梅雨・台風現場BCP|行政書士村上事務所

梅雨・台風シーズンの現場BCP ── 中止判断の段取りと、国土強靱化・移転補助の受注

01守りと攻めを、同じ季節のなかで組む

梅雨前線と台風が重なる時期は、台風本体が到達する前から大雨と暴風のリスクが立ち上がります。現場を止める判断は、風が強くなってからでは遅い。一方で、同じ気象リスクは流域治水・砂防という受注の側面も持っています。守りと攻めを別々の話にしないことが、この季節の要点です。

本記事では、地場の中小建設業・不動産開発の経営層に向け、2026年最新の気象リスクに対応する「現場のBCP(事業継続計画)体制構築」と、それを足掛かりとした「国土強靱化・砂防工事の受注戦略」という攻めと守りの両面から解説します。

02【守り】台風接近前の「現場中止判断」とBCP実務

1. 「風が強くなる前」の安全確保が絶対条件

台風が近づく時期に最も注意すべきは、本体が到達する前から梅雨前線の影響で大雨・暴風のリスクが高まることです。現場監督の経験則に基づく「まだ大丈夫だろう」という判断は、突発的な河川増水や土砂崩れの前では致命的な遅れを招きます。

図1 台風・大雨の前後 ── 段階ごとの判断と行動台風・大雨の前後で、いつ何を決めるか① 数日前・進路と降水量の予測を確認する・中止判断の基準を全現場で共有する・資材搬入を前倒しするか延期する② 前日・足場・シート・仮囲い・看板を固定する・飛散しそうな資材と工具を屋内へ・低地や水路沿いに土のうを置く③ 当日・現地や川を見に行かせない・キキクルと「川の防災情報」で判断する・連絡手段と安否確認の手順を回す④ 通過後・立入前に法面と仮設を遠隔で確認する・被災状況を写真と時刻で記録する・再開の可否は経営が判断する※「川を見に行かない」ための遠隔判断の仕組みは、経営側が先に用意しておく。

判断の基準を先に決めておくほど、当日の迷いが減ります。「まだ大丈夫だろう」は、基準がないときに出てくる言葉です。

現場で直ちに行うべき確認事項:

  • 仮設足場、シート、仮囲い、看板の確実な固定・補強
  • 飛散リスクのある資材、工具、廃材の屋内退避または結束
  • 低地、アンダーパス付近、河川・水路沿い現場の浸水対策(土のう設置等)

2. 「川を見に行かない」ためのデジタル監視体制

大雨の際、責任感から現場や河川の状況を直接確認しに行き、二次災害に巻き込まれるケースが後を絶ちません。中小河川は短時間で急激に水位が上昇するため、現地確認は極めて危険です。

経営層は、現場監督に「現地に行かせない」仕組みを構築する必要があります。国土交通省の「川の防災情報」や気象庁の「キキクル(危険度分布)」、現場に設置したクラウド録画型ネットワークカメラ等を活用し、遠隔で安全判断を下す体制(デジタルBCP)の整備が急務です。

03【攻め】2026年度 国土強靱化予算と砂防・土砂災害対策

1. 令和8年度予算:流域治水と砂防事業の加速

現場を守る一方で、激甚化する気象災害は建設業にとって「地域の安全を創る」という最大の使命であり、確実な受注機会でもあります。令和8年度(2026年度)の国土交通省予算では、「第1次国土強靱化実施中期計画」に基づき、防災・減災対策が強力に推進されています。

特に注目すべきは、「気候変動による水害や土砂災害の激甚化に対抗する流域治水の加速化・深化」に充てられた6,388億円(令和7年度補正予算2,580億円と合わせ合計8,968億円)という巨額の予算です。この中には、ハード・ソフト一体となった土砂災害対策や砂防事業が厚く盛り込まれています。

2. 熊本市の「居住誘導促進事業」補助金(令和8年4月新設)

地域密着の受注戦略として見逃せないのが、自治体独自の防災・移転補助金です。例えば熊本市では、令和8年(2026年)4月より「熊本市居住誘導促進事業」として新たな補助金の受付を開始しました。

これは、熊本県が指定する『土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)』内の危険住宅を解体し、安全な居住誘導区域へ移転する市民に対し、以下の手厚い補助を行うものです。

  • 除却等費(解体費用) 上限300万円
  • 引越等費用 上限97.5万円
  • 建物助成費(移転先住宅の借入金利子相当額) 上限421万円(建物325万円、土地96万円)
図2 熊本市居住誘導促進事業 ── 補助の区分と申請期間熊本市居住誘導促進事業 ── 補助の区分と上限(1戸あたり)除却等費300万円引越等費用97.5万円建物助成費421万円土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の住宅から、居住誘導区域へ移転する場合令和8年度の申請期間 令和8年4月1日〜9月30日(予算の範囲内で先着順)※建物助成費は移転先住宅の借入金利子相当額(建物325万円・土地96万円)。相談は随時受付。

出典:熊本市「熊本市居住誘導促進事業」。金額・期間は年度ごとに変わり得るため、提案の前に市の公式ページで確認してください。

令和8年度の受付は9月30日まで

令和8年度の申請期間は令和8年4月1日から9月30日までで、予算の範囲内の先着順です。解体・移転・新築を一体で組む提案は、設計と資金計画に時間がかかるため、逆算できる余裕は多くありません。

この期間を過ぎた場合、令和9年度以降の実施の有無は、この記事の時点では公表されていません。ただし相談は随時受け付けられているので、間に合わなかった案件は、次年度の実施予定を市に確認したうえで仕込み直すことになります。

地場建設業や不動産業者にとっては、ハザードマップと顧客名簿を照らし合わせるところから始まります。レッドゾーンに住む施主に対して、移転先の土地、新築、既存住宅の解体までを一つの窓口で組み立てられれば、地域の安全に資する仕事がそのまま受注につながります。

04【法務対応】盛土規制法への実務対応とコンプライアンス

土砂災害対策と密接に関わるのが、完全施行から年月が経過し、規制が本格化している「盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)」です。2026年現在、各自治体による基礎調査や区域指定が完了し、厳格な運用フェーズに入っています。

建設業者は、自社の施工現場だけでなく、残土(建設発生土)の搬出先が適法なストックヤードや処分場であるかを確認する必要があります。書類の要件は二つあり、混同しやすいので分けて押さえてください。

  • 再生資源利用促進計画書(建設副産物を搬出する工事)── 建設発生土は1,000立方メートル以上、コンクリート塊とアスファルト・コンクリート塊は合計200トン以上が作成の目安です。工事完成後は実施状況を記録し、1年間保存します。
  • 再資源化等の実施状況の記録(建設リサイクル法)── 元請業者は再資源化等が完了したときに発注者へ書面で報告し、その記録を作成して5年間保存します。

数量の基準は自治体が独自に引き下げている場合があります(請負金額で切っている県もあります)。発注機関の特記仕様書を先に確認してください。不適切な搬出は元請けの責任問題に直結します。

05まとめ:災害対応力を企業の競争力へ

2026年の梅雨・台風シーズンは、すでに危険な兆候を見せています。経営層が率先して「現場を止める基準」を明確化し、デジタルツールを活用した安全管理体制(BCP)を敷くことが、従業員と協力会社の命を守る第一歩です。

そして、自社の防災力を高めることは、地域住民の安全を守る公共工事や移転新築工事を請け負うための「信頼の証」となります。最新の補助金制度や法規制を熟知し、攻めと守りの両輪でこの難局を乗り越えましょう。

【参考資料】
・国土交通省「令和8年度予算決定概要」(流域治水の加速化・深化 6,388億円、令和7年度補正2,580億円)
・熊本市「熊本市居住誘導促進事業」
・国土交通省「建設副産物適正処理推進要綱」および建設リサイクル法(再資源化等の記録の保存)
・気象庁「キキクル(危険度分布)」、国土交通省「川の防災情報」

執筆体制

行政書士村上事務所熊本市/創業2004年

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