村上事務所

【令和7年改正】経営事項審査の新しい評価「資本性借入金」とは?仕組みから申請方法まで

経営事項審査の新しい評価「資本性借入金」とは?

建設業の許可をお持ちの事業者様にとって、公共工事の入札に参加するために避けては通れないのが経営事項審査、いわゆる経審です。経審では様々な項目が評価されますが、その中でも会社の財務の健全性は特に重要なポイントとなります。この財務の健全性を示す評価を改善する新しい方法として「資本性借入金」という考え方が導入されることになりました。

負債が資本に変わる仕組み

通常、金融機関からの借入金は会社の「負債」として扱われます。会社の財産を人の体に例えるなら、自分で持っているお金である「自己資本」が筋肉、借入金などの「負債」は重りにあたります。重りが多すぎると動きが鈍くなるように、負債が多いと財務の評価は低くなりがちです。

ところが、この新しい制度で認められた「資本性借入金」は、特定の条件を満たすことで、会計上は負債でありながら、経審の評価上は「自己資本」、つまり筋肉の一部としてみなされるのです。今まで重りだと思っていたものが、体を鍛える筋肉に変わるようなイメージです。

改正前改正後
資産会社のプラスの財産です資産会社のプラスの財産です
負債・通常の借入金・資本性借入金負債・通常の借入金
自己資本純粋な会社の資産です自己資本・本来の自己資本・資本性借入金

このように、負債の部にある資本性借入金を自己資本の部に移して評価するため、見かけ上の財務内容が大きく改善され、経審の評点アップにつながる可能性があります。

制度導入の目的

この制度が導入された背景には、厳しい経済状況の中でも頑張っている建設業者を後押ししたいという国の想いがあります。特に、災害からの復旧や社会インフラの維持など、重要な役割を担う建設業者が資金調達をしやすくし、健全な経営を続けられるように支援することが目的です。金融機関にとっても、この制度があることで、建設業者への融資がしやすくなるという側面もあります。

いつから始まる制度?

この資本性借入金の取り扱いは、新しい制度です。具体的には、審査基準日が令和7年3月31日以降の決算を対象とし、令和7年7月1日以降の経営状況分析の申請から適用が開始されます。 また、現時点では会社単体の決算で申請する事業者が対象とされています。

まとめ

今回は、経営事項審査の新しい評価項目である「資本性借入金」の基本的な考え方について解説しました。これは、特定の借入金を負債ではなく自己資本として評価することで、経審の評点を向上させる画期的な仕組みです。ただし、どのような借入金でも認められるわけではなく、いくつかの専門的な条件をクリアする必要があります。次の章では、この制度が評点にどのように影響するのか、より詳しく見ていきます。

評点アップの仕組み解説 借入金が自己資本に変わる評価方法

前の章では、資本性借入金が会計上の「負債」でありながら、経営事項審査の評価では「自己資本」として扱われるという基本的な仕組みを説明しました。では、具体的にどの評価項目が、どのように良くなるのでしょうか。この章では、評点アップにつながる具体的な計算方法と、その影響について詳しく解説します。

評価点が上がる4つの財務指標

資本性借入金が自己資本とみなされることで、特に経営状況分析(Y点)の中の4つの重要な財務指標の評価が向上します。具体的には、負債を減らし、自己資本を増やす形で再計算されるため、それぞれの評点が上がりやすくなります。

評価項目評価への影響
負債回転期間「負債」の金額から差し引いて計算されます。この指標は、会社がどれだけ早く負債を返済できるかを示すものです。計算式の分母である負債が小さくなるため、指標が改善し、評価が上がります。
自己資本比率「自己資本」の金額に足して計算されます。会社の総資産のうち、返済不要の自己資本がどれくらいの割合を占めるかを示す安定性の指標です。自己資本が増えることで比率が高まり、財務の安定性が高いと評価されます。
自己資本対固定資産比率「自己資本」の金額に足して計算されます。会社の設備などの固定資産が、どれだけ自己資本でまかなわれているかを見る指標です。こちらも自己資本が増えることで、より健全な資産状況であると評価されます。
自己資本額(X2評点)「自己資本」の金額に足して計算されます。自己資本の絶対額そのものも評価対象です。資本性借入金の分だけ自己資本額が増加するため、会社の規模や体力を示すこの評点も直接的に向上します。

注意点 残存期間による評価額の変動

この制度を活用する上で、一つ重要な注意点があります。それは、借入金の返済までの残り期間が5年未満になると、自己資本とみなされる金額が少しずつ減っていくというルールです。具体的には、残存期間が5年未満になった時点から、1年ごとに自己資本とみなす部分が20%ずつ減額されていきます。例えば、1,000万円の資本性借入金があった場合、残存期間が4年になると800万円、3年になると600万円というように評価額が変動します。長期的な視点で評点を維持するためには、この逓減ルールを理解しておくことが不可欠です。

まとめ

資本性借入金の活用は、経審における4つの重要な財務指標を直接的に改善し、評点アップに大きく貢献する可能性を秘めています。負債を評価上の自己資本に変えることで、会社の財務体質をより良く見せることができます。ただし、残存期間による評価額の変動など、専門的な知識が求められる側面もあります。では、自社の借入金がこの有利な制度の対象となるためには、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。次の章で、その具体的な要件を一つずつ確認します。

あなたの会社の借入金は対象?資本性借入金の4つの条件

前の章で解説した評点アップの恩恵を受けるためには、お持ちの借入金が「資本性借入金」として認められるための、いくつかの厳格な条件をすべて満たす必要があります。どんな長期の借入金でも自動的に対象となるわけではありません。ここでは、その4つの重要な条件を一つずつ分かりやすく解説していきます。

貸し手が特定の金融機関であること

まず、誰から借りたお金であるかという点が重要です。この制度の対象となるのは、政府系金融機関を含む、銀行などの金融機関からの借入金です。個人からの借入金や、一般的な事業者間の貸し借りは対象となりません。国の制度として、信頼できる金融機関との取引が前提となっています。

返済までの期間が5年より長いこと

次に、返済に関する条件です。資本性を持つと認められるためには、そのお金が長期間にわたって会社の資本として機能する必要があります。そのため、返済期間が5年を超える長期の契約でなければなりません。さらに、返済方法も「期限一括償還」が原則です。これは、契約期間の最後に元本をまとめて返済する方法で、期間中は利息のみを支払う形になります。

金利が会社の利益と連動すること

金利の決め方にも特徴的な条件があります。それは、金利が会社の業績、具体的には配当として分配できる利益に応じて変動する仕組みであることです。例えば、会社が好調で利益がたくさん出ている時は金利が少し高くなり、逆に業績が厳しい時には金利負担が軽くなるような設定が求められます。これは、会社の状況を lender と borrower が共有する、まさに資本に近い関係性を示すための条件と言えます。

万が一の際に返済順位が低いこと(劣後性)

これが最も専門的で重要な条件です。資本性借入金は、万が一会社が法的に破綻してしまった場合に、他の一般的な借入金よりも返済される順番が後になるという特約(劣後特約)が付いている必要があります。

劣後性とは?

少し難しい言葉ですが、例えるなら船の避難順序のようなものです。もし会社という船が沈む事態(破産)になった場合、まず取引先への支払いや一般の借入金といった「他の債権者」を先に救命ボートに乗せます。そして、全員が乗り終わった後、まだ財産が残っていれば、ようやく資本性借入金の貸し手がボートに乗れる、というイメージです。この「自分の返済は後回しで構いません」という約束があるからこそ、その借入金は自己資本に近いと評価されるのです。

まとめ

資本性借入金として認められるには、「特定の金融機関から」「5年を超える期間で」「利益連動型の金利で」借り入れ、さらに「万が一の際の返済順位が低い(劣後する)」という4つの厳しい条件をクリアしなければなりません。これらの条件、特に劣後性の約束は、通常の融資契約書には見られない特別な内容です。もしお手元の借入金がこれらの条件を満たしている可能性がある場合、次はいよいよ経審での評価を受けるための申請手続きに進みます。次の章では、その具体的な流れと必要書類について解説します。

専門家の証明が必須!申請手続きの3つのステップ

資本性借入金の条件を満たしていることを確認できたら、次はその内容を経営事項審査の評価に反映させるための正式な手続きに進みます。この手続きは、会社だけで完結させることはできず、定められた手順に沿って専門家の証明を受けながら進める必要があります。ここでは、その具体的な流れを3つのステップに分けて解説します。

ステップ1 事前準備と専門家による証明書の取得

最初に行うべき最も重要なステップが、外部の専門家から「この借入金は資本性借入金の要件を満たしています」という内容の証明書を発行してもらうことです。これは、申請の客観性と信頼性を担保するための必須の手続きです。

証明を行える専門家

証明書を発行できるのは、建設業法施行規則で定められた会計の専門家に限られます。具体的には、公認会計士、税理士、または建設業経理士の1級合格者などが該当します。これらの専門家に借入金の契約書などを確認してもらい、指定された様式で証明書を作成してもらいます。

ステップ2 登録経営状況分析機関への分析申請

専門家の証明書が準備できたら、次に経営状況分析(Y点)の評価を行う「登録経営状況分析機関」へ申請します。これは、決算書を基に財務状況の評点を算出してもらう、いつもの経審手続きの一部です。

提出が必要な書類

この際、通常の申請書類に加えて、以下の書類を提出する必要があります。

経営状況分析申請書自己資本と認められる金額を余白などに記載します。
専門家による証明書の写しステップ1で取得した証明書のコピーです。
借入金の契約書の写し証明の根拠となる契約内容を確認するために提出します。

ステップ3 審査行政庁への経営規模等評価申請

経営状況分析機関から結果通知書が届いたら、最終ステップとして、許可を受けている都道府県などの審査行政庁へ経営規模等評価の申請を行います。

この申請書の「自己資本額」の欄には、本来の自己資本額に、資本性借入金のうち自己資本と認められる金額を足した合計額を記載します。そして、添付書類として、ここでもステップ1で取得した専門家の証明書の写しを提出する必要があります。この申請をもって、資本性借入金を反映した総合評定値(P点)が算出されることになります。

まとめ

資本性借入金を経営事項審査の評価に反映させるためには、まず公認会計士などの専門家から証明書をもらい、次にその証明書を経営状況分析機関へ提出し、最後に審査行政庁へ申請するという3つのステップを踏む必要があります。特に、最初の専門家による証明がなければ、この手続きは始まりません。このように複数の段階と専門家の関与が必要なため、手続きを円滑に進めるには、制度全体を熟知した専門家への相談が重要となります。次の章では、この制度を活用する上での注意点と、専門家に相談するメリットについて解説します。

活用前に確認したい注意点と専門家に相談するメリット

これまでの章で、資本性借入金の制度内容から申請手続きまでの一連の流れを解説しました。評点アップに大きな効果が期待できる魅力的な制度ですが、実際に活用を検討する前におさえておきたい注意点も存在します。この章では、そうした注意点と、専門家に相談することで得られるメリットを具体的にお伝えします。

制度活用における3つの注意点

メリットだけでなく、注意点を事前に把握しておくことで、より戦略的に制度を活用できます。

①評価額が永続的ではないこと

第2章でも触れましたが、自己資本として評価される金額は常に一定ではありません。借入金の返済までの残存期間が5年未満になると、1年ごとに20%ずつ評価額が減っていくルールがあります。そのため、長期的な視点で経営計画や資金計画を立てておくことが重要になります。

②すべての金融機関が制度に詳しいとは限らないこと

この制度は比較的新しいため、すべての金融機関の担当者が、経営事項審査における資本性借入金の詳細な要件(特に劣後特約など)を熟知しているとは限りません。融資を申し込む際に、制度の趣旨や必要な契約条件を会社側から説明し、理解を求める場面が出てくる可能性も考えられます。

③あくまでも返済義務のある「負債」であること

経営事項審査の評価上は自己資本として扱われますが、会社の会計上は返済義務のある「負債」である事実に変わりはありません。当然、利息の支払いも発生します。この制度の利用は、あくまで評点向上のための一つの手段であり、会社の資金繰りや返済計画を十分に考慮した上で判断する必要があります。

専門家に相談する3つのメリット

これらの注意点を踏まえ、手続きの複雑さを乗り越えるために、経営事項審査を専門とする行政書士などへの相談は非常に有効です。

①複雑な手続きを一括で任せられる安心感

申請手続きは、専門家による証明書の取得、経営状況分析機関への申請、そして審査行政庁への申請と、複数の段階を経る必要があり、それぞれで専門的な書類作成が求められます。これらの手続き全体を専門家に一任することで、書類の不備なく、スムーズに申請を進めることができ、本業である建設業務に集中できます。

②会社の状況に合わせた最適な評点アップ戦略の提案

経験豊富な専門家は、単に手続きを代行するだけではありません。会社の財務状況全体を分析し、そもそも資本性借入金を活用することが最善の選択なのか、あるいは他の方法(例えば増資や利益改善)で評点を上げるべきなのかといった、より根本的な経営戦略に関する助言も期待できます。

③金融機関との交渉や調整に関する助言

資本性借入金として認められる融資契約を結ぶためには、金融機関との交渉が不可欠です。専門家は、契約書に盛り込むべき必須条項などについて法的な観点から的確に助言できるため、金融機関との協議を円滑に進めるための心強いパートナーとなります。

まとめ

資本性借入金は、経営事項審査の評点を大きく改善する可能性を秘めた強力な制度です。しかし、その活用には、専門的な要件の理解と、複数の機関が関わる複雑な手続きが伴います。注意点をしっかりと理解し、専門家のサポートを得ることで、この制度のメリットを最大限に引き出すことができます。自社の評点改善や資金調達で新たな選択肢を検討されているのであれば、まずは一度、専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、令和7年7月1日から本格的に適用が開始される、経営事項審査における「資本性借入金」の評価について、その仕組みから申請手続き、注意点までを網羅的に解説しました。最後に、本記事の重要なポイントを改めて確認します。

要点内容
制度の概要特定の借入金を会計上の「負債」ではなく、経審の評価上「自己資本」として扱うことで、財務評価点を向上させる新しい仕組みです。
対象となる条件貸し手が金融機関であること、返済期間が5年超であること、利益に応じた金利設定、そして返済順位が低い「劣後性」など、複数の専門的な条件を全て満たす必要があります。
申請手続き公認会計士や税理士といった外部の専門家による証明書の取得が必須です。その後、経営状況分析機関と審査行政庁へそれぞれ申請書類を提出します。
活用のポイント返済期間が5年未満になると評価額が毎年20%ずつ減少するルールなど、専門的な知識が求められます。制度のメリットを最大限に活かすには、専門家への相談が不可欠です。

この新しい制度は、財務状況の改善を目指す建設業者様にとって、非常に有効な選択肢となり得ます。しかし、その恩恵を受けるためには、複雑な条件と手続きを正確に理解し、実行しなければなりません。この新しい制度を貴社の経営力強化に繋げる第一歩として、ぜひ当事務所にご相談ください。

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