村上事務所

【2025年経審改正】資本性借入金の活用法を徹底解説。評点アップの仕組みと注意点

2025年経審改正の切り札「資本性借入金」とは?

はじめに:知らないと損をする経営事項審査の大改正

公共工事の入札に参加する建設業者の皆様にとって、経営事項審査(経審)は事業の根幹を支える重要な手続きです。その経審の評価ルールが、2025年から大きく変わろうとしています。この変化に対応できるかどうかで、受注できる工事の規模や種類が変わり、ひいては会社の未来そのものが左右されると言っても過言ではありません。今回の改正は、すべての建設業者様が正しく理解し、備えるべき重要な転換点です。

評点アップの鍵を握る「資本性借入金」の正体

数ある改正項目の中で、特に大きな注目を集めているのが「資本性借入金」という新しい評価の導入です。これは一体何なのでしょうか。

一言でいえば、「実質的には借金(負債)でありながら、経審の評価においては会社の純粋な資産である自己資本の一部として扱ってもらえる、特別な種類の借入金」のことです。通常、借入金は会社の負債として計上され、多すぎると財務状況の評価を下げる要因になります。しかし、国が定める一定の条件を満たす資本性借入金は、財務の健全性を示す自己資本に加えることが認められるのです。

この仕組みは、先行投資などで借入金が多くなりがちな建設業の財務実態を、より適正に評価するために導入されました。つまり、これまで財務評価で不利になりがちだった企業も、この制度をうまく活用することで、経審の評点を大幅に引き上げるチャンスが生まれたのです。

今後の見通しと本記事で解説すること

この新しい制度を戦略的に活用できる企業と、そうでない企業とでは、今後の入札における競争力に大きな差が生まれる可能性があります。それは、経審の総合評定値(P点)が直接的に向上し、入札の格付けを押し上げる強力な効果を持つからです。

この後の章では、この資本性借入金が具体的にどの評点項目(Y点やX2点)にどう影響するのか、利用する上での注意点、そしてどのような企業が活用すべきかについて、さらに詳しく掘り下げていきます。

まとめ

2025年からの経審改正では、「資本性借入金」の活用が評点アップの大きな鍵となります。これは、通常の借入金とは異なり、会社の自己資本として評価される画期的な制度です。この仕組みを正しく理解し、自社の財務戦略に組み込むことが、未来の公共工事受注に向けた重要な第一歩となるでしょう。

なぜ導入?建設業の財務課題と制度の狙い

建設業が抱える「借入金が多くなりがち」という悩み

建設工事は、着工から完成、そして代金の入金までに長い期間を要することが一般的です。工事を始めるにあたっては、資材の購入や建設機械の費用、人件費など、多額の資金が先に出ていきます。この先行投資を自己資金だけですべて賄うのは難しく、多くの建設業者が金融機関からの借入金を活用しているのが実情です。

しかし、これまでの経営事項審査では、この「借入金」が財務評価上の弱点となるケースが少なくありませんでした。借入金は会計上「負債」に分類されます。そのため、借入金が多いと自己資本比率などの経営状況分析(Y点)における財務健全性の指標が悪化し、評点が伸び悩む一因となっていたのです。つまり、事業を継続・拡大するために必要な資金調達が、皮肉にも経審の評価を下げるというジレンマが存在していました。

負債を自己資本に転換する画期的な仕組み

今回導入された「資本性借入金」の評価制度は、このような建設業特有の財務課題に正面から向き合うために作られました。国(国土交通省)の狙いは、建設業者の皆様が事業に必要な資金を円滑に調達できるように支援しつつ、その財務状況をより実態に即して評価することにあります。

制度の目的1:資金調達と財務評価の両立

最大の目的は、経審の評点を気にするあまり必要な資金調達をためらう、といった事態を防ぐことです。資本性借入金は、仮に返済の必要があっても、その優先順位が他の一般的な借入金よりも低い(劣後する)という特徴があります。万が一会社が清算する事態になった場合でも、最後に返済すればよい性質を持っているため、実質的には自己資本に近いと見なせます。この実態を評価に反映させることで、企業は財務評価の悪化を心配することなく、必要な資金を確保しやすくなります。

制度の目的2:企業の成長投資を後押し

新しい技術の導入や人材育成など、企業の成長には積極的な投資が欠かせません。この制度は、そうした前向きな投資のための資金調達をしやすくする後押しにもなります。負債として扱われない資金が増えることで、財務基盤が安定し、さらなる事業拡大に向けた挑戦がしやすくなるのです。

まとめ

資本性借入金の評価制度は、建設業が抱える「先行投資が多く、借入金が増えやすい」という構造的な課題に対応するために導入されました。これは単なる評価基準の変更ではありません。事業に必要な資金調達と経審での高い評価を両立させ、建設業者の皆様が安心して事業成長に取り組めるように支援するという、国からの明確なメッセージが込められた制度なのです。

評点アップの具体例:Y点・X2点への影響を徹底解説

資本性借入金の活用が、具体的に経営事項審査のどの評点を、どのように押し上げるのでしょうか。この制度の最大の魅力は、会社の「財務健全性」と「経営規模」という二つの異なる側面を同時に評価向上させる点にあります。ここでは、経営状況評点(Y点)と経営規模等評点(X2点)への具体的な影響を解説します。

経営状況評点(Y点)へのインパクト:財務健全性の劇的な改善

Y点は、企業の倒産リスクを測るための財務状況を評価する指標です。資本性借入金は、このY点を構成する複数の指標を直接的に改善する効果を持ちます。

改善ポイント1「負債抵抗力」の向上

Y点の評価で特に重視されるのが「自己資本比率」です。これは、会社の全財産のうち、返済不要の自己資本がどれくらいの割合を占めるかを示す指標です。資本性借入金が負債ではなく自己資本として扱われることで、この自己資本比率が大きく向上します。自己資本比率が改善すれば、会社は借金に頼らない健全な経営をしていると評価され、Y点が上昇します。

改善ポイント2「収益性」の向上

Y点には「純支払利息比率」という指標もあります。これは、支払った利息がどれだけ少ないかを見るものです。資本性借入金にかかる支払利息は、このY点の計算上、通常の支払利息から控除することが認められています。結果として、見かけ上の支払利息が減少し、収益性が高いと評価されるため、Y点の向上に繋がります。

経営規模等評点(X2点)へのインパクト:自己資本額の増加

X2点は、売上高や自己資本額など、企業の経営規模を評価する指標です。資本性借入金は、このX2点の評価項目である「自己資本額」そのものを増加させます。

Y点が「比率」で財務の質を評価するのに対し、X2点は「絶対額」で会社の規模を評価します。資本性借入金の分だけ自己資本の金額が大きくなることで、企業規模が大きいと判断され、X2点の評点が直接的にアップします。これは、入札ランクの決定にも影響する重要なポイントです。

評点への影響まとめ

評価項目改善される主な指標具体的な効果
経営状況評点(Y点)自己資本比率、純支払利息比率財務体質が健全であると評価され、評点が向上します。
経営規模等評点(X2点)自己資本額企業規模が大きいと評価され、評点が向上します。

まとめ

資本性借入金の活用は、Y点(財務の質)とX2点(会社の規模)という二つの重要な評点を同時に引き上げる、非常に強力な一手です。これにより、最終的な総合評定値(P点)が大幅に向上し、公共工事の入札競争において有利なポジションを築くことが期待できます。ただし、その効果の大きさは個々の企業の財務状況によって異なります。自社にとって最適な活用法を見つけるためには、専門家による詳細な分析が欠かせません。

注意!すべてのローンが対象ではない「逓減ルール」の罠

資本性借入金は経審の評点アップに絶大な効果を発揮しますが、その活用には重要な注意点が存在します。メリットだけに目を向けて安易に利用すると、数年後に思わぬ形で評価が下がる危険性すらあります。ここでは、制度を安全に活用するために必ず知っておくべき、対象ローンと「逓減ルール」について解説します。

対象となる資本性借入金の種類

まず、すべての借入金が「資本性」として認められるわけではありません。経審で自己資本への算入が認められるのは、国が定める特定の金融機関が扱う、ごく一部の制度融資に限られます。例えば、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などが提供する「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」といったものが代表的です。これらのローンは、返済の優先順位が低い「劣後特約」が付いているなど、資本に近い性質を持つと認められた特別な契約形態をとります。自社が利用している、あるいは検討している借入金が対象になるかどうかは、必ず金融機関や専門家へ事前に確認することが不可欠です。

知らなければ損をする「逓減ルール」の仕組み

この制度を利用する上で、最も注意しなければならないのが「逓減(ていげん)ルール」と呼ばれる仕組みです。逓減とは「次第に減少していく」という意味で、その名の通り、時間の経過と共に自己資本と見なせる金額が減っていくルールです。

具体的には、ローンの返済期間の残り(残存期間)が5年未満になった年から、自己資本として算入できる割合が毎年20%ずつ減少していきます。そして、残存期間が1年未満になると、算入できる金額はゼロになってしまいます。

残存期間と自己資本算入割合

ローンの残存期間自己資本と見なせる割合
5年以上100%
4年以上5年未満80%
3年以上4年未満60%
2年以上3年未満40%
1年以上2年未満20%
1年未満0%

計画なき活用が招く「評点急落」のリスク

この逓減ルールを理解していないと、大変な事態を招きかねません。例えば、融資を受けて数年間は評点が上がり、格付けも上位を維持できたとします。しかし、5年目を迎えた途端、自己資本と見なされた額が突如20%減少し、翌年、翌々年と評点が下がり続けてしまうのです。これでは、安定した経営計画や入札戦略を立てることができません。「出口戦略」、つまり逓減が始まる前にどう対応するのかをあらかじめ計画しておくことが、この制度活用の成否を分けます。

まとめ

資本性借入金の活用を検討する際は、対象となるローンが限定的であること、そして評点アップの効果が永続的ではない「逓減ルール」の存在を必ず覚えておいてください。このルールを前提とした、長期的な視点での財務計画と出口戦略の立案が不可欠です。計画なき活用は将来の評点急落リスクに繋がりかねず、専門家と相談しながら慎重に進めるべき重要な経営判断といえるでしょう。

財務戦略が変わる!経営者が今すぐ検討すべきこと

資本性借入金制度の登場は、単なる評価基準の変更にとどまりません。これは、建設業の経営者にとって「財務戦略」そのものの考え方を根本から見直す機会となるものです。これからの時代、入札競争を勝ち抜くために経営者が何を考え、どう行動すべきかを解説します。

「借りる」から「戦略的に調達する」への意識改革

これまでの資金調達は、主に運転資金の確保や設備投資など、事業の必要性に応じて「借りる」という側面が強いものでした。しかし今後は、「経審の評点を上げるため」という明確な目的を持って資金を「戦略的に調達する」という視点が不可欠になります。

どのタイミングで、どの制度を利用し、いくら調達するのか。その判断一つひとつが、総合評定値(P点)に直接影響し、入札の受注能力を左右する時代になったのです。財務活動が、より能動的で攻撃的な経営戦略の一部へと変わったといえるでしょう。

検討すべきこと1:メリットとデメリットの総合的な理解

この戦略的な財務判断を誤らないためには、物事の両面を冷静に評価することが重要です。評点アップという大きなメリットの裏にあるデメリットにも、しっかりと目を向けなければなりません。

金利等のコスト負担

資本性借入金は、金融機関にとって貸し倒れのリスクが通常の融資よりも高い商品です。そのため、一般的に金利がやや高めに設定される傾向があります。経審の評点向上による受注機会の増加というメリットが、金利の負担増というデメリットを上回るかどうか、慎重な損益分岐点の見極めが求められます。

出口戦略の策定

第4章で解説した「逓減ルール」は、常に念頭に置かなければならない最大の注意点です。効果が永続的ではない以上、借り入れる段階で「数年後に逓減が始まったらどうするか」という出口戦略まで描いておく必要があります。借り換えを検討するのか、利益を蓄積して自己資金で返済するのか、長期的な視野に立った計画が成功の鍵を握ります。

検討すべきこと2:専門家との連携による最適な計画立案

これからの建設業経営者には、単に金融機関の提案を受け入れるだけでなく、自社の事業計画や財務状況を深く理解し、最適な資金調達プランを主体的に構築していく能力が求められます。しかし、経審制度と金融商品の両方に精通し、日々の業務と並行して最適な判断を下すことは、決して簡単ではありません。

このような複雑で重要な意思決定の場面でこそ、経審と財務のプロフェッショナルである行政書士などの専門家が大きな力を発揮します。客観的な視点から会社の財務状況を分析し、評点への影響をシミュレーションした上で、メリットとデメリットを総合的に勘案した最適な計画を共に作り上げることが可能です。

まとめ

資本性借入金の登場は、建設業の財務戦略を新たなステージへと引き上げました。経営者の皆様は、目先の資金繰りだけでなく、経審での勝利を見据えた長期的かつ戦略的な視点を持つことが求められます。金利負担や出口戦略といった課題を乗り越え、この新しい武器を最大限に活用するためには、信頼できる専門家との連携がこれまで以上に重要な成功要因となるでしょう。

まとめ:専門家と描く、持続的な評点アップ戦略

本稿では、2025年からの経営事項審査改正の目玉である「資本性借入金」について、その仕組みから具体的な影響、そして注意点までを解説してきました。最後に、これからの建設業経営者が取るべきアクションについて総括します。

資本性借入金は強力な武器であり、同時に諸刃の剣

この記事でお伝えした重要なポイントは、以下の三点に集約されます。

ポイント1:評点を飛躍させる可能性

資本性借入金は、経営状況評点(Y点)と経営規模等評点(X2点)を同時に引き上げる、極めて強力な評点アップの手段です。これまで財務評価に悩んできた企業にとって、まさに切り札となり得ます。

ポイント2:計画なき活用は危険

一方で、対象となるローンは限定的であり、何よりも「逓減ルール」の存在を忘れてはなりません。評点アップ効果は永続的ではなく、出口戦略なき活用は数年後の評点急落という深刻なリスクを招きます。

ポイント3:財務戦略の転換が必須

この制度の登場により、資金調達は単なる資金繰りではなくなりました。「経審の評点を戦略的にコントロールする」という、より高度で計画的な財務戦略が経営者に求められます。

なぜ専門家との連携が成功の鍵なのか

これらを踏まえると、資本性借入金という制度は、まさに「諸刃の剣」といえます。正しく使えば競争を勝ち抜く強力な武器となりますが、知識や計画が不十分なまま手を出すと、自らを傷つけかねません。

この複雑な剣を安全かつ有効に使いこなし、持続的な評点アップを実現するためには、経審と財務の両方に精通した専門家の知見が不可欠です。客観的な財務分析に基づいた正確な評点シミュレーションを行い、逓減ルールまで見据えた長期的な計画を策定することは、多忙な経営者の皆様だけで行うには非常に困難な作業です。

未来の受注に向けた第一歩を

変化の時代は、それを好機と捉え、迅速に行動した者に味方します。ライバルに先駆けてこの新しい制度を活用し、安定した受注に繋がる強固な経営基盤を築くために、私たち専門家は皆様の会社の伴走者として存在します。

まずは第一歩として、自社の現状と、この制度を活用した場合にどれほどの可能性があるのかを把握することから始めてみませんか。未来の公共工事受注に向けたその一歩を、私たちが全力でサポートします。

NOTE

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