熊本建設業経営戦略センター(技術士/一級建築士/行政書士)

令和8年熊本地震 | 罹災証明・応急危険度判定・被災建築物の解体

2026年8月1日|業界動向|熊本建設業経営戦略センター(技術士・一級建築士・土地家屋調査士・行政書士 村上事務所)

この記事の要点

  • 自費解体の費用償還には、解体前・中・後の写真、契約書・見積書・領収書、そしてマニフェスト伝票が要る。マニフェストがなければ処分料は償還されない。書類を残すのは施主ではなく、工事を請けた会社である。
  • 本当の論点は「急ぐか待つか」ではない。公費解体の対象は原則として全壊で、半壊まで広がるかは特定非常災害の指定次第。2026年8月1日時点で決まっていない。決まっていない以上、どちらに転んでもよいように書類を揃えておくことだけが正解になる。
  • 損害割合が29%か31%かで、被災者生活再建支援金は100万円変わる。着工前の写真は施工管理の書類ではなく、施主の財産を守る書類である。この一点を現場に徹底させる。

2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1、最大震度7の地震が発生しました。気象庁は「令和8年熊本地震」と命名しています。同日付で災害救助法が21市町村に適用されました。

発災から4日。現場ではすでに「とにかく早く壊してほしい」という声が上がっているはずです。応じたくなります。ただ、順番を間違えると、施主が受け取れるはずだった数百万円が消えます。

この記事は被災者向けの手続き解説ではありません。解体と応急修理を請け負う会社が、着工前の30分で何をしておくべきかという話です。

災害対応は、立替が先に来ます

応急復旧も公費解体も、代金の入金は工事完了後です。人工と重機と処分費は先に出ていきます。公費解体は精算までさらに時間がかかります。売掛債権の早期資金化は借入ではないため、負債を増やさずに手元資金を厚くできます。→ 建設業のファクタリング活用について

いま熊本で動いている手続きと、その期限

7月28日付で災害救助法が適用されたのは、熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市、美里町、大津町、菊陽町、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町、西原村の21市町村です。

罹災証明書の受付は始まっています。熊本市は7月30日から窓口とマイナポータルで、宇土市も同日から、宇城市は本庁が7月31日から。期限が決まっているものを先に押さえます。

手続き期限(熊本市の例)金額の目安
住宅の応急修理の申込み令和8年10月27日全壊〜半壊 757,000円以内/準半壊 367,000円以内
罹災証明書の申請令和8年10月31日
被災者生活再建支援金(基礎)発災から13か月以内全壊・解体 100万円/大規模半壊 50万円
被災者生活再建支援金(加算)発災から37か月以内建設・購入 200万円/補修 100万円/賃借 50万円
建物滅失登記滅失の日から1か月以内
期限は熊本市の公表値。他市町村は各自治体にご確認ください。支援金は世帯人数1人の場合3/4の額。

応急修理の申込期限が10月27日、罹災証明が10月31日。今から3か月弱ですが、被害認定調査には順番待ちが出ます。

赤紙は「全壊」ではない──判定と認定は別の制度

宇城市と氷川町では7月29日から被災建築物応急危険度判定が始まりました。赤(危険)、黄(要注意)、緑(調査済)のステッカーを貼るものです。ここで施主から必ず聞かれます。「赤紙が貼られたから全壊ですよね」。違います。

応急危険度判定は、余震で倒れて人が死なないようにするための緊急の安全判定です。罹災証明のもとになる住家被害認定は、災害対策基本法第90条の2に基づき市町村が行う財産的な損害割合の認定です。目的も実施者も根拠も別で、赤紙でも認定は半壊のことがあり、緑でも内部の損傷で中規模半壊になることがあります。この違いが、そのまま金額の差になります。

認定区分損害割合基礎支援金加算支援金(建設・購入)
全壊50%以上100万円200万円
大規模半壊40%以上50%未満50万円200万円
中規模半壊30%以上40%未満なし100万円
半壊20%以上30%未満なしなし
準半壊10%以上20%未満なしなし
内閣府「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和8年6月)および被災者生活再建支援制度の概要より。

損害割合29%なら半壊で支援金ゼロ。31%なら中規模半壊で100万円。2ポイントの差が100万円です。40%と50%の境目では、さらに150万円動きます。

そして第1次調査は外観目視だけで、内部に入りません。内部の被害が大きい住家ほど実態より軽く出ます。被災者が申請すれば内部立入りを伴う第2次調査を受けられ、判定後の再調査も申し出ることができます。

▼ 詳しい方向けの補足:一次調査・二次調査・再調査の使い分け

第1次調査は全被災住家が対象で、外観の損傷、傾斜計測、外観から見える部位の損傷を見ます。第2次調査は被災者の申請により、原則として申請者立会いのもとで内部立入調査を行い、全部位を詳細に見ます。二次調査は「不服申立て」ではなく最初から用意された制度です。

再調査はこれと別で、結果に納得できない場合の申出です。運用指針では、依頼内容を精査して必要と考えられる点があれば再調査を行い、結果を理由とともに示すとされています。一次調査の結果を見て二次調査を申請し、それでも実態と合わなければ再調査、という順になります。

「すぐ壊してほしい」に応じる前に残す4点

ここが本題です。

被災家屋の解体には、市町村が費用を負担する公費解体と、所有者が先に自費で解体して後から費用の償還を受ける自費解体(先行解体)があります。環境省の公費解体・撤去マニュアルでは、公費解体の対象は原則として全壊家屋で、半壊まで広がるのは特定非常災害に指定された場合です。

令和8年熊本地震について、公費解体の受付時期も対象範囲も、2026年8月1日時点で公表されていません。特定非常災害の指定も確認できていません。いま解体を請け負う会社は、その解体が後で公費解体扱いになるのか、償還対象になるのか、どちらでもないのかを知らないまま着工することになります。

正しい行動はひとつです。どちらに転んでも償還を請求できる状態にしてから壊す。必要なのは次の4点です。

残すもの誰が用意するかないとどうなるか
解体前・解体中・解体後の写真施工会社被害の存在と施工内容を証明できず、償還の判断ができない
契約書・見積書・領収書施工会社と施主金額の根拠がなく、基準額との照合ができない
マニフェスト伝票施工会社処分料が償還対象から外れる
罹災証明書施主(市町村が交付)被害程度が確定せず、対象要件を満たせない
環境省「公費解体・撤去マニュアル 第2版」の費用償還時の確認事項をもとに整理。

4点のうち3点は、施主ではなく施工会社の側にあります。ここが今回いちばん申し上げたい点です。施主の償還額を実際に左右しているのは、工事を請けた会社の書類管理です。

特にマニフェスト伝票です。処分料は解体費の中で小さくない比率を占めます。マニフェストがないと、その部分がまるごと自己負担になります。急ぎの現場で、いつもの業者に口頭で頼んで運んでもらう。平時なら回るやり方が、ここでは施主の損失になります。

相続が絡む建物にも注意が要ります。マニュアルでは、相続等で所有者が複数いる場合は全員の同意が必要とされています。同意のないまま壊すと、償還どころか後の紛争になります。

一般に言われている対応が、ここでは損になる

災害後によく言われるのは「早く片付ける」「早く壊して次に進む」です。生活の再建としては正しいのですが、順序を間違えると損をします。

片付けは被害の証拠を消し、解体は建物そのものを消します。被害認定調査が済む前に壊すと、認定が受けられません。認定がなければ支援金も応急修理も公費解体も入口が閉じます。壊す前に写真を撮り、罹災証明を申請しておく必要があります。

逆に「公費解体の発表を待つ」も正解ではありません。待つ間に建物が危険になることもあります。書類を揃えたうえで必要な工事は進める。これが唯一の解です。

解体の後にもうひとつある──滅失登記

建物を取り壊したら建物滅失登記が必要です。不動産登記法上、滅失の日から1か月以内に申請する義務があります。解体業者に任せきりでこの登記が抜けている例は、平時でも多くあります。

災害時には救済があります。令和6年能登半島地震では、金沢地方法務局が登記官の職権で滅失登記を行う取扱いを実施しました。対象は、自然倒壊した建物、公費で解体された建物、そして所有者が自費で解体し費用償還申請に該当する建物です。

ここで書類の話がもう一度効きます。自費解体で職権滅失登記に拾われるのは「費用償還申請に該当する」ものだけです。写真もマニフェストもなく償還申請ができない解体は、償還を受けられないうえに滅失登記も自分で申請することになります。書類の有無が、お金と登記の両方に効きます。

▼ 詳しい方向けの補足:職権滅失登記で拾われないもの

能登の取扱いでは、附属建物がある場合に一方の建物のみを解体したケースは対象外とされました。母屋と倉庫、店舗と車庫のように登記上ひとつの建物として扱われているものの一部だけを壊す場合は、通常どおり所有者側での申請が必要です。

熊本で同様の取扱いが行われるかは本稿執筆時点で公表されていませんが、過去の運用を見る限り、公費解体の枠組みが動き出した後に法務局から案内が出る可能性が高いと考えられます。解体を請け負う際は、登記簿上の建物の構成を先に確認しておくと後の手間が減ります。

今週やるべき実務3点

  1. 現場代理人に、着工前撮影を業務手順として指示する。 建物の全景を4面から遠景で、被害箇所ごとに遠景と近景をセットで。ブルーシートをかける前、瓦礫を動かす前に撮ります。撮影日が分かる形で保存し、施主にも同じデータを渡してください。施工管理写真とは別物として扱います。
  2. 現場担当に、マニフェスト伝票の運用を平時どおり徹底させる。 急ぎでも例外を作らない。処分料が償還されるかどうかがここで決まります。廃棄物処理の基本は廃棄物処理法と建設業の実務もあわせてご確認ください。
  3. 営業・見積担当に、着工前の3項目確認をルール化させる。 ①罹災証明を申請済みか ②被害認定調査は済んだか ③所有者は一人か。ひとつでも未了なら、危険が切迫していない限り解体には入らない。施主説明用の一枚紙を作っておくと現場が楽になります。

よくあるご質問

施主から「赤紙が貼られたので全壊です」と言われました。どう答えるべきですか。

応急危険度判定と、罹災証明のもとになる住家被害認定は別の制度です。赤い判定は余震による二次災害を防ぐための緊急の安全判定で、財産的な損害割合を認定したものではありません。罹災証明の申請と被害認定調査を経て初めて全壊かどうかが決まります。赤紙を理由に解体を急ぐと認定を受けられなくなる可能性がある、とお伝えください。

公費解体の発表を待ってから着工したほうがよいですか。

待つ必要はありません。ただし、写真、契約書・見積書・領収書、マニフェスト伝票を揃え、罹災証明を申請済みにしてから着工してください。公費解体の対象範囲は特定非常災害の指定によって変わり、2026年8月1日時点で公表されていません。書類が揃っていれば、後から対象が広がった場合に自費解体の費用償還を請求できます。揃っていなければ請求できません。

被害認定が思ったより軽く出ました。もう変えられませんか。

変えられる可能性があります。第1次調査は外観目視のみで内部に立ち入りません。被災者が申請すれば内部立入りを伴う第2次調査を受けられます。不服申立てではなく制度として用意された調査です。結果に納得できない場合は再調査も申し出られます。損害割合が10ポイント動けば支援金は100万円単位で変わります。

解体後の滅失登記は、施主にやってもらえばよいですか。

申請義務は所有者にありますが、滅失の日から1か月以内という期限があります。解体を請けた会社が一言添えるだけで施主の不利益をひとつ防げます。なお災害時には法務局が職権で滅失登記を行う取扱いが実施されることがありますが、自費解体については費用償還申請に該当するものが対象です。書類が揃っていない解体は、この救済からも外れます。

結び

今回の地震で、熊本の建設会社は復旧の担い手であると同時に、多くが被災者でもあります。目の前の「早く何とかしてほしい」に応えたい気持ちは当然です。

そのうえで、着工前の30分を確保してください。写真を撮り、罹災証明の申請を確認し、マニフェストの段取りを組む。この30分が、施主にとっては100万円単位の差になり、御社にとっては後の紛争を防ぐ記録になります。災害時の書類は、施工の証明ではなく、施主の財産の証明です。

本記事は公表資料をもとに2026年8月1日時点の情報を整理した一般的な解説です。令和8年熊本地震への各制度の適用は日々更新されており、公費解体の対象範囲・受付時期、特定非常災害の指定、被災者生活再建支援法の適用については本稿執筆時点で未公表の事項があります。実際の手続きにあたっては、必ずお住まいの市町村および所管官庁の最新の案内をご確認ください。金額・期限は熊本市の公表値を例示したもので、他の市町村では異なる場合があります。なお、契約上の紛争や損害賠償に関する個別の判断は弁護士の、税務上の個別の申告・手続きは税理士の業務領域です。本記事に基づく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。

建設・不動産の経営者様へ:次の一手をお選びください

災害対応は、入金より先に支払いが来ます

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