
建設業の「現場専任」とは?わかりやすく解説【経営事項審査の評価も】
技術者の現場専任とは
建設業法では、一定の条件を満たす工事現場に、主任技術者または監理技術者を配置することを義務付けています。この配置された技術者が、工事期間中は他の現場を兼任せず、その現場に集中して業務をおこなうことが「現場専任」です。
建設業法では、工事の品質や安全を確保するため、工事現場ごとに適切な技術者が配置されていることを非常に重要視しています。現場専任は、この技術者が工事全体をしっかりと管理し、責任を持てるようにするための制度です。
専任技術者の配置が必要な理由
現場に専任の技術者を配置する主な理由は、以下の通りです。
品質と安全の確保
工事現場では、予期せぬトラブルや変更が日々発生します。専任の技術者がいることで、これらの問題に迅速に対応し、工事の品質を保ち、安全な作業環境を維持できます。
法令遵守
建設業法第26条には、工事の規模や種類に応じて、専任の主任技術者または監理技術者を配置する義務が定められています。これを守ることは、建設業許可を維持する上で不可欠です。
発注者との信頼関係
発注者(お客様)は、工事を安心して任せられる業者を選びたいと考えています。専任の技術者がいることは、工事管理体制がしっかりしていることの証となり、発注者からの信頼を得る上で重要な要素となります。
専任技術者と営業所の専任技術者の違い
混同されやすい言葉に「営業所の専任技術者」というものがあります。この2つは全く異なるものです。
現場専任の技術者 | 営業所の専任技術者 | |
役割 | 工事現場の施工管理をおこないます。 | 契約締結などの営業所の業務をおこないます。 |
配置場所 | 工事現場 | 建設業許可を取得している営業所 |
兼任の可否 | 原則として他の現場との兼任はできません。 | 原則として他の業務との兼任はできません。 |
要件 | 主任技術者または監理技術者の資格が必要です。 | 許可を受けたい業種に応じた要件を満たす必要があります。 |
このように、現場の技術者と営業所の技術者は、その役割、配置される場所、兼任の可否が明確に異なります。
まとめ
技術者の現場専任とは、工事の品質と安全を確保するために、特定の工事現場に技術者を常駐させる制度です。これは、建設業法で定められた重要なルールであり、企業が信頼を得て事業を継続していく上でも欠かせない要素です。
専任が必要になるのはどんなときか
技術者の現場専任が求められるのは、建設業法によって定められた特定の条件を満たす工事です。この制度は、工事の規模が大きく、より高度な施工管理が必要になる現場において、品質や安全を確実に守るために設けられています。
建設業法第26条第3項では、以下のいずれかの条件に該当する工事について、配置される主任技術者または監理技術者は、工事現場ごとに専任でなければならないと規定されています。
専任技術者が必要な工事の条件
技術者の専任が義務付けられるのは、以下の2つの条件を両方満たす工事です。
条件 | 内容 |
1. 工事の請負金額 | 一般の建設工事: 4,500万円以上 建築一式工事: 9,000万円以上 ※令和7年2月1日より金額が改正されました。 |
2. 工事の公共性 | 「公共性のある施設もしくは工作物」または「多数の者が利用する施設もしくは工作物」に関する重要な工事であること。 |
これらの条件を満たす工事は、いわゆる個人住宅や小規模な長屋などを除き、ほとんどの公共工事や民間工事が該当します。
元請けと下請けの場合
専任技術者の配置義務は、元請け・下請けに関わらず、上記の条件を満たす工事を請け負ったすべての建設業者に適用されます。
元請けの場合
元請け業者が、下請契約の総額が特定建設業の要件(5,000万円以上、建築一式工事は8,000万円以上)に該当する工事を請け負う場合、監理技術者を配置する必要があります。この場合、工事の請負金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上であれば、その監理技術者は必ず専任でなければなりません。
下請けの場合
下請け業者が、請け負った工事の金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上となる場合、主任技術者を専任で配置する必要があります。
まとめ
技術者の現場専任が必要になるのは、工事の請負金額が一定額以上であり、かつ公共性の高い工事の場合です。この要件は、建設業法第26条によって定められており、元請け・下請けの立場に関係なく、すべての建設業者が遵守しなければならないルールです。このような複雑な条件を正確に判断することが、法令遵守の第一歩となります。
専任が必要な工事の条件
専任の主任技術者または監理技術者の配置が必要となる工事の条件は、建設業法第26条第3項で厳密に定められています。これは、工事の規模や公共性に応じて、現場での技術管理をより厳格におこなうことを目的としています。
専任の技術者が必要になるのは、次のいずれかの条件に該当する工事です。
1. 請負代金の額
工事の請負代金の額が、以下の金額以上である場合、技術者の専任が必要となります。
- 建築一式工事:9,000万円以上
- その他の工事:4,500万円以上
この金額は、元請け・下請けに関わらず、それぞれの契約金額を基準とします。たとえば、元請けとして建築一式工事を9,000万円以上で請け負った場合も、下請けとして4,500万円以上の内装工事を請け負った場合も、専任の技術者を配置する義務が生じます。
2. 公共性のある施設もしくは工作物に関する重要な工事
公共工事や、多数の人が利用するような重要な施設に関する工事も、専任技術者の配置が義務付けられることがあります。具体的には、以下のような工事が該当します。
- 国や地方公共団体が発注する工事
- 学校、病院、百貨店、事務所ビルなど、不特定多数の人が利用する建物に関する工事
- 道路、橋梁、鉄道、電気通信施設など、社会の基盤となるインフラに関する工事
これらの工事は、工事のミスが社会生活に大きな影響を与える可能性があるため、より厳格な管理が求められます。
専任が必要ないケース
逆に、以下のような工事では、請負代金が上記の金額以上であっても、専任の技術者は必要ありません。
- 戸建て住宅や長屋など、専ら居住の用に供する建物に関する工事
- 個人所有の建物や、小規模な修繕工事など
ただし、これらの工事であっても、工事の請負代金が特定建設業の要件(建築一式工事は8,000万円以上、その他の工事は5,000万円以上)に該当し、下請けに出す場合は、特定建設業許可の要件として、監理技術者の配置が求められます。
まとめ
専任の技術者を配置する義務がある工事は、請負代金の額と工事の公共性という2つの側面から判断されます。特に、大規模な工事や社会的な影響が大きい工事では、専任の技術者を配置することで、工事の品質と安全を確保することが法律で求められているのです。これらの要件を正しく理解し、適切な技術者を配置することは、法令違反を防ぐためにも非常に重要です。
専任技術者の役割と仕事内容
専任の主任技術者や監理技術者が、工事現場でどのような役割を担い、どのような仕事をおこなうのかは、建設業法第26条に定められています。専任の技術者は、工事が法律や契約通りに、そして安全に進められるように監督する、いわば「工事現場の司令塔」です。
主な役割と仕事内容
専任技術者の主な仕事は、以下の4つに大別されます。
1. 施工計画の作成と管理
工事全体をスムーズに進めるための計画を立てます。具体的には、工事のスケジュール、使用する資材、作業手順などを詳細に定めます。この計画に基づいて、日々の作業が滞りなく進むように管理をおこないます。
2. 工事の品質管理
出来上がった構造物が、設計図書や仕様書通りの品質を満たしているかを常にチェックします。たとえば、コンクリートの強度や鉄骨の精度など、工事の各段階で品質に問題がないかを確認します。
3. 安全管理
工事現場での事故を未然に防ぐため、作業員の安全を確保します。安全な作業方法の指示、危険箇所のチェック、安全設備の設置状況の確認など、現場の安全を確保するためのあらゆる対策を講じます。
4. 予算管理と原価管理
工事が予算内で収まるように、資材費や人件費などのコストを管理します。計画と実際の費用を比較し、無駄なコストが発生していないかを常に監視します。
現場代理人との関係性
現場代理人とは、発注者との契約内容の変更や、請負代金の請求・受領などをおこなう権限を持つ、工事現場の代表者です。専任の技術者と現場代理人は、同じ人物が兼務することが一般的です。これにより、現場の技術的な判断と、契約上の手続きを円滑に進めることができます。
ただし、現場代理人は法律上必ず配置しなければならないものではなく、工事の規模や契約内容によって異なります。一方、専任技術者は、前章でお話しした条件を満たす工事では、法律で配置が義務付けられています。
まとめ
専任技術者は、工事現場における品質、安全、進捗、コストを管理する責任を負います。その役割は非常に幅広く、現場の成功を左右する重要なポジションです。法律で定められたこの役割をしっかりと理解し、適切に業務を遂行することが、発注者からの信頼獲得や、建設業としての評価を高める上で不可欠です。
専任技術者と主任技術者の違い
建設工事の現場には、「主任技術者」と「監理技術者」という2つの重要な役割があります。そして、工事の規模や種類によっては、これらの技術者が「専任」でなければならないというルールがあります。ここでは、この3つの言葉の違いをわかりやすく解説します。
主任技術者とは
主任技術者は、すべての建設工事現場に配置が義務付けられている技術者です。その主な役割は、工事の施工管理をおこなうことです。具体的には、施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理など、工事が円滑かつ安全に進むための監督業務を担います。
この主任技術者は、その工事の規模や種類に応じて、「専任」であるかどうかが決まります。
監理技術者とは
監理技術者は、特定建設業者が、発注者から直接請け負った工事のうち、下請け契約の合計額が特定建設業の要件(建築一式工事は8,000万円以上、その他の工事は5,000万円以上)に該当する場合に配置しなければならない技術者です。
監理技術者は、主任技術者の業務に加えて、下請け業者を指導・監督する役割も担います。つまり、元請けとして工事全体を統括する、より責任の重い立場です。
専任技術者とは
「専任技術者」という言葉は、主任技術者または監理技術者が、特定の工事期間中、その工事現場に常駐し、他の工事を兼任しない状態を指す総称です。これは、特定の工事の請負金額が一定額以上である場合に義務付けられます。
つまり、「主任技術者」や「監理技術者」は「何をする人か」という役割を指す言葉であるのに対し、「専任技術者」は「どのように配置されるべきか」という状態を指す言葉になります。
主任技術者 | 監理技術者 | |
配置義務 | すべての工事に必要です。 | 特定建設業者が元請けで、下請け総額が特定建設業の要件以上の場合に必要です。 |
役割 | 施工計画、品質管理、安全管理など | 主任技術者の役割に加え、下請け業者への指導・監督 |
専任の要否 | 一定額以上の工事では専任が必要です。 | 特定建設業の要件を満たす工事では専任が必要です。 |
まとめ
主任技術者、監理技術者、そして専任技術者は、それぞれ異なる意味を持っています。主任技術者と監理技術者は現場で働く人の役割であり、専任技術者はその働き方が「専任」であるという状態を指します。これらの言葉を正しく理解することは、適切な人員配置をおこない、法律を遵守するために不可欠です。
経営事項審査での評価
技術者の配置状況は、建設業者が公共工事の入札に参加する際に必ず受ける「経営事項審査(経審)」において、重要な評価項目の一つです。
経審では、工事を適正におこなう能力があるかどうかを判断するため、技術力や経営状況などいくつかの項目を点数化します。このうち、技術力に関する項目の一つとして、「技術職員数」が評価の対象となります。専任技術者の配置は、この技術職員の評価にも関係してきます。
経審における技術職員の評価
経営事項審査では、建設会社が抱える技術者の人数に応じて、「技術力評点(Z)」という点数が加算されます。この点数は、会社の総合的な技術力を測るための重要な指標です。
経審で評価される技術職員とは、建設業法に定める「許可を受けるための営業所の専任技術者」と「工事現場の主任技術者または監理技術者」の両方を指します。つまり、現場に専任で配置されている技術者も、評価の対象となります。
評価される技術者の条件
技術職員として認められるためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
1. 建設業法に定める資格者
一級・二級の施工管理技士、技術士、建築士など、建設業法で定められた資格を持っている技術者です。資格の種類や等級によって、評価される点数が異なります。
2. 実務経験者
特定の学歴(指定学科の卒業)と、一定期間の実務経験がある技術者です。この場合も、経験年数などによって評価が変わります。
これらの技術者が、雇用保険や健康保険に加入していることが、評価の前提となります。また、現場に専任で配置されている技術者は、その事実を証明する書類を提出する必要があります。
まとめ
技術者の現場専任は、ただ法律を守るためだけではなく、経営事項審査において会社の技術力をアピールするための重要な要素です。適切な資格を持つ技術者を、法律で定められた通りに配置し、その事実を証明することで、経審の点数を高め、公共工事の受注機会を増やすことにつながります。
技術者の現場専任における注意点
技術者の現場専任は、工事の品質や安全を確保するための重要なルールですが、その運用にはいくつかの注意点があります。ルールを正しく理解していないと、建設業法違反とみなされ、行政指導や罰則の対象となる可能性もあります。
1. 兼任が認められるケースと例外
原則として、専任の技術者は他の工事を兼任できません。しかし、一定の条件下では例外的に兼任が認められることがあります。
兼任が認められる主なケース
- 工事現場が近接しており、技術者が常時連絡を取れる体制が整っている場合。
- 技術者が、工事の施工場所が同一の敷地内、または隣接する場所で、複数種類の工事(例えば建築と設備工事)を兼任する場合。
これらの兼任は、工事の実態や技術者の管理能力を総合的に判断して認められるため、事前に許可行政庁に確認することが重要です。
2. 技術者の配置義務違反に注意
専任技術者の配置が必要な工事で、適切な技術者が配置されていなかったり、他の工事を兼任していたりすると、建設業法違反となります。
たとえば、本来専任でなければならない工事に、他の現場と掛け持ちしている技術者を配置していた場合、施工体制の不備とみなされます。これは、建設業法第28条の監督処分や、営業停止などの行政処分につながる可能性があります。
3. 書類による証明の重要性
技術者の配置状況は、発注者や行政庁から確認を求められることがあります。そのため、技術者の資格、雇用関係、工事現場への常駐状況などを証明する書類を、常に適切に保管しておく必要があります。
特に、経営事項審査では、技術者の配置状況が厳しくチェックされます。社会保険の加入状況や、工事の実績を証明する書類など、日頃から正確な情報を管理することが求められます。
まとめ
技術者の現場専任は、厳格なルールに基づく制度であり、安易な兼任や配置義務の怠りは、法令違反となります。ルールを正しく理解し、兼任が認められる例外的なケースについても、事前に確認をおこなうことが重要です。適切な技術者を配置し、その事実を証明できる体制を整えておくことが、企業の信頼性を高める上で不可欠です。
まとめ
本記事では、建設業における「技術者の現場専任」について解説してきました。
技術者の現場専任とは、特定の工事現場に、工事期間中、他の現場を兼任することなく常駐する技術者のことです。これは、工事の品質と安全を確保するために、建設業法によって定められた重要なルールです。
専任技術者が必要となる工事の条件
専任技術者の配置が義務付けられるのは、主に以下の条件をすべて満たす工事です。
- 請負金額:建築一式工事で9,000万円以上、その他の工事で4,500万円以上
- 公共性:公共性のある施設や、多数の人が利用する重要な工事
これらの要件は、元請け・下請けに関わらず、すべての建設業者が遵守しなければなりません。
専任技術者の重要な役割
専任技術者は、工事現場の「司令塔」として、施工計画の作成、品質管理、安全管理、予算管理など、幅広い役割を担います。これらの業務を責任もって遂行することで、工事の成功だけでなく、会社の信頼性向上にも貢献します。
経営事項審査での評価
専任技術者の配置は、経営事項審査(経審)において、会社の技術力(Z)を評価する重要な要素です。適切な資格を持つ技術者を配置し、その事実を証明することで、経審の点数を高め、公共工事の受注機会を増やすことにつながります。
技術者の現場専任は、ただ法律を守るためだけではなく、会社全体の信用や評価を高めるための基盤となる制度です。このルールを正しく理解し、適切に運用することが、建設業界で事業を継続していく上で非常に重要です。