BIM/CIMは「作る」から「引き継ぐ」へ―国交省のデータ連携方針で中小建設業が守るべき利益
BIM/CIMは「作る」から「引き継ぐ」へ―国交省のデータ連携方針で中小建設業が守るべき利益
2026年7月14日、国土交通省が直轄土木のBIM/CIMについて、設計から施工など工程をまたぐデータ連携を重視する方針が業界紙で報じられました。焦点は、完成した3次元モデルをそのまま渡すだけではなく、施工段階で加工・編集できる設計データを、後工程へ使える形で引き継ぐことです。1
これは単なるデジタル化のニュースではありません。地場の中小建設業にとっては、「使えないモデルを受け取り、自社負担で作り直す」損失を防げるか、そしてモデルの追加・修正・照査・引継ぎに必要な人件費を適正に回収できるかという、粗利益に直結する問題です。
国土交通省の2026年3月版実施方針は、プロセス間の連携では機械判読可能なデータを共有・伝達することを基本とし、契約後は発注者が設計図書の作成根拠となった情報を説明したうえで、受注者が希望する電子データを含む参考資料を貸与するとしています。2 本稿では、熊本の中小建設業がこの変化を受注拡大と利益防衛へつなげるための実務を整理します。
経営者が最初に押さえるべき結論
BIM/CIM対応の勝負は、高価なソフトを所有しているかどうかだけでは決まりません。重要なのは、受領したデータの「使える・使えない」を契約直後に判定し、不足作業を協議・見積りへ落とし込む管理能力です。
| 経営課題 | 放置した場合の損失 | 今回整備すべき仕組み |
|---|---|---|
| 設計データの受領 | 施工用データの再作成、着手遅延 | 契約後7日以内の受領データ確認 |
| 作業範囲の確認 | 修正・分割・属性付与の無償対応 | 目的、範囲、詳細度、形式を文書化 |
| 費用計上 | BIM/CIM担当者の工数が原価へ埋没 | 国交省の見積書ひな形で人工を積上げ |
| 責任分界 | 2次元図面と3次元モデルの不整合責任が曖昧 | 正式図書、参考資料、更新主体を明確化 |
| 引継ぎ | 次工程でモデルが使われず再作成 | 引継書とオリジナルデータをセット管理 |
結論として、経営者が今すぐ作るべきものは「BIM/CIM導入計画」だけではありません。より優先度が高いのは、データ受領チェックリスト、事前協議記録、見積工数表、引継書の社内標準です。
何が変わるのか―「完成モデル」より「後工程で使えるデータ」
従来のBIM/CIMでは、3次元モデルを作成し、設計・施工の可視化や合意形成へ使うことが主な関心になりがちでした。しかし、モデルを受け取っても現場条件の変化を反映できない、施工用データへ変換できない、元データがなく編集できないといった問題があれば、施工者は結局モデルを作り直すことになります。
国交省の実施方針は、設計から施工へ必要なデータを必要な形で引き継ぐため、機械判読可能なデータの共有・伝達を基本にしています。同方針の解説では、IFCやJ-LandXMLを共通フォーマットの例として挙げ、土工モデルではオリジナルデータに加え、中心線形と横断形状をJ-LandXMLで出力したデータを納品する考え方を示しています。2
重要なのは、画面上で3次元に見えることではなく、施工者が後工程で再利用・加工できる構造を持っていることです。
ここで注意すべきは、「すべてを単一形式へ変換すればよい」という話ではない点です。ソフト固有のオリジナルデータ、共通フォーマット、2次元図面、属性情報、座標系などにはそれぞれ役割があります。受注者は、実際に行う施工、数量算出、出来形管理、ICT建機への入力など、利用目的から逆算して必要データを確認する必要があります。
中小建設業の利益を削る「4つの見えない原価」
1. 元データ不足によるモデル再作成
PDF図面や閲覧専用データしか渡されず、編集可能な元データがなければ、線形や横断、構造物形状を再入力する作業が発生します。担当者の数日分の工数だけでなく、施工計画や協議の開始も遅れます。これを現場経費の中で吸収すれば、完成工事高が同じでも粗利益は確実に下がります。
契約後は、発注者から設計図書作成の基となった情報の説明を受け、希望する参考資料の貸与を求めることが実施方針に明記されています。2 したがって、受領資料に不足があるときは、まず「何がないか」「何に使うか」「不足するとどの作業が増えるか」を整理して協議することが重要です。
2. 詳細度・範囲・属性の不一致
受領したモデルが存在しても、施工に必要な部分の詳細度が低い、構造物の分割単位が合わない、属性情報が不足している、座標が一致しない場合があります。国交省の見積り資料は、事前協議で決めた作成目的、作成範囲、詳細度、ファイル形式に沿っているか、座標や離れに不整合がないかを照査する考え方を示しています。3
「モデルあり」と「そのまま施工で使える」は同義ではありません。受領時の照査を省くと、工期の厳しい段階で不整合が見つかり、修正費を請求しにくくなります。
3. 修正・分割・照査工数の計上漏れ
国交省の見積書ひな形では、詳細設計段階の3次元モデルを施工で活用することを基本としつつ、推奨項目の実施に必要なモデルの追加・修正・分割は、監督職員との協議のうえ人工積上げで費用計上する考え方が示されています。また、3次元モデルを新規作成する場合は「3次元モデルの作成」、モデル照査に必要な人件費も計上対象として整理されています。3
つまり、現場担当者が夜間や空き時間に行ったデータ調整を「ICT対応だから仕方がない」と無償化すべきではありません。作業前に目的と成果物を確認し、担当者、職種、予定人工、使用データ、納品形式を見積りへ反映させる必要があります。
4. 点群・ソフト費の二重計上と誤計上
費用は何でもBIM/CIM見積りへ入れられるわけではありません。国交省資料では、汎用的に使えるソフトウェアやPCはBIM/CIM費用として計上せず、情報共有システムの費用も原則として見積りへ含めないとしています。一方、必要と認められたXR機材のリース料やシステム管理費は直接経費として計上できる場合があります。3
また、起工測量やICT活用工事ですでに点群取得費を計上する場合、BIM/CIM適用工事の見積りへ重ねて含めてはいけません。BIM/CIMの推奨項目を実施するために新たに点群取得が必要な場合に限り、該当費用を整理します。3 適正な利益確保には、計上漏れだけでなく二重計上の防止も不可欠です。
契約後7日以内に行う「データ受領チェック」
以下の確認を現場代理人や監理技術者だけに任せず、積算・工務・BIM/CIM担当の3者で行うと、協議の精度が上がります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 不足時の対応 |
|---|---|---|
| 利用目的 | 可視化、施工計画、数量、ICT建機、出来形など | 目的ごとに必要データを再定義 |
| 正式図書との関係 | 契約図書、参考資料、貸与資料の区分 | 優先順位と責任分界を協議記録へ残す |
| ファイル形式 | オリジナル、IFC、J-LandXML、2次元図面 | 閲覧・編集・変換テストを行う |
| 座標・単位 | 座標参照系、標高、原点、単位 | 測量成果・現地基準点と照合 |
| モデル範囲 | 対象工種、構造物、仮設、周辺地形 | 不足範囲の作成主体と費用を協議 |
| 詳細度 | 施工や干渉確認に必要な精度があるか | 追加・修正・分割の人工を算定 |
| 属性情報 | オブジェクト識別、材料、規格、数量との対応 | 必要最小限の属性項目を合意 |
| 更新履歴 | 版番号、作成日、作成者、変更内容 | 最新版の所在と更新責任者を確定 |
| 引継ぎ | 3次元モデル作成引継書の有無 | 引継書作成と費用計上を確認 |
データを受け取ったら、ファイル名の一覧を作るだけで終わらせず、実際に開けるか、編集できるか、座標が合うかを試してください。国交省は、3次元モデルが作成されている場合に「3次元モデル作成引継書シート」を活用する考え方を示しています。2 見積り資料では、この引継書作成に関わる人件費を「BIM/CIM実施報告書の作成」に含めて計上できると整理しています。3
粗利益を守る見積りの作り方
BIM/CIM作業を一式計上すると、発注者は金額の妥当性を判断しにくく、協議も長引きます。見積りは少なくとも「誰が、何を、何のために、何日行うか」まで分解してください。
たとえば、設計モデルを施工計画へ使う場合は、受領データ確認、形式変換、必要範囲の追加・修正、属性確認、統合、照査、協議資料作成、実施報告、引継書作成に分けます。外注する場合でも、外注見積りをそのまま転記せず、社内の管理・照査工数を別途把握することが重要です。
国交省の説明資料では、BIM/CIM適用工事の3次元モデル作成等の費用は、契約後に受注者が見積りを提出し、契約変更の対象とする運用が整理されています。また、橋梁、河川構造物、道路の見積書ひな形が示され、その他工種はこれらを参考に作成する考え方です。3
| 見積区分 | 主な作業 | 管理上の注意 |
|---|---|---|
| 受領・確認 | データ一覧、閲覧、形式、座標、版管理 | 作業記録と画面証跡を残す |
| 新規作成 | 不足モデルの新規モデリング | 発生理由と作成範囲を明記 |
| 推奨項目 | 追加、修正、分割、統合、可視化 | 項目別に予定人工を積上げる |
| 照査 | 目的、範囲、詳細度、形式、不整合確認 | チェックシートを使用する |
| 報告・引継ぎ | 実施報告、引継書、成果品整理 | 後工程で再利用できる状態にする |
経営者は、BIM/CIM担当者の作業時間を工事原価へ正しく配賦できているかを月次で確認すべきです。残業時間だけを追うのではなく、案件別に「協議前の無償作業」「変更対象として提出した作業」「認められた作業」を区分すると、次回入札の歩掛改善にも使えます。
「データ引継ぎ力」を受注競争力へ変える
守りの管理だけではなく、今回の変化は営業上の攻めにも使えます。総合評価や技術提案では、単に「BIM/CIMに対応可能」と書くより、次のようにデータ連携の再現性を示す方が説得力を持ちます。
まず、契約後の受領データを短期間で診断し、不足項目とリスクを一覧化する体制を示します。次に、IFCやJ-LandXMLなどの共通フォーマットだけでなく、オリジナルデータ、2次元図面、属性、更新履歴を一体管理する運用を提示します。さらに、施工条件の変更があった場合の更新フローと、最終的に次工程へ渡す引継書まで提案します。
こうした提案は、大規模な専任部門がない中小企業でも実行できます。最初から全モデルを内製化する必要はありません。社内では受領確認、利用目的の整理、照査、発注者協議を担い、高度なモデリングだけを外部へ委託する「管理内製・作業外注」の形でも、利益とノウハウを守れます。
30日で整える社内実装プラン
| 期間 | 実施内容 | 完成させる成果物 |
|---|---|---|
| 1週目 | 過去案件の再作成・修正工数を棚卸し | 見えない原価一覧 |
| 2週目 | 国交省様式を基に受領確認項目を標準化 | データ受領チェックリスト |
| 3週目 | 作業別の担当職種・人工・証跡を定義 | BIM/CIM見積工数表 |
| 4週目 | 1案件で試行し、協議・引継ぎまで検証 | 社内運用手順書・改善記録 |
最初の対象案件は、モデル規模が小さく、現場担当者と積算担当者が密に連携できる工事が適しています。試行では作業時間を15分単位で記録し、受領確認から引継ぎまでのどこで手戻りが出たかを把握します。結果は次回の見積りと技術提案へ反映し、案件を重ねるごとに標準工数の精度を高めます。
まとめ―BIM/CIMは「IT費」ではなく「契約と原価」の問題
国交省のBIM/CIM運用は、3次元モデルを作成・閲覧する段階から、設計と施工の間で機械判読可能なデータを受け渡し、後工程で活用する段階へ進んでいます。中小建設業に必要なのは、最新ソフトを買うことだけではありません。
必要なのは、受領データを診断する力、追加作業を協議する力、人工を見積る力、次工程へ引き継ぐ力です。これらを標準化すれば、再作成や無償修正による利益流出を防ぎながら、「データを使って現場を前へ進められる会社」として受注競争力を高められます。
まずは次のBIM/CIM適用工事で、契約後7日以内のデータ受領チェックを実施してください。小さな確認手順の差が、工期終盤の大きな手戻りと赤字を防ぎます。
参照資料
一次資料URL
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990079.pdf
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990080.pdf
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990086.pdf
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990099.pdf
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990100.pdf
- https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990102.xlsx