです。

04見積書に、何を書くか

法第20条が求めているのは「費用の内訳を明らかにする」ことです。具体的にどこまで割るかは、工事の内容によります。ただ、最低限これだけは分けておくという線はあります。

区分 書き方 落としやすいところ
労務費 職種ごとに、人日(または人工)と単価を分けて書く 「労務費一式」でまとめてしまう。職種が分からないと基準値と照らせない
材料費 主要な資材は品目・数量・単価で。値上がり分は備考に日付を添える 「材料共」として労務費に混ぜる
法定福利費 労務費に法定福利費率を掛けた額を、別の行として立てる 労務費の中に含めたまま「込み」と書く
安全衛生経費 令和7年12月から工事費内訳書に立てる項目が増えている。積算基準に沿って別立てで 現場管理費に埋める。公共工事では入札が無効になる場合がある
外注費 「外注一式」を避け、どの工種を誰に出すかが分かる粒度で 一式計上のまま元請に出し、労務費の所在が消える

これは新しい様式を作れという話ではありません。国土交通省と各専門工事業団体が公表している標準見積書の様式がすでにあります。自社の見積ソフトの科目を、標準見積書の並びに寄せていくのが早道です。

05踏むと勧告・公表につながる三つの線

改正で強くなったのは、罰則そのものより「勧告して、従わなければ公表する」という流れが整理されたことです。とくに法第20条第6項は、建設業者だけでなく注文者(発注者)も名宛人になる点が新しいところです。

図2 踏むと勧告・公表につながる三つの線法 第19条の3不当に低い請負代金自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価を下回る額で契約しない法 第20条 第6項材料費等の引下げ要求注文者は、材料費等の額について通常必要と認められる額を著しく下回る変更を求めない法 第19条の5著しく短い工期工期の側から原価を崩すことも、同じ規制の対象になる違反した発注者・元請には 国土交通大臣・都道府県知事による勧告従わないときは公表(法19条の3第3項・第4項、法20条第7項・第8項)※ 法20条第6項に基づく勧告の対象は、施行令第6条の2により、施工に通常必要と  認められる費用の額が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の契約。

いずれも「通常必要と認められる額」を基準にしている。見積書に内訳が書かれていなければ、その額がいくらだったかを後から示せない。内訳明示が努力義務にとどまりながら実務上は避けられない、という構造はここから来ている。

法第20条第6項に基づく勧告には金額の下限があります。建設業法施行令第6条の2により、その工事を施工するために通常必要と認められる費用の額が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の契約が対象です。逆にいえば、この規模を超える工事で材料費や労務費の一方的な値引きを求めれば、発注者の側が勧告・公表の対象になり得ます。

ここで効いてくるのが、内訳明示です。「通常必要と認められる額を著しく下回ったかどうか」は、見積書に労務費と材料費が書かれていなければ、後から誰にも判定できません。内訳を出しておくことは、下請にとっては価格交渉の根拠であり、元請にとっては指導を受けないための記録になります。

06見積期間は、法定で決まっている

あわせて確認しておきたいのが見積期間です。建設業法施行令第5条の9が、下請に見積をさせるときに与えなければならない日数を定めています。「明日までに出して」は、それ自体が法令違反になり得ます。

工事の予定価格 与えるべき見積期間
500万円未満 1日以上
500万円以上 5,000万円未満 10日以上
5,000万円以上 15日以上

やむを得ない事情があるときは、10日・15日の期間を5日以内に限り短縮できます。ただし「忙しかった」は、やむを得ない事情には当たりません。工程を組む段階で、この日数を先に確保しておくことです。

07価格転嫁は、実際どこまで進んでいるか

制度の話と、実際に値上げが通るかどうかは別です。ここは公的な調査の数字で見ておきます。

公正取引委員会の「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(令和7年12月15日公表)によると、価格転嫁の要請を受け入れた割合は、原材料価格72.8%、エネルギーコスト69.0%、労務費67.4%でした。労務費は令和5年度の45.1%、令和6年度の62.4%から二年で20ポイント以上上がっています。

一方、中小企業庁が令和8年6月26日に公表した価格交渉促進月間(令和8年3月)のフォローアップ調査では、実際の転嫁率は全体で54.2%、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%。要請は受け入れられるようになったが、上がったコストの半分しか価格に乗っていない、というのが全体像です。

この差を埋めるのが見積書の内訳です。「全体で5%上げてほしい」は交渉になりませんが、「この職種の労務単価が前年比で何円上がり、この工事では何人日必要だから、労務費が何円増える」は、相手が社内で稟議を通せる形になります。内訳明示は、義務である前に交渉の道具です。

08令和8年7月1日、経審のW評価項目が変わった

ここまでの実務対応は、経営事項審査の評点にもつながります。令和8年2月6日に告示が公布され、令和8年7月1日から経審の審査項目・審査基準が改正されました。

図3 令和8年7月1日から変わる経審のW評価項目W(社会性等)の評価項目改正前令和8年7月1日以降職人いきいき宣言(自主宣言制度)(項目なし)+5点就業履歴蓄積措置(民間を含む全工事)15点10点就業履歴蓄積措置(全公共工事)10点5点社会保険の未加入減点(W1-1〜1-3)各 −40点項目を削除建設機械の保有状況(W7)不整地運搬車等を追加※ 5点はW評価項目の素点。適用は審査基準日ではなく、令和8年7月1日以降の「申請」から。

告示は令和8年2月6日公布、施行は令和8年7月1日。旧基準で結果通知書を受けている場合は、令和8年7月1日から10月28日までのあいだ、手数料のかからない再審査の申請ができる。

目を引くのは「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度(職人いきいき宣言)」の新設です。宣言していれば、W評価項目で5点の加点になります。宣言書と誓約書を提出し、審査基準日が宣言日以降であることが要件です。受付は令和7年12月12日から始まっています。

一方で、就業履歴蓄積措置(CCUSの就業履歴)の配点は縮み、雇用保険・健康保険・厚生年金の未加入による各マイナス40点の減点項目は削除されました。社会保険は令和2年から許可の要件になっているため、経審で重ねて減点する意味がなくなった、という整理です。

適用は審査基準日ではなく、令和8年7月1日以降の「申請」から。旧基準で結果通知書を受け取っている場合は、令和8年7月1日から10月28日までのあいだ、手数料のかからない再審査の申請ができます。宣言だけで5点が動くのであれば、この窓が開いているうちに確かめておく価値があります。

09来週から着手できること

大がかりな仕組みは要りません。順番に三つです。

  • 自社が出した直近の見積書を三通、並べて見る。労務費・材料費・法定福利費・安全衛生経費が別の行になっているか。「一式」で片づけている行がどれだけあるか。ここが出発点です。
  • 元請として出している注文書・請書を確認する。調査で17.9%だったのはこちら側です。下請から受け取った内訳が、自社の発注書類に引き継がれているか。
  • 職人いきいき宣言を出すかどうかを決める。W評価項目5点。再審査の窓は令和8年10月28日までです。

そのうえで、労務単価と歩掛から自社の基準値を出す作業に進みます。そこは第24講で扱います。

熊本県内の建設業者の方で、いまの見積書がこの改正に耐えるかを見てほしい、というご相談は無料でお受けしています。決算期と経審の予定をうかがったうえで、どこから手をつけるかをお伝えします。

参考資料

  • 国土交通省「建設工事の取引(見積における労務費の交渉状況等)の調査結果 〜令和7年度下請取引等実態調査〜」(令和8年3月31日)
    https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00342.html
  • 国土交通省「建設業法等改正法が完全施行されます」(令和7年11月14日)
    https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00317.html
  • 国土交通省「労務費に関する基準」
    https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html
  • 国土交通省「経営事項審査の主な改正内容(令和8年2月6日公布)」
    https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_fr1_000001_00088.html
  • 国土交通省「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度(職人いきいき宣言)」
    https://jishusengen.mlit.go.jp/
  • 公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(令和7年12月15日)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/251215_tokubetsuchousa.kekka.honbun.html
  • 経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」(令和8年6月26日)
    https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260626003/20260626003.html
  • e-Gov 法令検索「建設業法」「建設業法施行令」(第5条の9、第6条の2)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。

顧問技術士・一級建築士

技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。

chiou.jp株式会社地央/姉妹サイト

不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。

この記事に関するご相談は

制度の変化を経営にどう落とし込むか。行政書士村上事務所が、貴社の状況に合わせて整理します。創業20年・支援実績100社超。許可の要件を満たせるか、経審で狙った評点・等級に届くかを、着手前に診断してお伝えします。初回相談は無料です。

建設業許可|経審・評点対策|入札参加資格|096-285-3993|お問い合わせ

建設業許可 実務講座 第23講 / 全25講 ── 第五部 建設業法を守るということ

前の講:第22講 改正建設業法の全体地図 ── 三本柱と施行時期
次の講:第24講 標準労務費 ── 労務費を割り込んだ見積が問われる
→ 講座の目次(全25講)を見る

NOTE

業務ノート

PAGE TOP