㍿三成開発 村上事務所

「緑地」は単なる美観ではない。国交省「TSUNAG認定」が示す建設業の新たな企業価値とは?

「緑地計画」と聞いて、なにを思い浮かべますか?

建物まわりをきれいに見せる外構。
条例で決められているから最低限つくる植栽。

おそらく、多くの現場ではそのイメージだと思います。

しかし今、その考え方ははっきりと変わろうとしています。

国土交通省は、改正都市緑地法(2024年11月施行予定)に基づき、「優良緑地確保計画認定制度」、通称「TSUNAG(ツナグ)認定」という仕組みを立ち上げました。

これは、企業などが中長期的に確保・維持していく良質な緑地を、気候変動対策・生物多様性・人の快適性(ウェルビーイング)といった観点から評価し、国土交通大臣が認定する制度だとされています。

ここで重要なのは、これは「ただの緑化推進」ではないという点です。

国は、都市の緑を「環境への貢献」として見える化し、企業の価値の一部として扱いはじめています。

これは“まちづくりGX(グリーントランスフォーメーション)”という政策的な流れの中に位置づけられており、建設業の仕事が「どれだけつくったか」だけでなく「どんなまちを残すのか」まで問われる時代に入っていることを示すシグナルとも受け取れます。

つまり今後は、「うちは環境にも配慮してます」というスローガンではなく、「うちはTSUNAG認定相当の質の高い緑地管理をやっています」という“証拠”を示せる企業が強くなる可能性があります。

企業価値の軸が変わる:「社会への貢献」が評価材料になる

建設会社が自社の強みを説明するとき、これまでは売上高、技術職員数、保有機械、安全管理体制など、数字で示しやすい要素(いわゆる経営事項審査などの評価軸)が中心でした。

一方でTSUNAG認定は、緑地の「量」だけではなく、その緑地が地域にどんな機能をもたらすのか、という「質」の部分まで見る制度です。

評価項目には、熱環境の改善や雨水の保水などの気候変動対策、生物多様性の確保、近隣住民の安心・快適性(ウェルビーイング)にどれだけ貢献しているかなどが含まれると説明されています。

国がこうした価値を公式に認定するということは、環境や地域への貢献が“企業の実績”として扱われる方向に変わっていく可能性がある、ということです。

これは、公共工事や都市開発の場面で「この事業者は地域に持続的な価値を残せるのか?」という視点がより重視される、という流れとつながっています。

現時点で、TSUNAG認定の取得そのものが必ず入札の加点になる、といった明文化された扱いまでは示されていません。

ただし、国交省が「優良な緑地確保計画」を国土交通大臣の名で認定する制度を用意しているという事実そのものが、環境配慮を「企業の信頼性」や「将来性」として見る視点を後押ししている、と読むことはできます。

簡単に言えば、「環境はいいことだからやる」から「環境への貢献を、会社の価値として説明できるようにする」へ。

評価軸の重心が少しずつ動き始めています。

「木を植えました」では足りない:TSUNAG認定が求める中身

TSUNAG認定で見られるのは、単なる植栽の有無ではありません。

制度の説明や認定事例の公表内容からは、次のような視点が重視されていることがわかります。

  • 地域在来種など、その土地本来の生態系に配慮した植栽計画(生物多様性の確保)
  • ヒートアイランドの緩和や雨水の一時貯留など、気候変動対策として機能する緑地の配置
  • 周辺の公園・公開空地・既存の緑とつながる「緑のネットワーク」の形成
  • 利用者や地域住民の滞在性・安全性・快適性(ウェルビーイング)を高める空間デザイン
  • 完成後の維持管理まで含めた中長期のマネジメント計画(TSUNAG認定では5年間の計画期間が設定され、毎年の報告が求められるとされています)

ここで重要なのは、「つくって引き渡したら終わり」ではなく、「つくった緑を、どう維持し続け、地域の価値として残していくのか」まで問われている点です。

つまり、これは外構や造園といった“付帯工事”の話ではなく、都市の環境性能と地域の暮らしの質を一体的に設計・運用していくプロジェクトマネジメントの話になってきています。

実際の認定事例から見えること

国交省は、2025年10月24日時点で、TSUNAG認定として新たに6件を追加し、累計19件を認定済みと公表しています。

こうした認定は、都市再開発や大規模複合開発、企業の技術拠点など、多様なタイプの敷地・エリアで進んでいます。

TSUNAG認定は「★」「★★」「★★★」の3段階で評価され、最高ランクの「★★★」を示す事例も出ています。

たとえば東京都港区の「BLUE FRONT SHIBAURA」では、大規模な緑量の確保、駅前動線と一体になった歩きやすい空間づくり、そして人が滞在しやすい快適なオープンスペースの提供などが評価され、従来評価から“格上げ”されたと紹介されています。

また、横浜市戸塚区の「大成建設 技術センター」もTSUNAG認定の対象として挙げられています。

敷地の中で長年維持されてきた広い緑地と、生態系への配慮、地域との共生が評価されたと公表されており、研究・技術拠点のような施設でも「持続的な緑地管理」そのものが価値として見られ始めていることが示唆されます。

さらに、東京都港区の赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業のように、再開発プロジェクト自体が「周辺地域と一体となった緑の質」を評価されている例も報告されています。

これは、再開発=老朽ビルの建替えではなく、再開発=エリア全体の環境価値と人の居場所を底上げすること、という見られ方にシフトしてきていることを示すものと言えます。

中小・協力会社へのメッセージ:「環境」は外注項目ではなく、自分たちの武器になる

「いや、それは大手の再開発の話でしょ?」と思うかもしれません。

実際、現時点の認定は大規模案件が多いのは事実です。

ただし、中小・専門工事会社にとっても、これは“他人ごと”では終わりません。

1. 元請の要求水準は必ず協力会社にも降りてくる
TSUNAG認定レベルの環境配慮が前提になると、造園・外構だけではなく、土工・舗装・排水計画・維持管理マニュアルづくりなど、工事と周辺環境をセットで考えることが求められる場面が増える可能性があります。

2. 「環境対応できる会社」という肩書きは営業ツールになる
TSUNAG認定の枠組みでは、優良な緑地確保計画が公式に可視化され、必要に応じて資金面の支援(都市開発資金の無利子貸付や、関係する支援制度との連携など)が想定されています。

緑地が単なるコストではなく、プロジェクトの評価や支援策につながる“入口”にもなり得るという扱いだと考えられます。

元請側は「環境面も含めて任せられる協力会社」を優先的に選びやすくなります。

造園・維持管理・住民説明・植栽計画の資料化などをまとめて提案できる会社は、価格だけの競争から抜け出しやすくなる可能性があります。

これは将来的な差別化ポイントとして、中小でも十分に武器になり得ます。

では、いま何を始めればいいのか

  • 地域在来種や生態系に配慮した植栽・外構計画の知識を社内で共有する
  • 引渡し後の維持管理まで含めた提案をセットにする
  • 自社の施工事例を「環境配慮」という切り口で整理しておく

これらは大きな設備投資ではなく、「学習」と「整理」に近い取り組みです。

その積み重ねが、次の案件で“呼ばれる側”にまわるチャンスをつくる可能性は十分にあります。

まとめ

TSUNAG認定は、建設業が「モノを建てる産業」から「都市と自然の関係そのものを設計・維持する産業」へと役割を広げていく流れを、はっきりと可視化する制度です。

国交省は、良質な緑地の確保・管理を、気候変動対策、生物多様性の保全、そして人が安心して過ごせる都市空間の実現といった、都市政策の本筋のテーマとして扱い始めています。

うちは、緑地を「外注される付帯工事」として扱い続ける会社なのか?
それとも、緑地そのものを会社の専門性・ブランド価値として育てていく会社なのか?

これは、会社の将来の立ち位置そのものに関わる話です。

完璧な体制をいきなり整える必要はありません。

ただ、「環境配慮型の施工」「長期維持管理まで含めた外構・緑地提案」を自社の言葉で説明できるようにすること。

そこから先が、これからの建設業にとっての分かれ道になっていく可能性があります。

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