村上事務所

【中小建設業の社長必見】BIMって何?メリットから導入の壁、未来まで 徹底解説!

社長、BIMってご存知ですか。 会社の未来を左右するかもしれない「建物の新しい作り方」のお話です!

最近建設業界で「BIM(ビム)」という言葉を耳にする機会が増えていませんか。「なんだか難しそうだな」「うちみたいな会社にはまだ早いんじゃないか」そうお感じになるかもしれません。しかし、このBIMという考え方、実は社長の会社の未来にとって、とても大切なカギを握っているかもしれないのです。

この章では、BIMとは一体何なのか、その基本的な考え方について、できるだけ専門用語を避け、分かりやすくお伝えしていきたいと思います。まるで、新しい道具を手に入れる前のワクワク感のようなものを感じていただけたら嬉しいです。

建設業の社長なら、きっと気になる「BIM」って一体何でしょう。

「BIM、BIMって言うけど、結局のところ何なんだ。」
そうですよね、まずはそこからスッキリさせましょう。

BIMとは、アルファベットの頭文字をとった言葉で、正式には「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」と言います。

単語読み方かんたんな意味
Buildingビルディング建物、建築物
Informationインフォメーション情報、データ
Modelingモデリング形作ること、模型を作ること

この3つの言葉を繋げてみると、「建物の情報を持ちながら、形作っていくこと」といった感じでしょうか。なんだか、これだけだとまだピンと来ないかもしれませんね。

もう少し具体的に言うと、BIMとは、コンピューターの中に、まるで本物の建物とそっくりな3次元の立体モデルを作り、そのモデルに、建物の材料、部材のサイズやメーカー、コスト、さらには工事の手順や完成後のメンテナンス情報といった、建物に関するあらゆる「情報」を詰め込んで、それを設計から工事、そして建物の維持管理まで、ずーっと活用していくための「仕組み」や「考え方」そのものを指すのです。

「え、それってただの3Dの設計図じゃないの。」と思われるかもしれませんが、そこがBIMの奥深いところ。BIMは単に立体的な絵を描くツールではなく、建物そのものをデジタル情報として丸ごと再現しようとする試み、と言えるかもしれません。

BIMは魔法の箱。 いいえ、もっと現実的でパワフルな「情報」の塊なんです

ここで大切なのは、「Modeling(形作ること)」だけではなく、「Information(情報)」という言葉が真ん中に入っていることです。

従来の設計では、まず平面図や立面図といった2次元の図面をたくさん描いて、それを元に頭の中で立体的な建物をイメージしたり、場合によっては3Dのパース図を作ったりしていました。それぞれの図面は独立していて、例えば壁の位置を少し変えようとすると、関連する他の図面も一枚一枚、人の手で修正していく必要がありました。これは大変な手間ですし、修正漏れや図面間の食い違いが起こる原因にもなり得ました。

一方、BIMでは、最初から3次元の「情報を持った建物モデル」をコンピューター上に構築します。
例えば、BIMモデルの中の「壁」は、ただの線や面ではなく、

BIMモデルの「壁」が持っているかもしれない情報(例)

材質コンクリート、木材、鉄骨など
厚さ150mm、120mmなど具体的な寸法
仕上げクロス貼り、塗装、タイル貼りなど
断熱材の種類や厚さグラスウール100mm厚など
耐火性能1時間耐火、2時間耐火など
メーカー名や品番特定の製品情報
コスト材料費、施工費など
製造日や保証期間維持管理に必要な情報

(上記はあくまで一例です。プロジェクトの目的や段階に応じて、モデルに持たせる情報は変わります。)

といった具合に、たくさんの「属性情報」と呼ばれるデータを持っています。そして、これらの情報は、モデルの形状としっかりと結びついているのです。

ですから、BIMモデルの一部、例えばある壁の長さを変更すると、それに応じて壁の面積や必要な材料の数量、場合によってはコストまでが自動的に再計算されたり、関連する他の部材との取り合いも調整されたりする、といったことが可能になります(ソフトウェアの機能や設定によります)。

このように、BIMの核心は、見た目の3Dモデルそのものよりも、そこに付加され、管理され、活用される「情報」の豊かさと、その情報がモデルと連動している点にあるのです。これが、BIMが単なる3D作図ツールと一線を画す、最も重要なポイントと言えるでしょう。

従来の設計とBIM、どこが大きく違うの。 例えるなら…「秘伝のレシピ」が「スーパーデジタルレシピ」に進化した感じ!

もう少しイメージしやすくするために、一つ例え話をさせてください。

社長がもし、最高の料理を作ろうと考えたとします。

従来の建物の設計を「伝統的な料理のレシピ」に例えると…

それは、紙に書かれた「材料リスト」と「手順書」のようなものかもしれません。材料の名前と分量、そして調理の手順が順番に書かれています。熟練の料理人(設計者や職人さん)は、そのレシピを見ながら、長年の経験と勘を頼りに、頭の中で完成品をイメージし、手際よく調理を進めていきます。しかし、もし途中で「やっぱり、この材料を別のものに変えたいな」とか「もう少し味付けを濃くしたいな」と思っても、レシピ全体への影響を把握したり、他の材料の分量を調整したりするのは、なかなか大変です。新しいレシピを書き直すような手間がかかるかもしれません。

一方、BIMを使った建物の設計を「スーパーデジタルレシピ」に例えると…

それは、まるで最先端のタブレットに入った、インタラクティブな料理アプリのようなものです。完成品の美しい3D写真(BIMモデルの見た目)はもちろんのこと、

使われている各材料(建物の部材)その産地、栄養価、アレルギー情報、代替可能な他の材料、さらには現在の市場価格まで(BIMの属性情報)
調理の手順(工事の工程)動画で見ることができ、各工程で使う調理器具(建設機械)の情報も記録されています。
さらに、このスーパーデジタルレシピは賢くてもし「鶏肉を豚肉に変えたい」と入力すれば、レシピ全体のカロリー計算や必要な調味料の量が自動的に再計算されたり、「このアレルギーを持つ人向けにアレンジして」と頼めば、安全な代替材料を提案してくれたりします。

つまり、BIMとは、単に建物の形を作るだけでなく、その建物に関するあらゆる情報を、まるで生きているかのように連携させ、多角的に活用していくための、非常にパワフルなデジタル時代の「建物のレシピブック」兼「調理シミュレーター」のようなもの、とイメージしていただけると分かりやすいかもしれません。

この「情報が連携している」という点が、これまでの設計手法とBIMとの間にある、一つの大きな違いなのです。

なぜ今、BIMがこんなに注目されているのでしょう。

では、なぜ今、このBIMという考え方が、建設業界でこれほどまでに注目を集めているのでしょうか。

その背景には、建設業界が直面している様々な課題があります。例えば、

生産性の向上もっと効率よく仕事を進めたい。
担い手不足若い人がなかなか入ってこない、熟練の職人さんが引退していく。
働き方改革長時間労働を減らして、もっと働きやすい環境にしたい。
品質の確保と向上ミスを減らして、もっと良い建物を造りたい。
国際競争力の強化海外の進んだ技術にも負けないようにしたい。

これらの課題を解決するための切り札の一つとして、BIMに大きな期待が寄せられているのです。

BIMを活用することで、設計の初期段階で様々な検討を詳細に行い(これをフロントローディングと言います)、手戻りを減らしたり、工事の無駄を省いたり、関係者間の情報共有をスムーズにしたりすることが可能になります。結果として、建設プロセス全体の効率化、コスト削減、品質向上、そして働く人たちの負担軽減にも繋がると考えられています。

また、国土交通省も「i-Construction(アイ・コンストラクション)」といった施策を通じて、建設現場の生産性向上を目指しており、その中核技術としてBIM(土木分野ではCIM(シム)と呼ばれることもあります)の活用を強く推進しています。このような国の後押しも、BIMが注目される大きな理由の一つです。

この章でお伝えしたかった、BIMの「はじめの一歩」

さて、この章では、BIMという言葉の基本的な意味や、従来の設計手法との違い、そしてなぜ今注目されているのか、といった「BIMの入り口」についてお話しさせていただきました。

ポイントをまとめると、

BIMとはコンピューター上に情報を持った3Dの建物モデルを作り、それを設計から維持管理まで活用する仕組みや考え方。
最大の特徴は単なる3Dモデルではなく、「情報」の塊であり、その情報がモデルと連携していること。
注目される背景には建設業界の課題解決や、より良い建物づくりへの期待、国の推進策があること。

なんとなく、BIMがどんなものか、おぼろげながらでもイメージしていただけましたでしょうか。

BIMの世界は非常に奥深く、まだまだお伝えしたいことがたくさんあります。次の章では、このBIMと、これまで社長も使われてきたかもしれない「3D CAD」とは、具体的に何がどう違うのか、もう少し掘り下げてご説明したいと思います。そうすることで、BIMが持つ本当の価値や可能性が、よりクリアに見えてくるはずです。

BIMと3D CAD、見た目は似てるけど実は大違い。 社長の会社を強くする「情報力」のヒミツとは。

前の章では、BIMが「コンピューターの中に情報を持った3Dの建物モデルを作り、それを活用する仕組みや考え方」だというお話をしました。「情報のかたまり」であり、まるで「スーパーデジタルレシピ」のようだ、という例えもさせていただきましたね。

そうすると、きっとこう思われるのではないでしょうか。「なるほど、BIMが情報を持っているのは分かった。でも、うちでも使っている3D CADだって、立体的に建物を見られるし、かなり便利だよ。結局のところ、BIMと3D CADって、何がそんなに決定的に違うんだい。」

ごもっともな疑問です。確かに、どちらもコンピューター上で3次元の形を扱いますから、パッと見ただけでは違いが分かりにくいかもしれません。しかし、その中身、つまり設計の考え方や情報の扱い方は、実は全くと言っていいほど異なるのです。この違いを理解することが、BIMの本当の力を知る第一歩になります。

3D CADだって立体が見られるじゃないか。何がそんなに違うの。

多くの社長がご存知の通り、CAD(キャド)は「Computer Aided Design(コンピューター支援設計)」の略で、設計作業をコンピューターで効率的に行うためのツールです。特に3D CADは、建物の形を立体的に表現できるため、完成イメージの把握や複雑な納まりの確認などに役立ちます。

「うちでも3D CADでパースを作ってお客さんに見せたら、すごく喜ばれたよ。」
そんな経験をお持ちの社長もいらっしゃるでしょう。

では、そんな便利な3D CADと、最近話題のBIM。この二つを分ける「決定的な違い」とは何なのでしょうか。それを知るために、また一つ、例え話をさせてください。

例えるなら「粘土細工」と「情報チップ入りの未来のレゴブロック」。

もし、私たちが何か立体的なものを作るとしたら、どんな方法があるでしょう。

ただの形作り。 それとも「意味のある部品」の組み合わせ。 — 3D CAD(粘土細工)の場合

3D CADで建物の形を作るのは、少し「粘土細工」に似ているかもしれません。粘土をこねて、伸ばして、くっつけて、自由に様々な形を作り出すことができます。建物の外観や部屋の形を、まるで彫刻のように表現できるでしょう。とても直感的で、複雑な曲面なども作りやすいかもしれません。

しかし、粘土そのものには、「この部分は壁だ」とか「これは柱だ」といった「意味」は自動的には含まれていません。人が見て初めて、「これは壁に見えるな」と判断します。また、一度作った粘土細工の一部を大きく変えようとすると、周りの部分も手で丁寧に調整し直さなければ、形が崩れてしまいます。そして、使った粘土の正確な量や重さ、あるいは「この色の粘土は〇〇社製で、価格はいくら」といった細かい情報を、粘土自体が持っていてくれるわけではありません。

情報チップが活躍。未来のレゴブロック — BIMの場合

一方、BIMで建物を設計するのは、まるで「情報チップが埋め込まれた、未来のレゴブロック」で組み立てるようなイメージです。最初から「壁ブロック」「窓ブロック」「柱ブロック」「床ブロック」といった、それぞれが「建物の部品としての意味」を持ったブロックを組み合わせていきます。

そして、この未来のレゴブロックは、ただのプラスチックの塊ではありません。それぞれのブロックには小さな「情報チップ」が埋め込まれていて、例えば「壁ブロック」なら、「この壁はコンクリート製で、厚さは15cm、耐火性能は1時間、価格は1平方メートルあたり〇〇円、メーカーは△△社」といった詳細な情報(これを「属性情報」と言います)を自分で記憶しています。

ですから、これらのブロックを組み立てていくと、コンピューターはそれが「壁」なのか「窓」なのかをちゃんと理解しています。そして、もし「この壁ブロックの位置を少しずらしたい」と思えば、それに合わせて隣の床ブロックの面積が自動的に変わったり、使われている壁ブロックの総数がリアルタイムで集計されたり、といったことが起こるのです。さらに、建物をある方向からスパッと切った「断面図」や、真上から見た「平面図」のような設計図も、このブロックの組み合わせ情報から自動的に作り出すことができます。

この例え話から、BIMと3D CADの根本的な思想の違いが、少しイメージできたのではないでしょうか。3D CADが主に「形状を表現する」ことに重点を置いているのに対し、BIMは「情報を持ち、意味を理解する部品(オブジェクトと言います)を組み立て、建物全体を情報として構築する」という考え方に基づいているのです。

もっと詳しく。BIMと3D CADの決定的な違いを3つのポイントで整理

「未来のレゴブロック」の例えで、なんとなくBIMの特徴は掴めたけれど、もう少し具体的に、業務にどう関わってくるのか知りたい、という社長もいらっしゃるでしょう。では、BIMと3D CADの主な違いを、実務にも関わる3つのポイントで整理してみましょう。

比較ポイント従来の3D CADBIM
ポイント1
設計の進め方
(作図工程)
「積み上げ型」が多いまず、平面図、立面図、断面図といった2次元の図面を作成し、それらを元にして3次元のモデルを「作り上げていく」という流れが一般的です。2D図面が主体で、3Dモデルはそれを補足するような位置づけになることもあります。「切り出し型」が基本最初から3次元のBIMモデルを構築します。そして、その3Dモデルから必要な情報を「切り出す」ような形で、平面図、立面図、断面図、あるいは部材の数量表といった各種レポートを生成します。3Dモデルが全ての情報の根源となります。
ポイント2
扱える「情報」の
量と質
主に「形状情報」が中心線や面、ソリッドといった幾何学的な形状情報を主に扱います。部材の材質やコスト、性能といった詳細な「属性情報」を、形状と一体化して管理するのは得意ではありません。いわば「絵」としての側面が強いです。考え方としては「線分指向」や「図形要素指向」と言われます。「形状情報」+「多様な属性情報」形状情報に加えて、壁の材質、柱の強度、窓のメーカー名や断熱性能、設備の品番やメンテナンス周期といった、多種多様な「属性情報」を、モデルの各構成要素(壁、柱、窓など)に持たせ、統合的に管理します。いわば「建物データベース」としての性格を持ちます。考え方としては「オブジェクト指向」と言われ、各要素が「意味」を持っています。
ポイント3
修正時の
データの連動性
個別修正が基本ある図面(例えば平面図)で設計変更があった場合、それに関連する他の図面(立面図、断面図、3Dモデルなど)も、それぞれ個別に手作業で修正する必要があります。手間がかかる上に、修正漏れや図面間の不整合が起こりやすいという課題があります。自動更新・連携が強力全ての情報が中央のBIMモデルに紐づいているため、モデルの一部(例えば、壁の位置や窓のサイズ)を修正すると、それに関連する全ての図面(平面図、立面図、断面図)、集計表、3Dビューなどが、原則として自動的に更新されます。修正作業の手間が大幅に削減されるだけでなく、ヒューマンエラーを防ぎ、常に最新かつ整合性の取れた情報を関係者間で共有しやすくなります。

だからBIMは「ただの3Dツール」じゃないんです

これらの違いからお分かりいただけるように、BIMは単に「3Dで図面が描ける便利なソフト」というだけのものではありません。それは、建築プロジェクトにおける情報の作り方、管理の仕方、そして活用の仕方を根本から変える可能性を秘めた、新しい「仕組み」や「考え方」なのです。

3D CADが主に「作図」という工程の効率化を目指すツールであるのに対し、BIMは設計から施工、さらには維持管理に至るまでの建築物のライフサイクル全体を見据え、そのプロセス全体の生産性向上や品質向上、関係者間のより良いコラボレーション(協調作業)を実現しようとしています。

つまり、BIMを導入するということは、単に新しいソフトウェアを導入するだけでなく、これまでの仕事の進め方や情報の流れ、組織のあり方まで見直していく、より大きな変革を伴う場合がある、ということも心に留めておくと良いでしょう。

この章でお伝えしたかった、BIMと3D CADの根本的な違い

考え方の出発点3D CADは「形を描く」ことから、BIMは「情報を持った部品を組み立てる」ことから始まります。
情報の扱い3D CADは主に形状情報を、BIMは形状情報に加えて膨大な属性情報を扱います。
データの連携3D CADは手動での整合性確保が必要な場面が多いのに対し、BIMは自動連携・自動更新の機能が強力です。
目指すところ3D CADは作図の効率化が主目的ですが、BIMはプロジェクト全体のプロセス変革を目指しています。

さて、BIMが3D CADとは根本的に異なる思想を持っていること、そして「情報」を核にしていることが、少しずつ見えてきたのではないでしょうか。

「なるほど、BIMがただの3Dソフトじゃないことはよく分かった。では、実際にBIMを導入すると、うちの会社にとって具体的にどんないいことがあるんだい。」きっと、社長の関心はそこに移っていることでしょう。

次の章では、いよいよBIMを導入することで得られる具体的なメリットについて、社長の会社経営にも直結するような視点から、詳しくお話ししていきたいと思います。どうぞお楽しみに。

社長の会社がもっと強くなる。 BIM導入が生み出す「儲かる仕組み」と「働きがい」の秘密とは。

前の章では、BIMが従来の3D CADとは根本的に異なり、「情報を持った部品を組み立てる、未来のレゴブロック」のようなものだ、というお話をしましたね。設計の進め方や情報の扱い方、そして修正時のデータの連動性など、その違いがお分かりいただけたかと思います。

そうすると、次に社長が知りたいのは、「なるほど、BIMがすごいのは分かった。では、実際にうちの会社でBIMを使いこなせるようになったら、具体的にどんな良いことがあるんだい。本当に儲かるのかい。」ということではないでしょうか。

もちろんです。BIMは、単に新しい技術というだけでなく、社長の会社経営に直接的なメリットをもたらし、会社をより強く、より魅力的にする可能性を秘めているのです。この章では、BIMがもたらす具体的な「ご利益」について、分かりやすくお伝えしていきます。

例えるなら「高性能カーナビ付きドライブシミュレーター」を手に入れるようなもの。

社長、もし長距離のドライブに出かけるとしたら、どんな準備をしますか。昔ながらの紙の地図を広げて、経験と勘を頼りにルートを決めるのも一つの方法です。しかし、もし手元に「最新の高性能カーナビ」と「リアルなドライブシミュレーター」があったら、どうでしょう。

従来の設計・施工を「地図と経験頼りの運転」に例えると…

目的地(完成した建物)までの道のり(工事の工程)は、紙の地図(2次元の設計図)と、ドライバー(設計者や現場監督、職人さん)のこれまでの経験や勘が大きな頼りです。もちろん、熟練のドライバーならスムーズに目的地に到着できることも多いでしょう。しかし、予期せぬ渋滞(工事中の予期せぬ問題や手戻り)に巻き込まれたり、知らない土地で道に迷ってしまったり(設計変更やスケジュールの遅れ)、あるいは狭い路地で「おっと、ぶつかる!」とヒヤリとしたり(部材同士の干渉)することもあるかもしれません。

一方、BIM導入を「高性能カーナビ付きドライブシミュレーター」に例えると…

BIMを導入するということは、このドライブに「最新鋭のカーナビ」と「超リアルなドライブシミュレーター」を持っていくようなものです。

最新鋭のカーナビ(BIMの設計・計画機能)は、目的地(完成建物)を入力するだけで、複数の最適なルート(効率的な工事計画や設計案)を3Dの地図上で示してくれます。それだけでなく、リアルタイムの交通情報(BIMによる事前検討やシミュレーション)を分析し、「この先の交差点は、朝夕混み合いますよ(工事中に干渉が起きやすい箇所ですよ)」とか、「このルートは道が狭いので、大型車は通れません(この部材の搬入は難しいですよ)」といった情報を事前に教えてくれ、より安全で確実なルート(問題解決策)を提案してくれます。
そして、超リアルなドライブシミュレーター(BIMの可視化・検証機能)を使えば、実際に運転(施工)を始める前に、難しいカーブや狭い駐車場での車庫入れ(複雑な納まりや難しい工事箇所)を、何度も練習することができます。これにより、実際の運転(施工)でのミスを大幅に減らし、安全かつスムーズに目的地(建物の完成)にたどり着ける可能性が高まるのです。もちろん、燃費の良い走り方(コストの削減)や、正確な到着予定時刻(工期の遵守)も事前に把握しやすくなります。

このように、BIMは建設プロジェクトという「ドライブ」を、より安全に、より効率的に、そしてより確実に成功へと導くための、非常に強力なナビゲーションシステム兼トレーニングシステムと言えるのです。

社長も納得。BIMがもたらす具体的なメリットを大公開

「高性能カーナビとドライブシミュレーター」の例えで、BIMが何となく「事前に色々分かって、失敗を減らせそうだな」というイメージは持っていただけたかと思います。では、これを実際の建設業務に置き換えて、BIMがもたらす具体的なメリットを見ていきましょう。

メリット1:間違いや手戻りが激減。「建物の品質」がグーンと上がります

設計の初期段階で問題を「見える化」して解決(フロントローディング)

BIMを使うと、設計の早い段階、まだ図面が固まりきる前から、3次元のモデルで建物の形や内部の様子を具体的に確認できます。これにより、「あれ、この柱の位置だと窓からの眺めが悪くなるな」とか、「このままだと、お客さんの希望する家具が置けないかもしれない」といった問題点を、実際に建て始めるずっと前に発見し、修正することができます。これを「フロントローディング(前倒し設計)」と呼び、後工程での大きな手戻りや設計変更を劇的に減らす効果があります。

複雑な部分も3Dでバッチリ理解

2次元の図面だけでは分かりにくい、配管が複雑に絡み合う部分や、特殊な形状の部材が取り付く部分なども、BIMの3Dモデルなら、まるで手にとって見るように詳細に確認できます。これにより、設計ミスを防ぎ、施工時の職人さんの理解も助け、結果として建物の品質向上に繋がります。

機械が自動でチェック。ぶつかる前に分かる「干渉チェック」

設計段階で、例えば建物の骨組み(構造モデル)と、エアコンの配管や電気の配線(設備モデル)をコンピューター上で重ね合わせ、「梁とダクトがぶつかっていないか」「柱と配管が干渉していないか」といったことを自動的にチェックできます。これを「干渉チェック(またはクラッシュチェック)」と言い、従来は現場で発覚して大問題になることもあった部材同士の衝突を、事前に発見し解決することができるのです。

メリット2:仕事がサクサク進む。「生産性アップ」でコストも工期もニッコリ

図面修正の手間が激減。関連書類も自動で更新

前の章でも触れましたが、BIMでは3Dモデルが全ての情報の親玉です。そのため、モデルの一部を修正すれば、それに関連する平面図、立面図、断面図といった各種図面や、部材リストなども自動的に更新される機能があります。これにより、従来は膨大な時間と手間がかかっていた図面修正作業や、図面間の整合性を取る作業が大幅に楽になり、設計全体のスピードアップが期待できます。

必要な材料の数が正確に分かる。積算業務も効率化

BIMモデルには、使われている壁の面積、柱や梁の体積、窓やドアの数といった情報が正確に含まれています。これらの情報を利用すれば、コンクリートの量、鉄骨の重さ、仕上げ材の面積などを自動的に、かつ正確に算出することができます。これにより、積算業務の効率化と精度向上が図れ、資材の無駄な発注を減らすことにも繋がります。

工事の進め方も「見える化」。4D・5D BIMへの展開も

BIMモデルに「時間」の情報を加えると、どの日にどの部分の工事が行われるのかを3Dでシミュレーションできます(これを「4D BIM」と言います)。さらに「コスト」の情報を加えれば、工事の進捗に合わせてどれくらいの費用がかかるのかも把握できます(これを「5D BIM」と言います)。これにより、工事計画の妥当性を事前に検証したり、関係者との打ち合わせをスムーズに進めたりするのに役立ちます。

メリット3:お客さんも社内も意思疎通がスムーズに。「みんなハッピー」な関係づくり

3Dモデルでお客さんも納得。完成イメージをしっかり共有

専門家ではないお客さんにとって、2次元の図面から完成した建物を正確にイメージするのは難しいものです。BIMを使えば、建物の外観や内装、日当たりの様子などを3Dのリアルな映像で見せることができるので、お客さんは完成イメージを具体的に掴みやすくなります。「思っていたのと違う」といった完成後のトラブルを防ぎ、顧客満足度の向上に繋がります。

関係者全員が同じ情報を見るから、認識のズレが減る

設計者、施工者、専門工事業者、そして発注者であるお客さんまで、プロジェクトに関わる全ての人が、同じBIMモデルという「共通言語」を使ってコミュニケーションを取れるようになります。これにより、情報の伝達ミスや認識のズレが減り、よりスムーズで建設的な話し合いができるようになります。

クラウドを使えば、どこからでも最新情報にアクセス

最近では、BIMモデルや関連データをインターネット上のクラウドサーバーで管理する仕組みも普及しています。これにより、事務所だけでなく、現場や出張先からでも、関係者がいつでも最新の情報にアクセスし、共有できるようになります。これにより、情報伝達のスピードが上がり、迅速な意思決定をサポートします。

メリット4(おまけ):建物が完成した後も役立つ。未来を見据えた資産価値向上も

デジタルデータとして建物の情報を残す「竣工BIM」

工事が無事完了した暁には、実際に建てられた建物の情報を正確に反映したBIMモデル(これを「竣工BIM」または「As-Builtモデル」と言います)を作成することができます。この竣工BIMには、使われた部材のメーカーや品番、保証期間、点検マニュアルへのリンクといった、建物の維持管理に必要な情報がたくさん詰まっています。

効率的なメンテナンスや将来の改修計画に大活躍

建物のオーナーさんや管理会社は、この竣工BIMを見ることで、どこにどんな設備があるのか、いつ頃点検や交換が必要なのかといった情報を簡単に把握できます。これにより、計画的なメンテナンスが可能になり、建物の寿命を延ばしたり、将来のリフォームや改修工事を計画する際にも、非常に役立ちます。これは、社長の会社が施工した建物の資産価値を高めることにも繋がるかもしれません。

(中小企業の社長にとっては、少し先の未来の話かもしれませんが、BIMが持つ長期的な価値として知っておいて損はありません。)

メリット5(隠れた重要ポイント):社員が働きやすくなる。「魅力ある会社」への第一歩

無駄な作業を減らして、残業時間が短くなるかも

BIMによって手戻りや図面修正といった非効率な作業が減れば、社員さんの残業時間を減らすことにも繋がる可能性があります。これは、社員さんの満足度向上や、健康的な職場環境づくりに貢献します。

若手技術者も3Dで直感的に理解しやすく、成長をサポート

経験の浅い若手の技術者にとって、2次元の図面から複雑な建物の構造を理解するのは簡単なことではありません。BIMの3Dモデルは、まるでゲーム画面を見るように直感的に建物の仕組みを理解できるため、若手社員の教育や技術習得のスピードアップにも役立ちます。

「うちの会社は新しいことに挑戦している」という誇り

BIMのような先進的な技術を導入し、活用しているという事実は、社員さんにとって「自分たちの会社は時代を先取りしている」「新しいことに積極的にチャレンジしている」という誇りやモチベーションに繋がります。これは、会社全体の活気を生み出し、より良い仕事をするための原動力となるでしょう。

「良いことずくめみたいだけど、本当なの。」—メリットを活かすために知っておくべきこと

ここまでBIMの素晴らしいメリットをたくさんお話ししてきましたが、社長はもしかしたら、「そんなに良いことばかりなんて、何か裏があるんじゃないか。」「簡単にできるなら、もうみんなやってるはずだ。」とお感じになるかもしれません。

確かに、BIMのメリットを最大限に引き出すためには、単にBIMソフトを購入してパソコンにインストールするだけでは不十分です。新しいツールを使いこなすための学習や練習が必要ですし、場合によっては、これまでの仕事の進め方や社内での役割分担を見直す必要も出てくるでしょう。

しかし、これらの「乗り越えるべき壁」を理解し、計画的に取り組んでいけば、BIMがもたらす恩恵は非常に大きいものとなるはずです。

この章でお伝えしたかった、BIMがもたらす会社の「元気の素」

品質アップ間違いや手戻りが減り、より良い建物が作れます。
生産性アップ仕事が効率的に進み、コスト削減や工期短縮も期待できます。
コミュニケーション円滑化お客さんや社内外の関係者との意思疎通がスムーズになります。
将来性建物の維持管理にも役立ち、資産価値向上にも繋がる可能性があります。
働きがい向上社員の負担を減らし、モチベーションアップや人材育成にも貢献します。

BIMがもたらすメリットは、まさに社長の会社を内側から強くし、競争力を高め、そして働く人にとっても魅力的な環境を作るための「元気の素」と言えるのではないでしょうか。

「よし、BIMのメリットはよく分かった。でも、実際に導入するとなると、やっぱり費用とか、うちの社員が使いこなせるかとか、色々心配な点もあるんだよな。」そうお考えの社長もいらっしゃると思います。

ご安心ください。次の章では、BIMを導入する際に直面する可能性のある課題と、それらを賢く乗り越えていくための具体的な方法について、一緒に考えていきたいと思います。

「BIMって難しそう…」そんな社長の不安を解消。 導入の壁を乗り越える知恵と勇気、教えます。

前の章では、BIMを導入することで、建物の品質が上がったり、仕事の効率が良くなったり、お客さんとの意思疎通がスムーズになったりと、たくさんのメリットがあることをお話ししました。「高性能カーナビ付きドライブシミュレーター」を手に入れるようなものだ、という例えもしましたね。

きっと社長も、「なるほど、BIMには夢があるな。うちの会社も変われるかもしれない。」と期待に胸を膨らませていらっしゃるかもしれません。しかし同時に、「でも、そんなに良いことばかり言うけれど、実際に導入するとなると、やっぱり色々と大変なんじゃないか。うちみたいな中小企業には、ハードルが高いんじゃないか。」そんなご心配も、正直なところではないでしょうか。

そのお気持ち、よく分かります。新しいことに挑戦するには、必ず何かしらの「壁」が立ちはだかるものです。この章では、社長がBIM導入を考える際に直面するかもしれない、主な「壁」と、それらを賢く、そして力強く打ち破っていくための「具体的な作戦」について、一緒に考えていきましょう。

例えるなら「憧れの最新釣り道具」を手に入れるようなもの。でも、使いこなすには…。

社長、もし社長が釣りがお好きだとして、ある日、釣具屋さんで「これを使えば大物が釣れる!」と評判の、ピカピカの最新式釣り竿とリール(BIMソフトや高性能パソコン)を見つけたとします。喉から手が出るほど欲しいですよね。

憧れの道具、でも…

まず、その最新道具は、きっとお値段もそれなりにするでしょう(導入コストの問題)。清水の舞台から飛び降りるつもりで手に入れたとしても、すぐに大物が釣れるわけではありません。その道具の特性を理解し、正しい使い方をマスターするための練習(社員さんの技術習得や教育)が必要です。もしかしたら、今までの自分の釣り方(既存の仕事の進め方)をガラッと変えなければ、道具の性能を十分に引き出せないかもしれません(ワークフローの変革)。

最初は小さな魚しか釣れなかったり、糸が絡まってしまったり(導入初期の混乱や試行錯誤)するかもしれません。「やっぱり自分には無理だったかな…」と弱気になることもあるでしょう。

しかし、諦めずに練習を続け、時には釣りの名人(BIM導入の専門家や先進企業)にコツを教えてもらったり、釣り仲間(社内や業界のBIM推進者)と情報交換をしたりしながら腕を磨いていけば、いつの日か、その最新道具を自在に操り、誰もが目を見張るような大物(BIM導入による大きな成果やメリット)を釣り上げることができるようになるはずです。そしてその時には、きっと「あの時、思い切ってこの道具を手に入れて本当に良かった!」と心から思えることでしょう。

BIM導入も、この「最新釣り道具」を手に入れ、使いこなしていく過程と少し似ているかもしれません。いくつかの「壁」は確かに存在しますが、それを乗り越えるための知恵と工夫、そして何よりも「やってみよう!」という社長の勇気があれば、必ず道は開けます。

社長が直面するかもしれないBIM導入の「3つのカベ」とその打ち破り方

では、具体的にどんな「カベ」が考えられるのか、そして、それをどう「打ち破って」いけば良いのか、見ていきましょう。ここでは特に中小企業の社長が心配されるであろう3つのポイントに絞ってお話しします。

カベ1:うちの社員、BIMなんて使えるようになるのかい。 — 「人材育成」のカベ

BIMソフトは多機能で、これまでの2D CADとは操作感も考え方も異なるため、習得にはある程度の時間と努力が必要です。「うちのベテラン社員はパソコンが苦手だし…」「若い社員に教えても、すぐに辞めちゃったらどうしよう…」「そもそもBIMを全体的に見てくれるリーダーなんていないよ…」といった不安は尽きないかもしれません。

打ち破り方(人材育成の作戦)
作戦名具体的な進め方
焦らず一歩ずつ「ベイビーステップ」作戦最初から完璧を目指さず、まずはBIMソフトの基本的な操作や、簡単な3Dモデルの作成から始めてみましょう。社内で定期的な勉強会を開いたり、OJT(On-the-Job Training、実際の仕事を通じた教育)の機会を設けたりして、少しずつスキルアップできる環境を作ることが大切です。全員が一斉にではなく、まずは意欲のある数名から始めるのも良いでしょう。
社内に「BIM隊長」を任命しよう。作戦社内でBIM導入を率先して進めてくれるキーパーソン(BIMリーダーやBIMマネージャーと呼ばれることもあります)を決め、その人に集中的に学んでもらい、他の社員に広めていくという方法も有効です。その人が相談窓口になることで、他の社員も安心して取り組めます。
餅は餅屋「外部のチカラ」を借りる作戦BIMソフトのメーカーや販売代理店、専門の研修機関などが提供している講習会やセミナーに参加するのも良いでしょう。また、BIM導入支援を専門に行っているコンサルタントに相談して、自社に合った教育プランを立ててもらうという手もあります。

カベ2:高いんでしょう、BIMって。 — 「お金」のカベ

BIMソフトのライセンス費用は、従来の2D CADソフトに比べて高価な場合があります。また、BIMモデルを快適に扱うためには、ある程度高性能なパソコンや周辺機器(ハードウェア)も必要になります。さらに、社員教育にかかる費用や、導入後のソフトウェアの年間保守費用なども考慮しなければなりません。「うちみたいな小さな会社に、そんな余裕はないよ…」と思われるかもしれません。

打ち破り方(お金の作戦)
作戦名具体的な進め方
お助けマンを探せ。「補助金・助成金」活用作戦国や地方自治体、業界団体などが、中小企業のIT導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を支援するために、BIMソフトの導入費用や研修費用の一部を補助してくれる制度を設けている場合があります。積極的に情報を集め、活用できるものがないか調べてみましょう。
小さな成功から始めよう「スモールスタート」作戦いきなり全社的に高価なBIMソフトを大量導入するのではなく、まずは特定の部門や、小規模なプロジェクト(パイロットプロジェクトと言います)で試験的にBIMを導入してみましょう。これにより、初期投資を抑えつつ、BIM導入の効果や課題を具体的に把握し、本格導入に向けたノウハウを蓄積できます。
「持たずに使う」もアリ。「クラウドBIM・レンタル」検討作戦最近では、月額や年額のサブスクリプション方式で利用できるBIMソフトや、インターネット経由でBIM機能を利用できるクラウドサービスも増えています。また、高性能パソコンも購入するだけでなく、リースやレンタルという選択肢もあります。これらを活用すれば、初期導入コストを大幅に抑えることが可能です。
目先の出費だけじゃない「未来への投資」と考える作戦BIM導入は、単なる経費ではなく、将来の生産性向上、品質向上、コスト削減、そして受注機会の拡大に繋がる「投資」であるという視点を持つことが重要です。短期的な費用対効果(ROI)だけでなく、中長期的な視点で、BIMがもたらすであろう様々なメリットを総合的に評価し、経営判断を下しましょう。

カベ3:今までのやり方を変えるのは大変だよ… — 「変化への抵抗」のカベ

長年慣れ親しんだ仕事のやり方や、紙の図面を中心としたワークフローを変えることに対して、社員さんの中から不安や抵抗感が出てくるのは自然なことです。「新しいことを覚えるのは面倒だ」「今のやり方で十分うまくいっているのに、なぜ変える必要があるんだ」といった声が上がるかもしれません。組織全体の意識改革は、一朝一夕にはいかないものです。

打ち破り方(変化への抵抗を乗り越える作戦)
作戦名具体的な進め方
社長の本気を見せる。「トップダウン宣言」作戦BIM導入を成功させるためには、まず社長自身が「BIMを導入して会社をこう変えていくんだ!」という強い意志とビジョンを明確に示し、それを社員全員に伝えることが不可欠です。「社長が本気なんだな」ということが伝われば、社員さんの意識も変わり始めます。
みんなで目指すゴールを共有「BIM導入目的の見える化」作戦なぜBIMを導入するのか、BIMを導入することで会社や社員にとってどんないいことがあるのか(例えば、残業が減る、ミスが減って仕事が楽になる、お客さんにもっと喜んでもらえるなど)、具体的な目的やメリットを分かりやすく説明し、社内で共有しましょう。「自分たちにもメリットがあるんだ」と理解できれば、前向きな気持ちで取り組めます。
成功体験が一番の薬「小さな成功事例の横展開」作戦スモールスタートでBIMを導入したプロジェクトで、実際に「手戻りが減った」「お客さんにすごく褒められた」といった小さな成功体験が出てきたら、それを社内で積極的に共有しましょう。具体的な成功事例を見ることで、「BIMって本当に効果があるんだな」「自分たちにもできそうだ」という実感が広がり、変化への抵抗感を和らげることができます。

(ちょっと未来の話)他の会社とのデータやり取り、大丈夫。 — 「つながるBIM」の準備

社長の会社がBIMを使いこなし始めると、今度は設計事務所や協力会社など、他の会社との間でBIMデータをやり取りする場面も出てくるかもしれません。その時に、「うちのBIMソフトと相手のBIMソフトが違うから、データがうまく開けない…」なんてことになったら困りますよね。

実は、BIMの世界には、異なるBIMソフト間でもデータを交換しやすくするための共通のファイル形式(例えば「IFC形式」というものがあります)や、オープンな連携の考え方(「Open BIM」と言います)が存在します。今すぐ全てを理解する必要はありませんが、将来的に他の会社とスムーズに「つながるBIM」を実現するためには、こういったデータ標準化の動きがあることも、頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

「カベ」は確かにある。でも、乗り越える道も必ずある。

いかがでしたでしょうか。BIM導入には、確かにいくつかの「カベ」が存在します。しかし、それぞれのカベには、それを乗り越えるための「ハシゴ」や「迂回路」も必ず用意されているのです。

大切なのは、これらのカベの存在を正しく認識し、自社の状況に合わせて、焦らず、計画的に、そして諦めずに一歩ずつ進んでいくことです。社長と社員さんが一丸となって知恵を絞り、時には外部の力も借りながら取り組んでいけば、必ずやBIMという強力な武器を手に入れることができるはずです。

この章でお伝えしたかった、BIM導入の「カベ」と「ハシゴ」

人材育成のカベには段階的教育、社内リーダー育成、外部研修活用というハシゴがあります。
お金のカベには補助金活用、スモールスタート、クラウドサービス利用、長期的視点での投資判断というハシゴがあります。
変化への抵抗のカベには社長のリーダーシップ、目的・メリットの共有、成功体験の積み重ねというハシゴがあります。
そして将来的には他社と「つながるBIM」のための準備も視野に入れておきましょう。

「よし、BIM導入の課題と、それを乗り越えるための作戦は何となく分かった。ところで、BIMってこれからもっと進化していくのかい。建設業界の未来は、BIMでどう変わっていくんだろう。」そんな疑問も湧いてくる頃ではないでしょうか。

次の章では、BIMがこれからどんな風に進化していくのか、そしてBIMが私たちの建設業界の未来をどのように形作っていくのか、その壮大な可能性について、ワクワクするようなお話をしたいと思います。どうぞご期待ください。

BIMはどこまで進化する。まるでSF。建設業界のワクワクする未来予想図

前の章では、BIM導入の際に社長が直面するかもしれない「人材育成」「お金」「変化への抵抗」といった3つのカベと、それらを乗り越えるための具体的な作戦についてお話ししました。「カベは確かにあるけれど、乗り越える道も必ずある。」そう感じていただけたのではないでしょうか。

さて、BIM導入という山を乗り越えた先には、一体どんな景色が広がっているのでしょう。「BIMを使いこなせるようになったら、うちの会社や建設業界全体は、これからどんな風に変わっていくんだろう。」そんな未来への期待と少しの不安が入り混じったお気持ちかもしれませんね。

この章では、BIMがこれからどのように進化し、私たちの建設業界にどんな驚くべき変化をもたらす可能性があるのか、まるでSF映画のワンシーンを覗き見るような、ワクワクする未来予想図を一緒に見ていきたいと思います。

例えるなら、BIMは未来のオーケストラの指揮者。あらゆる技術とタッグを組む

社長、壮大なオーケストラの演奏を想像してみてください。たくさんの楽器が、それぞれ異なる音色やリズムを奏でながらも、指揮者のタクトに合わせて一つの素晴らしい音楽を創り上げていきますよね。

BIMが指揮する、未来の建設オーケストラ

これからの建設業界におけるBIMの役割は、この「オーケストラの指揮者」に例えることができるかもしれません。

BIMモデル、つまり「情報を持った建物のデジタルな楽譜」が中心となり、様々な最新技術、いわば「それぞれ特殊な技能を持った演奏者ロボット」たちとネットワークで繋がります。

例えば…
3Dスキャナーロボット現実の建物や地形を瞬時に正確にスキャンし、その情報を楽譜(BIMモデル)にフィードバックします。
AI(人工知能)ロボット膨大な過去の演奏データ(建設データ)を学習し、より美しく、より効率的な新しい楽章(設計案や施工計画)を提案してくれます。
IoTセンサーロボットたちは演奏中(工事中)の会場の温度や湿度、各楽器の調子(現場の状況や建材の状態)をリアルタイムで指揮者(BIM)に伝え、最適な演奏環境を保ちます。
そして、デジタルツイン技術このオーケストラの演奏(建設プロジェクト)を、寸分違わぬ形でデジタル空間に再現し、本番前に完璧なリハーサルを行ったり、完成した名演奏(建物)を未来永劫記録し続けたりすることを可能にします。

指揮者であるBIMは、これらの個性豊かな演奏者ロボットたちを巧みに操り、それぞれの能力を最大限に引き出しながら、一つの調和のとれた、最高の演奏、つまり「高品質で効率的、かつ安全な建設プロジェクト」を創り上げていくのです。そして、その演奏会場全体の響きや、周囲の環境とのハーモニー(GISとの連携による都市計画との調和)まで考慮に入れることができるとしたら…なんだかすごい未来が待っていそうですよね。

BIM単独でも強力なツールですが、このように他の先進技術と連携・融合することで、その可能性は無限大に広がっていくのです。

BIM×最新テクノロジーで建設現場はこう変わる。5つの未来予想

では、BIMが様々な最新テクノロジーとタッグを組むことで、私たちの建設の仕事は具体的にどのように変わっていくのでしょうか。ここでは、特に注目すべき5つの未来予想をご紹介します。

未来予想1:現実世界を丸ごとスキャン。「3Dスキャナー&点群データ」で改修もラクラク

今の建物を、ありのままデジタル化

社長の会社で、古い建物のリフォームや改修工事を手がけることはありますか。図面が残っていなかったり、残っていても現状と違っていたりして、工事を始める前の現況調査に手間と時間がかかることも多いのではないでしょうか。

これからは、3Dレーザースキャナーやドローンに搭載されたスキャナーを使って、既存の建物や地形をあっという間に、かつミリ単位の精度で3次元スキャンできるようになります。スキャンして得られるのは、無数の点の集まりである「点群(てんぐん)データ」と呼ばれるもので、これは現実空間をそのままデジタルデータとして写し取ったものです。

BIMモデルと重ねて、問題点を瞬時に発見

この点群データをBIMソフトに取り込み、計画中のBIMモデルと重ね合わせることで、「あれ、ここの壁、図面より実際は5cmズレてるぞ」とか、「この天井裏には、図面にない配管が通っているな」といった現状との食い違いや、設計上の問題点を、工事が始まる前に正確に把握することができます。これにより、改修設計の精度が格段に上がり、現場での予期せぬ手戻りや追加工事を大幅に減らすことが期待できます。

また、工事中の出来形確認(設計通りに施工できているかのチェック)も、スキャンした点群データとBIMモデルを比較することで、迅速かつ客観的に行えるようになります。

未来予想2:建物と街が一体化。「GIS(地理情報システム)」で地域まるごと最適設計

BIMと地図情報をドッキング

BIMが主に個々の「建物」の情報を扱うのに対し、GIS(ジーアイエス、地理情報システム)は、地形、地盤、道路、河川、都市計画区域、ハザードマップといった、もっと広範囲な「地域」や「都市」の情報を扱うシステムです。これまでは別々に使われることが多かったこの二つの技術が、これからどんどん連携していくと考えられています。

街全体の視点から、最適な建物を計画

例えば、新しい建物のBIMモデルを、その地域のGISデータ(例えば、国土交通省が進めている「PLATEAU(プラトー)」という日本全国の3D都市モデルのデータなど)と重ね合わせることで、こんなことができるようになります。

日当たりや風通し周辺の建物や地形を考慮して、より正確にシミュレーションできます。
景観との調和新しい建物が街並みにどう影響するかを、3Dでリアルに確認できます。
災害リスク評価洪水浸水想定区域や土砂災害危険箇所といったハザード情報と照らし合わせ、より安全な設計を検討できます。
交通アクセス周辺の道路網や公共交通機関との連携を考慮した計画が立てやすくなります。

このように、個々の建物の設計を、より大きな「まちづくり」の視点から捉え、地域全体にとって最適な計画を進めることが可能になるのです。

未来予想3:BIMが考える。働く。「AI(人工知能)&IoT(モノのインターネット)」が名アシスタントに

AIが設計や工事の「賢い助手」に

AI(エーアイ、人工知能)の進化は目覚ましいものがありますが、建設業界でもBIMとAIがタッグを組むことで、様々な作業が自動化されたり、高度化されたりすると期待されています。例えば、

設計支援過去の膨大なBIMデータや設計事例をAIが学習し、新しいプロジェクトに対して最適な設計案の候補をいくつか提案してくれたり、建築基準法などの法規チェックを自動で行ってくれたりするようになるかもしれません。
施工計画工事の進捗データや現場の状況をAIが分析し、最も効率的な作業手順や人員配置をアドバイスしてくれたり、工事の遅延やコスト超過のリスクを事前に予測してくれたりすることも考えられます。
品質管理ドローンで撮影した現場写真や、センサーで集めたデータをAIが解析し、施工の不具合や品質不良の箇所を自動的に見つけ出してくれる、といった技術も開発が進んでいます。
IoTセンサーが現場の「目・耳・鼻」に

IoT(アイオーティー、モノのインターネット)とは、様々な「モノ」にセンサーや通信機能を付けて、インターネットに接続する技術です。建設現場や完成後の建物に、温度、湿度、振動、変位、エネルギー消費量などを計測する多数のIoTセンサーを設置し、その情報をリアルタイムでBIMモデルと連携させることで、こんなことが可能になります。

現場の見える化建設機械の稼働状況や、作業員さんの位置情報、資材の在庫状況などを遠隔地からでもリアルタイムに把握し、より効率的な現場管理が行えます。
スマートビルディング完成後の建物では、室内の環境やエネルギー消費量をセンサーで常に監視し、BIMと連携して空調や照明を自動で最適制御することで、快適性と省エネを両立できます。
予防保全建物や橋などの構造物に設置したセンサーが、ひび割れや傾きといった異常の予兆を検知し、BIMモデル上で危険箇所を特定。大きな事故が起こる前に、計画的な修繕を行う「予防保全」が可能になります。

未来予想4:現実とそっくりな双子をPC内に。「デジタルツイン」で未来をシミュレーション

BIMが核となる「デジタルの双子」

ここまでお話ししてきた3Dスキャナー、GIS、AI、IoTといった技術とBIMが高度に連携・融合することで、現実世界の建物や都市、インフラ設備などを、まるで双子のようにデジタル空間に忠実に再現する「デジタルツイン」を構築することができます。

このデジタルツインは、単に形がそっくりなだけでなく、現実世界の様々な情報(例えば、工事の進捗状況、機械の稼働データ、人や車の流れ、エネルギー消費量、気象情報など)をリアルタイムに取り込み、常に最新の状態を保ちます。そして、AIによる分析や予測機能を組み合わせることで、こんなことが可能になると期待されています。

建設プロジェクトのデジタルツイン設計BIMモデルをベースに、施工中の進捗、品質、コストといった情報をリアルタイムに反映させ、プロジェクト全体の状況を仮想空間で正確に把握・管理。様々なトラブルを未然に防いだり、最適な意思決定を支援したりします。
都市のデジタルツイン都市全体のBIMモデルやCIMモデル、GISデータ、交通流データなどを統合し、都市OS(オペレーティングシステム)上で管理・分析。これにより、都市計画、交通渋滞の緩和、災害時の避難誘導、エネルギー供給の最適化などを、より高度なレベルで行えるようになります。

デジタルツイン上で様々なシミュレーションを行うことで、現実世界で試すにはコストや時間がかかりすぎるようなことも、安全かつ効率的に検討できるようになるのです。

未来予想5:ムダなし、環境に優しく。「データ駆動型」で賢いものづくり

BIMデータが導く、最適な生産と供給

BIMモデルには、建物に使われる全ての部材の種類や数量、仕様といった詳細な情報が含まれています。この正確な「データ」に基づいて、建設のプロセス全体をより賢く、無駄なく進めていこうというのが「データ駆動型建設」の考え方です。例えば、

サプライチェーンの最適化BIMデータから必要な材料の量を正確に把握し、過不足なく、適切なタイミングで調達する計画を立てることができます。これにより、材料の無駄や現場での手待ちを減らせます。
工場生産(プレファブリケーション)の推進BIMモデルから直接、工場で部材を製作するための加工情報を抽出し、現場での作業を減らす「プレファブリケーション(プレハブ化)」を積極的に進めることができます。これにより、品質の安定化、工期の短縮、現場での廃棄物削減といった効果が期待できます。
ジャストインタイム(JIT)納品BIMと連携した工程計画に基づいて、必要な資材を、必要な時に、必要な量だけ現場に搬入する「ジャストインタイム(JIT)」納品を実現しやすくなります。これにより、現場の資材置き場を小さくでき、作業スペースを広く確保できます。
地球に優しい建物づくり(サステナビリティ)

BIMは、環境に配慮した「サステナブル」な建物づくりにも大きく貢献します。BIMモデルを使って、設計段階から以下のような検討が可能です。

環境負荷の評価(LCA)建物の建設から運用、そして解体に至るまでのライフサイクル全体で、どれくらいのCO2が排出されるか、どれくらいのエネルギーや資源を消費するかをシミュレーションし、評価できます(これをライフサイクルアセスメント、LCAと言います)。
省エネ設計建物の断熱性能や日射のコントロール、自然エネルギーの利用などをBIMで詳細にシミュレーションし、エネルギー消費を最小限に抑える設計を追求できます。
環境配慮型建材の選択リサイクル材の使用率が高い建材や、製造時の環境負荷が低い建材などを、BIMと連携したデータベースから容易に選択し、評価することができます。

(ちょっとだけ専門的な話)世界のBIMルールも進化中。「国際標準化」の波

社長、BIMの活用は日本だけでなく、世界中で急速に進んでいます。そして、国や地域によってBIMの使い方がバラバラだと、国際的なプロジェクトで混乱が生じてしまいますよね。そこで、BIMを使った情報の管理方法について、世界共通のルールを定めようという動きが活発化しています。

その代表的なものが「ISO 19650(アイエスオー イチキュウロクゴーゼロ)」という国際規格です。これは、BIMを活用した情報マネジメントに関する国際的な標準で、日本でもJIS規格(日本産業規格)として採用されています。このような国際標準に対応していくことは、将来的に海外の企業と協力したり、グローバルな市場で競争したりする上で、ますます重要になってくると考えられます。

(中小企業の社長にとっては、すぐに直接関係する話ではないかもしれませんが、建設業界全体の大きな流れとして知っておくと良いでしょう。)

夢物語じゃない。未来はもう始まっている

ここまでお話ししてきたBIMと最新テクノロジーの融合は、まるでSF映画のような話に聞こえたかもしれません。しかし、これらの技術の多くは、既に研究開発が進み、一部の先進的な企業では実用化も始まっているのです。

もちろん、全ての技術がすぐに中小企業の現場で使えるようになるわけではありません。しかし、時代の変化のスピードはますます速くなっています。数年前には考えられなかったようなことが、あっという間に当たり前になる、そんな時代なのです。

この章でお伝えしたかった、BIMが拓く建設業の未来

BIMは指揮者3Dスキャナー、GIS、AI、IoTといった最新技術と連携し、建設プロセス全体を高度化します。
より賢くデジタルツインで未来を予測し、データに基づいて最適な判断ができるようになります。
より効率的にサプライチェーンが最適化され、無駄のない生産が可能になります。
より地球に優しくサステナブルな設計・建設が推進されます。
世界とつながる国際標準化の動きも活発化しています。

BIMが切り拓く未来は、まさに可能性に満ち溢れています。それは、単に仕事が楽になるというだけでなく、建設という仕事そのものの価値を高め、社会に貢献し、そしてそこで働く私たち自身の働きがいをも向上させてくれる、そんな未来なのではないでしょうか。

「いやぁ、BIMの未来はすごいことになりそうだな。でも、結局のところ、うちみたいな中小企業は、この大きな変化の波にどう乗っていけばいいんだろうか。BIMとどう向き合っていけばいいのか、改めて整理したいな。」

社長のそんなお声が聞こえてくるようです。このブログもいよいよ次が最終章です。これまでの話を総括し、中小建設業の社長がBIMとどう向き合い、未来を切り拓いていくべきか、その心構えと具体的な一歩について、お話ししたいと思います。

【まとめ】BIMは社長の会社の未来を拓く羅針盤。 小さな一歩から始める、新しい建設業への航海

長い道のりでしたが、このBIM解説ブログもいよいよ最終章を迎えました。前の章では、BIMがAIやIoTといった最新技術と融合し、まるでSF映画のような建設業界の未来を創り出す可能性についてお話ししました。「オーケストラの指揮者」のように、BIMが中心となって様々な技術を調和させるイメージ、ワクワクしていただけましたでしょうか。

ここまで読み進めてくださった社長はきっと、「BIMのことはだいぶ分かった。その可能性も感じている。でも、結局のところ、うちみたいな中小企業は、この大きな変化の波にどう乗っていけばいいんだろう。明日から何をすればいいんだろう。」そんな風に、期待と同時に、具体的な次の一歩についてお考えのことと思います。

この最終章では、これまでのBIMに関するお話を総括し、中小建設業の社長がBIMとどう向き合い、会社の未来を、そして建設業界の未来を切り拓いていくべきか、その心構えと具体的なはじめの一歩について、心を込めてお伝えしたいと思います。

これまで見てきた「BIM大陸」の魅力と航路をもう一度おさらいしましょう

BIMという、まだ見ぬ「新しい大陸」を目指す航海に出る前に、私たちがこれまでの章で発見してきた、その大陸の魅力や航海のヒントを、簡単におさらいしておきましょう。

第1章の発見:BIMは「情報」を握る魔法のレシピブックだった。

BIMとは、単なる3Dモデルではなく、建物のあらゆる「情報」を詰め込んだ、まるで「スーパーデジタルレシピ」のようなもの。その核心は「情報」にあることを学びました。

第2章の発見:ただの立体じゃない。BIMと3D CADは「未来のレゴ」と「粘土細工」ほど違った。

BIMが、形状だけでなく「意味」と「情報」を持つ部品(オブジェクト)を扱う点で、従来の3D CADとは根本的に異なる思想を持つ、「情報チップ入り未来のレゴブロック」のような存在であることを理解しました。

第3章の発見:BIMは会社の「元気の素」。まるで高性能カーナビで仕事がスイスイ。

品質向上、生産性アップ、コスト削減、顧客満足度向上、そして社員の働きがい向上まで、BIMがもたらす具体的なメリットが、「高性能カーナビ付きドライブシミュレーター」のように、会社の進む道を明るく照らすことを見ました。

第4章の発見:「導入の壁」は確かにある。でも、最新釣り道具を使いこなす喜びも。

人材育成、コスト、変化への抵抗といったBIM導入の「カベ」と、それを乗り越えるための具体的な「作戦」を知りました。「憧れの最新釣り道具」を使いこなすための努力と、その先にある大きな成果をイメージしましたね。

第5章の発見:未来のBIMはオーケストラの指揮者。SFみたいな建設現場がすぐそこに。

BIMが3Dスキャナー、GIS、AI、IoT、デジタルツインといった最新技術と融合し、建設業界に革命的な変化をもたらす未来予想図を、「オーケストラの指揮者」に例えて探検しました。

これらの発見を通じて、BIMが単なる流行り言葉ではなく、建設業のあり方を根底から変える可能性を秘めた、非常に重要なキーワードであることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。

「うちみたいな小さな会社には、BIMなんて関係ない…」本当にそうですか。

「これまでの話はよく分かった。でも、それは体力のある大きな会社の話だろう。うちみたいな地元の小さな建設会社には、BIMなんてまだまだ縁のない、遠い世界の技術だよ。」

社長、もしかしたら今、そんな風にお感じになっているかもしれません。確かに、大企業のように潤沢な資金や人員をBIM導入にすぐに投入するのは難しいでしょう。しかし、だからといって「関係ない」と目を背けてしまって本当に良いのでしょうか。

思い出してみてください。かつて、パソコンやインターネットが普及し始めた頃、「うちは職人の会社だから、そんなものは要らない」と言っていた会社がどうなったか。携帯電話やスマートフォンが登場した時、「現場にそんなものは持ち込ませない」と言っていた親方が、今では当たり前のようにスマホで連絡を取り合っているのではないでしょうか。

時代の変化は、最初はゆっくりと、しかし確実にやってきます。そして、その変化に対応できた者だけが、次の時代でも生き残り、成長していくことができるのです。BIMもまた、建設業界における大きな「変化の波」であることは間違いありません。この波を「他人事」と捉えるか、「自分事」として捉え、どう乗りこなしていくかを考えるか。そこに、会社の未来を左右する大きな分かれ道があるのかもしれません。

中小建設会社の社長がBIMと賢く付き合うための「3つの心構え」

では、私たち中小建設会社の経営者は、このBIMという大きな波と、どのように向き合っていけば良いのでしょうか。ここでは、社長にぜひ持っていただきたい「3つの心構え」をお伝えします。

心構え1:「他人事」から「自分事」へ。BIMを会社の未来戦略に。

まずは、BIMを「どこか遠くの大きな会社がやっている、うちには関係ない技術」と考えるのをやめてみませんか。BIMがもたらす品質向上や生産性アップ、コスト削減といったメリットは、会社の規模に関わらず、全ての建設会社にとって魅力的なはずです。そして何より、国土交通省がBIM/CIMの活用を強力に推進している現状を考えれば、将来的に公共工事への参加を目指すのであれば、BIMへの対応は避けて通れない道になる可能性が高いのです。「BIMをどう自社の強みに繋げられるか」「BIMを使ってどんな新しい価値を提供できるか」といった視点で、BIMを自社の経営戦略、未来戦略の一部として捉えてみましょう。

心構え2:「完璧」じゃなくていい。「できることから一歩ずつ」が成功の秘訣。

BIM導入と聞くと、すぐに高価なソフトを何台も導入し、全社員に研修を受けさせ、全てのプロジェクトでBIMを使わなければならない、といった壮大なイメージを抱いてしまうかもしれません。しかし、最初からそんな完璧を目指す必要はありません。むしろ、中小企業にとっては、身の丈に合った「スモールスタート」こそが成功の秘訣です。例えば、まずは社長自身や意欲のある社員さんが、無料体験版のBIMソフトに触れてみる。あるいは、比較的小さなプロジェクトの一部で、試験的にBIMを活用してみる。そうした小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな力となるのです。「千里の道も一歩から」です。

心構え3:「一人で悩まない」。「仲間」や「専門家」の力を借りよう。

BIM導入は、決して一人で抱え込む必要はありません。社内にBIMに詳しい人がいなくても、大丈夫です。今は、BIMに関する情報をインターネットで簡単に入手できますし、様々なセミナーや勉強会も開催されています。また、同業の仲間でBIMに積極的に取り組んでいる人がいれば、話を聞いてみるのも良いでしょう。そして、BIM導入を支援してくれるコンサルタントや、補助金申請に詳しい行政書士のような専門家の力を借りることも、賢い選択です。周りを見渡せば、社長のBIM導入という「冒険」を応援してくれる「仲間」や「サポーター」はきっと見つかります。

さあ、社長。BIMという新しい大陸への「最初の一歩」を踏み出しましょう

「心構えは分かった。では、具体的に明日から何をすればいいんだい。」
そうですよね、次はいよいよ行動です。社長がBIMという新しい大陸への航海に出るための、「最初の一歩」となる具体的なアクションプランをいくつかご提案します。

まずは情報収集という名の「航海図」を手に入れる

BIMに関する情報を集めてみましょう。インターネットで検索すれば、専門のウェブサイトやブログがたくさん見つかります。BIM関連の書籍を読んでみるのも良いでしょう。また、BIMソフトのメーカーや業界団体が開催する無料のセミナーやウェビナーに参加してみるのも、最新情報を得る良い機会です。まずは「知る」ことから始めましょう。

社内で「作戦会議」を開いてみよう

社長一人で考えるだけでなく、社員さんと一緒にBIMについて話し合ってみる時間を作ってみてはいかがでしょうか。特に若い社員さんは、新しい技術に興味を持っているかもしれません。「BIMって知ってるか?」「うちの会社でも使えそうかな?」そんな問いかけから、社内でのBIMへの関心を高め、一緒に学ぶ仲間を作るきっかけになるかもしれません。

「お試し航海」に出てみる

多くのBIMソフトには、無料の体験版や、機能限定版の安価なライセンスが用意されています。まずはそういったものを実際にダウンロードして、触ってみるのが一番です。最初は難しく感じるかもしれませんが、実際にモデルを作ってみることで、「ああ、BIMってこういうものなのか」という手触り感が掴めます。あるいは、もし設計業務を外注しているのであれば、BIMで設計できる設計事務所に一度依頼してみる、というのも一つの「お試し」かもしれません。

「羅針盤」や「水先案内人」を見つける

BIM導入の道のりで迷った時、的確なアドバイスをくれる「羅針盤」や、正しい方向へ導いてくれる「水先案内人」の存在は心強いものです。それは、BIMに詳しい同業の先輩経営者かもしれませんし、BIM導入コンサルタントかもしれません。そして、私たち行政書士も、BIM導入に伴う補助金申請のお手伝いや、BIM活用を前提とした新しい契約ルールの情報提供など、社長の「航海」をサポートできる専門家の一人です。

最後に:BIMは建設業の未来を照らす灯台。希望を持って、新しい時代へ。

社長、BIMは、これからの建設業界の進むべき道を明るく照らし出す「灯台」のような存在です。その光は、時に私たちに新しい技術への挑戦を促し、時に働き方そのものを見直すきっかけを与えてくれます。

変化の波は、誰にでも平等に訪れます。その波を恐れるのではなく、むしろサーフィンのように華麗に乗りこなし、新しい景色を見るチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。

BIMという羅針盤を手に、社長と社員の皆様が、希望に満ちた新しい建設業の海へ、勇気を持って漕ぎ出していくことを、心から応援しています。

NOTE

業務ノート

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