熊本建設業経営戦略センター(技術士/一級建築士/行政書士)

【法務・コンプラ考察】2026年7月「経審W点」改正の全貌と実務対応:自主宣言制度とCCUS配点見直しが入札格付けに与える影響

令和8年(2026年)7月1日より、経営事項審査(経審)の「その他審査項目(社会性等)」、いわゆるW点の審査基準が大きく改正されます。今回の改正は、建設業の担い手確保や災害対応力の強化を目的としており、特に「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の新設と、それに伴うCCUS(建設キャリアアップシステム)の配点引き下げが、地場建設業の入札参加資格(P点)に直結する重要な変更となります。

本記事では、国土交通省および熊本県の最新の公表資料に基づき、2026年7月経審改正の4つの主要な変更点と、建設業の経営者が今すぐ取るべき実務対応について、専門的かつ実践的な視点から解説します。

2026年7月経審改正の4つの主要変更点

今回の経審W点改正は、単なる項目の追加ではなく、既存の評価体系を根本から見直す内容を含んでいます。主要な変更点は以下の4点に集約されます。

変更項目 改正前の配点 改正後の配点 変更のポイント
① 自主宣言制度の新設 なし 5 / 0 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の宣言の有無を加点項目(W1-⑪)として追加。
② CCUS配点の引き下げ 15 / 0 10 / 0 就業履歴蓄積措置(W1-⑩)の配点を引き下げ。(全建設工事:15点→10点、全公共工事:10点→5点)
③ 建設機械の対象拡大 15 / 0(9機種) 15 / 0(11機種) W7の加点対象に「不整地運搬車」と「アスファルト・フィニッシャ」を追加。
④ 社会保険減点の削除 0 / -120 削除 雇用保険・健康保険・厚生年金の未加入減点(各-40点)を審査項目から完全に削除。

① 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の新設

最も注目すべき変更は、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」がW点の新たな加点項目(W1-⑪)として設定されたことです。この制度は、技能者の処遇改善や現場環境の向上に取り組む企業の姿勢を評価するものであり、宣言を行い、ポータルサイトに掲載されることで5点の加点が得られます。

加点を受けるための必須要件は以下の通りです。

  • 審査基準日(決算日)が宣言日以降であること
  • 宣言書および誓約書が適正に提出されていること

特に注意が必要なのは「審査基準日」の要件です。決算日を過ぎてから慌てて宣言を行っても、その期の経審では加点対象となりません。熊本県においても、令和8年度の審査において「宣言日が審査基準日より前でなければ加点対象とならないため、7月1日を待たずに手続きを進めること」と強く注意喚起されています。

② CCUS(建設キャリアアップシステム)の配点引き下げ

自主宣言制度の新設とセットで押さえておくべきなのが、CCUSを活用した「就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況(W1-⑩)」の配点引き下げです。

  • 民間工事を含む全ての建設工事で実施:15点 → 10点
  • 全ての公共工事で実施:10点 → 5点

この変更が意味するのは、「これまでCCUSで満点(15点)を取っていた企業は、何もしなければ次回の経審で5点減点される」という厳しい現実です。自主宣言(+5点)を行って初めて、これまでの点数を維持(±0)できる構造となっています。これは実質的に、自主宣言制度への参加を強く促す施策と言えます。

③ 建設機械の加点対象機種の拡大

災害時の復旧対応力を評価する「建設機械の保有状況(W7)」について、令和6年能登半島地震などでの実際の稼働実績を踏まえ、新たに以下の2機種が加点対象に追加されました。

  1. 不整地運搬車
  2. アスファルト・フィニッシャ

これにより、対象機種は従来の9機種から11機種へと拡大します。道路舗装や土木工事を主力とする企業にとっては、既存の保有機械が新たに評価対象となる可能性があり、点数アップの好機となります。ただし、評価を受けるためには特定自主検査等の法定検査を適正に受けていることが前提となります。

④ 社会保険未加入による減点項目の削除

これまでW1の大きな減点要因であった、社会保険(雇用保険・健康保険・厚生年金保険)の未加入に対する減点(各-40点、最大-120点)が審査項目から削除されます。

これは、令和2年(2020年)10月の建設業法改正により、社会保険の加入が建設業許可の必須要件となったためです。許可の有効期間(5年)が一巡する令和7年(2025年)10月以降は、すべての許可業者が社会保険に加入している状態となるため、経審で重複して確認する必要性がなくなったことが理由です。すでに加入している適法な企業にとっては点数の変動はありませんが、W点全体の最低点が引き上げられる効果をもたらします。

建設業経営者が今すぐ取るべき実務対応と戦略

今回の改正は「令和8年(2026年)7月1日以降の申請」から適用されます。審査基準日(決算日)ではなく、「申請日」が基準となる点に留意が必要です。自社の決算期と経審の申請スケジュールを逆算し、以下の対応を速やかに進める必要があります。

1. 「自主宣言」の早期完了(最優先課題)

CCUSで既に加点を受けている企業は、配点引き下げによるP点低下を防ぐため、自主宣言が急務です。また、CCUS未導入の企業にとっても、宣言するだけで5点の加点が得られるため、極めて費用対効果の高い施策となります。

前述の通り、加点要件は「審査基準日が宣言日以降であること」です。例えば、3月決算の企業が2026年7月以降に経審を申請する場合、2026年3月31日までに自主宣言を完了していなければ、その年の加点は受けられません。「制度が始まってから対応すればよい」という後手のアプローチは、入札参加資格のランクダウンという致命的な結果を招く恐れがあります。

2. 保有建設機械のリストアップと検査状況の確認

新たに追加された「不整地運搬車」「アスファルト・フィニッシャ」を保有している企業は、自社の保有台数と法定検査の実施状況を直ちに確認してください。リースやレンタルは対象外であり、自社所有であることが求められます。稼働可能な状態であっても、特定自主検査の記録がなければ加点対象として認められません。

3. W点全体の棚卸しと再構築

今回の改正を機に、自社のW点全体を棚卸しすることをお勧めします。建退共への加入(15点)、法定外労災制度への加入(15点)、防災協定の締結(20点)など、比較的着手しやすい加点項目を取りこぼしていないか、改めて点検してください。

特に、熊本県におけるTSMC(JASM)関連のサプライチェーン整備やサイエンスパーク開発など、大型の民間投資やそれに伴うインフラ整備が活発化する中、公共工事の入札参加資格(格付け)を高く維持することは、官民双方の受注機会を最大化するための重要な経営戦略となります。

まとめ:制度改正を「守り」から「攻め」の契機に

2026年7月の経審W点改正は、建設技能者の処遇改善という業界全体の課題に対する、国からの強いメッセージです。CCUSの配点引き下げと自主宣言制度の新設は、実質的に「技能者を大切にする姿勢を明示しない企業は評価を下げる」という仕組みになっています。

地場建設業の経営層におかれては、この改正を単なる「減点リスク(守り)」と捉えるのではなく、早期に自主宣言を行い、労働環境の改善を対外的にアピールすることで、優秀な人材の確保と公共工事の安定受注に繋げる「攻めの経営戦略」として活用することが求められます。

まずは自社の次回の決算日と経審申請のスケジュールを確認し、手遅れになる前に自主宣言の手続きに着手してください。


参考資料(一次資料)

NOTE

業務ノート

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