取適法と建設業法 ── 工事の下請と周辺委託で、支払のルールが違う
01まず、二つのレーンに分ける
建設工事の請負は取適法の対象外です(取適法第2条第4項の括弧書きで明示的に除外されています)。理由は、建設業法に同じような規律が別に置かれているからです。一方、資材の製造委託、設計や工事図面の作成委託、資材販売にともなう運送の委託は、取適法の対象になり得ます。
建設工事の請負が取適法の対象外であることは、法律の条文に書いてあります。取適法第2条第4項の役務提供委託の定義に、「建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く」という括弧書きがあります。公正取引委員会は理由を、建設工事の下請負については建設業法に取適法と類似の規定が置かれているからと説明しています。
一方で、「建設業者だから取適法とは無縁」でもありません。公正取引委員会は、建設業者でも次の場合は対象になり得ると例示しています。
| 取引の実態 | 該当し得る類型 | 着眼点 |
|---|---|---|
| 現場施工を他の建設業者に請け負わせる | 取適法の対象外(建設業法) | 請負契約の内容、下請代金、支払方法・支払時期、施工体制 |
| 工事に使う資材を仕様に沿って製造委託する | 製造委託 | 仕様・数量・単価・納入時期・支払期日を発注書に明記 |
| 設計、内装設計、工事図面の作成を委託する | 情報成果物作成委託 | 成果物の仕様、修正の範囲、納期、代金を発注時に明確に |
| 資材を業として販売し、販売先までの運送を委託する | 特定運送委託(令和8年1月1日新設) | 運送条件、待機・付帯作業、運賃、支払条件を記録 |
| 建設工事に当たらない部品交換・保守を委託する | 修理委託または役務提供委託 | 改修など建設工事に当たるものとは分けて扱う |
新設された特定運送委託は、運送の委託なら何でも入るわけではありません。条文は「販売・製造・修理・作成の目的物を、取引の相手方に対して運送させること」と定めています。資材を売って買主のところへ運ばせる場合が典型で、自社の現場へ運ぶ社内物流とは区別が要ります。
02取適法にかかるかどうかは、資本金と従業員数で決まる
取引の中身が当てはまっても、それだけでは決まりません。委託する側と受ける側の規模の組み合わせで決まります。令和8年1月1日から、資本金だけでなく従業員数の基準が加わりました。
| 取引の類型 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託 プログラム作成・一部の役務 |
資本金 3億円超 | 3億円以下 |
| 資本金 1千万円超 3億円以下 | 1千万円以下 | |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 (上記以外) |
資本金 5千万円超 | 5千万円以下 |
| 資本金 1千万円超 5千万円以下 | 1千万円以下 | |
| 従業員数の基準(新設) 資本金基準に当てはまらない場合 |
従業員 300人超 | 300人以下 |
| 従業員 100人超 | 100人以下 |
従業員数の基準は、資本金を1千万円以下に減らして規制の外に出るという形に対応するために入りました。用語も変わっています。「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」。社内規程や発注書の文言が旧法のままなら、あわせて直してください。
施行前にした委託にかかる取引は、従前の下請法の例によります(改正法附則第2条)。令和7年中に発注し、令和8年に入って支払う取引は、どちらのルールで見るかを整理しておいてください。
03取適法の側 ── 手形は、事実上使えなくなった
取適法にかかる取引では、委託事業者に四つの義務があります。
- 発注内容等の明示(第4条)── 委託の内容、代金の額、支払期日などを発注時に明示する。書面のほか電磁的方法でも可
- 支払期日の設定(第3条)── 給付を受領した日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内。定めなかったときは受領日が、60日を超える期日を定めたときは受領日から60日を経過する日の前日が、支払期日とみなされます
- 書類等の作成・保存(第7条)── 保存期間は2年
- 遅延利息(第6条)── 年14.6%
禁止行為は11類型です。受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し。そして今回、二つが加わりました。
| 新設された禁止 | 条文の内容 |
|---|---|
| 手形払等の禁止 第5条第1項第2号の括弧書き |
支払期日を過ぎても支払わないことに、手形を交付することが含まれる、という書き方です。割引が困難かどうかを問わず、手形の交付そのものが対象になります。電子記録債権やファクタリングなど手形以外の手段も、支払期日までに代金相当額の現金と引き換えることが困難なものは禁止です |
| 協議に応じない一方的な代金決定の禁止 第5条第2項第4号 |
費用の変動などが生じた場合に、中小受託事業者が代金の額について協議を求めたにもかかわらず、協議に応じない、または求められた事項について必要な説明や情報の提供をせずに、一方的に代金の額を決めることを禁じています |
ここが今回の改正でいちばん経営判断に効くところです。資材や労務費が動く局面で、協力会社から単価改定の相談を受けたとき、「予算が決まっているから」で協議の機会を設けずに従来単価を押し付ければ、それ自体が問題になります。値上げを必ず受け入れなさい、という意味ではありません。見積の根拠を確認し、協議の過程と結論を記録することが求められています。
| 実務場面 | 避けるべき運用 | 望ましい管理 |
|---|---|---|
| 図面作成の追加修正 | 口頭で修正を重ね、費用を後から「サービス」と扱う | 当初仕様と変更指示を記録し、追加費用・納期を協議する |
| 資材の特注製造 | 発注後に単価を下げる、支払条件を一方的に延ばす | 仕様・数量・単価・納入時期・支払期日を発注書に明記する |
| 運送の委託 | 待機・荷役などの付帯作業を無償と決めつける | 委託範囲を事前に整理し、追加作業の扱いを合意する |
| 価格改定の申し入れ | 受け付けず、協議記録も残さない | 原価上昇の根拠を双方で確認し、協議日・結論・理由を保存する |
04建設業法の側 ── 期限は二つあり、早いほうが効く
工事の下請負は取適法の対象外ですが、支払の規律が緩いわけではありません。建設業法には期限が二つあります。
| 法第24条の3 | 法第24条の6 | |
|---|---|---|
| 対象 | すべての元請負人 | 注文者が特定建設業者で、下請負人が特定建設業者でなく資本金4,000万円未満のとき |
| 期限 | 注文者から支払を受けた日から1か月以内で、かつできる限り短い期間内 | 引渡しの申出の日から起算して50日を経過する日以前で、かつできる限り短い期間内 |
| 起算点 | 元請が注文者からお金を受け取った日 | 下請が引渡しを申し出た日 |
| 定めなかったとき | ― | 申出の日が支払期日とみなされる。50日を超える期日を定めたときは、申出の日から50日を経過する日 |
| 手形 | ― | 第3項 割引困難な手形の交付は禁止 |
| 遅延利息 | ― | 第4項 年14.6%(施行規則第14条) |
この二つは併存します。特定建設業者は両方を満たす必要があり、実務上は早く来るほうが支払期限になります。「注文者からまだ入金がないから」は、24条の6の50日には通用しません。
あわせて第24条の3第2項に、下請代金のうち労務費に相当する部分については現金で支払うよう適切な配慮をしなければならないという定めがあります。改正建設業法の労務費のルールと、ここでつながっています。
「資本金4,000万円未満」は建設業法施行令第7条の2で定められた金額です。この括弧書きは第24条の6の全項に及ぶので、手形の禁止も遅延利息も、同じ範囲の下請契約が対象になります。
05手形60日 ── いつから、何が変わったか
手形の期間についての指導基準は、昭和41年から長く据え置かれていました。それが動いたのが令和6年です。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 令和6年4月30日 | 公正取引委員会・中小企業庁が指導基準の変更を公表。あわせて国土交通省が建設業団体・民間発注者団体へ通知 |
| 令和6年5月1日 | 国土交通省が都道府県の建設業担当部局長へ通知(国不建推第12号)。建設業法第24条の6第3項の「割引困難な手形」を、手形期間60日超のものとする |
| 令和6年11月1日 | この日以降に交付される手形から新基準を適用。従来は下請法で繊維業90日・その他120日、建設業法で120日超だったものが、いずれも60日超に |
| 令和7年11月11日 | 公正取引委員会・中小企業庁が、サプライチェーン全体での支払適正化を要請。取適法の対象外の取引についても60日以内への短縮と、できる限り現金払いを求める内容 |
| 令和8年1月1日 | 取適法の施行。取適法にかかる取引では、手形の交付そのものが禁止に |
つまり、いま二重になっています。取適法のレーンでは手形が使えない。建設業法のレーンでは60日超が指導対象。約束手形を使っている場合、確認すべきは請求締日と振込日だけではありません。振り出してから満期までの日数を、取引先別・支払条件別に洗い出す必要があります。
全額を現金で支払っている元請が87.8%。手形を使っている会社でも、60日以内が5.2%まで来ています。一方で「91日以上120日以内」が3.5%残っており、ここは指導対象です。手形の現金化にかかるコストを下請に負担させている元請は27.7%でした。
実態を見ると、建設業の支払はすでに現金が主流です。全額を現金で支払っている元請が87.8%。特定建設業者で支払期間が50日以内の会社が98.7%、出来高払等からの支払期間が1か月以内の会社が89.1%。制度に追いついていない会社のほうが、いまは少数派になりました。
残っている問題は、期間そのものよりコストの負担かもしれません。手形の現金化にかかるコストを請負代金に反映している元請が72.3%、逆にいえば27.7%は下請に負担させています。60日以内にしない理由は、資金繰りの都合49.0%、社内の会計システム等の切替調整26.2%、発注者からの支払条件の改善見込みがない24.8%。三つ目は、自社だけでは解決できない理由です。元請から受ける入金条件の交渉まで含めて設計しないと、下だけを短くすることはできません。
06支払二層管理を定着させる七つ
複雑な仕組みは要りません。取引台帳・発注書・支払予定表を共通の分類で整理し、月次で点検できるようにするところからです。
- 外注先リストを分類する。すべての外注先を「工事施工」「資材製造」「設計・図面作成」「運送」「その他役務」に仮分類し、一社が複数の取引をしている場合は契約単位で分けます
- 取適法にかかるかを判定する。委託の中身と、自社と相手方の資本金・従業員数を確認します。判断が難しい取引は「要確認」として保留し、自己判断で対象外と決めつけない運用にします
- 発注書の様式を二本立てにする。工事の下請負は建設業法の契約書面、周辺委託は取適法の明示事項。用語も「親事業者・下請事業者」から「委託事業者・中小受託事業者」へ
- 支払期日を起算点ごとに管理する。24条の3は元請への入金日から1か月、24条の6は引渡し申出日から50日、取適法は受領日から60日。起算点が三つとも違います
- 手形を洗い出す。取引先別に、振出日から満期までの日数を一覧に。取適法にかかる先は現金または期日までに現金化できる手段へ切り替えます
- 価格協議の記録を残す様式を決める。申し入れの日、根拠資料、協議の日、説明した内容、結論。協議に応じたこと自体が記録に残る形にします
- 労務費相当分は現金で。建設業法第24条の3第2項の配慮義務です。改正建設業法の労務費のルールとも直結します
この運用は、受け取る側だけを守るものではありません。発注する側にとっても、注文内容の曖昧さによる追加請求、納期の遅れ、現場でのもめごとを減らします。原価の見通しも立ちやすくなります。価格交渉を「赤字になる相手の要望」ではなく、施工能力と供給力を保つための取引データとして扱う、という見方です。
建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。
技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。
不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。
RELATED ── 法改正・コンプラの記事
この記事に関するご相談は
制度の変化を経営にどう落とし込むか。行政書士村上事務所が、貴社の状況に合わせて整理します。創業20年・支援実績100社超。許可の要件を満たせるか、経審で狙った評点・等級に届くかを、着手前に診断してお伝えします。初回相談は無料です。
建設業許可 実務講座 第25講 / 全25講 ── 第五部 建設業法を守るということ
前の講:第24講 標準労務費 ── 労務費を割り込んだ見積が問われる
次は経営事項審査 実務講座(全25講)へ。許可が整ったら、次は点数の設計です。
→ 講座の目次(全25講)を見る
