㍿三成開発 村上事務所

「賃上げ」だけでは解決しない建設業の本質的な課題:アナリスト行政書士が読み解く「20,724円」の裏側

建設業界で働く皆さん、そしてそのご家族の皆さんにとって、今回のニュースは大きな希望となったのではないでしょうか。厚生労働省の最新調査によると、令和7(2025)年中に賃金改定を実施または予定していて額も決定している企業のうち、建設業の1人あたり平均賃金改定額は20,724円に達しました。これは全産業平均(13,601円)を約7,100円上回る水準です。

この結果は、建設業界が慢性的な人手不足と「2024年問題(時間外労働の上限規制)」という大きな壁を前に、ついに「人材への投資」を本格的に始めたことを示しています。

しかし、この「20,724円」という数字の裏には、単なる“喜ばしいニュース”だけではなく、より構造的で根深い課題が潜んでいます。賃金上昇は確かに現場のモチベーションを高めますが、そのコストをどう吸収し、持続可能な経営へとつなげるかという、経営者への厳しい問いを突きつけているのです。

賃上げは「人材確保」への切実な投資

賃金改定額が全産業平均を大きく上回ったという事実は、建設業界が直面している「人材確保競争」の激化を象徴しています。とくに2024年4月以降、時間外労働の上限規制(いわゆる「残業規制」)が建設業にも適用され、給与を引き上げなければ人材が他業種に流出してしまうという現実があります。

したがって今回の賃金改定は、単なる給与アップではなく、「この業界で働き続ける価値」を高めるための、戦略的かつ切実な「未来への投資」だといえるのです。

構造的課題:高コスト体質をどう変えるか?

現場で働く方々にとっては朗報でも、経営者にとって賃上げは相当なコスト増となります。重要なのは、「適正な価格転嫁」「生産性の向上」という2つの車輪を同時に回すことです。

賃上げ分を発注者に適正に転嫁できなければ、企業の利益は圧迫され、賃上げを持続することはできません。特に下請・協力会社においては、元請との関係性の中で粘り強く交渉し、対等な立場で取引できる環境づくりが欠かせません。

ただし、賃上げのたびに単価を引き上げるだけでは限界があります。これからの時代に求められるのは、賃上げを支えるだけの生産性革命です。

  • デジタル技術(DX)の導入: BIM/CIM、ドローン測量、施工管理アプリなどの活用により、現場の非効率を徹底的に排除することが重要です。これが賃上げを「持続可能」に変える唯一の道です。
  • 環境・社会(ESG)への取り組み: 若い世代は賃金だけでなく、企業の社会的意義や環境意識にも注目しています。ESGの視点を経営に取り入れることは、ブランディングや人材確保の両面で効果を発揮します。

いわば賃金上昇は、「古いやり方」を続ける企業が淘汰されていく圧力でもあるのです。

行政書士からの提言:未来に向けた二つの視点

この変革期を乗り越えるために、行政書士として現場経営を支援してきた立場から、二つの視点を提言します。

  1. 「ヒト」の価値を再定義する(S:Social): 賃金だけでなく、資格取得支援、健康管理、ワークライフバランスの改善など、人材を「守り、育てる」仕組みこそ真の投資です。残業に頼らず成果を上げる働き方の設計が鍵になります。
  2. 「データ」を武器にする(G:Governance): 経営事項審査(経審)は、企業の財務力や施工能力を数値化する制度です。単なる“義務”ではなく、企業の信頼性・技術力を可視化する経営データとして活用すべきです。評点を戦略的に高めることで、金融機関や発注者からの評価が上がり、適正価格での受注につながります。

まとめ・提言

建設業の平均賃金改定額20,724円は、希望の光であると同時に、業界全体に構造改革を迫る「警鐘」でもあります。賃上げを続けるには、適正な価格転嫁生産性の飛躍的向上が不可欠です。

「人への投資」「生産性向上」は車の両輪です。現場で流した汗が正しく報われ、技術が次の世代へ受け継がれる。そのために、データの裏にある課題を見据え、新たな経営モデルを築く勇気が求められます。未来は、変革に踏み出した企業にこそ微笑むのです。

この記事で触れた経営事項審査(経審)への影響や、賃金改定に伴う評点シミュレーション、DX導入ロードマップの策定支援については、公式サイト「mkensetu.jp」で詳しく解説しています。建設業の未来を共に描きたい経営者の皆さまは、ぜひご覧ください。

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