村上事務所

夏の小休止は終わり。静かに忍び寄る「コスト再上昇」の現実と経営者の備え

利益が静かに蝕まれる「コスト再上昇」の足音

「最近、見積書の数字と、実際の請求書との間に妙なズレを感じませんか?」

この夏、多くの経営者が感じていた「資材価格が落ち着いてきた」という束の間の安堵感。しかし、秋の訪れとともに、その空気は再び張り詰め始めています。建設物価調査会などが発表する最新データでは、資材価格や工事費がわずかに上昇に転じており、「横ばい」の時期が一つの踊り場だった可能性が見え始めています。

数字としては小幅でも、その裏では円安の進行や国際的な原材料価格の高止まりが影を落としています。ここでは、この「静かな上昇」の背景と、私たちが今取るべき経営の一手を考えてみましょう。

データが示す潮目の変化:横ばいは「踊り場」に過ぎなかった

建設物価調査会の公表によると、2025年8月時点の全国建設資材物価指数(建設総合)は前月比でおおむね0.1〜0.3%の上昇となっています。特に土木関連資材では、鉄筋や鋼材の仕入れ価格がじわじわと上昇を始めており、夏まで見られた横ばい傾向からの反転が確認されています。

この動きの背景には、原油価格の再上昇、物流費の増加、そして円安の影響があります。これらは一時的なショックではなく、構造的なコスト上昇要因として定着しつつあるという見方も出ています。実際、複数の業界レポートでは「2025年度後半にかけて資材コストが再び上向くリスク」が指摘されています。

終わらない賃上げ圧力:「6%アップ」をどう乗り越えるか

建設資材だけでなく、もう一つの大きな負担が「労務費」です。日本建設業連合会の方針や、国土交通省が発表した2025年度公共工事設計労務単価によると、全国平均で前年比約6.0%の引き上げが行われています。これは若年層の確保や技能者の待遇改善を目的とした「持続的な賃上げ」の一環です。

ただし、問題はこの上昇分をいかに受注価格に反映させるかです。発注者の理解を得られず、単価交渉を怠れば、企業利益を圧迫する結果につながりかねません。今、経営者に求められているのは、賃上げを「未来への投資」として正しく位置づけ、それを価格に反映できる交渉力と説明力です。

「安ければ良い」は終わり。追い風を掴むための価格交渉術

こうした状況を、単なる「コストプッシュ」ではなく、自社価値を見直すチャンスと捉えることもできます。行政も「安ければ良い」という入札文化を見直しつつあります。

たとえば、東京都は2026年1月以降の公共工事発注分から、ダンピング対策を強化した新たな総合評価方式を導入する方針を示しています。価格だけでなく、技術力や品質管理体制といった要素を重視し、適正価格で受注する企業を評価する流れです。

この追い風を掴むためには、「なぜこの価格なのか」を明確に説明できる資料づくりが欠かせません。建設資材物価指数や労務単価の推移データを根拠に交渉を行うことで、単なる「値上げ」ではなく、合理的な「適正価格交渉」として発注者に受け入れられやすくなります。

まとめ:未来は「交渉」の先にある

資材と労務費の再上昇は、確かに企業経営にとって重い課題です。しかし、それは同時に、長年後回しにされてきた「適正価格」の議論を正面から行う機会でもあります。

今後の建設業界では、「安さ」よりも「持続可能性」や「品質」、そして「人材育成への投資」が評価される時代が来ています。自社の強みと誇りを数字とデータで裏付け、堂々と交渉する。その姿勢こそが、激変の時代を生き抜く企業の条件です。

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