村上事務所

2025年、建設現場が止まる!? 熊本の建設業を支えるために今できること

2025年、熊本の現場に何が起きるのか

「人手が足りない」だけでは済まされない、建設業の危機

建設業界では今、静かに、しかし確実に「人がいなくなる時代」が迫っています。これが、いわゆる「2025年問題」と呼ばれているものです。特に熊本のように地元に根ざして事業を展開している中小建設会社にとって、この問題は経営の根幹を揺るがしかねない深刻な課題といえます。

簡単に言えば、2025年を境に、ベテランの技術者や現場の職人たちが一斉に引退する可能性が高く、それにより人手と技術が一気に失われるリスクが高まっているという状況です。

人口の山が引退する年、それが2025年です

総務省統計局の調査によれば、建設業に従事している人のうち、60歳以上の割合は全国平均で30%を超えています(出典:総務省「労働力調査」令和5年版)。熊本県内においても同様に、高齢従事者の割合は増加しており、2025年を迎える頃には、多くの現場で「人が抜ける」状況が現実のものとなると見られています。

これはまるで、満員のバスに乗っていたベテランたちが、次の停留所で一斉に降りてしまうようなものです。その後、バスを運転する人がいなければ、乗客も行き先も決まっていても、バスは動かせません。建設業の現場でも同じことが起きようとしています。

熊本の建設現場で予想される変化

課題現在の状況将来的な影響
高齢従事者の引退60歳以上が現場の中心を担っている技術の継承が進まないまま退職が進む
若手人材の確保困難高校生や若者が建設業を選ばない将来の担い手不足により公共工事が請けられなくなる
災害対応人材の減少熊本地震以降の復旧工事でも人手が限界今後の災害時の初動対応力が大きく低下

地域密着企業こそ、地域を支える力になります

熊本のような地方では、地元密着の建設会社が、地域のインフラ整備や維持管理を支えている大切な存在です。学校の改修工事、道路の補修、水道設備の更新、地域行事の仮設ステージの設置まで、すべてが「顔の見える地元の仕事」です。

たとえば、地元の八百屋さんが毎朝市場で仕入れて、お客様の顔を見ながら野菜を売るように、建設業の仕事も「信頼と安心」を土台に地域とつながっています。しかし、その信頼関係も、現場で汗をかく人がいなければ続きません。人手が不足すれば、仕事を請けられないだけでなく、納期の遅延や品質の低下によって、取引先や発注者の信頼を損ねてしまう恐れがあります。

なぜ今、行動を起こす必要があるのか

2025年問題への備えとして、経営者には以下のような視点と行動が求められます。

経営上の視点対応の必要性
技術継承若手社員への指導体制を整備し、ベテランの知識と経験を体系的に記録・共有する
人材確保高校・専門学校との連携やインターン制度の活用など、若年層との接点をつくる
制度活用公共工事の受注に必要な経営事項審査や評価制度を正しく理解し、戦略的に対応する

制度と現場のつながりを理解することが第一歩です

建設業においては、国や自治体が定める制度と、現場の人手・技術力が密接に結びついています。たとえば、公共工事を請け負うためには「経営事項審査」(けいえいじこうしんさ)を受け、一定の評価点を得る必要があります。この審査では、会社の経営状態、技術者の資格、過去の施工実績などが加点・減点方式で評価されます。

もしも人材不足で施工実績が伸びなかったり、若手の技術者が不足していたりすれば、それだけで審査の得点が低くなってしまい、結果として入札の機会も減ってしまいます。

地域の未来を守るために

私たちの暮らす熊本のインフラは、日々の地道な建設業の仕事によって支えられています。その中核を担ってきたのが、皆さんのような地域密着型の建設企業です。2025年問題を「ただの危機」として終わらせないためにも、今こそ、会社の体制を見直し、人を育て、制度を使いこなす力が必要とされています。

このあとの章では、熊本における建設業の現状を、具体的な数値や事例を交えながらさらに詳しく掘り下げていきます。

第1章 数字で見る“熊本の建設業”のリアル

熊本の現場に立つ人たちは、どのくらいの年齢なのでしょうか

建設業界の人手不足について、肌で感じている経営者の方は多いと思います。では、実際にどれくらいの人が、熊本県内の現場で働いているのか、その年齢層はどうなっているのでしょうか。

総務省が公表している「労働力調査(令和5年)」や、国土交通省の「建設業就業者実態調査」によれば、熊本県の建設業従事者のうち、約40パーセントが60歳以上です。さらに、65歳以上だけで見ると約23パーセントにのぼるという推計もあります。

これは、学校のクラスにたとえると、40人中16人が“定年に近い人たち”で、さらにそのうち9人は“もうすぐ引退する年齢”というような状況です。

このままでは、あと数年で現場から経験者が一気に減ってしまい、次に教える人もいなくなるという構造的な問題が起きることが見込まれます。

山間部や地方では特に深刻な状況です

都市部に比べて、熊本の山間部や過疎地域ではさらに深刻です。なぜなら、以下のような条件が重なっているからです。

要因現状影響
高齢化の進行若者が都市部に流出している地域の建設会社が担い手を確保できない
交通やインフラ山間部は通勤・資材搬入が困難仕事が集まりにくく、人が定着しづらい
教育・継承機会の不足OJT中心で体系的な研修が少ない技術が次の世代に伝わりにくい

特に熊本県内でも阿蘇地域や球磨地域などでは、技能者不足が顕著であり、復旧・復興需要が高まる一方で、担い手が不足しているという二重の負担を抱えている状況です。

「人がいない」だけではなく「教える人もいない」

人手不足というと、単に作業をする人が足りないと捉えがちですが、現実はもっと複雑です。若手を採用しても、現場で教えられるベテランが不足しているため、技術が身につかずに辞めてしまうケースが多く見られます。

これは、料理のレシピが書かれていないのに、いきなり「美味しいカレーを作って」と頼むようなものです。ベテランがいれば、「野菜はこれくらいの大きさ」「ルウはこの順番で入れる」と教えられますが、それがなければ、経験のない若者は不安になり、長く続けることが難しくなります。

次の世代を育てるために、まずは実情を知ることが第一歩です

熊本の現場で起きている現実は、数字を通して見ることで、より具体的に把握することができます。以下に整理してみます。

項目熊本県内の現状
建設業従事者の60歳以上の割合約40パーセント
65歳以上の割合約23パーセント
若年層(30歳未満)の割合10パーセント未満
山間部の事業所数減少傾向が続いており、技術継承に課題

このようなデータを見ても分かるように、現場の高齢化はすでに始まっており、2025年を迎える頃には「空洞化」に近い状況が起きると予想されます。人材確保と同時に、技術をどう伝えるか、継続的に事業を維持するためにどのような備えが必要かを考えることが、今まさに求められています。

このあとの章では、なぜ若い人が建設業に入ってこないのか、そしてどのようにすれば働きやすい環境を整えられるのかを考えていきます。

第2章 「若い人が来ない」には理由がある

「若者が現場に来ない」と感じる前に、背景を見つめ直す

人手不足の話になると「最近の若い人は来たがらない」と感じる経営者も多いかもしれません。しかし、なぜ若い人たちが建設業を選ばなくなったのか、その背景を掘り下げて考えることが重要です。

数字や現場の声から見えてくるのは、「単に人気がない」という話ではなく、「選ばれない理由」が重なっているという事実です。

建設業が選ばれない背景には、複数の要因があります

建設業に就職する若者が減っている理由は、一つではありません。以下のように、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。

要因内容影響
イメージの固定化「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが強い若者が最初から選択肢に入れない
労働環境長時間労働、休みが少ない、天候による不安定な仕事働き方改革が追いついていない業種として敬遠される
給与水準年齢による昇給が見えづらく将来像が描きにくい他業種に比べて魅力が感じられにくい
デジタル対応の遅れ紙の図面、FAX、口頭指示が多いICTに慣れた若者が馴染めず早期離職に繋がる

このように、働く前から「無理そう」「合わなそう」と思われてしまう環境が整ってしまっていることが、最大の課題といえます。

3Kだけではない、「働きにくさ」の本質

昔から建設業は「3K」と言われることがありましたが、今ではそれ以上に、以下のような“見えにくいハードル”が若者の参入を阻んでいます。

指示が曖昧で仕事が不安

現場で「見て覚えろ」と言われても、どこをどう見ればいいのか分からない。新人にとっては、何が分からないかすら分からない状態です。

相談しづらい雰囲気

ベテランの先輩が忙しくて近づきにくく、質問できずに放置されてしまう。気を使いすぎて辞めていくケースも多く見られます。

正解が分からない

図面と現場の動きが一致しない、工程が頻繁に変わるなど、柔軟な対応が求められる一方で、判断基準がはっきりしていないことも負担になります。

これは例えるなら、運転教習を受けていないのに、いきなり高速道路でハンドルを握らされるようなものです。不安がある状態で飛び込んで、安心できる人や仕組みがなければ、早い段階で離職してしまうのも無理はありません。

熊本の教育機関とのミスマッチも課題です

熊本県内には工業高校や専門学校が複数あり、建築や土木を学ぶ生徒も少なくありません。しかし、そこから地域の建設会社への就職につながるケースは年々減少しています。

その背景には、次のようなミスマッチが存在しています。

教育現場企業側ギャップ
設計や管理業務に興味がある学生が多い即戦力として現場で働ける人材を求める仕事の内容と学生の希望が合わない
PCスキルやプレゼン能力を学んでいる手作業や身体を使う業務が中心仕事内容が想像と異なり、戸惑いや不安が生まれる
企業見学やインターンの機会が少ない採用活動の余裕がなく受け入れ体制が整っていない若者との接点がつくれず、就職のきっかけが生まれにくい

このように、学んだことと求められることが噛み合っていないことが、採用や定着を難しくしている要因となっています。

見つめ直すべき視点

若い人が来ないのは、本人たちの問題ではなく、「選びたくなる環境になっていない」からです。まずは業界の側から、どうすれば選ばれる業種になれるかを考えることが、次の世代を迎える第一歩となります。

まとめとして、見直すべきポイント

見直す視点対応の方向性
イメージ建設業の魅力を発信する広報の工夫
職場環境休みの取りやすさ、勤務時間の明確化
育成体制見て覚えるから、教えて伸ばすへの転換
学校との連携インターン、企業説明会、現場体験の機会を増やす

このあとの章では、今ある働き方の課題を整理しながら、どうすれば「働きやすい」職場を作れるのか、その実践例も交えて考えていきます。

第3章 2025年問題で起こる、熊本の現場の未来予想図

今のままだと、現場で何が起きるのかを想像してみる

ここまで、熊本県内の建設業における高齢化の実態と、若手が入ってこない理由を見てきました。では、実際に2025年を迎えたとき、地域の現場ではどのような問題が発生するのでしょうか。これは決して遠い未来の話ではなく、すでに始まっている現象でもあります。

現場で工事が止まる日が来る

工事が進まない、もしくは予定より大幅に遅れるというケースは、既に各地で起こっています。特に公共工事の場合、期限が決められており、スケジュール通りに工事が完了しないと、違約金や信頼失墜といった重大なリスクを負うことになります。

建設業法第19条では、請負契約の履行について誠実義務が定められています。つまり、契約通りに工事を完了する責任が発注者と請負者の双方に課されているということです。

なぜ工事が進まなくなるのか

原因内容結果
技能者の大量引退ベテランの現場監督や職人が定年を迎える経験の浅い人だけでは現場が回らず、停滞する
若手不足採用しても定着せず、技術の継承が進まない次世代の育成が間に合わない
下請け不足中小企業が減少し、元請が協力業者を確保できない応札できても実行体制が整わない

現場のイメージとしては、これまで5人で回していた現場を、3人でこなさなければならなくなるような状況です。焦って工事を進めれば事故のリスクも高まり、安全管理にも支障が出ます。

中小企業が静かに消えていく「自然消滅」のリスク

熊本には、5人から10人程度の職人で構成される小規模な建設会社が数多く存在します。こうした企業は、地域のインフラを支える“縁の下の力持ち”のような存在です。

しかし、代表者や職人が高齢になり、後継者がいないまま引退するケースが後を絶ちません。法的な手続きも取られず、閉業や廃業が“静かに”進んでいるのが現実です。

このままだと起きる問題

現象影響
地元企業の減少入札競争が減り、価格の高騰や公共工事の発注先不足が起こる
地域雇用の喪失若年層の就職先が減り、人口流出につながる
技術の断絶地域に伝わってきた工法やノウハウが失われる

これは、昔ながらの大工さんが代替わりできず、道具と共に仕事をやめてしまうのと似ています。目に見える問題ではないため、深刻さに気づきにくいという点がより危険です。

災害への対応力が落ちるという現実

熊本では、2016年の熊本地震を経験し、多くの建設会社が地域の復旧に奔走しました。建物の倒壊、道路の寸断、上下水道の破損など、あらゆるライフラインが途絶えた中で、地元の建設業者が迅速に対応したことで、復興は想定よりも早く進みました。

災害対策基本法や建設業法においても、災害時における「緊急対応」が定められており、公共機関と建設事業者が協力する体制は制度上も整えられています。

しかし、人手不足が深刻化すれば、この体制そのものが機能しなくなります。災害発生直後の72時間は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、人命救助や仮設道路の確保など、時間との戦いが求められます。

人がいなければ、どれだけ制度が整っていても動けません

制度があり、予算があり、図面も準備されていたとしても、実際に動ける人がいなければ、机上の計画にすぎません。これは、火事場で消火器を準備していても、誰も使えなければ意味がないということと同じです。

地域で支え合う力をどう残していくか

2025年以降は、単に業績を上げるだけでなく、地域の防災・復旧の一員としての責任が建設会社に求められます。建設業は単なる「工事業」ではなく、「地域の守り手」としての役割を持っているという認識が、今後さらに重要になります。

このあとでは、こうした状況を乗り越えるために、どのように技術と人をつなぐか、またどのような継承の工夫が求められているのかを整理していきます。

第4章 「技術の継承」が危ない!〜ベテランと若手の間のギャップ〜

職人技が伝わらなくなるという危機

建設業の現場では、長年培われた経験や技術が仕事の質を左右します。しかし、その技術を次の世代に引き継ぐことが難しくなっています。2025年問題による人手不足が進む中で、経験豊富な職人が引退し、若手が育たない状況が続けば、業界全体の技術レベルが低下してしまいます。

技術の継承がうまく進まない背景には、以下のような問題があります。

課題内容影響
熟練の技術が言葉で説明しにくい長年の経験で身につけた“カン”や“コツ”は、文書化しにくい若手が理解できず、試行錯誤が増える
ベテランと若手の価値観の違い「見て覚えろ」の文化と、体系的に学びたい若者の意識が合わない若手が定着しにくく、離職が増える
指導の負担が現場のベテランにかかる教育の仕組みがなく、現場の先輩が一人で抱え込む仕事の遅れやストレスが増加し、教育が進まない

このような問題が積み重なることで、技術継承が進まず、いずれ「誰もできない仕事」が増えてしまうことが懸念されています。

熟練の“カンとコツ”を言葉にするのが難しい

建設業の現場では、職人が長年の経験で培った技術を使って仕事を進めています。しかし、その技術の多くは「言葉にしにくい」ものが多いのが現状です。

例えば、コンクリートの打設作業では「このタイミングで打ち継ぎをしないと、仕上がりに影響が出る」といった判断が必要になります。しかし、その判断は長年の経験や感覚によるもので、教科書には載っていません。

これは、料理のレシピを見ても「塩加減はお好みで」と書かれているのと似ています。経験者なら感覚で分かりますが、初心者には難しく、試行錯誤が必要になります。

教える人が引退してしまう前に、何をすべきか?

技術を継承するには、以下のような取り組みが必要になります。

1. マニュアル化と映像記録

作業の手順を文書化したり、動画で記録したりすることで、経験の少ない人でも手順を理解しやすくなります。特に、言葉だけでは伝わりにくい技術は、動画で見せることで伝えやすくなります。

2. 若手に段階的な経験を積ませる

いきなりすべての仕事を任せるのではなく、最初は簡単な作業から経験を積ませることが重要です。例えば、最初の1年は測量、2年目から施工管理の補助など、ステップを決めると学びやすくなります。

3. 指導者を育成する

現場のベテランが忙しくて指導できないことが多いため、教育を担当する人を確保することも必要です。例えば「現場リーダー研修」を実施し、指導方法を学ぶ機会を作ることで、教える側の負担を軽減できます。

OJT頼りからの脱却と、教育プログラムの必要性

これまでの建設業界では、現場で直接学ぶ「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」が主流でした。しかし、それだけでは効率的に技術を継承することが難しくなっています。

OJTだけでは不十分な理由

問題内容
経験者の負担が大きいベテランが自分の仕事をしながら教えるため、指導が後回しになりがち
学びの機会が限られる現場の状況によって学べる内容が変わるため、体系的な学習が難しい
属人的になりやすい教える人によって指導内容が異なり、技術の標準化が進まない

教育プログラムの必要性

若手を育成するためには、体系的な教育プログラムが必要になります。例えば、以下のようなプログラムが有効です。

1. 技能講習の実施

定期的に技能講習を行い、基本的な技術や安全管理を学ぶ機会を設けることで、知識の底上げを図ります。

2. メンター制度の導入

新人に専属の指導者(メンター)をつけ、継続的に指導を受けられる環境を整えます。これにより、若手の離職率も低下します。

3. ICTの活用

タブレットや動画マニュアルを活用し、どこでも学習できる環境を整えることで、現場での教育を効率化できます。

今、取り組むべきこと

技術の継承は、単なる教育の問題ではなく、会社の将来を左右する重要な課題です。次世代の技術者を育成するために、今すぐできることを実行することが求められています。

このあとの章では、技術継承を支えるためのデジタル技術や働きやすい職場環境について、より具体的な解決策を考えていきます。

第5章 デジタルの力で人手不足を乗り越える!

熊本の現場にこそICTが必要な理由

人手不足が深刻化する中で、建設業界には「人を増やす」だけでなく「人手をかけずに回す」工夫が求められています。その鍵を握るのが、ICTと呼ばれる情報通信技術の導入です。これは難しい言葉ではありません。簡単にいえば、デジタル機器やアプリを使って、作業を早く、正確に、そして安全に行う方法のことです。

特に熊本のような地方では、作業現場が山間部や交通の便が悪い地域にあることも多く、少ない人数で現場を管理する必要があります。だからこそ、ICTの導入によって一人あたりの生産性を高めることが大切なのです。

BIM、ドローン、ロボット…今どこまで進んでいる?

建設業界では、以下のような先進技術が導入され始めています。

技術概要熊本での活用例
BIM(ビム)Building Information Modelingの略。3次元で設計情報を一元管理できる建築技術大規模公共施設の設計や維持管理に活用が進む
ドローン空撮による測量や点検。人が入りにくい場所の確認にも使える道路や橋の点検、災害時の被害状況の把握に利用
建設ロボット鉄筋組立や溶接、塗装などを自動で行うロボット導入は一部だが、省人化の第一歩として注目されている

ICTの導入がもたらすメリット

項目効果
生産性向上少人数でも多くの作業をこなせる
安全性の向上危険な現場を遠隔で管理・確認できる
品質の均一化ロボットによる作業でムラを減らす
技術継承の補完動画マニュアルやデジタル記録でノウハウを蓄積できる

アナログ脱却の第一歩は「紙からの卒業」

現場でよく見られる「紙の図面」「手書きの作業日報」「FAXでのやり取り」。これらは一見すると慣れたやり方のようですが、実は情報の伝達ミスや時間のロスの原因になります。

たとえばこんなことが起きています

従来の方法問題点ICT活用後の改善
紙の図面を現場に持参最新の設計変更が反映されておらず、やり直しが発生タブレットで常に最新データを共有可能に
FAXでのやり取り読みにくい、届かない、履歴が残らないクラウドでやり取りし、履歴も自動保存
手書きの日報内容が不明確で集計に時間がかかるアプリで入力すれば自動集計される

導入のハードルを下げる考え方

「難しそう」「お金がかかる」といった不安もありますが、まずは小さなところから始めることが大切です。いきなりロボットを導入するのではなく、以下のような第一歩を踏み出す企業も増えています。

導入しやすいICTの例

工程管理アプリスマホで作業スケジュールを調整可能
クラウド型書類管理どこからでも資料を確認・修正できる
簡易ドローンの導入工事の進捗や災害現場の撮影に活用

このように、ICTの活用は業務効率化だけでなく、若い世代が入りやすい環境を整えるうえでも効果的です。今後の人材確保にもつながる取り組みとして、デジタル化は避けて通れない道です。

このあとの章では、職場環境の改善を通じて、どうすれば「働き続けたくなる建設業」を実現できるかを掘り下げていきます。

第6章 働きやすい現場づくりのために企業ができること

人手不足を根本から変える「職場環境づくり」

ここまでICTの導入による生産性向上について見てきましたが、もう一つの大きな鍵は「働きやすさ」を実現することです。どれだけ最新技術を導入しても、働く人が定着しなければ意味がありません。

建設業というと、どうしても「きつい」「汚い」「危険」のイメージが強く、若い人に敬遠されがちです。しかし、その背景には、制度や職場環境の整備が遅れているという現実があります。つまり、働く人を大切にする職場づくりこそが、持続可能な経営への第一歩です。

完全週休2日制と有休取得の推進がカギ

働きやすい職場をつくるために、まず見直したいのが「休日の確保」です。現場の都合や納期に左右されがちな建設業でも、工夫次第で改善は可能です。

ポイントとなる取り組み

施策目的期待される効果
完全週休2日制の導入身体的・精神的な負担の軽減離職率の低下、若手の定着
有給休暇の取得促進働く人の生活の質の向上家庭との両立、職場満足度の向上
スケジュールの「見える化」無理のない工程管理突発的な長時間労働の回避

多様な人材が活躍できる職場に

人材不足を解消するには、「今いる層」だけでなく、「まだ入ってきていない層」に目を向けることが大切です。例えば、女性、シニア世代、そして外国人労働者など、今後の建設業を支える貴重な戦力です。

対象別の支援施策の例

対象主な課題支援施策の例
女性トイレ設備、体力面、育児との両立現場の環境整備、柔軟な勤務形態
シニア体力的な制約、安全性への配慮軽作業中心の配置、安全教育の強化
外国人労働者言語の壁、文化的な違いやさしい日本語対応、通訳サポート

小さな会社でも実践できる工夫とは

「うちは大手じゃないから難しい」と感じる方も多いかもしれませんが、実は小さな建設会社ほど、柔軟な取り組みが可能です。

現場で実践しやすいアイデア

朝礼での体調確認無理な作業を防ぎ、事故予防に
退職者との再雇用契約経験者の力をもう一度借りる
休憩所の整備夏の熱中症予防やリフレッシュに
家族向け説明会仕事の内容や安全対策を家族にも共有

「選ばれる会社」になるために

働き手にとって「ここで働きたい」と思える会社とは、単に給与や待遇が良いだけではありません。安心して働ける、成長できる、家族に応援される、そんな環境が整っているかが重要です。

建設業法や労働基準法に基づいた適正な労働環境の整備はもちろん、企業としての「姿勢」が求職者に伝わることで、結果として人が集まる会社になります。

第7章 熊本だからこそできる、地域ぐるみの人材確保と育成

地域に根ざした育成こそ、未来の担い手を生む

人材不足は、技術や待遇の改善だけでなく、もっと根っこの部分から解決していく必要があります。地域に根ざした中小企業が多い熊本では、行政、学校、企業が一体となり、若者の育成に取り組むことがとても重要です。地域ぐるみで次世代の担い手を育てる仕組みづくりが、これからの鍵になります。

熊本高専・工業高校との連携事例

熊本県内には、熊本高等専門学校(熊本高専)や多くの工業高校があります。若者たちは日々ものづくりの基本を学んでおり、企業とつながることで、より実践的なスキルを身につけられるようになります。

取り組み内容企業側のメリット学生側のメリット
インターンシップ若手人材の発掘、入社後のミスマッチ防止職場体験で将来像をイメージできる
出前授業や工場見学地域に企業の魅力を発信職業への興味や理解が深まる
学校と企業の共同プロジェクト若い視点の導入、新たな発想を得る実践的な学びが得られる

「建設業ってかっこいい!」を育てる文化

建設業は、橋や道路、学校などをつくる「地域の土台」を担う仕事です。しかし、現実にはその価値が若者に伝わりきっていません。そこで大切なのが、「かっこよさ」や「やりがい」をもっと可視化していくことです。

地域全体での取り組み例

小中学校でのキャリア教育職人の仕事や道具を見せる授業を実施
地域イベントへの参加子ども向けに重機体験や模型づくりを開催
動画やSNSによる発信「職人の一日」や「現場の裏側」を紹介

行政・学校・企業が一体となる“人材パートナーシップ”

一つの会社だけで若手人材を集めるのは限界があります。だからこそ、行政が間に入り、学校と企業をつなぐ仕組みが必要です。熊本ではこうした官民連携の動きが少しずつ進み始めています。

パートナーシップの仕組み

主体役割具体的な活動
行政制度設計や調整人材育成補助金、学校との連携支援
学校教育と進路支援企業見学、職業講話、連携授業
企業現場提供と採用インターン、実地研修、奨学金制度

地域の未来をともに育てる

建設業は「地域そのものをつくる」仕事です。だからこそ、地域の子どもたちが「大人になったら建設業で働きたい」と思えるような環境づくりが、今の経営者に求められています。

企業単独では難しくても、地域全体が協力すれば未来は変えられます。熊本の持つつながりの力を生かして、人材確保と育成の仕組みを根づかせていくことが、これからの建設業を支える大きな柱になります。

まとめ 「このままじゃいけない」を「今からなら間に合う」へ

2025年問題は避けられない。けれど、備えることはできる

2025年には、建設業界において多くの高齢技術者が現場を離れ、深刻な人手不足が現実のものとなると見込まれています。これは「2025年問題」と呼ばれ、熊本県内の建設業も例外ではありません。

けれども、将来の変化を予測できる今だからこそ、今のうちから備えることができます。天気予報で「明日は雨」と分かっていれば傘を持つように、未来に向けた一歩を今踏み出すことができるのです。

地元企業の力で、熊本の未来を守ろう

熊本には、地元を支えてきた中小規模の建設会社が数多くあります。それぞれが橋や道路、住宅、学校といった生活に欠かせないインフラを守ってきました。その力を、地域の未来にどう引き継いでいくかが大きな鍵です。

大手企業のように派手な広報や資本力がなくても、地元企業には「地元を知っている力」「地域との信頼関係」「きめ細やかな対応力」があります。この強みを次世代にも残していくことが、これからの使命です。

具体的にできることを一つずつ

分野今からできる取り組み
人材確保高校・高専との連携、インターン受け入れ
働き方改革週休2日制、有休取得の推進
技術継承ベテランの技術を見える化、教育プログラム整備
デジタル化ICTツールやBIMの導入、紙書類からの脱却
地域連携行政・学校・企業のパートナーシップ構築

次の世代に渡すバトン

建設業は、単に「ものを作る仕事」ではありません。暮らしを守り、地域に安心を届ける仕事です。だからこそ、今の経営者たちが後に続く若い世代にバトンを渡すことが求められています。

そのバトンは、技術やノウハウだけではありません。現場での誇り、安全への意識、地元への愛着といった「目には見えない価値」も一緒に伝えていく必要があります。

未来は、今の一歩から

変化を恐れて動かないままでは、状況は悪化するばかりです。しかし、ひとつでも行動を起こせば、未来は少しずつ変わっていきます。

熊本の建設業界が変われば、地域のインフラが守られ、若者が夢をもって働けるようになります。そして、その若者たちが次の世代へと、また新しい未来をつないでいく。今こそ、行動のときです。

おまけ チェックリストで自社を見直してみよう

このチェックリストは、読んできた内容を自分の会社に落とし込むための“行動の入り口”です。

読んで「なるほど」と思うだけで終わらせず、実際に一歩を踏み出すことが大切です。ここでは、すぐにでも社内で確認できる視点をチェックリストとしてまとめました。どれも難しいことではありません。けれど、見落としがちなことでもあります。

こんな視点で、自社を見直してみましょう

チェック項目なぜ大切か具体的な行動例
従業員の年齢構成を把握しているか高齢化に備えた計画的な採用・育成が必要年代別の社員数を表にして可視化する
技術の継承方法を明文化しているかベテランの退職後に「教えてもらえなかった」とならないため動画撮影やマニュアル作成に取り組む
学校や行政との連携があるか新しい人材を地域全体で育てる仕組みが必要高専や高校へインターン受け入れを打診する
ICT導入に取り組んでいるか人手不足時代でも業務が回るように備える勤怠管理や工程管理をデジタル化する
多様な人が働きやすい環境か女性・外国人・高齢者なども力になれるトイレや更衣室の見直し、休憩室の改善

チェックは“点検”ではなく“気づき”のきっかけ

このリストにすべてチェックが入らなくても大丈夫です。大切なのは、「気づいたこと」をそのままにしないことです。

建設業界における2025年問題は、他人ごとではなく、すぐそこにある自分ごとです。まずは一つでも、動けることから着手してみてください。

会社の未来は、今の積み重ねでつくられていきます。

NOTE

業務ノート

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