改正建設業法「標準労務費」と労務費ダンピング調査 ── 熊本の建設業者の実務対策
01条文は、三つの場面に分かれている
「著しく低い労務費等の禁止」という言い方が広まっていますが、これはひとつの条文ではありません。場面ごとに条文が分かれています。そして条文はいずれも「労務費」ではなく「材料費等」または「原価」という言葉を使っていて、労務費はその中身のひとつです。
「著しく低い労務費等の禁止」はひとつの条文ではありません。見積を作る場面(第20条第2項)、注文者が引き下げを求める場面(第20条第6項)、契約を結ぶ場面(第19条の3)で条文が分かれています。条文はいずれも「労務費」ではなく「材料費等」または「原価」という言葉を使っており、労務費はその中身のひとつです。
実務でいちばん効くのは法第20条第2項です。材料費等記載見積書に書く材料費等の額は、その工事を施工するために通常必要と認められる額を著しく下回ってはならない、と定めています。安く見積もって出すこと自体が規制の対象になったのが、従来の下請保護と違うところです。
注文者の側は第20条第6項。通常必要と認められる額を著しく下回るような変更を求めてはならない。これに違反した発注者には第7項で勧告、第8項で公表という流れが用意されています。勧告の対象は、施工に通常必要と認められる費用の額が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の契約です(施行令第6条の2)。
契約そのものについては第19条の3。第1項が注文者、第2項が受注者で、いずれも「通常必要と認められる原価に満たない額」での契約を禁じています。第2項は、自社が持っている低廉な資材を使えるといった正当な理由がある場合を除く、という作りです。
条番号を取り違えている解説が多い箇所です。「著しく低い労務費等の禁止=第20条第7項」としている資料を見かけますが、第7項は勧告の規定です。行政に説明するときは、条・項まで合わせて書いてください。
02「労務費に関する基準」── いつ、何が更新されたか
基準は令和7年12月2日の中央建設業審議会で作成・勧告されました。労務単価(円/人日・8時間)に歩掛を掛けて、職種ごとの基準値を出すという作りで、公共・民間を問わず、下請の次数や会社の規模も問わず、すべての取引段階が対象です。
そのうえで、基準値そのものは何度か更新されています。ここを追えていないと、古い数字で見積を組むことになります。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 令和7年12月2日 | 中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成・勧告 |
| 令和7年12月10日 | 労務費に関する基準ポータルサイトの提供開始 |
| 令和7年12月12日 | 改正建設業法の全面施行 |
| 令和8年3月31日 | 基準値の追加・更新(11分野34工種を追加)。令和8年3月適用の労務単価に対応。あわせて「CCUSレベル別年収」を改定 |
| 令和8年6月17日 | 基準値を令和8年度版へ更新(労務歩掛の出典を各基準書等とするもの) |
| 令和8年6月29日 | 「労務費に関する基準」の運用方針を改正 |
いま参照すべきは令和8年6月17日更新の基準値と、令和8年6月29日改正の運用方針です。「2026年3月の改定が最新」と書いてある資料は、二段階古い状態です。
03熊本の労務単価は、いくらか
基準値の土台になるのが公共工事設計労務単価です。令和8年3月から適用される単価は、令和8年2月17日に公表されました。
全国全職種の加重平均は25,834円で、14年連続の引き上げ、初めて25,000円を超えました。熊本県内では鉄筋工・型わく工・とび工・大工が全国平均を上回っています。国の適用は令和8年3月1日からですが、熊本県の工事は令和8年3月6日からで、旧単価で契約した工事を新単価に変更する特例も設けられています。
| 区分 | 令和8年3月適用 | 前年比 |
|---|---|---|
| 公共工事設計労務単価(全国全職種加重平均) | 25,834円 | +4.5% |
| 電気通信関係技術者等単価 | 34,040円 | +4.5% |
| 設計業務委託等技術者単価 | 51,715円 | +4.3% |
14年連続の引き上げで、加重平均が初めて25,000円を超えました。適用は国の工事が令和8年3月1日、熊本県の工事は令和8年3月6日からです。熊本県は、旧単価で契約した工事を新単価に変更する特例措置も設けています。手持ち工事があれば、対象になるか確かめてください。
前年比の+4.5%は単純平均値で算出された伸率です。職種によって上がり幅は違うので、自社が使う職種の単価を個別に見てください。
04CCUSレベル別年収 ── 数字はあるが、義務ではない
令和8年3月31日、CCUSの能力評価レベルごとの想定年収も改定されました(資料名は「CCUSレベル別年収の概要(令和8年4月改定)」、令和8年7月1日に訂正あり)。最新の労務単価が賃金として支払われた場合に想定される年収を示したものです。
| CCUSレベル | 標準値 | 目標値 |
|---|---|---|
| レベル1(初級技能者) | 395万円 | 535万円以上 |
| レベル2(中堅技能者) | 444万円 | 599万円以上 |
| レベル3(職長) | 472万円 | 664万円以上 |
| レベル4(高度なマネジメント) | 572万円 | 754万円以上 |
算定の土台は令和7年10月の公共事業労務費調査と、令和8年3月適用の労務単価です。この年収は法的な拘束力を持つものではなく、支払いを義務づけるものでもないと資料に明記されています。
ただし、使いどころはあります。技能者の採用・定着の場面で「レベル3なら業界の標準はこのくらい」と示せる数字であり、元請との価格交渉で労務費の根拠を説明するときの補強材料にもなります。経審のW評価項目で技能者のレベルアップが点になることとも、地続きの話です。
05労務費ダンピング調査 ── 0.97という線
令和7年12月、国土交通省が「労務費ダンピングを防止するための公共発注者向けガイドライン」を公表しました。公共工事の入札の段階で、労務費が適正に積まれているかを発注者が確かめる仕組みです。
0.97というのは、落札候補者の内訳書の直接工事費が、発注者の積算額の97%を下回っているかどうかの線です。下回っていること自体が違反ではなく、理由を説明できるかが問われます。説明できなければ建設Gメンに通報され、そこから先は建設業法の調査になります。
見られるのは落札候補者の工事費内訳書の直接工事費です。これが発注者の積算額の0.97を下回っていれば、理由を確認される。中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)のモデルに沿った基準です。対象になるのは、低入札価格調査制度や最低制限価格制度を適用している工事です。
0.97を下回ること自体が違反ではありません。問われるのは、どの費目をどう積んだのかを説明できるかどうかです。説明ができなければ建設Gメンに通報され、そこから先は建設業法の調査になります。
導入の状況ですが、「令和8年4月から全国の自治体で一斉に始まった」わけではありません。国土交通省の調査では、都道府県と政令市の67団体のうち導入済みが24団体、令和8年度内に導入予定が38団体で、合わせて約9割という段階です(令和8年7月時点)。国は期日を設けず、準備が整い次第の実施を要請しています。
つまり、いま発注元によって扱いが違います。自社が入っている発注者がすでに導入しているかどうかは、その発注者の入札公告と要領で確認してください。
06工事費内訳書 ── 国と熊本県で、始まった日が違う
ここが実務でいちばん取り違えやすいところです。工事費内訳書に労務費等を書く義務の根拠は建設業法ではなく入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)第12条で、始まった日は発注者ごとに違います。
| 発注者 | いつから | 書かなかったとき |
|---|---|---|
| 国の直轄工事 | 令和7年12月12日以降に入札手続を開始する工事から(改正入契法の全面施行日) | 未記入は原則として入札無効 |
| 熊本県 | 令和8年6月1日施行の「工事費内訳書確認事務処理要領」(令和8年5月20日改正)により、以降に契約の申込みの誘引を行う工事から | 労務費等の明示がないことのみを理由に入札を無効とはしない扱い |
書く項目は五つです。材料費・労務費・法定福利費・建設業退職金共済契約に係る掛金・安全衛生経費。安全衛生経費が入っていることに注意してください。従来は現場管理費に溶かし込んでいた費用を、独立した行として立てることになります。
熊本県は入札を無効にしない扱いですが、書かなくてよいという意味ではありません。書いていなければ、0.97の確認も、その後の説明もできません。県外の発注者や国の工事に出るときは、同じ内訳書で無効になります。様式は国の直轄に合わせておくのが安全です。
07建設Gメンは、実際に何をしているか
「建設Gメン」は国土交通省が使っている呼称で、各地方整備局に置かれた建設業法令遵守推進本部の活動を担う職員です。法律上の設置根拠がある組織ではありませんが、活動の結果は毎年公表されています。
| 令和7年度(令和7年4月〜令和8年3月)の活動結果 | |
|---|---|
| 調査等を実施した件数 | 1,318件・1,152事業者 |
| 指導・助言を行った事業者 | 768事業者 |
| 見積内訳の明示に関する不備 | 641件 |
| 契約書の記載に関する不備 | 516件 |
| 価格転嫁に関するもの | 193件 |
| 九州地方整備局管内 | 調査130件・指導78件 |
指導のいちばん多い理由が見積内訳の明示に関する不備だという点は、押さえておく価値があります。制度が始まって最初に見られるのは、難しい判断ではなく「書いてあるか」です。
令和8年度の活動方針では、労務費に関する基準の労務単価を目安に、通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引を重点的に確認するとしています。そして、公共発注者の労務費ダンピング調査から来る情報を、建設Gメンの調査の端緒として使うことが明記されました。入札の段階の確認と、建設業法の調査がつながった、ということです。
08来週から着手できること
- 自社の見積様式に五つの費目があるか確かめる。材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費。熊本県の工事だけを見て「無効にならないから」と後回しにすると、国や県外の工事で落ちます
- 労務費に関する基準の最新版を見る。令和8年6月17日更新の基準値と、6月29日改正の運用方針。3月の版で組んでいるなら差し替えです
- 自社が使う職種の熊本県単価を拾う。鉄筋工30,000円、型わく工29,200円、とび工29,000円。ここに歩掛を掛けたものが基準値になります
- 手持ち工事に、旧単価で契約したものがないか確かめる。熊本県の特例措置で新単価に変更できる場合があります
- 下請に出している注文書を見る。元請として基準を下回る発注をしていないか。建設Gメンの指導理由で最も多いのは見積内訳の明示に関する不備です
熊本県内の建設業者の方で、いまの見積様式がこの制度に耐えるかを見てほしい、というご相談は無料でお受けしています。決算期と経審の予定をうかがったうえで、どこから手をつけるかをお伝えします。
参考資料
- 国土交通省「労務費に関する基準」ポータルサイト
https://roumuhi.mlit.go.jp/ - 国土交通省「労務費に関する基準」
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html - 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00337.html - 国土交通省「労務費ダンピングを防止するための公共発注者向けガイドライン」(令和7年12月)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001972220.pdf - 国土交通省「建設業法令遵守推進本部の活動結果及び活動方針」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000189.html - 国土交通省「建設業法等改正法が完全施行されます」(令和7年11月14日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00317.html - 熊本県「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/89/261044.html - e-Gov 法令検索「建設業法」(第19条の3、第20条、第20条の2)
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を専門に扱っています。お客様の紹介で広がり、取引先は100社を超えました。
技術と設計の側から、評点の組み立てと施工体制について助言を受けています。
不動産・都市計画・開発許可・農地転用の実務ノートを100本以上載せています。土地から入る案件は、あわせてご覧ください。
RELATED ── 法改正・コンプラの記事
この記事に関するご相談は
制度の変化を経営にどう落とし込むか。行政書士村上事務所が、貴社の状況に合わせて整理します。創業20年・支援実績100社超。許可の要件を満たせるか、経審で狙った評点・等級に届くかを、着手前に診断してお伝えします。初回相談は無料です。
建設業許可 実務講座 第24講 / 全25講 ── 第五部 建設業法を守るということ
前の講:第23講 見積と契約 ── 見積期間と、内訳の明示
次の講:第25講 下請代金の支払 ── 60日と、一括下請の禁止
→ 講座の目次(全25講)を見る
