村上事務所

「土曜も現場」は、もう誰のためにもならない。データが暴く週休2日の壁と、発注者に「ノー」と言う勇気

「また今週も、土曜出勤か…」。カレンダーの週末に引かれた赤い線とは裏腹に、今日も現場の朝は早い。そんなため息が、日本の建設現場のあちこちから聞こえてきそうです。あなたの会社だけではありません。先日(2025年10月14日)国土交通省が公表した調査結果は、残酷な現実を私たちに突きつけました。

「4週8休」、つまり完全週休2日を達成できている技術者・技能者は、わずか3割。

2024年4月に時間外労働の上限規制が始まって1年半。業界全体で「働き方改革」の掛け声は大きくなる一方なのに、なぜ私たちの現場は休めないのでしょうか。これは単なる現場の頑張りの問題ではありません。業界に根付く構造的な課題と、私たちが今こそ持つべき「勇気」の話です。

データが示す「理想」と「現実」のあまりにも大きな溝

今回の国交省の調査は、建設業界の働き方改革が依然として道半ばであることを、数字をもって明らかにしました。公共工事では週休2日の取り組みが少しずつ進んでいるものの、特に民間が発注する工事において、その歩みは驚くほど遅々としています。

「休めば工期が伸びる」「人手が足りないから仕方ない」――そうした声が聞こえてきます。しかし、本当にそうでしょうか。深刻な人手不足が叫ばれる今、この「仕方ない」という言葉で思考を止めてしまえば、5年後、10年後、私たちの現場に若い担い手は誰もいなくなってしまうでしょう。データは、感傷的な精神論ではなく、「このままでは持続不可能だ」という冷静なサインを送っているのです。

なぜ休めない?根深い「民間工事」という壁

中小の工務店の社長からは、しばしば次のような声が上がります。

「公共工事なら、最初から週休2日を前提とした工期と費用が設定されている。問題は民間工事なんだ。『昔から土曜も動くのが当たり前だろう』と発注担当者から言われてしまえば、次の仕事をもらえなくなる怖さから、何も言えなくなってしまう…」

建設業は、発注者がいて初めて成り立つ仕事です。しかし、その力関係の中で、適正な工期適正なコストについての対話が、あまりにも不足しているのが現状です。特に天候という不確定要素を常に抱える建設現場において、ギリギリの工期設定は、必然的に休日の返上につながります。

この負の連鎖を断ち切るカギは、他ならぬ「発注者の理解」です。そして、その理解を得るためのボールは、私たち受注者側が持たなければなりません。

「休む」ために、私たちが今すぐ持つべき3つの武器

1. 交渉力という武器:データで語り、理解を求める

「とにかくお願いします」という感情的なお願いでは、ビジネスは動きません。「この工事内容であれば、安全と品質を確保し、週休2日を実現するためには、これだけの日数が必要です」と、過去の施工データや客観的な根拠を示して交渉する姿勢が求められます。無理な工期は品質低下や事故リスクを高め、最終的に発注者にとっても不利益になる事実を、冷静に伝えましょう。

2. 生産性向上という武器:DXで時間を創り出す

「時間が足りないなら、時間を創り出す」。それを可能にするのが建設DXです。ICT建機による自動化、施工管理アプリによる情報共有の効率化など、テクノロジーの力で労働時間を短縮しながら成果を高める取り組みは十分に可能です。少人数・短時間で現場を動かす知恵が、企業の競争力に直結します。

3. 適正な見積もりという武器:コストを可視化し、利益を守る

週休2日を確保すれば工期は延び、仮設・警備・光熱費などの現場経費は増加します。増加分を「見えないコスト」として抱え込まず、見積書に反映し、発注者に説明して合意を得ることが重要です。これは利益を守り、社員に適正な給与を支払うための生命線です。

まとめ・提言

「休めないのは、この業界の宿命だ」。そんな古い価値観は、もう捨てる時です。人手不足が加速するこれからの時代、「しっかり休める会社」であることは、福利厚生の話ではなく、人材確保と事業継続の最低条件、すなわち経営戦略そのものになります。

大切なのは、受け身で「休ませてもらえないか」ではなく、主体的に「こうすれば休める」という計画を立て、それを実現するための武器を磨き、受注の条件として発注者に堂々と提示していくこと。その一歩一歩が、あなた自身の働き方を変え、建設業界全体の未来を明るくしていくはずです。

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