㍿三成開発 村上事務所

【最新動向】建設業のM&Aが急増する背景と成功の鍵〜技術・人材承継と許可維持の戦略〜

建設業界におけるM&A増加の背景と構造

日本の建設業界において、近年、M&A(合併・買収)が急速に増加しています。かつては身内での承継が主流でしたが、今や事業承継や企業成長のための最も重要な戦略的選択肢となりつつあります。この活発化の背景には、業界固有の深刻な構造的な問題と、時代の変化が関係しています。

後継者不在の問題と承継の多様化

建設業界でM&Aが増えている最大の理由は、多くの中小企業で後継者が見つからないという深刻な問題があるためです。

高水準で推移する後継者不在率

建設業の経営者は高齢化が進んでいますが、後継者不在率には地域や企業の規模により差があります。直近の全国調査では、建設業の後継者不在率は59.3%(2024年)で、過去には71.4%といった高水準の時期もありました。約6割の企業で承継の目処が立っていないとみられます。

後継者難倒産が続く現状

利益が出ているにもかかわらず、後継者不足から事業の継続を断念せざるを得ない後継者難倒産は、高水準で推移しています。2024年度の集計では、後継者難倒産全体のうち、建設業が約25%を占め最多となっています。これは、地域社会の雇用と培われた貴重な技術の損失を意味します。

「人」と「技術」の戦略的な獲得

M&Aは、単に会社を買うだけでなく、「人」と「技術」という最も重要な経営資源を一度に獲得するための戦略的な手段として利用されています。

有資格者・熟練人材の確保

建設業界は依然として人手不足が課題であり、専門職の有効求人倍率は高水準で推移しています。M&Aによって、熟練した技能者や有資格者を一括で獲得することは、ゼロからの採用・育成にかかる時間とコストを大幅に節約し、事業の継続性と競争力を高める有力な方法です。ただし、労務体制や施工品質を含むデューデリジェンス(DD)が前提となります。

特定のノウハウと取引先の承継

地域で築き上げた強固な取引先ネットワークや、特定の専門技術(特殊土木、設備工事など)もM&Aを通じて引き継がれます。これは、技術力と営業基盤の両面から企業価値を強化します。

コスト環境の変化と規模のメリット

企業の事業拡大とコスト環境の変化もM&Aを後押ししています。

コスト高止まりへの対応

資材価格や労務費、物流費の上昇が続き、建設工事費デフレーターも上振れする局面が確認されています。価格転嫁が進みにくい局面もありますが、改正建設業法により価格転嫁や工期変更の円滑化に向けた制度対応も進んでいます。M&Aにより事業規模を拡大し、資材調達や経営の効率化を図ることで、コスト高止まりの環境下での競争力強化を狙う企業が増えています。

エリア・業種の多角化

地域性が強い建設業界において、M&Aは新規エリアへの進出の最短ルートです。また、土木工事に強い会社が建築や設備工事の会社を傘下に収めるなど、業種の多角化により、ワンストップでの施工体制を構築し、サービス範囲の拡大と利益率の改善というシナジー効果を生み出します。

まとめ

建設業界におけるM&Aの増加は、後継者不在という「守りの目的」と、人材・技術・コスト対策という「攻めの目的」の両面から、戦略的な経営手段として重要性が増しています。これは、日本の建設技術と雇用を守り、発展させるための重要な選択肢なのです。

M&Aの主要な手法と成功のためのポイント

建設業界におけるM&Aは、長年培ってきた技術や現場の「人」を未来へ繋ぐための大切なプロセスです。成功のためには、通常の企業買収とは異なる、建設業特有のリスクと、実務上の注意点を理解することが不可欠です。

M&Aにおける主要な当事者の視点と注意点

M&Aでは、会社を買う側(譲受側)と売る側(譲渡側)で、それぞれ異なる重要な目的と成功のためのポイントが存在します。

視点(当事者)目的・手法現場への影響・成功のためのポイント
買収側(譲受側)成長戦略としてのM&A(人材・技術・エリアの獲得)デューデリジェンス(DD)の徹底 財務情報に加え、未払残業代などの簿外債務・偶発債務、施工品質、安全体制、許認可の状況、下請構造といった非財務・人的資本を含む多面的な検証(DD)が必要です。また、価格転嫁や工期変更の運用状況の確認も重要です。
売却側(譲渡側)MIRAI承継(後継者へのバトンタッチ)雇用・ブランドの継続条件整理 従業員の雇用維持や、地域で認知されている商号(ブランド)の扱いに関する条件を早期に整理し、譲受側と合意することが不可欠です。一般に、業績が好調な黒字のうちに選択肢を広げる方が有利とされます。

M&A後の円滑な統合(PMI)と公的支援の活用

M&A後の組織統合(PMI:Post Merger Integration)を円滑に進めることと、中立的な外部機関を活用することが、建設業のM&A成功の鍵となります。

現場影響の最小化とPMI

M&Aが成立した後、現場の混乱を防ぎ、技術者や技能者が離職しないようにすることが重要です。中小企業庁が提供するPMIガイドラインに示されているように、分析ワークシートや統合方針書を参照し、現場への影響を最小限に抑えるための統合プロセスを慎重に進めます。

公的支援の中立的窓口の活用

中小企業庁が運営する事業承継・引継ぎ支援センターなどは、相談からマッチング、そしてPMI段階の実務支援に至るまで、中立的な窓口として活用可能です。専門家に相談することで、M&A、親族内承継、従業員承継など、自社にとって最適な承継方法を見つけることができます。

まとめ

建設業のM&Aは、譲受側にとって徹底したリスク評価、譲渡側にとって「人」と「ブランド」の継続性を確保することが絶対条件です。特に労務・安全・品質といった建設業特有の非財務リスクを検証することが、M&A後の事業の安定的な成長に繋がります。

アナリストの視点:現場への示唆

建設業界におけるM&Aの活発化は、業界構造が根本的に変化していることを示す重要な動きです。これは単なる企業の存続問題ではなく、これからの企業経営や、現場の働き方に影響を与える重要なシグナルです。アナリストが注目する業界再編と、現場への示唆について解説します。

「ヒトの価値」の再評価と競争力の源泉

M&Aにおける企業評価において、従来の土地や機械設備といった固定資産の価値以上に、「ヒトの価値」が重要な評価項目となっています。

人材への投資が競争力を左右する

若手の技術者、特定の専門技術を持つ有資格者の人数、そして技術の経験年数といった人的資本が、買収価格を決定する際の重要な要素です。これは、今後の建設業界において、人材育成への取り組みが、企業の競争力を左右し、M&A市場での評価を決定づけることを示唆しています。

規模のメリットの追求と業界構造の再編

大手ゼネコンや有力企業によるM&Aや提携は、経営資源の集中と、サプライチェーン(供給網)の効率化を加速させています。

中小企業に迫られる戦略的な選択

大手による垂直統合(設計から施工、設備までを一貫して行う体制)の動きが進む中、中小企業は次の二つのうち、どちらかの戦略を採る必要性が高まっています。

倒産リスク回避としての戦略的な承継

資材・労務・物流費の上昇が続き、建設工事費デフレーターも上振れ局面が確認されるなど、コスト高止まりの環境は続きます。このような状況下で、M&Aは倒産リスクを回避するための戦略的な手段となりつつあります。

黒字のうちに選択肢を広げる重要性

経営者にとって、従業員や取引先、地域社会の雇用を守ることは最大の責務です。業績が悪化し、倒産リスクが高まってからではM&Aの選択肢は大きく狭まります。体力がある「黒字のうち」にM&Aによる事業承継を検討することが、企業存続のための重要な経営判断となりつつあります。

まとめ

M&Aの活発化は、建設業界が「ヒトの価値」と「戦略的な経営」を重視する時代に移行していることを示しています。中小企業経営者は、自社の強みである技術力と人材を適切に評価し、時代の流れに乗った戦略的な事業承継を検討することが、今後の成長の鍵となります。

NOTE

業務ノート

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