村上事務所

経営事項審査のCCUS対応で評点アップ!導入手順から運用の注意点まで

経営事項審査の新しい評価項目「就業履歴蓄積措置」とは?

長い名前の評価項目、その正体はCCUSです

経営事項審査の書類を見ていると、「建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況」という、とても長い名前の評価項目があります。これだけを見ると、一体何を評価されるのか、少し分かりにくいかもしれません。

ご安心ください。これは、一言で説明すると「建設キャリアアップシステム(CCUS)」という仕組みを会社で導入し、きちんと活用しているか、という点を見ています。つまり、国が進めているCCUSへの取り組みが、会社の評価に直接つながるようになったということです。

制度改正で生まれた新しいものさし

この評価項目は、2021年4月の経営事項審査の改正で新しく追加されました。これは、建設業法という法律が変わり、建設業界で働く人たちの経験や技能を正しく評価し、キャリアアップを応援する流れができたことと関係しています(建設業法第25条の28)。

これまで会社の評価は、主に完成した工事の金額や財務状況などが中心でした。しかし、これからは「会社に所属する職人さん一人ひとりの頑張りを記録し、育てようとしているか」という視点も、会社の評価を決めるための大切な「ものさし」の一つになったのです。

CCUSを「職人さんの通知表」に例えてみましょう

CCUSという言葉に馴染みがない方もいるかもしれません。そこで、これを学校の「通知表」に例えて考えてみましょう。

項目簡単な説明
CCUSカード職人さん一人ひとりが持つ「個人別の通知表ファイル」のようなものです。
就業履歴の蓄積現場でカードを機械に通すことで、「いつ、どの工事で、どんな仕事をしたか」という記録が、通知表にどんどん書き込まれていくイメージです。
レベル判定蓄積された記録(経験)に応じて、職人さんの能力レベルが1から4まで判定されます。通知表の成績が上がるようなものです。

このように、CCUSは職人さん一人ひとりの努力や経験を「見える化」する仕組みです。そして、会社がこの仕組みを積極的に活用しているかどうかが、経営事項審査の評点に影響を与えることになります。

まとめ

この章では、経営事項審査の新しい評価項目「就業履歴蓄積措置」が、建設キャリアアップシステム(CCUS)への取り組みを評価するものであることを解説しました。これは、会社の技術力だけでなく、人材を育成する姿勢も評価するという、国からのメッセージとも言えます。次の章では、なぜこのCCUSがこれほどまでに重要視されるようになったのか、その背景をさらに詳しく見ていきます。

なぜ建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入が評価されるのか

評点のためだけではない、業界の未来をかけた仕組みです

経営事項審査でCCUSの取り組みが評価されるようになったのには、はっきりとした理由があります。それは、現在の建設業界が抱える、とても深刻な課題を解決するための重要な鍵として、国がCCUSに大きな期待を寄せているからです。単に新しい評価項目が増えたというだけでなく、業界全体の未来を見据えた動きと捉えることが大切です。

建設業界が直面する3つの大きな課題

なぜ、CCUSのような仕組みが必要になったのでしょうか。その背景には、多くの建設業経営者が日々頭を悩ませている、いくつかの共通した課題があります。

課題その1 深刻な担い手不足

一番大きな課題は、建設業界で働く「人」が減り続けていることです。特に若い世代の入職者が少なく、全体的に高齢化が進んでいます。このままでは、日本のインフラを支える優れた技術を次の世代に引き継いでいくことが難しくなってしまいます。

課題その2 頑張りが評価されにくい環境

建設業界では、現場ごとに様々な会社から職人さんが集まって仕事を進めます。そのため、一人の職人さんがどれだけの経験を積み、どんな技能を持っているのかが、客観的に分かりにくいという側面がありました。真面目に技術を磨いても、それが給与などの待遇に直接反映されにくい環境は、若い人たちが魅力を感じにくい一因とされていました。

課題その3 社会保険加入の徹底

働く人たちが安心してキャリアを築くためには、社会保険への加入が不可欠です。国は建設業界全体の労働環境を改善するため、社会保険への加入を徹底する方針を強く打ち出しています。そのための、より確実な仕組みが求められていました。

課題解決の切り札としてのCCUS

これらの課題を解決するために登場したのが、CCUSです。CCUSは、それぞれの課題に対して次のような役割を果たします。

建設業界の課題CCUSが果たす役割
担い手不足経験や資格が全国共通のカードに記録され、キャリアアップの道筋が明確になります。これにより、若者にとって魅力ある職場環境を作ります。
頑張りが評価されにくい蓄積された就業履歴に基づいて能力がレベル判定されます。これにより、技能を客観的に証明でき、適正な評価や待遇につながりやすくなります。
社会保険加入の徹底誰が、いつ、どの現場で働いているかが正確に記録されるため、社会保険の加入状況を確認しやすくなり、健全な業界の実現を後押しします。

このように、CCUSは法律(建設業法)にも掲げられた「建設工事の担い手の確保」という大きな目標を達成するための具体的な手段なのです。

まとめ

CCUSが経営事項審査で評価されるのは、それが建設業界の担い手不足という根深い問題を解決し、業界全体をより良くしていくための重要な政策だからです。したがって、CCUSへの対応は、単なる評点対策ではなく、会社の将来を支える人材を確保し、社会的な信頼を得るための投資と考えることができます。次の章では、このCCUSへの取り組みが、具体的にどのように評点として計算されるのか、その仕組みを詳しく解説します。

評点はどう決まる?加点を得るための具体的な条件

評価は「会社の取り組み」と「所属技術者のレベル」の2段階です

CCUSの導入がどのように経営事項審査の評点、具体的には社会性等(W)の中の「W10」という項目に反映されるのか、その仕組みは大きく2つの段階に分かれています。会社の取り組みと、そこで働く技術者一人ひとりの成長が、それぞれ評価の対象となります。片方だけでは満点を取ることはできません。

第1段階 会社としての措置

まず基本となるのが、会社としてCCUSを活用するための準備を整えているかどうかです。これは、加点を得るためのスタートラインとも言える部分です。

具体的な条件

評価を受けるためには、会社が「建設キャリアアップシステムへの事業者登録」を完了していることが大前提です。さらに、現場で技術者の就業履歴を記録するためのカードリーダーを設置するなど、「就業履歴を蓄積できる体制」を実際に作っている必要があります。この体制がなければ、この項目での評価はゼロとなってしまいます。

第2段階 所属技術者の能力向上

会社の準備が整っていることを前提に、次に評価されるのが、その会社に所属している技術者のレベルです。会社に登録されているCCUS技術者のうち、どれだけ高いレベルの技術者がいるかで、加点の大きさが決まります。

レベルに応じた評価

CCUSでは、技術者の経験や保有資格に応じて、能力評価がレベル1からレベル4まで行われます。経営事項審査では、特にレベル3(職長クラス)とレベル4(高度なマネジメント能力を持つ上級職長クラス)の技術者がいるかどうかが重要視されます。

評価される内容簡単な説明
会社の体制づくり(第1段階)CCUSに事業者登録し、現場で就業履歴を記録する準備ができているか。これが全ての基本です。
レベル3以上の技術者のいること(第2段階)会社に所属するCCUS登録技術者の中に、能力評価でレベル3またはレベル4と判定された人が一人でもいるか。
レベル向上への取り組み(第2段階)会社のCCUS登録技術者全体の平均レベルが、前期の審査時よりも向上しているか。会社全体で成長しているかが問われます。

つまり、ただ多くの技術者を登録するだけでなく、資格取得などを通じて一人ひとりのレベルアップを会社として後押ししていくことが、結果的に会社の評点アップに直結する仕組みになっています。

まとめ

「就業履歴蓄積措置」の評点は、まず会社がCCUSを使う環境を整え、その上で所属する技術者のレベルをどれだけ高められるか、という2つの視点で決まります。特に、レベル3以上の経験豊富な技術者の存在は、会社の技術力を示す客観的な証明となり、評価に大きく影響します。次の章では、実際にCCUSの導入を進めるための具体的な手順を、ゼロから分かりやすく解説していきます。

事業者が今すぐやるべきCCUS導入の具体的な手順

手続きは大きく3つのステップで進めます

CCUSの導入と聞くと、手続きが複雑で時間がかかりそうだと感じるかもしれません。しかし、手順を一つひとつ整理すれば、やるべきことは明確です。ここでは、会社としてCCUSをゼロから導入するための具体的な流れを、3つのステップに分けて解説します。

ステップ1 事業者登録を行う

まず最初に行うのが、会社の情報をCCUSに登録する「事業者登録」です。これがすべての始まりとなります。

登録に必要な情報の準備

申請をスムーズに進めるため、事前に以下の情報を準備しておくと効率的です。会社の基本情報に加えて、建設業許可や社会保険に関する情報が求められます。

準備する情報の種類具体例
会社の基本情報商号、所在地、法人番号など
建設業許可情報許可番号、許可年月日、許可業種など
社会保険の加入情報健康保険、厚生年金保険、雇用保険の事業所整理記号や番号など

インターネットでの申込み

情報の準備ができたら、CCUSの公式サイトからインターネット経由で申請を行います。画面の指示に従って情報を入力し、登録料を支払うと、事業者IDが発行されます。これで、会社がCCUSを利用する準備が整いました。

ステップ2 所属する技術者を登録する

会社の登録が完了したら、次に所属する技術者一人ひとりの情報を登録する「技能者登録」に進みます。会社の評点を上げるためには、このステップが非常に重要です。

技術者情報の収集

事業者登録と同様に、技術者本人に関する情報を事前に集めておきます。本人確認書類や保有資格を証明する書類などが必要になります。

登録申請とカードの受け取り

集めた情報をもとに、技術者の登録申請を行います。申請は、会社が代行して行うことも、技術者本人が行うことも可能です。申請が承認されると、顔写真付きの「建設キャリアアップカード」が技術者本人に届きます。このカードが、現場で就業履歴を記録するための鍵となります。

ステップ3 現場で就業履歴を蓄積する

事業者と技術者の登録が完了しても、それだけでは評点にはつながりません。最後の仕上げとして、実際に建設現場でCCUSを活用し、日々の仕事の記録を積み重ねていく必要があります。

カードリーダーの設置と活用

元請けの現場などでは、現場の入口にカードリーダーが設置されています。技術者は、現場に入る時と出る時に、自分の建設キャリアアップカードをこの機械にかざします。この簡単な作業によって、「いつ、誰が、どの現場で働いたか」という大切な就業履歴がシステムに自動で記録されていきます。

まとめ

CCUSの導入は、「事業者登録」「技能者登録」「現場での履歴蓄積」という3つのステップで構成されています。一つひとつの手続き自体は難しいものではありませんが、正確な情報を漏れなく準備することが大切です。これらの手順を確実に踏むことで、初めて経営事項審査での評価につながります。次の章では、このようにしてCCUSを導入することが、評点アップ以外にどのようなメリットを会社にもたらすのかを解説します。

CCUS導入で評点以外に得られる3つのメリット

「やらされ仕事」から「攻めの経営ツール」へ

経営事項審査の評点のためにCCUSを導入する、というのはもちろん大切な動機の一つです。しかし、それだけの目的で取り組むのは、非常にもったいないかもしれません。CCUSは、正しく活用すれば、評点アップという効果以上に、会社の経営そのものを強くする力を持っています。ここでは、CCUSがもたらす3つの大きなメリットをご紹介します。

メリット1 人材の確保と定着につながる

建設業界の最も大きな課題である「人」の問題に対して、CCUSは有効な解決策となり得ます。

技術者のやる気を引き出す

自分の頑張りや経験が、国が定めた共通の仕組みによって「見える化」され、レベルとして正しく評価される環境は、技術者の仕事に対する満足度を高めます。キャリアアップの道筋が明確になることで、日々の仕事にも目標を持って取り組めるようになり、結果として離職率の低下が期待できます。

採用活動でのアピール材料に

若い世代ほど、自身のキャリア形成や成長できる環境を重視します。CCUSを導入し、人材育成に力を入れていることを具体的に示すことができれば、求人活動において他社との大きな差別化要因となります。「この会社に入れば、自分の技能をしっかりと評価してもらえる」という安心感は、優秀な人材にとって大きな魅力です。

メリット2 現場管理と事務作業が効率化される

日々の業務の中にも、CCUS導入による良い変化が生まれます。特に、これまで手間がかかっていた現場の管理や事務作業をシンプルにすることができます。

業務内容これまでの方法CCUS導入後の方法
作業員名簿の作成協力会社の作業員も含め、現場ごとに関係者全員の情報を集めて書類を作成していた。CCUSのシステムを活用することで、登録情報から簡単かつ正確に名簿を作成できる。
保有資格の確認一人ひとりの資格証のコピーを提出してもらい、有効期限などを手作業で管理していた。システム上で登録技術者の保有資格や有効期限を一覧で確認でき、管理が楽になる。

メリット3 会社の信頼性が向上する

CCUSへの取り組みは、自社の経営姿勢を社外に示すメッセージにもなります。

元請や発注者からの評価向上

法令遵守や労働環境の改善に積極的に取り組んでいる会社であることの客観的な証明になります。特に大手の元請会社は、協力会社の選定において、こうしたコンプライアンス意識を重視する傾向が強まっています。CCUSの導入は、取引先からの信頼を得て、ビジネスチャンスを広げることにもつながります。

まとめ

CCUSの導入は、経営事項審査の評点確保という目的を超えて、「人材」「業務効率」「信頼性」という、会社経営の根幹に関わる3つの側面を強化する可能性を秘めています。単なる義務として捉えるのではなく、会社の成長のための戦略的な投資として活用する視点が重要です。最後の章では、実際にCCUSを運用していく上での注意点と、今後の展望について解説します。

専門家が解説するCCUS運用の注意点と今後の展望

導入して終わりではない、CCUSの継続的な運用

ここまでの章で解説してきた通り、CCUSは会社の評価と成長に貢献する重要な仕組みです。しかし、一度導入すれば全てが完了というわけではありません。その効果を最大限に引き出すためには、継続的な運用と、いくつかの注意点への理解が不可欠です。この最終章では、専門家の視点から運用のポイントと、この制度の未来について解説します。

CCUSを運用する上での3つの注意点

注意点1 継続的な情報更新の手間

会社に新しい技術者が入社したり、逆に退職者が出たりした際には、その都度CCUSの情報を更新する必要があります。また、技術者が新しい資格を取得した場合なども、レベル判定に影響するため、情報を追加登録することが評点アップにつながります。これらの管理を怠ると、実態と登録情報がずれてしまい、正当な評価を受けられない可能性があります。

注意点2 登録や運用にかかる費用

CCUSの導入と運用には、一定の費用がかかります。これらを事前に把握しておくことも大切です。

費用の種類簡単な説明
事業者登録料会社の資本金の額に応じて、数千円から数万円の登録料が初回に必要です。
技能者登録料技術者一人あたり数千円の登録料が必要です。
カードリーダー費用自社が元請の現場で履歴を蓄積する場合、カードリーダーの購入やレンタル費用がかかります。
管理者ID利用料などシステムの利用料が別途必要になる場合があります。

注意点3 正確な就業履歴の蓄積

現場でのカードリーダーのタッチ忘れなどが続くと、せっかく技術者が働いても、その履歴が記録として残りません。技術者一人ひとりに制度の重要性を理解してもらい、日々の就業履歴を正確に蓄積していくためのルールづくりや指導が、会社の評価を守る上で重要になります。

CCUSのこれからと、ますます高まる重要性

CCUSは、一過性の取り組みではありません。建設業界の未来を支えるインフラとして、その重要性は今後さらに増していくと考えられます。経営事項審査における評価の配点が大きくなる可能性も十分にありますし、既に公共工事だけでなく、大手の民間工事においてもCCUSの登録を参加条件とする動きが広がっています。今後は、CCUSが建設業界で仕事をする上での「当たり前のパスポート」のような存在になっていくでしょう。

まとめ

この記事では、経営事項審査の新しい評価項目である「就業履歴蓄積措置」の正体がCCUSであること、そしてその導入手順や評点以外のメリット、さらには運用上の注意点までを解説してきました。CCUSへの対応は、もはや経営事項審査の評点を維持、向上させる上で避けては通れない課題です。それと同時に、会社の未来を支える人材を育て、社会的な信頼を勝ち取るための強力な経営ツールでもあります。

しかし、日々の業務に追われる中で、これらの複雑な手続きや制度の変更点を常に把握し、最適な対応を続けることは簡単なことではありません。自社にとって最も効果的なCCUSの運用方法や、経営事項審査の評点アップ戦略についてお悩みの際は、ぜひ私たち専門家にご相談ください。会社の状況を丁寧にお伺いし、最適な解決策をご提案します。

NOTE

業務ノート

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