建設業者の出口戦略を徹底解説! M&A、親族・社員承継を成功に導くための全知識
第1章 建設業における「出口戦略」とは
建設業者が「出口戦略」を考えるべき理由
建設業者の皆様にとって、「出口戦略」(エグジット・ストラテジー)とは、経営者が自身の会社を将来的にどのようにするか、つまり、どのように事業を次の世代や他者に引き継ぎ、自身は引退するかを計画することを指します。
なぜ建設業でこの「出口戦略」が重要になっているのでしょうか。主な理由として、以下の2点が挙げられます。
1.経営者の高齢化と事業承継の複雑化
建設業界は、経営者の高齢化が進み、親族や社内に事業を引き継ぐ適切な後継者が見つからない「後継者不足」が深刻な問題となっています。事業承継の準備をせずに時間が過ぎてしまうと、会社が望まない形で廃業せざるを得なくなるリスクが高まります。
2.法改正による円滑な承継制度の創設
令和2年の建設業法改正により、事業承継を円滑に行うための制度が創設されました。これにより、事業譲渡、合併、分割(建設業法第17条の2)、あるいは相続(建設業法第17条の3)の際に、あらかじめ所管の行政庁の認可を得ることで、建設業の許可を途切れさせることなく引き継げるようになりました。ただし、相続の場合は経営者死亡後30日以内に認可申請が必要となるなど、期限管理が極めて重要です。
出口戦略の定義:ゴールを見据えた経営計画
「出口戦略」は、会社という名の「船」を、経営者が船を降りた後も、安定して航海させ続けるための、最も重要かつ最終的な経営計画です。
建設業における出口戦略として、主に以下のパターンがあります。
| ゴール | 目指す状態 | 簡単な解説 |
| 円滑な事業承継 | 事業を次の世代に引き継ぐ | 親族や優秀な社員に会社を任せ、事業を存続させることです。 |
| 創業者利益の確保 | 事業の価値を現金化する | 主にM&Aによって会社を他者に譲渡し、長年の努力の対価を得ることです。 |
| 社員・取引先の保護 | 関係者の生活と仕事を維持する | 事業の存続を通じて、長年支えてくれた社員や取引先を路頭に迷わせないようにすることです。 |
出口戦略を立てないことのリスクと対策
出口戦略の準備を怠ると、会社や関係者に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
リスク1.会社の信用と価値の低下
後継者が決まらない状態が続くと、金融機関や取引先からの信用が低下し、会社の評価額が低くなります。また、M&Aによる事業譲渡を検討する際、建設会社の実力を示す経営事項審査(経審)の総合評定値(P点)が高い企業は、公共調達上の競争力を示しやすく、M&Aの評価でもプラスに働くことが多いといえます。
リスク2.予期せぬ廃業コストの発生
後継者不在でやむなく廃業する際、優良な事業や顧客を失うだけでなく、建物の解体費用や従業員の退職金などで多大なコストが発生する可能性があります。
建設業の地位承継は、建設業法第17条の2(事業譲渡・合併・分割)および第17条の3(相続)に基づき、あらかじめの認可(相続は死亡後30日以内)を得ることで、許可の空白期間を生じさせずに実行できる可能性があります。この認可のスケジューリングと要件充足の準備が、出口戦略の成功の鍵となります。
まとめ
建設業における「出口戦略」とは、経営者の引退後の会社の形を決める最終的な経営計画です。令和2年の法改正により、事前認可制度を通じて円滑な地位承継が可能となりましたが、この制度を活用するためには、計画的かつ専門的な準備が不可欠です。次章からは、具体的な出口戦略のパターンについて詳しく解説していきます。
第2章 建設会社の出口戦略として考えられる3つの主要なパターン
出口戦略の検討:まずは選択肢を知ることが重要
建設会社が経営者の引退を迎えるにあたり、事業を存続させるための「出口戦略」は、主に以下の3つのパターンに分類されます。どの戦略を選択するかは、会社の規模、経営状況、後継者候補の有無、そして経営者自身の希望によって異なります。
なお、これらの戦略のうち、合併や事業譲渡、分割といった組織再編を伴う場合は、**建設業法第17条の2に基づき、あらかじめ行政庁の事前認可が必要**となります。この手続きはスケジューリングが肝要であり、早期の検討が求められます。
建設会社の出口戦略 3つの主要なパターン
| パターン | 概要 | 最も向いているケース |
| パターン1:親族内承継 | 経営者の子供や親族に、株式や経営権、そして建設業許可の地位を引き継ぐ方法。 | 親族内に経営能力のある後継者候補がいる場合。 |
| パターン2:従業員承継(MBOなど) | 社内の役員や優秀な従業員に会社を買い取らせたり、経営を任せたりする方法。 | 親族に後継者がいないが、社内に会社の実情をよく知る優秀な人材がいる場合。 |
| パターン3:M&Aによる第三者への事業譲渡 | 会社全体、または事業部門を、外部の企業(他社)に売却する方法。 | 親族・社内に後継者がおらず、会社の価値を現金化したい場合。 |
パターン1:親族内承継(最も古くからある形)
親族内承継は、子供や孫など血縁者に事業を引き継ぐ方法です。社内外の関係者からの理解を得やすく、スムーズに進めやすいというメリットがあります。
親族内承継の鍵となる要素
税務対策と株式移動
後継者に株式を渡す際、贈与税や相続税の負担が大きくなる可能性があるため、専門的な税金対策が不可欠です。事業承継税制の適用可否についても、個別具体的な確認が必要となります。
建設業許可の地位承継
建設業の許可を確実に引き継ぐためには、後継者を含めた体制で、建設業法が求める「経営業務の管理を適正に行う体制」を整備できるかが重要なポイントとなります。
パターン2:従業員承継(MBOなど)
親族に適任者がいない場合に有効なのが、従業員承継です。特にMBO(マネジメント・バイアウト)は、現経営陣や従業員が会社の株式を買い取り、経営を引き継ぎます。
従業員承継の大きなメリット
長年会社で働いてきた社員が引き継ぐため、経営理念や技術、顧客との関係が維持されやすく、社員や取引先の動揺も最小限に抑えられます。
注意点:資金調達の課題
後継者となる従業員が、会社の株式を買い取るための資金をどう調達するかが最大の課題です。金融機関からの融資支援や、公正な株式価値の算定が必要となります。
パターン3:M&Aによる第三者への事業譲渡
M&A(合併・買収)は、後継者問題の解決だけでなく、創業者利益を確保する(事業の価値を現金化する)という目的を達成できる戦略です。
M&Aの利点と留意点
利点:会社の価値を現金化
適切な企業に売却することで、高額な対価を得て、経営者は安心して引退できる可能性があります。会社の競争力の証明となる経営事項審査(経審)の点数が高い企業は、M&A評価においてプラスに働くことが多いです。
留意点:事前認可と準備
M&Aの成立後、建設業許可を承継するには行政庁の事前認可(建設業法第17条の2)が必要です。この認可を得るためには、売却前の財務内容や法令遵守状況(デューデリジェンス)を詳細に調査し、不備なく手続きを進めることが求められます。
まとめ
建設会社の出口戦略には、「親族内承継」「従業員承継」「M&A」という3つの主要なパターンがあります。特に、M&Aや組織再編を伴う承継には、建設業法に基づく事前認可手続きが必要となるため、十分な準備期間と綿密なスケジューリングが欠かせません。次章以降では、これらの各パターンについて、より深く掘り下げて解説していきます。
第3章 【パターン1】親族内承継のメリットと乗り越えるべき課題
親族内承継が建設業で選ばれ続ける理由
親族内承継とは、現経営者の子供や親族に会社の経営権や財産を引き継ぐ、伝統的な事業承継の形です。建設業界においてこの方法が今なお選ばれ続けているのは、主に以下のメリットがあるためです。
1.円滑な移行と社内外の安心感
高い受容性(受け入れやすさ)
長年にわたり家族経営を続けてきた建設会社の場合、親族が後継者となることに対して、社員や下請け、元請けといった取引先からの抵抗が少なく、スムーズに受け入れられやすいという利点があります。これにより、事業の移行期間中の混乱を最小限に抑えることができます。
経営理念の維持
創業者が築き上げた経営理念や社風、技術といった、数値には表れない「会社の魂」を、親族が引き継ぐことで忠実に守りやすいというメリットがあります。
親族内承継を実現するために乗り越えるべき主要な課題
親族内承継には大きなメリットがある一方で、計画的に準備しなければ、会社と後継者の両方にとって大きな負担となる課題が存在します。
課題1.経営管理体制の整備と後継者教育
経営業務の管理体制
建設業の許可を確実に引き継ぐためには、後継者個人の「経営業務の管理責任者」要件のみを前提とする従来型の設計ではなく、現行は「経営業務の管理を適正に行う体制」の整備が求められます(建設業法第7条、第15条)。従来の経験年数ルートも運用上残存していますが、後継者と他の役員・従業員の役割分担も含め、体制全体で要件を満たせるかを軸に承継設計を進める必要があります。
後継者としての資質
親族というだけで後継者に選んだとしても、その人物が経営者としての資質(リーダーシップ、技術的知識、財務の理解など)を欠いていては、事業は長続きしません。後継者には、十分な実務経験と、経営者としての教育期間を与えることが必須です。
課題2.株式・資産の評価と税務対策
高額な相続税・贈与税の可能性
会社がこれまで蓄積してきた利益や資産によって、会社の株式の評価額が高額になることがあります。この高額な株式を親から子へ引き継ぐ際には、相続税や贈与税が多額にかかる可能性があり、後継者がその納税資金を準備できず、承継が滞ってしまうケースがあります。
事業承継税制の活用検討
この税負担を軽減するために、国は「事業承継税制」という制度を設けています。この制度は、一定の要件を満たすことで、相続税や贈与税の納税を猶予または免除できる可能性がありますが、制度の要件は複雑であり、適用可否は会社の状況に応じて個別確認が必要です。
課題3.他の親族との軋轢の回避
公平性の問題とトラブルの予防
後継者ではない他の親族がいる場合、会社の株式や資産を後継者だけに集中させることで、相続の公平性をめぐる争い(遺留分侵害など)が発生する可能性が高まります。
専門家による調整の必要性
これらのトラブルを未然に防ぐためには、遺言書の作成や生命保険の活用など、親族間の話し合いを公平な立場から調整する専門家(行政書士や税理士)の関与が非常に重要になります。
まとめ
親族内承継は、建設会社にとって最も自然で受け入れられやすい出口戦略ですが、後継者の育成と「経営業務の管理を適正に行う体制」の整備、そして多額の税負担への対策という、大きな課題を解決しなければ成功しません。これらの課題は、経営者一人で解決するには難易度が高く、数年がかりの計画と、建設業専門の行政書士や税理士といったプロフェッショナルのサポートが不可欠です。
第4章 【パターン2】従業員承継(MBO)のメリットと成功のためのポイント
従業員承継(MBO)とは何か
親族内に適切な後継者がいない建設会社にとって、有力な出口戦略の一つが従業員承継です。これは、社内の役員や優秀な従業員が中心となって自社の株式を買い取り、経営権を承継する手法、特にMBO(マネジメント・バイアウト)を指します。
この方法は、会社の内情をよく知る人物に事業を引き継ぐため、建設会社ならではの強みや顧客との人間関係を維持しやすいという特徴があります。
従業員承継の主なメリット
1.事業の継続性と安定性の確保
長年会社を支えてきた従業員が後継者となるため、経営方針や企業文化が大きく変わることがありません。これにより、長年の顧客である元請けや、協力会社、そして社員の皆様に、事業の継続性に対する安心感を与えることができます。
2.優秀な人材への報いとモチベーション向上
従業員承継は、現経営者が評価した優秀な人材に、努力と貢献に見合う対価として経営の機会を与えることができます。後継者となる従業員にとっては、会社のオーナーとして経営に携わることで、さらなるモチベーション向上に繋がります。
3.建設業許可要件の充足のしやすさ
後継者がすでに会社で役員や主要な技術者として勤務している場合、建設業許可を承継する際の「経営業務の管理を適正に行う体制」を整備しやすいというメリットがあります。この要件は、後継者の経験だけでなく、在籍する他の役員や従業員の資格・経験との組み合わせによって満たし得るため、社内人材の活用が鍵となります。
従業員承継(MBO)の成功のためのポイント
この承継方法を成功させるためには、特に資金調達と現経営者の関与について、周到な計画が必要です。
ポイント1.株式買取資金の準備
資金調達の難しさと支援
最大の課題は、後継者となる従業員が、現経営者から株式を買い取るための資金を用意することです。会社の株式評価が高額になる場合、個人の資金だけでは賄いきれません。この資金は、主に金融機関からの融資や、M&A仲介会社が提供する資金調達支援を活用して調達することになります。
ポイント2.公正な株式価値の算定
会社の適正な評価
現経営者が満足し、かつ後継者にとっても無理のない範囲で資金調達できるよう、会社の株式の価値を公正かつ客観的に算定する必要があります。建設会社の価値は、保有する資産だけでなく、経営事項審査の点数(P点)や技術力といった将来の収益力も考慮して評価されるべきです。
ポイント3.スムーズな権限移譲と引退時期
経営者としての独り立ちを支援
承継後、後継者が円滑に事業を運営できるよう、現経営者は適切なタイミングで権限を全て移譲することが重要です。新旧経営者の関係を明確にし、後継者が自身のリーダーシップを発揮できる環境を整えることが成功の鍵となります。
まとめ
従業員承継(MBO)は、親族外でも事業の継続性を高く保てる有効な出口戦略ですが、後継者の資金調達や株式の公正な評価といった、財務・法務面での課題を伴います。これらの課題解決には、建設業界特有の事情を理解し、特に「経営業務の管理を適正に行う体制」をどのように構築するかという点で、建設業専門の行政書士の協力が不可欠です。
第5章 【パターン3】M&Aによる第三者への事業譲渡のプロセスと注意点
M&A(合併・買収)による事業譲渡とは
親族や社内に後継者が見つからない場合、あるいは現経営者が長年の努力の対価を最も大きく現金化したいと考える場合の有効な出口戦略が、M&A(合併・買収)による第三者への事業譲渡です。
これは、外部の企業に会社全体または建設業部門を売却し、経営権と事業を引き継いでもらう方法です。買い手企業は、技術者、顧客基盤、そして建設業許可の地位獲得などを目的に、特に優良な建設会社を探しています。
M&Aを選択する主要なメリット
1.経営者利益の最大化
M&Aは会社の価値が市場原理に基づき評価されやすく、経営者が一括で大きな現金を手にできる可能性が高いというメリットがあります。会社の競争力の証明となる経営事項審査(経審)の点数は、M&A評価に好影響を与え得る要素です。
2.従業員と事業の存続
買い手企業は、会社の技術や人材、そして建設業許可を目的としているため、売却によって従業員の雇用が維持され、事業がさらに大きな基盤で継続できる可能性が高まります。
M&Aによる事業譲渡の具体的なプロセス
M&Aは複数のステップを経て完了しますが、建設業では特に許認可の引継ぎに関する行政手続きが重要です。
1.会社の「磨き上げ」と企業価値の算定
会社の財務状況や法務(許認可)の整理を行い、会社の魅力を高めます。この段階で、会社の売却額の目安となる企業価値を専門家が算定します。経審のP点(総合評定値)が高い企業は、その競争力から評価がプラスに働くことが多いです。
2.デューデリジェンス(詳細調査)
買い手企業は、売却する会社に対して財務、法務(建設業許可の状況や法令遵守)、税務などの詳細な調査を行います。この調査で、隠れた債務やリスクがないかを厳しくチェックされます。
建設業におけるデューデリジェンスの重点項目
特に、過去の建設業法や労働安全衛生法などの法令違反、未払いの残業代の有無に加え、建設業許可の地位承継に関する事前認可の可否や、事業年度終了報告や各種変更届の提出履歴に不備がないかが厳しく確認されます。
3.最終契約と建設業許可の承継認可申請
最終契約締結後、買い手企業は、建設業法第17条の2に基づき、行政庁へ事業承継の事前認可を申請します。この認可を得ることで、許可の空白期間を生じさせることなく、建設業の地位を承継することができます。
所管行政庁の分岐
認可申請の所管は、元の許可区分や承継者・被承継者の状況によって、国土交通大臣または都道府県知事に分岐します。複数都道府県にまたがる場合や大臣許可が絡む場合は、国土交通大臣の所管となることが原則です。
M&Aを成功させるための注意点
M&Aを円滑に進め、希望通りの結果を得るためには、以下の点に注意が必要です。
| 注意点 | 解説 |
| 許可承継の要件充足 | 承継は、要件を満たし、所管庁の事前認可を得られれば承継し得るものです。事業年度終了報告や各種変更届の未提出があると認可に支障が出る場合があります。スケジュールは効力発生日から逆算して早期に着手する必要があります。 |
| 秘密保持の徹底 | M&Aの検討や交渉の事実が、社員や取引先に漏れると、事業の運営に悪影響を及ぼす可能性があります。情報管理は極めて重要です。 |
| 専門家の選定 | 建設業特有の許認可制度に強く、デューデリジェンス対応、契約作成、そして行政手続きの支援ができる専門家(行政書士、税理士など)を選ぶことが成功の絶対条件です。 |
まとめ
M&Aは、後継者問題を解決しつつ、経営者利益を最大化できる魅力的な出口戦略です。しかし、会社の価値算定、秘密保持、そして煩雑なデューデリジェンスや建設業許可の承継認可手続きといった、専門性の高いプロセスを乗り越える必要があります。失敗なく円満なM&Aを成立させるためには、建設業法第17条の2の認可手続きを念頭に、初期の段階から専門家による支援を受けることが不可欠です。
第6章 会社の現状を把握し、最適な出口戦略を検討するための準備
出口戦略を立てる:なぜ「今すぐ」準備が必要なのか
親族承継、従業員承継、M&Aのどの出口戦略を選ぶにしても、計画の実行には数年から十数年という長い期間が必要です。特に建設業の場合、後継者の育成や、経審の点数を高めて会社の価値を向上させる「磨き上げ」に時間がかかります。
そのため、経営者が引退を考え始めてから慌てて準備を始めるのではなく、体力と時間がある「今」から会社の現状を正確に把握し、戦略の検討を始めることが極めて重要になります。
現状把握のための3つのチェックポイント
最適な出口戦略を検討するために、以下の3つの側面から会社の現状を客観的にチェックしましょう。
チェックポイント1.ヒト(後継者と組織体制)の確認
後継者候補の有無と育成状況
親族、社内、外部採用のいずれであっても、まず後継者候補が存在するかを確認します。候補者がいる場合は、その人物を含めた体制で、建設業法が定める「経営業務の管理を適正に行う体制」を整備できるかを洗い出します。
技術者・職人の依存度
特定の優秀な技術者や職人に、会社の技術や顧客との関係が極度に依存していないかを確認します。もし特定の個人に依存している場合、その人物の退職や離脱が会社の価値を大きく下げてしまうリスクとなります。
チェックポイント2.カネ(財務・経審)の確認
建設業のスコア:経営事項審査(経審)の点数
建設会社にとって、会社の競争力と信頼性を数値で示すのが経営事項審査(経審)の総合評定値(P点)です。P点(X=経営規模、Y=経営状況、Z=技術力、W=社会性等)が高い企業は公共調達上の競争力を示しやすく、M&A評価でもプラスに働くことが多いです。
負債と簿外債務の確認
会社の決算書に記載されていない簿外債務(例:未払いの残業代、退職給付引当金など)がないかを確認します。これらがM&Aの際のデューデリジェンスで見つかると、売却価格が大幅に引き下げられる原因となります。
チェックポイント3.モノ(法務・資産)の確認
建設業許可と法令遵守状況
建設業許可が、欠格要件に該当するなどの理由で将来的に取り消しになるリスクがないか、法令遵守(コンプライアンス)の状況を徹底的に確認します。特に、建設業許可の地位承継の事前認可を受ける際に、過去の事業年度終了報告や各種変更届の提出に不備がないかが重要なチェック項目となります。
不動産・機械設備などの利用状況
会社の保有する土地、建物、重機などの資産が、現在の事業で有効活用されているかを確認します。遊休資産が多い場合は、売却や賃貸に出すなどして整理することで、会社の財務状況を改善し、出口戦略の選択肢を広げることができます。
専門家の活用:客観的な評価と戦略立案
これらの現状把握を経営者自身だけで行うことは、非常に困難です。会社の真の価値、後継者の適性、そして隠れたリスク(簿外債務、法務リスクなど)を客観的に評価し、最適な出口戦略を提案するためには、建設業の経審や許認可に強い行政書士、そして税務に強い税理士といった専門チームの参画が不可欠となります。
まとめ
最適な出口戦略を成功させるためには、会社の「ヒト(組織)」「カネ(財務・経審)」「モノ(法務・資産)」の3つの側面から現状を正確に把握し、課題を洗い出すことが出発点となります。特に、建設会社の競争力の根拠となる建設業許可の健全性と、「経営業務の管理を適正に行う体制」の整備が、あらゆる出口戦略の価値を高める基本となります。次章では、この複雑な出口戦略の実行になぜ専門家のサポートが不可欠なのかを解説します。
第7章 出口戦略の実行に専門家のサポートが不可欠な理由
建設業の出口戦略が複雑である二つの要因
建設業者の出口戦略は、一般的な事業承継やM&Aと比べて、より専門的で複雑な要素が多く含まれます。その主な要因は、以下の二つにあります。
要因1.「建設業許可」という行政の壁と事前認可制度
建設会社は、事業を継続するために建設業許可(建設業法第3条)が不可欠です。承継や売却の際、後継者(または買い手企業)がこの許可を途切れさせることなく引き継げるよう、建設業法第17条の2・3に基づく事前認可を得る必要があります。この手続きは、要件の確認や行政庁との調整が必要であり、高度な専門知識がなければ対応できません。
要因2.「経営管理体制」と「簿外債務」という財務・会計の特殊性
建設業の許可要件は、個人の経験年数だけでなく、「経営業務の管理を適正に行う体制」を会社として整備できるかに主眼が置かれています。また、完成工事補償引当金や未払いの残業代など、決算書に明記されにくい「簿外債務」を抱えているケースも多く、これらを正確に洗い出すには、建設業界の会計基準に精通した知識が必要です。
専門家の役割とサポートの具体的内容
これらの複雑な課題を円滑に解決し、経営者が安心して引退できるように、専門家は多岐にわたるサポートを提供します。
1.行政書士:建設業許可と地位承継の実務支援
役割:許可の維持と円滑な承継
行政書士は、建設業法に基づく手続きを専門とします。特に、建設業法第17条の2(事業譲渡・合併・分割)および第17条の3(相続)に基づく事前認可の実務支援を行い、後継者側が許可の要件(経営管理体制や専任技術者など)を確実に満たしているかを確認します。これにより、承継時に「許可の空白期間」が生じるリスクを回避します。
2.税理士・公認会計士:会社の価値評価と税務の最適化
役割:税負担の軽減と適正価格の算定
税理士は、会社の株式価値を公正に算定し、親族承継であれば事業承継税制の適用可能性を検討します。M&Aであれば、売却益に対する課税を最小限に抑えるための適切なスキーム(手法)を提案します。
3.弁護士:契約トラブルと法務リスクの回避
役割:契約書の作成とトラブルの予防
M&Aや事業譲渡における複雑な契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書など)の作成や確認を行います。また、デューデリジェンスで判明した過去の法令違反や労使問題など、法務リスクの評価と対応策についてアドバイスします。
専門家チームによるメリット:多角的な課題解決
出口戦略は、一つの専門分野だけで解決できる問題ではありません。複数の専門家が連携するワンストップの体制で進めることが、成功への最短ルートとなります。
| 課題 | 専門家の連携例 |
| 承継後の経営体制と許可要件 | 行政書士(経営管理体制の確認)と税理士(税負担のシミュレーション)が連携し、後継者育成と体制整備のロードマップを作成します。 |
| M&Aの売却価格 | 公認会計士(企業価値算定)と行政書士(経審の点数改善アドバイスと法務リスク評価)が連携し、会社の価値を最大化する施策を提案します。 |
まとめ
建設業の出口戦略の実行は、「建設業許可」や「経営事項審査」といった特殊な行政・財務の壁があるため、経営者一人で進めるのは極めて危険です。建設業を専門とする行政書士をはじめとするプロフェッショナルのチームは、建設業法第17条の2・3に基づく事前認可の実現を含め、会社の価値を客観的に評価し、法的・税務的なリスクを回避しながら、経営者の希望と会社の未来を両立させる最適な解決策を提案・実行します。
第8章 まとめ
建設会社の未来を決める「出口戦略」の重要性
建設業における「出口戦略」は、単に経営者が引退するための手続きではなく、長年築き上げた会社の事業、技術、そして従業員の雇用を守るための最終かつ最も重要な経営判断です。経営者の高齢化と後継者不足が深刻化する今、この戦略を一刻も早く実行するための準備が求められています。
最適な出口戦略を見つけるための再確認
建設会社が選べる出口戦略は、「親族内承継」「従業員承継」「M&A」の3パターンがあります。どの選択肢を選ぶにしても、建設業の地位承継は、建設業法第17条の2(事業譲渡・合併・分割)および第17条の3(相続)に基づき、あらかじめの認可(相続は死亡後30日以内)を得ることで、許可の空白期間を生じさせずに実行できる可能性があります。
| パターン | 最も重要な成功要因 |
| 親族内承継 | 「経営業務の管理を適正に行う体制」の整備と、相続・贈与税対策の計画的な実行。 |
| 従業員承継(MBO) | 後継者の資金調達支援と、在籍人材の資格・経験を活かした許可要件の充足。 |
| M&Aによる事業譲渡 | 建設業法に基づく事前認可を前提とした、法務・財務の「磨き上げ」とデューデリジェンスへの対応。 |
専門家への相談が不可欠な理由
出口戦略の実行は、「建設業許可の要件充足」と「事前認可制度の活用」という専門性の高い課題を伴います。
特に、建設業の経審や許可手続きに精通した行政書士は、事業承継の初期段階から関与し、建設業法第17条の2・3に基づく事前認可の可否判断と実務支援を通じて、会社の価値を客観的に評価し、経営者の皆様が望む形で事業のバトンタッチを成功させるための具体的なロードマップをご提案いたします。
次の一歩:まずはご相談ください
「うちの会社には、どの出口戦略が最適なのか?」「建設業の許可を確実に引き継ぐための準備を始めたい」といった疑問やお悩みをお持ちでしたら、まずは一度ご相談ください。
建設業の事業承継・M&Aは、実行まで時間がかかるため、一刻も早い準備が会社の未来を左右します。専門家による支援を受け、法的・税務的なリスクを回避し、円満な事業承継を目指しましょう。