村上事務所

経営状況(Y点)とは?経審の評点を決める8つの指標と改善策を専門家が解説

経営状況(Y点)とは?会社の「経営の元気度」を示す通知表

建設会社の皆様が公共工事の入札に参加するために受ける「経営事項審査」、通称「経審」。この審査には、会社の様々な側面を点数で評価する項目があります。その中でも、会社の経営状態そのものを評価するのが「経営状況(Y点)」です。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、Y点は一言でいうと「会社の経営の元気度を示す通知表」のようなものです。学校の通知表が教科ごとに点数で評価されるように、Y点も会社の経営状態をいくつかの項目に分けて点数で評価します。また、人間ドックや健康診断の結果にも例えられます。体の各部分を検査して健康状態を判断するように、会社の財務状況を分析して、経営が健全かどうかを判断するのです。

Y点は誰が評価するの?

この大切なY点の評価は、国土交通大臣の登録を受けた「登録経営状況分析機関」という専門の機関が行います。これは建設業法第27条の23で定められており、国が認めた第三者機関が客観的な基準で分析するため、とても信頼性の高い評価といえます。建設会社が作成した財務諸表(会社の家計簿のような書類)をもとに、専門家が厳しくチェックし、点数を算出します。

会社の通信簿、その中身とは

Y点は、単に売上が大きい、利益が多いという単純な話ではありません。会社の「支払い能力は十分か」「借金は多すぎないか」「効率よく利益を出せているか」といった、様々な角度から経営の安定性や収益性を分析します。この分析によって、会社の隠れた課題や、逆に強みとなっている部分が数字として明らかになります。

まとめ

経営状況(Y点)は、公共工事を受注する上で非常に重要なだけでなく、自社の経営状態を客観的に把握するための貴重な指標です。この「経営の通知表」を正しく理解することが、会社の未来をより良くするための第一歩となります。次の章では、このY点が具体的にどのような項目で評価されているのかを、さらに詳しく見ていきます。

Y点の点数はどう決まる?8つの指標が評価のキホン

会社の「経営の元気度」を示す経営状況(Y点)ですが、この点数は一体どのようにして決まるのでしょうか。それは、まるで健康診断で「血圧」「視力」「聴力」など、様々な項目を検査するように、会社の経営状態を8つの異なる視点から分析して評価される仕組みになっています。

この8つの評価項目のことを「経営状況分析指標」と呼びます。一つの指標だけで判断するのではなく、複数の指標を組み合わせることで、会社の経営状態を多角的に、そして公平に評価することができるのです。

経営状況を測る「8つのものさし」

それでは、会社の経営状態を測るために使われる、8つの「ものさし」を見てみましょう。それぞれの指標が、会社のどのような側面を評価しているのか、簡単な説明を添えて紹介します。

指標の名称どのような内容か
純支払利息比率借入金などに対する利息の支払いが、会社の負担になっていないかを見ます。
負債回転期間会社の負債を、どれくらいの期間で返済できるか、その速さを評価します。
総資本売上総利益率会社が持っているすべての財産を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを見ます。
売上高経常利益率売上に対して、本業と本業以外を合わせた事業全体でどれだけ利益を残せているかを評価します。
自己資本対固定資産比率会社の建物や機械といった、すぐには現金化できない資産を、返済不要の自分のお金でどれだけまかなえているかを見ます。
自己資本比率会社のすべての財産のうち、返済する必要がない自分のお金がどれくらいの割合を占めるか、会社の安定性を示します。
営業キャッシュフロー会社の本業である建設事業で、実際にどれだけの現金を生み出しているか、その力強さを見ます。
利益剰余金会社が設立されてから現在までに、どれだけ利益を蓄積してきたか、会社の歴史と体力を評価します。

指標の点数が合わさってY点になる

登録経営状況分析機関は、決算書の数字をこれら8つの指標の計算式に当てはめて、それぞれの指標の数値を出します。そして、その数値を「評点」という点数に置き換えます。

最終的に、この8つの指標の評点を、建設業法施行規則で定められた複雑な計算式に入れて、一つの総合的な点数である「経営状況(Y点)」が算出されるのです。つまり、Y点はこれらの指標の評価が組み合わさってできあがった、会社の経営状態の総合評価といえます。

まとめ

経営状況(Y点)は、8つの異なる「ものさし」で会社の財務状況を細かく分析し、それらを総合して算出される点数です。どの指標が会社の強みで、どれが弱みなのかを理解することが、経営改善の第一歩となります。次の章では、これら8つの指標の一つひとつについて、さらに深く掘り下げて解説していきます。

8つの評価指標を徹底解剖!あなたの会社の強みと弱みはどこ?

会社の経営状態を総合的に評価する経営状況(Y点)。その点数は、8つの異なる「ものさし」である「経営状況分析指標」によって算出されることを前の章でお伝えしました。この章では、その8つの指標の一つひとつを、より深く、そして分かりやすく解説していきます。ご自身の会社の通知表を読み解くような気持ちで、自社の強みと弱みがどこにあるのかを確認してみましょう。

会社の安定性を見るものさし

まずは、会社がどれだけ安定しているか、倒産しにくいかを見るための指標です。これらは会社の守りの固さを示します。

純支払利息比率

この指標が示すこと

借入金の利息負担が、会社の利益に対して重すぎないかを示します。家庭で例えるなら、毎月の収入に対して住宅ローンの返済額が多すぎないか、という感覚に近いです。この数値が低いほど、利息の負担が軽く、経営が健全であると評価されます。

負債回転期間

この指標が示すこと

会社が抱える負債(借金)を、売上によってどれくらいの期間で返済できるかを示します。この期間が短いほど、返済能力が高く、資金繰りが安定していると評価されます。スピーディーに借金を返せる体力があるかどうかの指標です。

自己資本対固定資産比率

この指標が示すこと

会社の建物や土地、重機といった、すぐに現金化できない「固定資産」を、どれだけ返済不要の自己資金でまかなえているかを示します。この比率が高いほど、借金に頼らずに事業の土台を築いていることになり、長期的に安定した経営と評価されます。

自己資本比率

この指標が示すこと

会社が持つすべての財産(総資本)のうち、返済する必要のない自分のお金(自己資本)がどれくらいの割合を占めるかを示します。この比率が高いほど、借金が少なく、財務的に非常に安定している「倒産しにくい会社」と評価されます。

会社の収益性を見るものさし

次に、会社がどれだけ効率よく利益を生み出しているか、儲ける力があるかを見るための指標です。これらは会社の攻めの力強さを示します。

総資本売上総利益率

この指標が示すこと

会社が投下したすべてのお金(総資本)を使って、どれだけ効率的に工事の粗利益(売上総利益)を稼ぎ出しているかを示します。少ない元手で大きな利益を生み出す力があるかどうかを測る指標です。

売上高経常利益率

この指標が示すこと

会社の売上に対して、本業の儲けだけでなく、本業以外の損益もすべて含めた「経常利益」がどれだけ残っているかを示します。この比率が高いほど、会社全体として収益力が高いと評価されます。

会社の規模・持続性を見るものさし

最後に、会社の現金を生み出す力と、これまでの歴史で培ってきた体力を見る指標です。

営業キャッシュフロー

この指標が示すこと

建設業という本業で、実際にどれだけの「現金」を生み出せているかを示します。帳簿上は黒字でも、手元にお金がなければ会社は運営できません。この数値が大きいほど、事業活動によって現金が潤沢に生み出されていることを意味し、会社の活動が力強いと評価されます。

利益剰余金

この指標が示すこと

会社が創業してから今まで、税金を支払った後の利益をどれだけ会社内部に蓄積してきたかを示します。これが会社の「貯金」のようなもので、この金額が大きいほど、長年にわたり健全な経営を続けてきた歴史と体力があると評価されます。

まとめ

これら8つの指標は、それぞれが会社の異なる側面を映し出す鏡のようなものです。一つの指標だけが良くても、他の指標が悪いとY点の総合評価は上がりません。大切なのは、これらの指標をバランス良く向上させていくことです。自社の決算書とこれらの指標を照らし合わせることで、具体的な経営課題が見えてくるはずです。しかし、これらの数値をどう分析し、どう改善策に繋げるかは専門的な知識が必要です。

Y点が低いとどうなる?公共工事受注への影響と重要性

これまでの章で、経営状況(Y点)が会社の経営状態を多角的に評価する重要な指標であることを解説してきました。では、もしこのY点の評価が低かった場合、会社には具体的にどのような影響があるのでしょうか。一言で言うと、その影響は「公共工事の受注が極めて難しくなる」という、経営の根幹に関わる深刻なものです。

総合評点(P点)への直接的な影響

公共工事の入札に参加する建設会社は、最終的に「総合評点(P点)」という一つの総合点でランク付けされます。発注機関である国や地方公共団体は、このP点の点数が高い会社から順番に指名したり、入札で有利に扱ったりします。

そして、この最も重要なP点を計算する上で、Y点は主要な構成要素の一つとなっています。P点は以下の要素を組み合わせて算出されます。

評点の種類内容
完成工事高(X1点)どれだけ多くの工事を完成させたか、実績の規模を示します。
自己資本額及び利益額(X2点)会社の資本や利益の大きさ、いわば会社の体力や儲けを示します。
技術職員数及び元請完成工事高(Z点)資格を持つ技術者がどれだけいるか、元請としてどれだけ工事を完成させたかを示します。
その他の審査項目(W点)労働福祉の状況や、建設業の経理に関する資格者の有無などを評価します。
経営状況(Y点)会社の財務的な健全性、経営の元気度を示します。

P点は、これらの各評点に一定の比率を掛けて合計した点数です。つまり、Y点の点数が低いと、他の項目でどんなに高い評価を得ていても、最終的なP点が大きく下がってしまうのです。それは 마치、入学試験で一つの科目の点数が極端に悪いと、他の科目が満点でも合計点が伸び悩み、志望校に合格できないのと同じです。

発注者からの信頼性低下という見えない影響

Y点が低いということは、数字の上で「財務内容が不安定な会社」「利益を出しにくい体質の会社」と評価されていることを意味します。公共工事の発注者は、税金を使って工事を行うため、工事を途中で投げ出してしまうようなリスクのある会社や、経営が不安定な会社との契約を最も嫌います。

Y点は、建設業法という法律に基づいた客観的な評価です。そのため、発注者はこの点数を、その会社が工事を最後まで確実にやり遂げる能力があるかどうかを判断するための、信頼できる「お墨付き」として見ています。Y点が低いということは、この「お墨付き」がないのと同じであり、発注者からの信用を失い、入札の土俵に上がることすら難しくなってしまうのです。

まとめ

経営状況(Y点)が低いということは、単に通知表の点数が悪いという話ではありません。それは公共工事の受注競争において致命的な弱点となり、会社の成長の機会を大きく損なう直接的な原因となります。この重要なY点を放置することは、会社の未来にとって大きなリスクです。では、どうすればこのY点の評点を上げることができるのでしょうか。次の章では、その具体的な方法について解説していきます。

Y点の評点を上げるには?明日からできる経営改善のヒント

会社の公共工事受注能力に直結する経営状況(Y点)。この点数が低いままだと、会社の成長機会を逃してしまう可能性があることは、前の章でお伝えした通りです。では、このY点を上げるためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。Y点の改善は、一朝一夕に実現するものではなく、日々の経営における地道な努力の積み重ねが結果となって現れます。ここでは、明日からでも意識できる経営改善のヒントを、これまでの指標と関連付けながら解説します。

会社の守りを固めるための改善策

まずは、会社の安定性を示す指標を改善し、倒産しにくい「守りの固い」会社を目指すための方法です。

利益を会社の貯金として残す

関連する指標

自己資本比率、利益剰余金

具体的な行動

毎年の決算で出た利益を、すべて役員報酬や賞与で使い切るのではなく、可能な限り「利益剰余金」として会社内部に蓄積していくことが大切です。これが会社の「貯金」となり、自己資本を厚くします。自己資本が増えれば、会社の財産全体に占める返済不要のお金の割合(自己資本比率)が高まり、財務的な安定性が格段に向上します。

借入金を賢く管理する

関連する指標

純支払利息比率、負債回転期間

具体的な行動

事業の拡大に必要な借入は大切ですが、不必要に多くの借金を抱えることは経営を圧迫します。まずは、金利の高い借入から優先的に返済することを検討しましょう。借入金が減れば、支払う利息も減り、「純支払利息比率」の評点が改善します。また、計画的な返済は会社の信用を高め、次の資金調達を有利に進めることにも繋がります。

会社の儲ける力を伸ばすための改善策

次に、効率的に利益を生み出す「攻めの力」を強化し、収益性を高めるための方法です。

工事一件ごとの利益を管理する

関連する指標

総資本売上総利益率

具体的な行動

大きな売上があっても、それ以上に材料費や人件費がかかっていては利益は残りません。大切なのは、工事一件ごとの原価を正確に把握し、しっかりと利益を確保することです。どんぶり勘定ではなく、実行予算を立てて工事を進め、最終的にどれだけの利益が出たかを必ず確認する習慣が、会社の利益体質を強くします。

会社の固定費を見直す

関連する指標

売上高経常利益率

具体的な行動

売上があってもなくても毎月必ずかかる事務所の家賃や通信費、車両の維持費などの「固定費」。これらの中に無駄がないか、定期的に見直すことが重要です。例えば、より効率的な機械を導入して燃料費を削減する、不要な保険契約を見直すといった小さな改善の積み重ねが、最終的に会社の利益率を大きく改善させます。

自分たちだけでの改善には限界も

ここまで具体的な改善のヒントを挙げてきましたが、多くの経営者様が直面する課題があります。それは、「自分の会社の場合、どの指標から手をつけるのが最も効果的なのか」「改善策を実行した場合、次の決算でY点が何点上がるのかが事前に分からない」という点です。闇雲に改善策を試しても、それが的外れであれば、一年間の努力が点数に結びつかない可能性もあります。

まとめ

経営状況(Y点)の向上は、日々の経営活動そのものです。利益をしっかり確保し、無駄な支出を減らし、借金を計画的に管理するといった、当たり前ともいえる行動の積み重ねが評点に反映されます。しかし、自社の状況を客観的に分析し、最も効果的な打ち手を、正しい順番で実行していくことは簡単なことではありません。次の章では、専門家と共に、より戦略的にY点アップを目指す方法について解説します。

専門家と共に目指すY点アップと経営改善

前章では、経営状況(Y点)を向上させるための具体的なヒントをご紹介しました。しかし、「どの対策を、どの順番で、どの程度行えば、点数が最も効率的に上がるのか」を自社だけで判断するのは、羅針盤を持たずに航海に出るようなものです。Y点の計算式は非常に複雑であり、一つの数値を動かすと、他の指標に思わぬ影響を与えることも少なくありません。

そこで重要になるのが、専門家、特に建設業の経営事項審査を熟知した行政書士の視点です。専門家は、単に手続きを代行するだけではありません。会社の未来を見据え、最も効果的な経営改善策を導き出すためのパートナーとなり得ます。

専門家による現状分析と具体的な改善計画

私たち専門家が提供できる大きな価値の一つは、客観的なデータに基づいた現状分析と、未来を見据えた改善計画の策定です。来期の決算を予測し、様々な改善策を試した場合にY点がどのように変化するのかを事前に検討することで、より確実な一手を打つことが可能になります。

改善計画策定の具体的な流れ

ステップ内容
現状の分析まず、今期の決算書を基に現在のY点を正確に把握し、8つの指標のどこに課題があるのかを徹底的に分析します。
改善策の検討「借入金を100万円返済したらどうなるか」「利益を50万円増やして内部留保に回したらどうなるか」といった、様々な改善策を検討します。
改善による評点変化の予測それぞれの改善策を実行した場合の来期の財務諸表を予測し、Y点が何点になるかを具体的に算出します。複数のパターンを比較検討することが可能です。
最適な改善計画の策定分析と予測結果に基づき、その会社にとって最も費用対効果が高く、実行可能な経営改善計画をご提案します。

法改正など最新情報への対応力

さらに、専門家は常に最新の法改正の動向を把握しています。例えば、令和7年(2025年)7月1日以降を審査基準日とする申請からは、一定の条件を満たす「資本性借入金」を自己資本額に加えて評価できる、という重要な改正が施行されます。これは、金融機関等からの借入金の一部を、返済不要の自分のお金(自己資本)と同じように扱ってもらえる制度です。

この改正は、Y点の評価項目である「負債回転期間」や「自己資本対固定資産比率」、「自己資本比率」などに直接影響を与えるだけでなく、会社の規模を示すX2点(自己資本額及び利益額)の評価も引き上げる可能性があります。このような新しい制度を最大限に活用できるかどうかは、専門的な知識の有無にかかっており、事前の検討が極めて重要になります。

自己流の対策が招くリスク

専門家に相談せず、自己流で経営改善に取り組むことには、見過ごせないリスクが伴います。一年間努力したにも関わらず、審査の直前になって点数が上がらないことが判明し、受注したかった工事の入札に参加できないという事態にもなりかねません。

また、注意が必要なのは、経営事項審査の総合評点(P点)が高ければ必ず落札できるわけではない、という点です。実際の入札では、P点に加えて、国や県、市町村といった発注者ごとに独自の格付け基準や評価項目が加味されることがほとんどです。そのため、目標とする工事の発注者の傾向も踏まえた、より戦略的な対策が求められます。

まとめ

経営状況(Y点)の改善は、会社の持続的な成長に不可欠です。そして、その道のりをより確実で、より効率的なものにするために、私たち専門家がいます。具体的な数値に基づいた計画を立てることで、闇雲な努力ではなく、明確な目標に向かった戦略的な経営改善が可能になります。自社の経営状態を客観的に把握し、次の一手を的確に打ちたいとお考えでしたら、ぜひ一度、専門家にご相談ください。あなたの会社の未来を、数字の面から力強くサポートします。

NOTE

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