村上事務所

高市新総理の誕生が熊本の建設業にもたらす「事業機会」と「経営課題」の全貌

高市新総理の誕生がもたらす事業機会の全体像

新しい総理大臣の就任は、国の政策が大きく変わる可能性を意味します。特に、公共事業を主体とする建設会社にとって、その影響は決して小さくありません。高市氏が新総理に就任したことは、熊本県内で公共事業を中心に展開する多くの建設会社にとって、これまでにない大きな事業機会をもたらす可能性があります。

しかし、この追い風を確実に会社の成長に繋げるためには、市場の変化を正しく理解し、同時に発生しうる経営上の課題、つまりリスクにも備える必要があります。

この章では、まず最初に、今回の政策変更がもたらす影響の全体像を3つの重要なポイントに整理して解説します。

事業機会と課題の全体像

追い風となる市場環境氏が特に力を入れると公言している「国土強靭化」という政策により、公共工事、とりわけ防災や減災に関連する工事が全国的に、そして熊本県内においても大幅に増加することが確実視されています。これは、公共事業を会社の柱とする建設会社にとって、直接的な受注増加に繋がる大きなチャンスです。
顕在化する3つのリスクただし、急激に仕事が増えることは、良い面ばかりではありません。「働き手の不足がさらに深刻になる」「資材や人件費が値上がりする」「受注を巡る競争が激しくなる」という、建設業界がもともと抱える3つの課題が、より一層深刻化する可能性があります。これらのリスクへの備えがなければ、売上は増えても利益が圧迫される事態に陥りかねません。
今すぐ着手すべき経営課題この大きな事業機会を確実な成長へと繋げるためには、目先の受注に一喜一憂するのではなく、会社の足元を固めることが重要です。具体的には、「人材の採用と定着」の問題と、少ない人数でも仕事を回せるようにする「生産性の向上」という2つの課題に、今すぐ着手することが求められます。

このように、新しい時代の幕開けは、大きなチャンスと乗り越えるべき課題の両方をもたらします。次の章からは、これらのポイントを一つひとつ、さらに詳しく掘り下げていきます。

なぜ追い風なのか?新総理の主要政策と建設業界への影響

前の章では、新しい総理の誕生が建設業界にとって大きな事業機会になるとお伝えしました。この章では、「なぜ、そのように言えるのか」という理由を、政策の具体的な中身から詳しく解説します。建設業界、特に公共事業に強力な追い風が吹くと考えられる理由は、大きく分けて3つあります。

「国土強靭化」計画の加速

高市氏の政策の中でも、特に建設業界と関わりが深いのが「国土強靭化」です。これは、簡単に言うと「日本全体を災害に強くするための国づくり計画」のことです。この計画は、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」という法律に基づいて進められています。

近年の日本では、地震や豪雨などの自然災害が頻発しています。また、高度経済成長期に作られた道路、橋、トンネルなどが一斉に寿命を迎え始めています。これらに対応するため、これまで以上に大規模で継続的な予算が公共事業に投じられることが予想されます。

インフラの老朽化対策古くなったインフラを修理したり、新しく作り替えたりする工事が全国的に拡大します。
防災・減災工事頻発する自然災害から人々の生活を守るため、堤防の強化や砂防ダムの建設といった工事が増加します。

積極的な財政出動による新たな市場の創出

もう一つの大きな柱が、経済を成長させるための積極的な財政出動です。これは国が景気を良くするために、たくさんのお金を市場に供給することを意味します。特に、日本の安全を守るという「経済安全保障」の観点から、戦略的に重要となるインフラの整備に大規模な予算が使われる見込みです。

戦略的なインフラ整備エネルギーを安定して供給するための施設、途切れない通信網、物流の要となる港や道路網などの整備が進められます。これらは、これまでになかった規模の新しい工事需要を生み出します。

建設業界全体への波及効果

国が公共事業へ多くの予算を投じると、その効果は公共工事だけに留まりません。建設業界全体の景気が上向き、それが民間企業の設備投資を促すきっかけにもなります。例えば、新しい工場や商業施設の建設が増えるといった具合です。このように、公共投資の増加は、建設市場そのものを大きくし、地域経済全体の活性化にも繋がる可能性があります。

次の章では、これらの国全体の大きな動きが、熊本県の建設会社にとって具体的にどのような事業機会に繋がるのかを詳しく見ていきます。

熊本県の公共事業における具体的な事業機会

国全体の大きな政策の方向性は、熊本県を地盤とし、公共の土木工事で売上の多くを占める貴社のような会社にとって、事業の核心を後押しするものです。その事業構造は、これからの時代の流れと極めて親和性が高いと言えます。この章では、具体的にどのような工事の受注増加が見込まれるのかを解説します。

受注増加が見込まれる重点分野

熊本県では、平成28年の熊本地震や令和2年7月豪雨といった大きな災害を経験したことから、県民の防災意識が非常に高いという特徴があります。そのため、国の「国土強靭化」の方針は、県の計画である「熊本県国土強靭化地域計画」とも連動し、特に防災・減災関連の工事が優先的に発注されると考えられます。

防災・減災工事過去の災害の教訓から、河川の堤防強化、土砂災害を防ぐための砂防ダムの建設や補修、大雨によるがけ崩れを防ぐ道路の法面対策工事などは、最優先で発注が増加するでしょう。
インフラ老朽化対策県や市町村が管理する多くの橋やトンネル、上下水道などが、建設から長い年月を経て更新の時期を迎えています。県も「橋梁長寿命化修繕計画」などを策定しており、これらの点検、補修、更新工事も安定的な増加が見込まれます。これは、貴社がこれまで培ってきた実績が直接活きる分野です。
地域インフラの維持管理安定的な予算が確保されることで、これまで後回しにされがちだった日常的な道路の補修や河川の草刈り、堆積土砂の撤去といった維持管理業務も、継続的に受注できる可能性が高まります。

貴社の強みを活かせる領域

このような事業機会の拡大期において、貴社の「地域での実績と信頼」が最大の武器となります。長年にわたり築いてきた県や市町村の発注担当者との関係性、そして地域の地理や特性を深く理解していることは、県外の大手企業にはない、何よりの強みです。この信頼を基盤に、例えば地域の防災計画と連動した工事の提案などができれば、さらに有利な立場を築くことが可能です。

事業拡大に向けた提案

現在の土木工事の技術や実績に加えて、今後は災害時の仮設住宅の建設や、水道・電気といったライフラインの復旧工事など、緊急時に対応できるノウハウを蓄積しておくことをお勧めします。有事の際に迅速に対応できる企業として行政からの信頼をさらに高めることは、将来の安定的な受注確保に繋がります。

このように、熊本県内には貴社の強みを活かせる具体的な事業機会が数多く存在します。しかし、これらの機会には多くの同業他社も注目しています。次の章では、このチャンスの裏側にある経営上のリスクについて解説します。

事業拡大の裏に潜む経営上のリスクとは

ここまでの章で解説したように、今後の建設業界、特に熊本県の公共事業には大きな事業機会が訪れると考えられます。しかし、このような市場が急拡大する時期には、その光の裏側で必ず影となる部分、つまり経営上のリスクも同時に大きくなることを忘れてはなりません。受注が増えることにばかり目を奪われていると、気づかぬうちに会社の利益が圧迫されかねません。

この章では、事業機会の拡大期にこそ注意すべき4つの経営リスクについて具体的に解説します。

注意すべき4つの経営リスク

人材不足のさらなる深刻化建設業界では以前から働き手の高齢化や若者の入職者減少による人手不足が課題でした。公共事業が急増すると、限られた数の技術者や現場作業員の奪い合いが一層激しくなります。特に、従業員が20名規模の会社では、一人の離職が生産性に与える影響は計り知れません。2025年には、いわゆる団塊の世代の多くが引退時期を迎え、人手不足はさらに深刻化すると予測されています。
資材や労務単価の高騰工事の需要が増えれば、セメントや鉄筋といった主要な建設資材の需要も当然高まり、価格は上昇します。同時に、協力会社へ支払う人件費、いわゆる労務単価も上がらざるを得ません。発注者に対して、これらのコスト上昇分を適切に工事価格へ転嫁する交渉ができなければ、受注を増やしても利益が出ない「増収減益」という最も避けたい事態に陥る危険性があります。
資金調達コストへの影響国が大規模な財政出動、つまり公共事業に多くのお金を使うと、長い目で見ると世の中の金利が上昇する圧力となる可能性があります。もし将来的に金利が上昇する局面になれば、建設機械を購入するためのローンや、会社の運転資金の借入金利が上がり、会社の財務に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
受注競争の激化熊本の建設市場が魅力的になれば、これまで参入してこなかった県外の大手・中堅企業が、本格的に受注を狙ってくる可能性があります。そうなると、単なる価格での競争だけでなく、新しい技術や工法を提案する能力を含めた、総合的な競争力がこれまで以上に問われることになります。

これらのリスクは、どれも会社の経営に直接的な影響を与えるものばかりです。しかし、事前に内容を理解し、備えをしておくことで、その影響を最小限に抑えることは十分に可能です。次の章では、これらのリスクを乗り越え、チャンスを確実な成長に繋げるための具体的な戦略を解説します。

今すぐ着手すべき4つの経営戦略

前の章で解説した経営上のリスクは、決して避けて通れない課題です。しかし、見方を変えれば、これらに先手を打って対応することこそが、他の競合他社との大きな差別化に繋がります。この章では、訪れるチャンスを確実に掴み、リスクを乗り越えるために、今すぐ着手すべき具体的な4つの戦略を解説します。

チャンスを成長に変える4つの戦略

人材戦略『守り』と『攻め』の両輪で守り(定着率の向上)新しい人材を採用する前に、まず今いる従業員が働き続けたいと思える環境を整えることが最も重要です。賃金や福利厚生の充実はもちろんですが、例えば「完全週休2日制」の実現に向けた工程管理の見直しなど、働きやすい職場環境を整備し、従業員の満足度を高めることから始めます。攻め(新規採用の強化)若手人材を確保するため、地元の工業高校との連携を強化したり、SNSを活用して現場の魅力や社員の姿を発信したりするなど、建設業のイメージを刷新する情報発信が有効です。
生産性向上戦略身の丈にあったDXの推進建設業界でもDX、つまりデジタルトランスフォーメーションが重要視されています。しかし、いきなり大規模な投資が必要なシステムを導入する必要はありません。まずは、写真管理アプリや工程管理ソフト、ドローンを使った測量など、比較的費用を抑えて導入でき、すぐに効果が出るツールから試すことをお勧めします。これにより、現場監督の書類作成といった負担を減らし、より重要な管理業務に集中させることができます。熊本県も建設業の働き方改革や生産性向上を支援する補助金制度を設けており、これらの活用も積極的に検討すべきです。
財務戦略利益確保のための交渉力強化資材価格や人件費の高騰から会社の利益を守るため、交渉力を強化します。具体的には、コスト上昇を見越した、より精度の高い見積もりを作成する能力が求められます。また、公共工事の契約で定められている「単品スライド条項」の適用を、発注者と積極的に協議することも重要です。これは、特定の資材価格が著しく上昇した場合に、請負代金額の変更を請求できるというルールであり、建設会社を守るための正当な権利です。
営業戦略地域密着型の情報戦これまで以上に、県や市町村の発注担当者との意思疎通を密にし、今後のインフラ整備計画や予算の動向といった情報を早期に掴むことが重要になります。単に工事の入札を待つのではなく、地域の一員として行政が抱える課題を先読みし、その解決策となるような工事をこちらから提案することで、特定の業者として選ばれる「特命随意契約」に繋がるような、強い信頼関係を構築していきます。

これらの戦略は、どれも一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、粘り強く取り組むことで、会社の経営基盤は着実に強固なものになります。次の最終章では、これまでの内容を総括します。

結論。変化の波を乗りこなし、地域で勝ち残るために

高市新総理の誕生は、熊本県の公共事業を主体とする貴社にとって、過去にないほどの事業拡大の好機となる可能性を秘めています。国が主導する「国土強靭化」の流れは、貴社の事業に直接的な追い風となるでしょう。

しかし、これまでの章で見てきたように、その大きな波に乗るためには、人手不足やコスト高騰といった業界構造の変化に備える必要があります。重要なのは、目先の受注が増えることに一喜一憂するのではなく、この絶好の機会を、会社の未来をより強固にするための力に変えるという視点です。

まとめ

今回の大きな変化の波を乗りこなし、貴社が地域になくてはならない、より強固な企業へと飛躍するために最も大切なことを以下にまとめます。

短期的な視点ではなく目の前の工事受注額の増加や、日々の忙しさに追われるだけでは、好況の波が去った後に何も残りません。
長期的な視点で未来へ投資するこの好機に得た利益を、会社の未来を作るための原資に変えることが重要です。具体的には、「人材への投資」と「生産性の向上」の2つに集中して取り組むことが、持続的な成長の鍵となります。

変化の波を正確に読み、他社に先んじて戦略的な一手、つまり未来への投資を打つこと。それこそが、これからの時代を勝ち抜き、地域社会からさらに必要とされる企業へと飛躍するための、最も確実な道筋であると確信しております。

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