
建設業の技術者資格 まるわかりガイド!
建設業の技術者資格【かんたん解説】許可と経審のカギ
社長、この度は建設業許可のご取得、誠におめでとうございます。事業を軌道に乗せるための、大きな、そして重要な一歩を踏み出されましたこと、心よりお祝い申し上げます。
さて、許可という大きな関門を通過された今、社長の頭の中では、次のような想いが巡っているのではないでしょうか。「許可は取れたけれど、会社の技術的な部分は、具体的に誰が、どのように支えていくのだろうか」「法律を守り、さらに会社を成長させていくためには、どんな知識や資格を持った人材が必要なのだろうか」。これは、多くの経営者様が直面する、当然の、そして非常に大切な問いです。
建設業における「技術者」とは。なぜこれほど重要なのでしょうか
建設業を健全に、そして継続的に営んでいく上で、「技術者」の存在は、人間にとっての酸素のように、片時も欠かすことのできない、まさに事業の生命線とも言えるものです。これは、単なる努力目標や推奨事項ではなく、建設業法という、私たちの事業の根幹をなす法律によって、厳格に定められている要請なのです。
法律の条文を少し見てみましょう。建設業法では、許可を取得し、それを維持するための基準が細かく定められています。その中でも特に重要なのが、第7条第2号です。ここには、許可を受けようとする者は、その営業所ごとに、一定の資格または経験を有する「専任の技術者」を置かなければならない、と明確に規定されています。この「専任技術者」さん、つまり、その営業所に常勤して技術的な管理を専門に行う方がもし不在となれば、せっかく取得した許可そのものが維持できなくなるという、非常に厳しいルールが存在します。会社が法律に基づいて事業を行うための、いわば「最低限のお約束」と言えるでしょう。
さらに、会社の将来を見据え、公共工事への参入や、より大きなプロジェクトへの挑戦をお考えの社長様にとっては、この技術者の存在意義は、単なる法律遵守の域を超えて、戦略的な重要性を帯びてきます。公共工事の入札に参加するためには、原則として「経営事項審査」、多くの方が「経審(けいしん)」と呼ぶ評価プロセスを経る必要があります。これは、発注者である国や地方公共団体などが、工事を任せるに足る会社かどうかを判断するために、会社の経営状況や技術力などを客観的な点数(評点)で評価する、いわば「会社の健康診断兼体力測定」のようなものです。
この経審の評価項目は多岐にわたりますが、中でも会社の「技術的な体力」を示す部分、専門的には「技術力評点」、通称「Z点」と呼ばれる項目は、入札の結果を大きく左右する要素として知られています。そして、このZ点の評価を決定づける最も大きな要因の一つが、「どのような国家資格を持つ技術者が、どれだけの人数、会社に在籍しているか」という点なのです。
技術者の重要性、2つの側面 | |
法令遵守の側面 (建設業法) | 営業所ごとに「専任技術者」の設置が法律で義務付けられています (建設業法 第7条第2号、第15条)。これが欠けると、建設業許可の維持が困難になります。事業継続の基盤です。 |
事業成長の側面 (経営事項審査) | 公共工事受注の鍵となる「経営事項審査(経審)」の評価に直結します。特に「技術力評点(Z点)」は、有資格者の質と数に大きく影響されます。会社の競争力を示す指標です。 |
しかし立ちはだかる壁。資格の迷宮
「なるほど、技術者は法律上も、経営戦略上も重要なんだな」とご理解いただけたかと思います。しかし、次なる壁が立ちはだかります。いざ、具体的にどんな技術者が必要なのかを調べ始めると、「施工管理技士(せこうかんりぎし)」「建築士(けんちくし)」「技能士(ぎのうし)」といった、似ているようで異なる、様々な資格の名称が次々と現れます。まるで、出口の見えない迷宮に迷い込んだかのように感じられるかもしれません。「どの資格が、一体どういう能力を証明するものなんだろうか」「自社の事業内容や、目指す方向性には、どの資格が最も適しているのだろうか」。こうした疑問や不安を感じられるのは、決して社長様だけではありません。
少し視点を変えてみましょう。技術力とは、信用の証
ここで、少しだけ想像してみてください。もし、社長様ご自身や、大切なご家族が、難しい病気にかかってしまったとします。その時、どのような病院、どのような医師を選びますでしょうか。おそらく、まず「国から正式な認可を受けている、ちゃんとした病院」を選びますよね。無資格の医師や、怪しげな施設を選ぶ方はいないはずです。これが、建設業における「専任技術者」が持つ意味合いに近いかもしれません。つまり、法律に基づき、最低限の技術水準と管理体制を備えているという、社会的な信用の証なのです。
しかし、もし「より高度な治療を受けたい」「成功率が低いと言われる難しい手術を、何としても成功させてほしい」と強く願うなら、どうでしょうか。その病院に、どれだけ経験豊富で、優れた技術を持つ専門医や、いわゆる「ゴッドハンド」と呼ばれるような名医が在籍しているか、その病院の手術成功率はどれくらいか、といった点を重視するのではないでしょうか。これが、経営事項審査における「技術力評点(Z点)」の考え方に通じます。優れた国家資格を持つ技術者が数多く在籍しているということは、その建設会社が「技術的に難しい工事(=高度な治療)も、高い品質で安全に遂行できる能力(=優れた医療水準)を持っている」ことの客観的な証明となるのです。そして、その高い評価が、結果として、公共工事という大きな事業機会(=最善の治療を受けるチャンス)を引き寄せる力となります。
この情報が、社長の羅針盤となることを願って
この一連の記事では、このように建設業の根幹を支え、会社の未来を拓く「技術者」の資格制度について、その迷宮を解き明かすための羅針盤となるべく、情報を整理してお届けいたします。「この資格は、具体的にどのような知識や技術レベルを証明するものなのか」「取得することで、どのような役割(例えば、営業所の専任技術者や、現場の主任技術者、監理技術者など)を担うことができるのか」「一般建設業の許可と、より大規模な工事を扱う特定建設業の許可では、求められる資格のレベルにどのような違いがあるのか」といった点を、専門的な言葉もできる限り分かりやすく解説しながら、順を追ってご案内してまいります。
これから続く各章を読み進めていただくことで、現在、そして将来の貴社にとって、どのような技術者像が理想的なのか、その輪郭がより鮮明に見えてくるはずです。そして、それが今後の人材採用や育成計画、さらには経営全体の戦略を練り上げていく上での、確かな土台となることを願っております。
まず基本。会社に必要な技術者の役割って、具体的にどんなものなのでしょうか。
前の章で、建設業において技術者がいかに重要か、法律上の要請と会社の成長戦略の両面からお話しいたしました。ただ、一口に「技術者」と言っても、その役割や責任、活躍する場所は一つではありません。会社の事業運営と、実際の工事遂行という、いわば車の両輪を円滑に回していくためには、まず社内に存在する、大きく分けて二つの重要な技術者の役割について理解を深めることが、全ての始まりとなります。それでは、それぞれの役割について、少し詳しく見ていくことにしましょう。
役割その1 営業所の知性。「専任技術者」
まず一つ目の重要な役割は、会社の「営業所」、つまり本店や支店といった事業の拠点に必ず配置しなければならない、「専任技術者(せんにんぎじゅつしゃ)」です。「専任」という言葉が示す通り、原則としてその営業所の業務に専ら従事し、技術的な側面から事業運営を支える、まさに「会社の技術部門の頭脳」と言える存在です。
法律上の根拠と位置づけ
この専任技術者の設置義務は、建設業法第7条第2号において、建設業許可を受けるための人的要件として明確に規定されています。さらに、同法第15条では、その専任性(原則として、他の職務と兼務せず、その営業所に常勤すること)についても触れられています。もし、この専任技術者が不在となってしまえば、許可の基準を満たさないことになり、最悪の場合、許可の取消しといった事態にもなりかねません。まさに、会社の適法な事業運営を担保する、根幹となる役職なのです。
主な職務内容 契約と計画の守護神
では、専任技術者は具体的にどのような業務を担っているのでしょうか。その主戦場は、工事が始まる「前」の、契約や計画の段階にあります。
技術的な裏付けの確認 | 工事の見積もりを作成したり、お客様から工事の注文を受けたりする際に、その内容が技術的に見て実現可能なのか、関連する法規(建築基準法など)に適合しているか、無理のない工法か、などを専門的な視点からチェックします。いわば、契約前の「技術的な健康診断」を行う役割です。 |
契約内容の精査 | 請負契約書を取り交わす際には、契約書に記載される工事の範囲、仕様、工法などが明確かつ適切であるか、技術的な観点から詳細に確認します。後々のトラブルを防ぐための、重要なチェック機能です。 |
発注者との技術的な窓口 | 契約の交渉段階や契約後においても、工事の技術的な側面について発注者からの質問に答えたり、専門的な打ち合わせを行ったりする際の、会社の「顔」となります。 |
このように、専任技術者は、工事の入口である契約段階において、その技術的な妥当性と適法性を担保し、会社が遂行能力を超えるような無謀な契約を結ぶことを防ぎ、後の確実な工事履行へと繋げるための、非常に重要な「社内の知性」であり、「技術的な砦(とりで)」としての役割を果たしています。
例えるなら。「手術計画の責任者」
先ほどの病院の例えで考えてみましょう。専任技術者は、患者さん(=お客様)の状態や要望を詳細に把握し、最適な治療法(=工法・仕様)を検討・選択し、手術(=工事)の全体計画を策定し、必要な準備を整える「手術計画の責任者」や「術前カンファレンスの中心人物」のような存在です。この方の的確な計画と判断がなければ、どんなに腕の良い執刀医がいても、安全で質の高い手術(=工事)を成功に導くことは難しいでしょう。
役割その2 工事現場の指揮官。「主任技術者」「監理技術者」
二つ目の重要な役割は、計画を形にする、まさに建設工事の最前線である「工事現場」で活躍する技術者です。こちらは、「主任技術者(しゅにんぎじゅつしゃ)」あるいは「監理技術者(かんりぎじゅつしゃ)」と呼ばれます。彼らは、営業所で練られた計画を現場で実現するための「現場の指揮官」であり、品質・安全・工程を守る実行部隊のリーダーです。
法律上の根拠と位置づけ
建設工事の適正な施工を確保するため、建設業法第26条では、請け負った建設工事を施工する際には、その工事現場に主任技術者または監理技術者を置かなければならない、と定めています。どんなに小規模な工事であっても(建設業法で定める軽微な建設工事を除く)、現場の技術的な管理を行う責任者の配置は、法律上の義務なのです。
主な職務内容 品質・安全・工程の現場責任者
主任技術者・監理技術者の仕事は、工事が「スタートしてから」完了するまでの、現場における技術的なマネジメント全般にわたります。
施工計画の実行と具体化 | 営業所で承認された全体的な施工計画をもとに、現場の状況に合わせて、日々の具体的な作業手順や工法を計画し、作業員や職人さんたちに的確な指示を出します。 |
三大管理(品質・工程・安全) | 工事が設計図書や仕様書通りに、求められる品質基準を満たして作られているか(品質管理)、計画されたスケジュール通りに進捗しているか(工程管理)、そして最も重要なこととして、労働災害などを起こさず、全ての関係者が安全に作業できているか(安全管理)を、現場の最前線で直接、監督・指導します。 |
下請業者との連携・調整 | 建設工事は、多くの場合、様々な専門分野の下請業者の協力によって成り立っています。これらの下請業者への指示伝達、作業間の調整、技術的な指導なども、彼らの重要な役割です。 |
彼らはまさに、現場という「戦場」で、品質という「砦」を守り、安全という「盾」を構え、工程という「道筋」を管理しながら、工事を完成という「勝利」へと導く、不可欠な「実行責任者」と言えるでしょう。
例えるなら。「手術現場の執刀医・リーダー」
再び病院の例えに戻ると、主任技術者や監理技術者は、事前に立てられた手術計画に基づき、実際に手術室でメスを握り、看護師や麻酔科医といった手術スタッフ(=作業員や下請業者)を的確に指揮し、予期せぬ事態にも対応しながら手術を成功へと導く「執刀医」や「手術チームのリーダー」に相当します。彼らの冷静な判断、的確な技術、そして現場をまとめるリーダーシップなくして、実際の工事を無事に完了させることはできません。
「主任」と「監理」の違い、ご存知ですか。
ところで、「主任技術者」と「監理技術者」、二つの名前が出てきましたが、この違いは何でしょうか。これは主に、工事の契約形態と規模によって使い分けられます。
主任技術者と監理技術者の違い(概要) | |
主任技術者 | 原則として、全ての工事現場(建設業法上の軽微な建設工事を除く)に配置が必要となる、基本的な現場技術責任者です。自社が下請として工事を行う場合や、元請であっても下請への発注総額が比較的小規模な場合に配置されます。 |
監理技術者 | 「特定建設業」の許可を持つ会社が「元請」として受注し、かつ、下請契約の請負代金総額が一定額以上(具体的には、建築一式工事以外では4,000万円以上、建築一式工事では6,000万円以上)となるような、大規模な工事現場において、主任技術者に代わって配置される、より上位の現場技術責任者です。監理技術者には、より広範で高度なマネジメント能力が要求されます。 |
(注記:監理技術者の配置が必要な金額要件は、消費税込みの金額で判断します。)
重要な関連性 役割は違えど、求められる「資格要件」はリンクしている。
さて、ここまで「営業所の知性=専任技術者」と「現場の指揮官=主任技術者・監理技術者」という、二つの異なる、しかしどちらも会社にとって不可欠な技術者の役割について解説してきました。働く場所も、日々の具体的な業務内容も、それぞれ特色があります。
しかし、ここで社長様にぜひ、強く認識しておいていただきたい、非常に重要なポイントがあります。それは、これら異なる二つの役割を担うために法律上必要とされている「資格」や「実務経験」といった要件が、多くの場合において共通している、あるいは密接に関連しているという事実です。
どういうことかと申しますと、例えば、ある特定の国家資格(後の章で詳しく解説します)を取得すれば、その資格一つで、営業所の「専任技術者」としての要件を満たすことができると同時に、工事現場の「主任技術者」(あるいは、資格のレベルによっては「監理技術者」)としての要件をも満たすことができる、というケースが非常に多いのです。これは、建設業法が、営業所における計画・契約段階での技術的な担保と、工事現場における実行・管理段階での技術的な担保の双方を確実にするために、一定水準以上の知識、技術、経験を持つ人材を、それぞれの場面で求めていることの現れと言えるでしょう。
ですから、これから先の章で一つ一つ解説していく各種の資格(例えば、施工管理技士、建築士、技能士など)の内容や取得方法について理解を深めることは、「専任技術者の候補者を探す、あるいは育成するため」だけではなく、「現場に配置すべき主任技術者や監理技術者の候補者を探す、あるいは育成するため」にも、同時に役立つ知識となるのです。まさに、一挙両得、一石二鳥の知識と言えるかもしれません。
それでは、次章からは、これらの重要な役割を担うための「パスポート」となる、具体的な資格の種類とその内容について、より詳しく掘り下げて見ていくことにいたしましょう。
資格の代表格。「施工管理技士」とはそもそも何か
前の章では、建設会社に不可欠な二つの技術者の役割、「専任技術者」と「主任技術者・監理技術者」についてお話ししました。そして、これらの役割を担うためには、多くの場合、共通の資格要件が求められるという重要な点にも触れました。では、その「共通の資格要件」の代表格とは何でしょうか。ここからは、建設業界で最も広く認知され、多くの技術者がキャリアを通じて目指すことになる国家資格、「施工管理技士(せこうかんりぎし)」について、その内容を詳しく掘り下げていきましょう。
「施工管理技士」とは、その名の通り、建設工事の「施工」、つまり実際に構造物や設備を作り上げていくプロセス全体を、専門的な知識と技術に基づいて「管理」する能力を持っていることを、国が証明する国家資格です。この資格制度は、建設工事の質の向上と安全の確保を目的として、建設業法第27条に定められた「技術検定」に基づいて実施されています。建設プロジェクトという、多くの人、資材、機械、そして予算が複雑に絡み合う一大事業を、成功へと導くための、いわば「現場のオーケストラの指揮者」とも言える、非常に重要な役割を担うための資格なのです。
「施工管理」とは、具体的に何を管理するのでしょうか
一言で「管理」と言っても、その範囲は多岐にわたります。施工管理技士が担うべき主な管理業務には、以下のものが含まれます。これらを適切に行うことで、工事は計画通りに、安全かつ高品質に完成へと向かいます。
施工管理技士が担う主な管理業務 | |
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工程管理 | 工事全体や各作業のスケジュールを作成し、計画通りに作業が進んでいるか日々確認し、遅れが生じた場合には原因を究明し対策を講じます。天候や予期せぬ事態にも対応しながら、納期を守るための重要な管理です。 |
品質管理 | 設計図書や仕様書で要求されている材質、強度、精度、仕上がりなどが確保されているかを確認します。使用する材料が適切か、決められた手順や工法で作業が行われているか、完成した部分が基準を満たしているかなどを、段階的に検査・測定・記録します。建物の耐久性や機能性を保証するための、根幹となる管理です。 |
安全管理 | 工事現場では、高所作業、重機操作、電気作業など、危険を伴う作業が多く存在します。作業員や周辺住民の安全を守り、労働災害や公衆災害を未然に防ぐための計画(安全計画)を立案し、現場での安全設備(手すり、足場、安全帯など)の設置・点検、安全教育の実施、危険箇所の周知徹底などを行います。人命に関わる、最も優先されるべき管理項目です。 |
(参考)原価管理 | 決められた予算内で工事を完成させるためのコスト管理も、施工管理の重要な要素です。ただし、建設業法の許可要件や技術者配置義務において直接的に問われるのは、主に上記の工程・品質・安全の管理能力です。 |
(参考)環境管理 | 工事に伴って発生する騒音、振動、粉塵、廃棄物などが、周辺の環境に与える影響を最小限に抑えるための対策を講じることも、近年ますます重要視されています。 |
このように、施工管理技士は、プロジェクト全体を見渡し、人・物・金・情報を適切に動かしながら、複雑な建設工事を成功に導くための、高度なマネジメント能力が求められる資格なのです。
レベルの違いを理解する。「1級」と「2級」の世界
さて、この施工管理技士の資格には、その専門性の深さや、対応できる工事の規模・難易度に応じて、大きく分けて「1級」と「2級」という、二つのレベル(等級)が存在します。どちらのレベルの資格を持つ技術者がいるかは、会社の技術力評価や、受注できる工事の範囲にも影響しますので、この違いを正確に理解しておくことが、経営戦略を考える上でも非常に重要になります。
1級施工管理技士 大規模・高難度工事を統べるスペシャリスト
まず「1級」ですが、これは施工管理技士資格の中でも上位の資格に位置づけられます。高速道路、ダム、長大トンネル、大規模な橋梁といった社会インフラや、超高層ビル、大規模商業施設、病院、プラント設備など、国民生活や経済活動に不可欠であり、かつ技術的にも高度で複雑な建設プロジェクトを、適切に計画し、管理・監督できる総合的な能力を証明するものです。
この1級資格を持つ技術者は、建設業法上、以下のような極めて重要な役割を担うことが可能となります。
1級施工管理技士が担える主な役割 | |
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特定建設業の専任技術者 | 前の章で解説した、大規模な下請契約(下請発注総額が建築一式以外4,000万円、建築一式6,000万円以上。消費税込み)を締結する元請会社に必要な「特定建設業」の許可を取得・維持するために、各営業所に配置が義務付けられている「専任技術者」となることができます。特に、公共工事が多く、社会的な影響も大きい「指定建設業」(土木一式、建築一式、電気工事、管工事、鋼構造物、舗装、造園の7業種)については、特定建設業の許可を得るためには、原則としてこの1級施工管理技士、1級建築士、または技術士のいずれかの資格が必須とされています。会社の技術的な「格」を示す上で、決定的な意味を持つ資格です。 |
監理技術者 | 特定建設業者が元請として施工する大規模工事(上記の下請発注総額基準を満たすもの)の現場には、「主任技術者」に代わって「監理技術者」を配置することが義務付けられています。監理技術者は、工事全体の技術上の管理を統括する、現場における最高技術責任者であり、この重要な役割を担うことができます。 |
つまり、1級施工管理技士は、会社がより大規模で複雑なプロジェクトに挑戦するための扉を開き、公共工事の入札などにおいても高い技術力をアピールするための、まさに切り札とも言える資格なのです。
オーケストラの指揮者に例えるならば、1級施工管理技士は、百数十人にも及ぶ大編成のオーケストラ(=大規模な現場の作業員・下請業者)と、世界レベルのソリスト(=高度な専門技術者)たちをまとめ上げ、マーラーの交響曲のような、複雑で壮大な楽曲(=大規模・高難度プロジェクト)を完璧に演奏しきる、経験豊かで卓越した技術を持つ「マエストロ(名指揮者)」と言えるでしょう。
2級施工管理技士 日々の建設現場を支える確かな技術力
次に「2級」ですが、これは1級に次ぐレベルの資格であり、私たちの生活に身近な、一般的・標準的な規模や難易度の建設工事を、適切に管理・監督できる能力を証明するものです。例えば、一般住宅、中小規模の事務所ビルや店舗、地域内の道路改良や下水道工事、公園整備などが、その主な活躍の場となります。
2級資格を持つ技術者は、日本の建設業の大部分を占める中小規模の工事において、以下のような基幹的な役割を担います。
2級施工管理技士が担える主な役割 | |
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一般建設業の専任技術者 | 特定建設業以外の、いわゆる「一般建設業」の許可を取得・維持するために、各営業所に配置が義務付けられている「専任技術者」となることができます。日本に数多く存在する建設会社の多くが、この一般建設業の許可で事業を営んでおり、2級施工管理技士は、その事業運営のまさに土台を支える存在です。 |
主任技術者 | 監理技術者の配置が義務付けられない、ほとんど全ての工事現場(軽微な建設工事を除く)において、配置が必要となる「主任技術者」となることができます。現場での品質管理、工程管理、安全管理の中心的な役割を担い、工事を確実に完成へと導きます。 |
2級施工管理技士は、地域社会のインフラ整備や、人々の暮らしの場である建物の建設といった、日々の建設活動に不可欠な資格です。多くの技術者が、まずこの2級資格の取得を目指し、実務経験を積みながら、さらなるステップアップを図っていきます。まさに、建設業界の裾野を支える、最もポピュラーで重要な資格の一つと言えるでしょう。
再びオーケストラの指揮者に例えるなら、2級施工管理技士は、ベートーヴェンの交響曲『運命』のような、標準的な編成のオーケストラ(=一般的な工事現場)を的確に指揮し、各楽器のパート(=各工程・作業)をまとめ上げ、力強く、かつ調和のとれた演奏(=安全で高品質な工事)を実現する、信頼できる「コンサートマスター兼務の指揮者」のような存在と言えるかもしれません。
専門分野があることを忘れずに。資格の種類と工事種別
ここで一つ、非常に重要な注意点があります。それは、施工管理技士の資格は、「1級」や「2級」というレベル分けだけでなく、「専門分野ごと」に種類が分かれているということです。例えば、「土木工事」の専門家と、「電気工事」の専門家では、求められる知識や技術が全く異なりますよね。それに対応するように、施工管理技士の資格も、専門とする工事の種類に応じて細分化されているのです。
主な施工管理技士の種類と、それぞれが主に対応する建設業許可の業種(工事の種類)を以下に示します。
資格の種類 | 主な対応工事(建設業許可の業種) |
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土木施工管理技士 | 土木一式工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事、鋼構造物工事、舗装工事、しゅんせつ工事、水道施設工事 など |
建築施工管理技士 | 建築一式工事、大工工事、左官工事、石工事、屋根工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、板金工事、ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、熱絶縁工事、建具工事 など |
電気工事施工管理技士 | 電気工事 |
管工事施工管理技士 | 管工事 |
造園施工管理技士 | 造園工事 |
建設機械施工管理技士 | 土木一式工事、とび・土工・コンクリート工事、舗装工事 など(主に建設機械を使用する工事部分) |
電気通信工事施工管理技士 | 電気通信工事 |
(注記:上記の対応業種は主な例であり、詳細は国土交通省の定める区分をご確認ください。)
これが意味することは、例えば、社長の会社が「電気工事」の許可を取得したい場合、たとえ「1級建築施工管理技士」の資格を持つ優秀な方がいたとしても、その方を電気工事業の「専任技術者」として届け出ることはできない、ということです。必ず、許可を受けたい業種に対応した種類の施工管理技士資格が必要になります。同様に、現場に配置する主任技術者や監理技術者も、その工事内容に応じた種類の資格保有者でなければなりません。人材の採用や、社内での資格取得奨励を考える際には、この「資格の種類と業種の対応」を絶対に間違えないように、十分な注意が必要です。
近年の注目ポイント。「技士補」制度の誕生と活用
最後に、施工管理技士制度に関する、近年の大きな変化についてお伝えします。建設業界における技術者不足が深刻化する中で、若手技術者の確保・育成を促進し、よりスムーズなキャリアパスを提供することを目的として、令和3年度(2021年度)から試験制度が大きく見直されました。
この改正の最大のポイントは、従来の「学科試験」と「実地試験」という区分が、それぞれ独立した試験である「第一次検定」と「第二次検定」に再編成されたことです。「第一次検定」は主に施工管理に必要な知識や応用能力を測り、「第二次検定」はより実務的な管理能力や経験を問う内容となっています。
そして、この「第一次検定」に合格した段階で、新たに『技士補(ぎしほ)』という国家資格が付与されることになったのです。これは、最終的な「施工管理技士」(第二次検定の合格が必要)の称号ではないものの、国がその技術者に一定レベル以上の知識があることを公的に認めた証となります。
この「技士補」の資格は、単なる中間資格ではなく、実務においても具体的なメリットをもたらします。
技士補資格の主なメリット | |
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1級技士補 | 1. 監理技術者の補佐が可能 大規模工事現場において、専任で配置される監理技術者の指導の下で、その職務の一部(例えば、施工計画の一部作成や、工程・品質管理の一部など)を補佐することができます。これにより、一定の条件下(特例監理技術者制度など)では、一人の監理技術者が複数の現場を担当しやすくなる道が開かれ、経験豊富な技術者の有効活用につながります。2. 主任技術者への早期登用 大学の指定学科卒業者と同等とみなされ、3年以上の実務経験(第一次検定合格後の経験)を積むことで、一般建設業の工事現場における主任技術者になる資格を得られます。従来よりも早く現場の責任者として活躍できる可能性があります。 |
2級技士補 | 1. 主任技術者への早期登用 高校の指定学科卒業者と同等とみなされ、5年以上の実務経験(第一次検定合格後の経験)を積むことで、一般建設業の工事現場における主任技術者になる資格を得られます。実務経験を積みながら、より早い段階で技術者としてのキャリアアップを目指せます。 |
この技士補制度の導入は、資格取得への道のりに明確な中間目標を設定し、若手技術者のモチベーション向上に繋がるとともに、実務経験を積みながら段階的に責任あるポジションに就くことを可能にするものです。会社としても、若手社員の育成プランにこの制度を組み込むことで、将来の技術者不足に備えるための一助となるかもしれません。
施工管理技士は、そのレベル(1級・2級)、専門分野に応じた種類、そして「技士補」という新たなステップを含め、建設業の技術者資格制度の中核をなす存在です。自社の事業内容、規模、そして将来の展望に合わせて、この資格を持つ人材をいかに確保し、育成し、活用していくかが、会社の持続的な成長にとって不可欠な鍵となるでしょう。