村上事務所

経営事項審査(経審)のCPDとは?W点の加点と評点アップの仕組み、申請の落とし穴を解説

CPDとは何ですか?建設業における「継続的専門能力開発」の基本

建設業に携わっていると、「CPD」というアルファベット三文字を耳にする機会が増えてきたかもしれません。これは「Continuing Professional Development」という英語の頭文字をとった言葉です。

日本語に直訳すると「継続的専門能力開発」となりますが、これでは少し難しく感じてしまいます。もっと簡単に言えば、「技術者さんが、仕事に必要な知識や技術を継続的に勉強し続けること」を指します。

なぜ「継続的な勉強」が必要なのですか?

建設業の技術は日々新しくなっています。新しい工事のやり方(新工法)が生まれたり、安全に関するルールや法律が変わったりすることもあります。また、地震や大雨などの自然災害に備えるための技術も、常に進化しています。

例えば、昔ながらの方法だけで満足していて、新しい安全基準の勉強を怠ってしまうと、大きな事故に繋がるかもしれません。また、新しい技術を知らなければ、より効率的で品質の高い工事を提供するチャンスを逃してしまうことにもなります。

このように、建設工事の品質や安全を守り、さらに技術力を高めていくために、技術者さんは学校を卒業した後も、ずっと勉強を続けることが求められるのです。

法律でも「勉強」は求められています

実は、この「勉強し続けること」は、法律でもその大切さが示されています。

建設業法という、建設業の基本的なルールを定めた法律があります。その中(建設業法 第二十五条の二十七)では、建設業者に対して、所属する技術者さんたちの技術力が維持され、向上するように「技術者の研修その他の措置を講ずるよう努めなければならない」と定められています。

これは「努力義務」と呼ばれ、「必ずやりなさい」という強い命令ではありませんが、国としても建設業者さんに技術力の向上を求めている証拠です。

CPDが経営事項審査(経審)に関係する?

この「CPD」、つまり技術者さんが継続的に勉強した実績は、実は会社の「成績表」とも言える経営事項審査(経審)の点数に影響する場合があります。

ただ勉強するだけでなく、その勉強した時間を「単位」として証明することで、会社の評価が上がる仕組みがあるのです。

次の章からは、このCPDと経審の具体的な関係について、詳しく解説していきます。

経営事項審査(経審)とCPDの重要な関係

第1章では、CPDが「技術者さんの継続的な勉強」であると解説しました。では、このCPDが、会社の「成績表」である経営事項審査(経審)と、具体的にどのように関係してくるのでしょうか。

経審では、会社の様々な側面が点数化されます。例えば、どれだけ工事を完成させたか(完成工事高、X1)、会社の財務状況は健全か(Y)、そして、どれだけ優秀な技術者さんがいるか(技術力、Z)などです。

CPDは「W点」で評価されます

CPDの取り組みは、これらの点数(X1やY、Z)とは別の場所で評価されます。それが「その他社会性等(W点)」と呼ばれる項目です。

W点とは、会社が法律を守っているか、社会に貢献しているか、といった「会社の姿勢」を評価する点数です。例えば、建設機械をどれだけ持っているか、エコ活動に取り組んでいるか、などがここで評価されます。

そして、このW点の中に「技術職員の継続的な学習(CPD)の状況」を評価する項目が設けられているのです(建設業法施行規則第18条の3第2項)。

技術職員の「資格」と「学習」は別々に評価される

ここで大切なのは、技術者さんに関する評価が2回ある、ということです。

1回目の評価(Z点)

これは「技術力」の評価です。会社に1級施工管理技士などの難しい資格を持つ技術者さんが何人いるか、という「人数」と「資格の種類」が評価されます。

2回目の評価(W点)

これがCPDの評価です。Z点で評価された技術者さんたちが、資格を取った後もちゃんと新しい知識を「勉強し続けているか」という「学習の姿勢」が評価されます。

つまり、優秀な資格を持つ技術者さんを揃えること(Z点)はもちろん大切ですが、それだけでなく、その技術者さんたちが継続的に勉強していること(W点)も、経審では加点対象となるのです。

せっかく技術者さんたちが勉強していても、その実績がCPDの「単位」として正しく認められ、経審の申請で適切に提出されなければ、このW点の加点は受けられません。

次の章では、このCPD単位が具体的にどのように点数(評点)に変わるのか、その仕組みを詳しく見ていきます。

CPD単位が経審の評点(W点)に加算される仕組み

第2章では、技術者さんの継続的な勉強(CPD)が、経審の「W点(その他社会性等)」で評価されることをお伝えしました。では、取得したCPDの単位は、具体的にどのようにして点数(評点)に変わるのでしょうか。

ここで多くの方が誤解しやすいのですが、例えば「技術者さんが30単位取得したから、W点が30点加算される」という単純な仕組みではありません。

「1人あたりの平均単位数」で評価されます

経審のW点(CPDの項目)で評価されるのは、個人の単位数ではなく、「会社全体の技術職員1人あたりの平均CPD単位数」です。

この計算は、経審の審査基準日(通常は決算日)を基準に行われます。具体的には、経審の技術力評点(Z点)の計算対象となった技術職員さん全員のCPD単位を合計し、その人数で割って平均値を求めます。

例えば、Z点の対象となる技術職員さんが10人いたとします。そのうち2人が熱心に勉強して50単位ずつ(合計100単位)取得しても、残りの8人が0単位だった場合、会社のCPD単位の合計は100単位です。これを10人で割るため、1人あたりの平均は「10単位」として評価されます。

平均単位数と評点の関係

そして、算出された「1人あたりの平均CPD単位数」に応じて、W点の評点が以下のように決まります。

技術職員1人あたりの平均CPD単位数経営事項審査(W)の評点
30単位 以上6点
20単位 以上 30単位 未満5点
10単位 以上 20単位 未満3点
1単位 以上 10単位 未満1点
1単位 未満0点

先ほどの例(10人で平均10単位)の場合、上の表にあてはめると、W点の加点は「3点」となります。もし、10人全員がまんべんなく30単位ずつ取得していれば、平均は30単位となり、最大の「6点」が加算されたことになります。

申請の難しさと専門家の必要性

この仕組みでお分かりのように、経審でCPDの加点(最高6点)を目指すには、単に単位を取るだけでは不十分です。

まず、「Z点の対象となる技術職員」が誰なのかを正確に把握する必要があります。その上で、その人たちが審査基準日から遡って1年間に取得したCPD単位を証明する書類を集め、平均値を計算し、申請書(別紙様式第一号など)に正しく記載しなければなりません。

もし技術職員さんの人数の数え方(分母)を間違えたり、CPD単位として認められる証明書に不備があったりすると、せっかく技術者さんが努力して勉強しても、評点が0点になってしまう可能性もあります。

このように、CPDの加点申請は、経審の他の項目と比べても特に複雑な計算と書類管理が求められる分野です。だからこそ、多くの建設業者様が、こうした手続きの専門家である行政書士を活用しています。

建設業者様がCPDに取り組む3つの大きなメリット

CPD(継続的専門能力開発)に取り組むことは、技術者さんにとって勉強の時間が必要となり、会社にとっては管理の手間が増えるように感じられるかもしれません。しかし、CPDには、そうした手間を上回る大きな経営上のメリットがあります。

ここでは、建設業者様がCPDに取り組むことで得られる、代表的な3つのメリットをご紹介します。

メリット1:経営事項審査(経審)の評点アップ

これは最も直接的で分かりやすいメリットです。第3章で解説した通り、技術職員の1人あたりの平均CPD単位数に応じて、W点(その他社会性等)で最大6点の加点が得られます。

経審の総合評定値(P点)は、このW点を含む様々な要素を組み合わせて計算されます。入札参加資格の格付けでは、わずかな点数の差がライバル他社との明暗を分けることも少なくありません。公共工事の受注を目指す上で、この最大6点という加点は、決して小さなものではありません。

メリット2:技術力の向上による「信頼」の獲得

CPDの本来の目的は、技術力の維持と向上です。この取り組みは、会社の「信頼性」に直結します。

工事の品質と安全性の向上

技術者さんが継続的に新しい法律や最新の工法、安全管理の知識を学ぶことで、現場での施工品質が向上し、事故を未然に防ぐ力が高まります。これは、発注者である国や地方自治体、民間の施主様からの信頼を確実なものにします。

公共工事の入札(技術提案)で有利に

近年、公共工事の入札では、工事価格の安さだけでなく、「どのような技術で工事を行うか」という技術提案が重視される傾向が強まっています。会社としてCPDに積極的に取り組んでいるという事実は、技術力の高さを客観的に証明する材料となり、入札で有利に働く可能性があります。

メリット3:技術者の意欲向上と「人材」の確保

CPDへの取り組みは、社外へのアピールだけでなく、社内、特に「人」に関する課題解決にも繋がります。

技術者のモチベーション維持

会社が研修の費用を負担したり、CPDの単位取得を奨励したりする姿勢は、技術者さんにとって「会社は自分たちの成長を応援してくれている」という前向きなメッセージになります。これが仕事への意欲(モチベーション)を高め、離職率の低下にも繋がる可能性があります。

採用活動(求人)でのアピール

建設業界全体で人材不足が課題となる中、新しい技術者を採用することは非常に重要です。「わが社は、入社後もスキルアップできる研修制度が整っている(CPDを支援している)」という事実は、特に向上心のある若い世代にとって、大きな魅力となり、採用活動で他社との差別化を図ることができます。

このように、CPDは単なる経審対策ではなく、会社の「技術力」「信頼性」「人材力」という経営の土台を強くするための戦略的な取り組みと言えます。では、具体的にどのような学習がCPD単位として認められるのでしょうか。次の章で詳しく見ていきましょう。

CPD単位として認められる学習や研修の種類

CPDの加点を目指すには、技術者さんが勉強した実績を「単位」として証明する必要があります。ここで大切なのは、「どんな勉強でも認められるわけではない」という点です。

例えるなら、スタンプラリーのようなものです。ただスタンプを集めるのではなく、「決められた場所(認定団体)」が発行した「公式のスタンプ(単位証明書)」でなければ、景品(経審の加点)とは交換できません。

誰が「認定」するのですか?

経審で認められるCPD単位は、国土交通省が定めた基準に基づき、各技術者団体や業界団体が運営するCPD制度に参加して取得する必要があります。

これらの団体は「CPD認定団体」と呼ばれます。技術者さんが所属する専門分野(例えば、土木、建築、電気工事など)ごとに、多くの認定団体が存在します。

会社としては、自社の技術者さんが所属する学会や協会が、このCPD認定団体に含まれているかを確認することが第一歩となります。

どのような学習が「単位」になりますか?

どのような学習活動がCPD単位として認められるかは、各認定団体がそれぞれのルールを定めていますが、一般的には以下のような活動が対象となります。

学習活動の例簡単な説明
講習会やセミナーへの参加認定団体が主催または認定した研修会や講演会に出席することです。
オンライン学習(e-ラーニング)インターネットを通じて、新しい技術や法律に関するビデオ講座などを受講することです。
技術論文の執筆・発表学会や専門誌などで、自らの研究や工事の成果を発表することです。
資格の取得業務に関連する新しい公的な資格を取得することも、学習活動として評価される場合があります。
社内研修会社内で行う勉強会でも、認定団体の基準を満たし「社内研修」として事前に認定を受けていれば、単位が認められることがあります。

証明書がなければ「0単位」と同じです

最も重要な注意点は、これらの活動を行った「証拠」です。経審の申請では、各認定団体が発行した「CPD単位取得証明書」などの公式な書類を提出しなければなりません。

いくら技術者さんが熱心にセミナーに参加していても、その証明書が手元になければ、経審上は「0単位」として扱われてしまいます。

どの研修が単位として認められ、どの証明書が必要なのか。この管理は非常に複雑です。次の章では、この単位管理と申請における具体的な注意点や、陥りやすい落とし穴について解説します。

CPD単位の管理と経審申請における注意点と落とし穴

CPD単位を取得しても、それが自動的に経営事項審査(経審)の点数になるわけではありません。申請の手続きでミスがあったり、日頃の管理が不十分だったりすると、技術者さんのせっかくの努力が「0点」として評価されてしまうことさえあります。

ここでは、建設業者様がCPDの申請で特に陥りやすい、3つの「落とし穴」について具体的に解説します。

落とし穴1:対象となる「技術職員」の数え間違い

第3章で解説した通り、CPDの評点は「技術職員1人あたりの平均単位数」で決まります。この計算の基礎となる「人数」、つまり分母を間違えると、評点全体が大きく変わってしまいます。

Z点(技術力)の対象者と一致していますか?

CPDの平均単位を計算する際の「人数」は、経審のZ点(技術力)の計算対象となった技術職員の人数と、原則として一致させる必要があります。

例えば、審査基準日(決算日)より前に退職した方や、非常勤の方を誤って人数に含めてしまうと、分母が変わり、平均単位数が不正確になります。誰がZ点の対象となるのかを正確に把握することが、CPDの点数計算の第一歩です。

申請漏れによる「0単位」扱い

Z点の対象となる技術者さん(例えばAさん)がいるのに、AさんのCPD単位の申告を忘れてしまうと、Aさんは「0単位」として平均値の計算に含まれてしまいます。これが会社全体の平均単位数を大きく下げてしまう原因になります。

落とし穴2:認められる「証明書」の不備

経審の申請では、CPD単位を取得したことを客観的に証明する書類の提出が必要です。自己申告だけでは認められません。

認定団体が発行したものですか?

単位の証明書は、第5章で解説した「CPD認定団体」が正式に発行したものでなければなりません。例えば、セミナーの参加申込書の控えや、領収書だけでは、原則として単位取得の証明とは認められません。

記載内容は十分ですか?

証明書には、技術者さんの氏名、取得した単位数、学習の内容、取得年月日などが明記されている必要があります。これらの情報が欠けていると、有効な証明書と判断されない場合があります。

落とし穴3:対象となる「期間」の間違い

CPDの単位は、いつ取得したものでも良いわけではありません。経審で評価されるのは、原則として「審査基準日(決算日)以前の1年間」に取得した単位のみです。

1年間のカウントは正確ですか?

例えば、3月31日が決算日の会社であれば、その年の3月31日から遡って、前年の4月1日までに取得した単位が対象となります。決算日を1日でも過ぎてから(例えば4月1日に)取得した単位は、原則として翌年の経審の計算対象となります。

決算日間際に慌てて単位を取得しようとしても、その証明書の発行が間に合わなかったり、期間外になってしまったりするケースは非常に多く見られます。

これらの落とし穴は、ほんの一例です。CPDの申請は、技術職員の入退社管理、認定団体ごとのルール把握、証明書の収集と期限管理など、非常に煩雑な事務作業を伴います。

これらの管理を自社だけで完璧に行うのは、多大な労力がかかります。次の章では、こうした負担を軽減し、確実に評点アップに繋げるための戦略的な活用法について解説します。

経審の評点アップに繋げるCPDの戦略的活用と専門家への相談

これまで見てきたように、CPD(継続的専門能力開発)は経営事項審査(経審)のW点(その他社会性等)において、最大6点という貴重な加点を得られる項目です。しかし、第6章で解説した通り、その管理と申請には多くの「落とし穴」が潜んでいます。

技術者さん任せで「勉強しておいてください」と伝えるだけでは、評点アップには繋がりません。確実に加点を得るためには、「戦略的な活用」が不可欠です。

「戦略的」とはどういうことですか?

CPDの評点は「技術職員1人あたりの平均単位数」で決まります。つまり、技術職員全員が、審査基準日までの1年間に、平均して30単位以上を取得している状態を目指すことが戦略です。

これを達成するためには、以下のような管理が必要になります。

現状の正確な把握

まず、経審のZ点(技術力)の対象となる技術職員が、現時点で何人いるのかを確定させなければなりません。この「分母」となる人数把握が全ての基本です。

計画的な単位取得の管理

次に、その技術職員さん一人ひとりが、今何単位持っているのか、あと何単位必要なのかを管理します。そして、不足している単位を、どのように取得してもらうかを計画します。

コストと効率の最適化

高額なセミナーに参加しなくても、認定団体が認めている安価なe-ラーニング(オンライン学習)や、基準を満たした社内研修でも単位は取得できる場合があります。会社全体のコストを抑えつつ、効率的に単位を取得できる方法を探ることも戦略の一つです。

自社管理の難しさと専門家の役割

これらの戦略的な管理を、建設業者様ご自身が、日々の業務と並行して行うことは、非常に大きな負担となります。

「どの研修が経審の単位として認められるのか」 「この証明書は本当に有効か」 「Z点の対象者の計算は間違っていないか」

こうした複雑な確認作業には、建設業法やその施行規則(建設業法施行規則第18条の3第2項など)に関する深い知識と、経審申請の実務経験が求められます。

もし管理を誤れば、技術者さんが努力して取得した単位が、申請ミスによって「0点」になってしまう危険性があります。これでは、会社の評点が上がらないだけでなく、技術者さんの意欲を損ねてしまうことにもなりかねません。

まとめ

CPDによる加点は、経審の評点アップを目指す上で非常に有効な手段です。しかし、その背後には複雑な制度の理解と、緻密な管理業務が存在します。

経審を専門とする行政書士は、単に書類を作成するだけではありません。御社の技術職員の構成を分析し、どうすれば最も効率的かつ確実にW点の加点(最大6点)を達成できるかという「戦略」を設計し、その実行をサポートします。

本業である建設工事に集中しつつ、経審での評価を確実に高めていくために、こうした専門家の活用を検討することは、非常に有効な経営判断の一つと言えるでしょう。

NOTE

業務ノート

PAGE TOP