【2026年10月1日改正】インボイス70%控除で本当に起きること|協力会社の「法人成り」が損になる2年間と、元請が渡すべき情報
この記事の要点
- 2026年10月1日、インボイス未登録業者への支払いに係る仕入税額控除が80%から70%に下がります。職人20人規模の外注で、年120万円前後のコスト増です。
- ただし本当の論点はそこではありません。2027年からの2年間、一人親方にとって「法人成りすると損をする」という異例の期間が生まれます。
- この2年間に正しい情報を渡せた元請だけが、登録済みの職人を静かに囲い込めます。単価交渉より効く手が、いま手元にあります。
2026年10月1日から、インボイス制度の経過措置が縮小されます。未登録の協力会社への支払いについて、これまで80%認められていた仕入税額控除が70%になる、という改正です。
報道では「当初予定の50%への引下げが緩和された」と語られています。事実そのとおりですが、この整理には抜けがあります。緩和されたのは買手(元請)側の負担であって、売手(一人親方)側の環境はこの秋から動きます。建設業では、後者のほうが経営に効きます。
消費税の納税と、協力会社への支払いが重なる時期に備える
控除できない消費税が増えるということは、納税額がそのまま増えるということです。工事代金の入金は3〜4か月先ですが、納付期限と職人への支払いは動きません。
銀行のプロパー融資(負債)を増やさず、経審の財務評点(Y点)を維持したまま完成工事未収金を現金化する手段もあります。
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I. 改正の中身と、見落とされている上限額の変更
インボイス発行事業者以外の者への支払いは、本来まったく仕入税額控除ができません。その激変を和らげているのが経過措置です。令和8年度税制改正を反映した最新のスケジュールは次のとおりです。
| 期間 | 控除できる割合 | 備考 |
|---|---|---|
| 〜2026年(令和8年)9月30日 | 80% | 現行 |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 今回新設された段階 |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | |
| 2031年10月1日〜 | 控除不可 | 経過措置の終了 |
もうひとつ、報道であまり触れられていない変更があります。この経過措置には金額の上限があり、それが10億円から1億円へ引き下げられます。一の未登録事業者からの課税仕入れが年間1億円(税込)を超えると、超えた部分には経過措置が適用されません。
▼ 詳しい方向けの補足
ここで対象となる「インボイス発行事業者以外の者」には、免税事業者だけでなく登録していない課税事業者も含まれます。一人親方への支払いが年1億円を超えることは稀ですが、方針として登録を見送っている資材商社や、相応の規模を持つ無登録の専門工事業者が1社でもあれば、この上限に届く可能性があります。取引先ごとの年間支払額を集計していない会社は、決算時に想定外の税額に直面することになります。
II. 自社の数字に置き換える:職人1人あたり年6万円
制度の話は、自社の数字に翻訳しないと判断材料になりません。未登録の一人親方1人に、年間660万円(本体600万円+消費税60万円)を支払っている場合で計算します。
- 現行(80%控除):控除できない消費税は 60万円 × 20% = 12万円
- 10月以降(70%控除):60万円 × 30% = 18万円
- 差額は1人あたり年6万円。未登録の職人が20人いれば、年120万円です
粗利率10%の工事で年120万円の利益を確保するには、1億2,000万円の追加受注が必要になります。制度変更ひとつで、その分の営業努力が相殺される計算です。
▼ 経審にはどう効くか
経営事項審査の完成工事高(X1)は税抜で評価するため、この改正で売上の見え方は変わりません。一方、控除できない消費税は費用として計上されるため利益は減ります。つまり完成工事高はそのままに、利益率だけが下がる形になり、経営状況分析(Y点)の利益系指標——総資本売上総利益率や売上高経常利益率——に効いてきます。入札での順位を意識している会社ほど、決算期をまたぐ前に織り込んでおくべき論点です。
III. 協力会社の側で起きること:「法人成りすると損」な2年間
ここからが本題です。今回の改正では、売手側の特例も組み替えられました。
これまで小規模事業者を支えてきた「2割特例」(納税額を売上税額の2割に抑える措置)は、2026年9月30日で終了します。その後継として「3割特例」が新設されましたが、条件が付きました。対象は個人事業者のみ、期間は令和9年分・令和10年分の2年間に限られます。法人は対象外です。
この設計が、建設業の現場に奇妙な状況を生みます。
人工出しや手間請けが中心の一人親方は、簡易課税を選ぶと第4種事業(みなし仕入率60%)に区分されるのが一般的です。主要な資材を自ら調達せず、役務の提供が対価の中心となるためです。この場合、納税額は売上税額の40%になります。
先ほどの職人(売上税額60万円)で並べると、こうなります。
| 適用する制度 | 納税額 | 適用できる時期 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 12万円 | 令和8年分まで |
| 3割特例 | 18万円 | 令和9年・10年分(個人のみ) |
| 簡易課税・第4種(人工出し等) | 24万円 | 制限なし |
| 簡易課税・第3種(資材調達あり) | 18万円 | 制限なし |
つまり、人工出し中心の一人親方にとって、令和9年・10年は「法人成りすると年6万円損をする」2年間になります。個人のままなら3割特例で18万円、法人化すれば特例を失って24万円。売上規模が同じなら、この差はそのまま手取りの差です。
「法人にしたほうが節税になる」という一般論を信じてこの時期に法人成りする一人親方は、少なくないはずです。消費税だけを見れば、この2年間は逆になり得ます。
▼ 詳しい方向けの補足
簡易課税を適用するには「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要で、原則として適用したい課税期間の開始日の前日までに出さなければなりません。2割特例からの移行には提出時期の特例が設けられていましたが、3割特例の終了後についても同様の取扱いがあるかは、個別に確認が必要です。届出のタイミングを外すと本則課税に据え置かれ、記帳負担も納税額も跳ね上がります。協力会社には、令和10年中に顧問税理士へ相談するよう早めに促しておくのが親切です。
IV. 2028年・2031年から逆算する
控除割合は2028年10月に50%、2030年10月に30%、2031年10月にゼロ。未登録の職人を使い続ける実質コストは、5年かけて確定的に上がります。一方の職人側も、3割特例が切れる令和11年以降、未登録のままでいるか登録して簡易課税へ進むかの判断を迫られます。登録すれば手取りが減り、その分の単価改定を求めるのが自然な流れです。
つまり登録・未登録のどちらに転んでも、元請の負担は上がります。逃げ道を探すより、上がる前提で「いつ・誰と・どういう条件で組むか」を先に決めるほうが合理的です。
そのとき効くのは単価の多寡ではありません。職人が本当に困るのは、届出の期限や事業区分の判定といった、誰も教えてくれない部分です。そこを整理して渡せる元請は、単価を1割上げる会社より強く記憶されます。
関連記事:【2026年最新対応】建設業が直面する「取適法(旧下請法)」と手形払いの実質禁止|60日サイト対応と経営戦略
V. 9月30日までに終えておく3つの実務
- 取引先ごとの登録状況と年間支払額を、1枚の表にする
協力会社・資材業者の登録番号の有無に加えて、1社あたりの年間支払見込額(税込)を並べます。登録番号は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。年1億円の上限に近い先があれば、そこだけは先に方針を決めてください。 - 10月以降に出来高が立つ工事の見積原価を組み替える
控除できない部分が20%から30%に増える前提で積算し直します。提出済みの見積で受注が10月以降にずれ込みそうな案件は、差額がそのまま利益から引かれます。対象案件の洗い出しを積算部門に指示してください。 - 協力会社との単価協議は、必ず記録を残す形にする
2026年1月施行の取適法(中小受託取引適正化法・旧下請法)のもとでは、一方的な代金の減額や買いたたきは違反行為です。ただし双方が協議し、合意のうえで新単価を決めること自体は適法です。分かれ目は、事前の協議・根拠の説明・合意の書面化という3点が揃っているかどうかに尽きます。協議日と説明内容を議事録に残す運用へ切り替えてください。
よくあるご質問
Q. 経過措置が延長されたのだから、影響は先送りされたのでは?
A. 縮小のペースは緩やかになりましたが、2026年10月1日から控除割合が80%から70%へ下がる点は変わりません。「50%への引下げが2年先送りされた」のであって、10月からの負担増がなくなったわけではありません。
Q. 未登録の一人親方との取引をやめれば解決しますか?
A. 税務上は解決しますが、それだけを理由に一方的に取引を打ち切る行為は、独占禁止法や取適法上の問題を生じ得ます。熟練職人の確保が難しい現状では、施工体制を損なうリスクのほうが大きいのが実情です。
Q. 協力会社に消費税相当額の値引きを求めることはできますか?
A. 双方が納得のうえで新たな単価に合意するのであれば適法です。問題となるのは、協議を経ずに一方的に通告・減額する行為です。合理的な根拠の提示と、合意内容の書面化が要件になります。
Q. 協力会社の一人親方に、法人成りをやめるよう伝えてよいものでしょうか?
A. 助言そのものは差し支えありませんが、消費税以外にも社会保険や所得税の負担、対外的な信用など判断材料は多岐にわたります。「消費税だけを見ると令和9年・10年は個人のほうが有利になる場合がある」という論点の存在を伝え、顧問税理士への確認を促す形が適切です。
結び
2026年10月1日の改正は、すべての建設会社に等しく降りかかるコストです。差がつくのは金額ではなく、9月中に見積へ織り込み、協力会社と協議を終えている会社か、10月の請求書を見て初めて気づく会社かという一点です。
そしてもう一段先で差がつくのが、協力会社の側で何が起きているかを把握しているかどうかです。制度は、知っている側から順に有利になるようにできています。
出典・参考(一次情報)
【免責事項】本記事は2026年7月27日時点で公表されている情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断・申告に関する助言を行うものではありません。簡易課税の事業区分は契約内容により判定が分かれ、届出の要否・期限も個々の状況によって異なります。具体的な計算・届出・申告手続きについては、顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。当事務所は、建設業許可・経営事項審査・入札参加資格・下請契約書等の法務面からご支援いたします。
建設・不動産の経営者様へ:次の一手をお選びください
▼ 納税と支払いが重なる時期の資金繰りを整えたい
工事代金の入金を待つ間も、消費税の納付と職人への支払いは動きません。銀行のプロパー融資(負債)を増やさず、経審の財務評点を維持したまま完成工事未収金を現金化する、建設業に特化した資金調達をご紹介します。
▼ 協力会社との単価協議を、取適法に沿った形で進めたい
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