
特定建設業と一般建設業の違いとは?許可要件から判断基準まで専門家が解説
はじめに:建設業許可に「特定」と「一般」の2種類があるのはなぜ?
建設工事を行う会社の多くは、国や都道府県から「建設業許可」という営業許可をもらう必要があります。これは、一定の品質を保ち、安心して工事を任せてもらうための大切なルールです。そして、この建設業許可には「特定建設業許可」と「一般建設業許可」という2つの種類があります。なぜ、わざわざ2つに分かれているのでしょうか。不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。
一番の理由は「工事に関わる人たちを守るため」です
結論からお伝えすると、この2つの区分は、工事を注文する発注者や、工事に協力してくれる下請業者さんたちを保護するために設けられています。特に、規模の大きな工事では、たくさんの専門業者が協力し合って一つのものを作り上げます。その中で、立場の弱い会社が不利益を被ることがないように、法律でルールが定められているのです。
この考え方は、建設業という法律の目的にも書かれています。建設業法第1条には、工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することが目的であると記されています。
一般建設業許可とは
まずは「一般建設業許可」です。これは、建設業を営む上での基本的な許可と考えることができます。工事を直接請け負い、自社の技術者で工事を進める多くの会社がこの許可を取得しています。
特定建設業許可とは
次に「特定建設業許可」です。これは、発注者から直接工事を請け負う「元請」の立場で、かつ、非常に規模の大きな下請契約を結ぶ会社に求められる許可です。たくさんの下請業者をまとめるリーダー的な役割を担うため、より重い責任と、それを果たすための厳しい条件が課せられています。
特に大切な「下請業者さんを守る」という役割
特定建設業許可制度が作られた大きな目的の一つに「下請業者の保護」があります。大きな工事の元請負人となった会社が、もし資金繰りに困って下請業者への支払いができなくなると、連鎖的にたくさんの会社が困ってしまいます。こうした事態を防ぐため、元請として大規模な工事をまとめる会社には、しっかりとした経営基盤(財産的基礎)があるかどうか、法律が厳しくチェックするのです。これが、特定建設業許可の要件が一般建設業許可よりも厳しくなっている理由です。
まとめ
このように、建設業許可が「特定」と「一般」に分かれているのは、単に工事の金額が大きいか小さいかという理由だけではありません。元請として下請業者を保護するという、社会的な責任の重さに応じて区分が設けられています。この違いを正しく理解することは、ご自身の会社がどちらの許可を目指すべきかを判断する上で、非常に重要な第一歩となります。次の章では、最も具体的で重要な違いである「下請に出せる金額」について詳しく見ていきます。
一番の大きな違い!下請業者に出せる工事金額の上限
特定建設業許可と一般建設業許可を分ける、最も重要で具体的な違いは、工事を注文したお客様(発注者)から直接請け負った一件の工事について、下請業者に出すことができる金額の上限です。つまり、元請負人になったときのルールということです。
このルールを理解することが、どちらの許可が必要かを見極めるための最初のステップになります。
金額の上限ルールを比べてみましょう
具体的に、下請に出せる金額がどのように違うのかを下の表で確認します。
許可の種類 | 下請に出せる合計金額 |
---|---|
一般建設業許可 | 合計4,500万円未満(建築一式工事の場合は7,000万円未満) |
特定建設業許可 | 上限なし |
このように、一般建設業許可の場合は、元請として請け負った工事を下請に出す際に、金額の上限が定められています。一方で、特定建設業許可を持っていれば、この金額の上限なく下請業者に工事を発注することができます。
この金額は、建設業法施行令という国のルールで定められています。
このルールの重要なポイント
この金額のルールには、いくつか注意すべき大切なポイントがあります。正しく理解していないと、意図せず法律違反となってしまう可能性もあるため、一つずつ確認します。
あくまで「元請」の立場になったときのルールです
この金額制限は、発注者から直接工事を請け負う「元請」の立場になった場合にのみ適用されます。自社が下請業者として工事に参加する場合には、この金額制限を気にする必要はありません。
消費税を含んだ金額で判断します
上限金額である4,500万円や7,000万円は、消費税を含んだ金額で判断します。税抜きの金額で考えていると、いつの間にか上限を超えてしまうことがあるため、契約の際には必ず総額で確認することが必要です。
下請業者が一社ではなくても「合計金額」です
一件の工事で、複数の下請業者に分割して工事を発注することもあると思います。この場合、一社ごとの契約金額ではなく、その工事全体で下請に出した「合計金額」で判断します。例えば、塗装工事と内装工事をそれぞれ3,000万円で別の会社に発注した場合、合計が6,000万円となるため、一般建設業許可では請け負うことができません。
もしルールの上限を超えてしまったら
一般建設業許可の会社が、定められた上限金額を超えて下請契約を結んでしまった場合、建設業法違反となります。この場合、監督官庁から指示処分や営業停止処分といった重い行政処分を受ける可能性があります。これは、建設業法第28条に定められています。「知らなかった」では済まされない、非常に重要なルールです。
まとめ
元請として、4,500万円(建築一式工事では7,000万円)以上の大規模な下請契約を結ぶ可能性があるかどうか。これが、特定建設業許可を取得すべきかどうかの大きな判断基準となります。今後の事業計画において、どのような立場で工事に関わっていくのかを考え、適切な許可を選択することが大切です。しかし、この金額のルールには複雑な側面もあるため、判断に迷う場合は専門家へ相談することをお勧めします。
許可をもらうための条件もこんなに違う!財産と技術者の要件
第2章では、下請に出せる金額に大きな違いがあることを見ました。なぜ特定建設業許可の会社は、金額の上限なく下請に出せるのでしょうか。それは、万が一のことがあっても下請業者に迷惑をかけないだけの、十分な体力と信頼性が法律で求められているからです。この「体力」と「信頼性」を証明するのが、許可を受けるための条件(許可要件)です。ここでは、特に違いの大きい「会社の財産」と「配置する技術者」の2つの要件について解説します。
会社の財産(財産的基礎)に関する要件
建設業は、工事の完成前に材料費や人件費など、大きなお金が先に出ていくことが多い事業です。そのため、安定して経営できるだけの財産があるかどうかが厳しく審査されます。特に、多くの下請業者を支える立場になる特定建設業許可には、非常に高いレベルの財産的基礎が求められます。
許可の種類 | 財産的基礎の主な要件 |
---|---|
一般建設業許可 | 次のいずれかを満たすこと ・自己資本の額が500万円以上 ・500万円以上の資金調達能力がある |
特定建設業許可 | 次のすべてを同時に満たすこと ・欠損の額が資本金の20%を超えていない ・純資産額が4,000万円以上 ・資本金の額が2,000万円以上 |
一般建設業許可の考え方
一般建設業許可では、 「500万円以上のお金を動かせる力がありますか?」という点が問われます。これは、会社の預金残高証明書などで証明することが一般的です。
特定建設業許可の考え方
一方で特定建設業許可は、会社の決算書(貸借対照表)の内容そのものが問われます。「欠損の額」は会社の赤字の累積、「純資産額」は会社が持っている本当の財産のことです。これらに高い基準が設けられているのは、大規模な工事を安定して完成させ、下請業者への支払いを確実に行うための「会社の体力」があることを証明するためです。この要件は、建設業法第15条に定められています。
営業所に置く技術者(専任技術者)に関する要件
建設業の許可を受けるには、それぞれの営業所に工事の専門家である「専任技術者」を必ず置かなければなりません。この専任技術者になるための条件も、特定と一般では大きく異なります。
許可の種類 | 専任技術者の主な要件 |
---|---|
一般建設業許可 | ・国が定めた資格を持つ ・学歴に応じた実務経験がある ・10年以上の実務経験がある |
特定建設業許可 | ・国が定めた一級の資格を持つ ・一般建設業の要件を満たした上で、元請として4,500万円以上の工事について2年以上の「指導監督的な実務経験」がある |
特定建設業で求められる「指導監督的な実務経験」とは
特定建設業の技術者要件で最も重要なのが、「指導監督的な実務経験」です。これは、ただ工事に長く関わっていたというだけでは認められません。元請の立場で、現場の主任技術者や監理技術者として、下請業者さんたちをまとめ、工事全体を指導・監督した経験のことを指します。この経験は、過去の工事の契約書などで客観的に証明する必要があり、許可申請における難しいポイントの一つです。
まとめ
ここまで見てきたように、特定建設業許可を取得するためには、会社の「財産」と「人」の両面で、一般建設業許可とは比べものにならないほど高いハードルを越える必要があります。これは、それだけ大きな社会的責任を負うことになるからです。自社の財務状況や、所属する技術者さんの経歴で特定建設業の要件をクリアできるかどうかの判断は、専門的な知識が不可欠です。申請準備を始めてから要件が足りないと判明する事態を避けるためにも、計画段階で専門家にご相談ください。
よくある勘違い!「特定」がないと大きな工事は受けられない?
建設業許可について、非常によくある勘違いが一つあります。それは「一般建設業許可では、請負金額が4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上の大きな工事は受注できない」というものです。結論から申し上げますと、これは正しくありません。一般建設業許可のままでも、請け負う工事の金額自体に上限はありません。
許可の種類と「請負金額」は直接関係ありません
これまで見てきたように、特定建設業許可と一般建設業許可の違いは、あくまで「元請の立場で、下請業者に出せる金額の上限」に関するルールです。発注者からいくらで工事を請け負うか、という点については、法律上の制限はないのです。この点を正しく理解することが、事業の可能性を広げる上でとても重要になります。
少し複雑に感じるかもしれませんので、具体的に「できること」と「できないこと」を整理してみましょう。
許可の種類 | 工事の状況 | できるか、できないか |
---|---|---|
一般建設業許可 | 元請として1億円の工事を受注し、下請には出さず、すべて自社で施工する。 | できます |
一般建設業許可 | 元請として1億円の工事を受注し、3,000万円分を下請業者に発注する。 | できます |
一般建設業許可 | 元請として1億円の工事を受注し、5,000万円分を下請業者に発注する。 | できません(建設業法違反) |
一般建設業許可 | 下請の立場で、元請から1億円の工事を受注する。 | できます |
法律が制限しているのは「下請に出す金額」だけ
上の表からも分かるように、一般建設業許可で制限されるのは、元請として受注した工事のうち、4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上を下請に出す行為だけです。これは建設業法第3条に定められたルールで、下請業者を保護するという目的から設けられています。逆に言えば、下請に出す金額がこの上限未満であったり、すべて自社で施工したりする場合には、元請としての請負金額がたとえ10億円であっても法律上は問題ありません。
下請の立場なら金額の制限は一切なし
また、自社が元請ではなく「下請」や「孫請」として工事に参加する場合は、請負金額がいくらであっても一般建設業許可で全く問題ありません。元請から1億円の工事をそっくり任されたとしても、それは許可のルールとは関係がないのです。
では、どのような場合に特定建設業許可を考えるべきか
このことから、特定建設業許可が必要になるのは、事業が成長し、発注者から直接大規模な工事を受注し、その工事の大部分をさまざまな専門業者である下請をまとめて管理する、いわゆるゼネコンのような役割を担うようになった段階です。自社の技術者や職人を中心に工事を進めていく事業スタイルの場合は、必ずしも特定建設業許可を目指す必要はないとも言えます。
まとめ
「一般建設業許可では大きな仕事ができない」というのは、よくある誤解です。大切なのは、自社が「元請として」「いくら下請に出すか」という点です。このルールを正しく理解すれば、一般建設業許可のままでも事業を大きく成長させることは十分に可能です。会社の事業内容や将来の展望に合わせて、どのタイミングで特定建設業許可の取得を検討すべきか、戦略的に判断することが重要になります。
あなたの会社はどちらが必要?状況に合わせた許可の選び方
これまで特定建設業許可と一般建設業許可の違いについて、金額のルール、許可の条件、そしてよくある誤解を解説してきました。では、これらの情報を基に、ご自身の会社がどちらの許可を取得すべきか、どのように判断すればよいのでしょうか。この章では、具体的な状況に合わせた許可の選び方のヒントをお伝えします。
まずは現状を確認する3つの質問
どちらの許可が必要かを判断するために、まずはご自身の会社の事業内容を3つの質問に当てはめて考えてみてください。
質問 | 回答 |
---|---|
質問1 | あなたの会社の主な工事は「元請」ですか、それとも「下請」ですか? |
質問2 | もし「元請」の場合、受注した工事を下請業者に発注することはありますか? |
質問3 | もし下請に発注する場合、一件の工事で発注する合計金額が4,500万円(建築一式工事は7,000万円)以上になる可能性はありますか? |
もし、質問3の答えが「はい」になる可能性があるのなら、特定建設業許可の取得を検討する必要があります。それ以外の場合は、基本的に一般建設業許可で事業を行うことができます。
ケース別:おすすめの許可タイプ
もう少し具体的に、会社の事業スタイルに合わせたおすすめの許可タイプを見ていきましょう。
一般建設業許可がおすすめのケース
ほとんどの建設業の会社は、まずこちらの一般建設業許可を目指すことになります。
・事業のほとんどが、元請から仕事を受ける「下請」の立場である会社。
・「元請」としてお客様から直接工事を請け負うが、自社の職人さんや技術者で施工する、地域密着型の工務店や専門工事業者のような会社。
・これから初めて建設業許可を取得しようと考えている会社。
まずは一般建設業許可で事業の基盤をしっかりと固め、実績を積んでいくのが現実的な選択です。
特定建設業許可を検討すべきケース
特定建設業許可は、すべての会社に必要なわけではありません。明確な目的と計画がある会社が目指すべき許可です。
・公共工事の入札に参加し、発注者から直接、大規模な工事を受注したいと考えている会社。
・デベロッパーや大手メーカーから元請として工事を請け負い、多くの下請業者を管理する役割を担う会社。
このような会社は、特定建設業許可がなければビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。厳しい要件をクリアする必要はありますが、会社の信用力や受注できる工事の規模を大きく飛躍させるきっかけになります。
将来を見据えた許可選びの視点
許可の選択は、現在の状況だけで決めるものではありません。3年後、5年後に会社がどのようになっていたいか、という未来像から逆算して考えることも大切です。「今は一般で十分だが、将来は元請として大規模な工事に挑戦したい」という目標があるなら、今のうちから特定建設業許可の要件(特に財産要件)をクリアできるような財務体質を目指して経営計画を立てる必要があります。
まとめ
特定と一般、どちらの許可を選ぶべきかという問いに、たった一つの正解はありません。会社の数だけ、最適な答えがあります。大切なのは、自社の現在の立ち位置と、将来目指す姿を明確にすることです。その上で、法律のルールに沿った適切な許可を選択することが、健全な会社経営に繋がります。この許可の選択は、会社の未来を左右する重要な経営判断です。もし判断に迷われたら、ぜひ私たち専門家にご相談ください。あなたの会社のビジョンに最適な道筋を一緒に考えます。
許可取得後の注意点と専門家へ相談するメリット
無事に建設業許可を取得できたとしても、それで終わりではありません。許可は一度取れば永遠に有効なものではなく、その資格を維持するためには、法律で定められた手続きをきちんと行っていく必要があります。この章では、許可取得後に必要な手続きと、それを専門家に任せることの利点について解説します。
許可を維持するための大切な手続き
建設業許可を維持するためには、主に以下の手続きが義務付けられています。これらを怠ると、許可の更新ができなくなったり、罰則の対象になったりする可能性があります。
手続きの種類 | いつまでに行うか | どのような手続きか |
---|---|---|
決算変更届 | 事業年度終了後4か月以内 | 毎年の工事実績や財務状況を報告します。会社の成績表のようなものです。 |
更新申請 | 許可の有効期間が満了する30日前まで | 5年間の許可の有効期間を延長するための手続きです。 |
各種変更届 | 変更があった日から一定期間内 | 会社の役員や本店所在地、専任技術者などに変更があった場合に提出します。 |
毎年の「決算変更届」が特に重要です
中でも特に忘れがちですが重要なのが、毎年事業年度が終わるごとに行う「決算変更届」です。これは建設業法第11条で定められた義務であり、この届出がされていなければ、5年後の更新申請を受け付けてもらうことができません。毎年きちんと提出し、会社の状況を報告し続けることが、許可を維持する基本となります。
特に特定建設業許可で注意すべきこと
一般建設業許可と異なり、特定建設業許可の場合は、許可の更新時だけでなく「毎年の決算」においても、第3章で解説した厳しい財産要件(純資産4,000万円以上など)を維持し続ける必要があります。もし、ある年の決算でこの基準を下回ってしまうと、許可を維持できなくなる可能性があります。そのため、特定建設業許可を持つ会社は、日頃から会社の財務状況に注意を払うことが求められます。
専門家へ相談する3つのメリット
これらの手続きは、ご自身で行うことも不可能ではありません。しかし、日々の業務で忙しい経営者様が、毎年・5年ごとの手続きを正確に管理し続けるのは大きな負担です。専門家である行政書士に相談することには、次のような利点があります。
メリット1:手続きの手間と時間から解放される
複雑な書類の作成や役所とのやり取りをすべて任せることができます。これにより、経営者様は手続きのわずらわしさから解放され、営業活動や現場の管理といった本来の業務に集中できます。
メリット2:うっかりミスによる失効リスクを防げる
専門家が提出期限などを管理するため「決算変更届を出し忘れて更新できなかった」というような、うっかりミスを防ぐことができます。法改正があった場合にも、新しいルールに沿って適切に対応するため安心です。
メリット3:許可の維持だけでなく経営の相談もできる
許可の維持管理を任せることで、会社の状況を継続的に把握している専門家が身近にいることになります。公共工事の入札に参加するための経営事項審査(経審)を受けたい、あるいは事業を拡大したいといった、次のステップに関する相談相手としても活用できます。
まとめ
建設業許可は、特定と一般の違いを正しく理解し、自社の状況に合った許可を選ぶことがスタートです。そして、取得した後も、法律に定められた義務を果たし、許可を適切に維持していくことが会社の信用を守り、事業を継続させるために不可欠です。これらのプロセスには専門的な知識が求められる場面が少なくありません。私たちは、許可の申請代行はもちろん、取得後の手続き管理や、その先の経営に関するご相談まで、あなたの会社の成長を長期的に支えるパートナーでありたいと考えています。建設業許可に関するお悩みは、どんな些細なことでも、ぜひ運営サイト「mkensetu.jp」へお気軽にご相談ください。